遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

127 / 202
鬼柳VSセクト、決着回。


第122話 死のダンス

シティ、とある孤児院にて、1人のシスター、ツァン・ディレが煎餅をボリボリと食べながらテレビモニターに映る鬼柳とセクトのデュエルを見ていた。彼女はこの孤児院がある為、大会には参加していない後ろめたさを感じながら。

最初こそ負けた方が地下送りと知っている為、心配そうに見入っていたが――突如セクトが豹変した途端、彼女の表情は驚きと共に、何故かやっぱりな、と言う謎の納得があった。大会に彼女の探していた白コナミが参加していたのを知った時のように。

 

「……セクト……」

 

彼は鬼柳といる時、時折辛そうな表情を見せていた。思い悩むような表情を見せていた。それを自分は気のせいだと思って、彼の苦しみを理解する事をしていなかった。その罪悪感が――彼女の胸にチクチクと突き刺さる。

少なくとも自分は、チームサティスファクションの仲間であり、彼の姉のような存在だ。それなのに――。

 

「……こんな時、あの子達だったら、どうするんだろうな……」

 

泣きそうな表情を作りながら、ツァンは思いを馳せる。もし――あの2人が、今のセクトにかけるなら、どんな言葉を言うだろう、と。

 

――――――

 

評議会のビル、一部の選手達が保護された部屋の一角にて、ユーゴはテレビモニターに映る鬼柳とセクトの激闘を見つめながら、驚愕を露にしていた。原因は――ツァンと同じく、鬼柳の弟分であり、自身の親友、セクトの変貌だ。

何時も慕っていた鬼柳に憎悪を向け、邪悪なシンクロモンスター、『魔王龍ベエルゼ』を召喚した彼の異様に、ユーゴは言葉を失う。

 

一体何故、彼がこんなにも変わったのか、そして――何故、彼の憎悪に気づいてやれなかったのかとユーゴは自分が悔しくてグッ、と奥歯を噛み締める。

 

「……」

 

だからこそ、目を離さない。鬼柳が彼と向き合い、何とかしてくれるならそれで良し。しかし彼が、彼でも止められなかったその時は――。

 

――――――

 

一方、治安維持局の最上部、長官室にて、部屋の主である長官、ジャン・ミシェル・ロジェは堪え切れぬ笑みを溢し、デュエルが繰り広げられるモニターに向かい、高笑いしていた。

 

「ククク……フフフフフッ!ハハハハハッ!どうだプラシド!君が連れて来た少年は今、最も邪魔なデュエリスト、鬼柳を追いつめている!これ程にも愉快なショーは無い!劣等感を少しつついてやり、君の持つ決闘竜を持たせればこうも簡単に堕ちる!見ろ、鬼柳のこの間抜けな顔を!信じていた者に裏切られた絶望の表情を!」

 

「……絶望、か……」

 

そう――伊集院 セクトの変貌、そして邪悪な決闘竜、『魔王龍ベエルゼ』の元手こそ、このプラシドとロジェにある。彼は計画に最も邪魔になるであろう、シンクロ次元最強のデュエリスト、鬼柳 京介を排除する為に、彼の大切な弟分、セクトの心を利用し、アカデミア、治安維持局の刺客へと引き込んだ。

少々躊躇ったが――この策は成功と言って良い。3対3のチーム戦にしたのも、計画を円滑に進める為、今の白コナミやジャック・アトラス・Dの実力をもってしても、2人がかりで鬼柳に勝てる程度だろう。無論、トーナメントの対戦カードも仕組んだ事だ。

 

「……」

 

モニターに映るセクトの様子を視界におさめ、彼の目が細くなる。信じていた者に、裏切られる絶望、彼もまた、その苦痛を充分に理解している。セクトの心も、また。

知っていて、彼は利用している。それは、許されざる行為だ。悪党の行いだ。理解して、受け入れて、彼はこの作戦を実行した。冷徹に宣言した。それでも――

 

「……」

 

胸が強く、締め付けられる。絶望、余り好きな、言葉では無い。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

場所はハイウェイへと戻り、鬼柳がデッキより1枚のカードを引き抜く。手札はこれ1枚、フィールドには『インフェルニティ・リベンジャー』とセットモンスターのみ。

対するセクトのフィールドには戦闘、効果破壊耐性を持つ、不死身の双頭竜、ベエルゼの姿。厄介なカードだ。攻撃力3000と鬼柳のエース級のモンスター達と同じ攻撃力を有していながら、強固な破壊耐性の保持、これでは手がつけられない。

 

だが――手はある。1つはベエルゼの効果を無効にする事、鬼柳のデッキには『ブレイクスルー・スキル』等のカードも投入されている為、これは充分に狙える。

他には破壊を通さぬ除去、バウンスやリリース、そして――除外。幸い鬼柳のエクストラデッキには『氷結界の龍トリシューラ』が回収されている。対象を取らない除外効果を持ったトリシューラなら、充分可能性はある。

 

「魔法カード、『ダーク・バースト』!墓地のネクロマンサーを回収し、召喚!」

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 攻撃力0

 

「召喚後、守備表示に変更、そして効果発動!『インフェルニティ・デーモン』を蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティ・ブレイク』をサーチ!そして『ゾンビ・キャリア』を反転召喚!」

 

ゾンビ・キャリア 攻撃力400

 

次々と『インフェルニティ』モンスターをフィールドに呼び出し、3体目はレベル2のアンデット族チューナーモンスター、『ゾンビ・キャリア』。自己蘇生効果を持っており、コストも自分の手札1枚をデッキトップに戻す、『インフェルニティ』、特に『デーモン』と相性の良いカードだ。これで合計レベルは9、呼び出すモンスターは勿論、満足龍が1体、槍の名を冠する3頭の氷結竜。

 

「レベル4の『デーモン』とレベル3のネクロマンサーに、レベル2の『ゾンビ・キャリア』をチューニング!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

再びフィールドに舞い戻る、世界の時をも凍てつかせる蒼銀の竜。鬼柳のフィールドで咆哮するトリシューラは2つのアギトから氷弾を作り出し、セクトのフィールドに撃ち出す。

 

「永続罠、『王宮の鉄壁』!これで互いのカードは除外されない!」

 

「何ッ!?」

 

ところがセクトがトリシューラの対策として投入したメタカードを発動し、その標的を失わせる。対象を取らないとは言え、そもそも除外自体封じられては如何にトリシューラでも手出しは出来ない。

加えてベエルゼはその不死の肉体を更に不朽のものにした。

 

「くっ――!」

 

「アンタと闘う時、厄介なのはトリシューラだ。対策を立てるのは当然だろうが!」

 

「……全くもってその通りだな……俺はカードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

鬼柳 京介 LP2550

フィールド『氷結界の龍トリシューラ』(攻撃表示)『インフェルニティ・リベンジャー』(守備表示)

セット1

手札0

 

『トリシューラで除外しようとするも防がれた!打つ手なしか!?』

 

鬼柳の誇る4体の満足龍の1体、トリシューラの除去を掻い潜り、再びフィールドに顕現する魔王。これで除去出来なかった、いや、除去しても無意味と言うのは手痛い。

『王宮の鉄壁』があると言うだけで除外は潰されたにも等しい。残る手はバウンスか、無効、しかもこれも――バウンスでは再びシンクロ、効果無効で破壊しても蘇生と再利用の可能性が高い。

 

もう1つの勝筋は――プレイヤーである、セクトを倒す。だがこれも思い切って決行するには至らない。何故ならこのデュエルは勝ち抜き戦のチーム戦、フィールドでの状態は勝敗に関わらず受け継がれる。倒せなかったらセルゲイがこのモンスターで闘うまでだ。

となると一番理想なのはバウンスし、ベエルゼがエクストラデッキに存在する内に彼を倒す事。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

とは言え、それはこのターンを乗り切ってからだが。

 

「バトル!ベエルゼでトリシューラに攻撃!」

 

鬼柳 京介 LP2550→2250

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!?」

 

ベエルゼが2頭を駆使し、トリシューラの3頭に食らいつき、噛み砕く。同時にセクトのD-ホイールから噴出された黒い翼のフィールが鬼柳を切り裂く。たった300でも鋭いダメージが鬼柳の身体を駆け抜ける。これこそが闇に呑まれた決闘竜の力。

 

「ククク、俺はこれでターンエンド!踊れ鬼柳!死のダンスを!」

 

伊集院 セクト LP2800

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』『王宮の鉄壁』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!何でだ!何でそんなにも俺を憎むんだセクト!俺の何がお前をそうさせちまったんだ!?」

 

セクトの突如の変貌に、鬼柳が困惑を露にし、堪らず叫ぶ。それも当然だろう、鬼柳はセクトの事を、実の弟のように思っている。理由も分からぬまま憎悪を向けられる事は堪えられない。

何か自分が悪い事をしたか、原因は自分の中にあるんじゃないかとセクトを問い質す。

 

「そうやって……そうやってアンタは俺の事を仲間だと言いながら、結局の所、俺を対等に見ていないんだ!見下してんだろうが!俺の方が強いから、弱いお前は守られていろってなぁ!ムシズが走るぜ!」

 

それは些細なすれ違い。鬼柳が彼を大切だと思っているからこそ、弟だと思っているからこそ、セクトは劣等感を覚え、彼に見下されているように感じ、その心の隙をロジェに突かれてしまったのだ。

 

「違う!俺はお前を大事な仲間だと……っ!」

 

「どうだかなぁ、口では何とでも言えるぜ!」

 

鬼柳の弁解も聞く耳持たず、ベエルゼに取り憑かれたように暗黒の瘴気を放ち、闇のフィールに身を任せてハイウェイを暴走する。このままではラチがあかない。彼を説得にしても、その前にベエルゼを何とかしなければと思い至ったのだろう、鬼柳は真剣に彼に向き直り、デュエルを再開する。

 

「クッ、セクト……!俺は魔法カード、『アドバンスドロー』を発動!レベル8となった『インフェルニティ・リベンジャー』をリリースし、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

リベンジャーの効果を利用し、2枚ドロー。高レベルとなったリベンジャーを最も活かせるのはこう言った方法だろう。レベル8ともなればチューナーとして運用するのも難しくなる為、このカードが来てくれたのは有り難い。引いたカードに目を通し――これならば逆転とは言えないが、時間を稼ぐ事は出来る。

 

「速攻魔法、『サイクロン』!『王宮の鉄壁』を破壊!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

「モンスターをセット、そして魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンド!」

 

鬼柳 京介 LP2250

フィールド セットモンスター

セット4

手札0

 

「それで終わりか!俺のターン、ドロー!バトル!ベエルゼでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『インフェルニティ・ガーディアン』!手札が0の為、戦闘、効果では破壊されない!」

 

セクトが指示を出し、ベエルゼがセットモンスターに食らいつくが、ガキリ、と鋼に牙を突き立てたような感触が走り、堪らずベエルゼが牙を放す。姿を見せたのは盾のような形状をした不気味なモンスターだ。ハンドレス状態の為、ベエルゼと同じ耐性を得る。

壁にうってつけのモンスターだ。セクトは舌打ちを鳴らし、次の手へ移る。

 

「しゃらくせぇ。カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP2800

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』セット1

手札1

 

『ここで両者耐性持ちで防御を万全にする!まだ勝負は分からない!』

 

「俺のターン、ドロー!永続罠発動!『リビングデッドの呼び声』!墓地の『インフェルニティ・デス・ドラゴン』を蘇生!!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

ここで鬼柳がフィールドに呼び出したのはトリシューラと並ぶ満足龍だ、昆虫のような体躯に巨大な頭部を持ったアンバランスなモンスター、このモンスターではベエルゼは倒せないが――。

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!ベエルゼの効果を無効にし、攻撃力を400アップ!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000→3400

 

「罠発動!『インフェルニティ・ブレイク』!ベエルゼを破壊!」

 

「カウンター罠、『ギャクタン』!その発動を無効にし、デッキに戻す!」

 

「デス・ドラゴンの効果でベエルゼを破壊し、攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

効果を無効にすれば倒せない事はない。セクトもベエルゼを守ろうとするも、二重の策で上を行かれる。

これでデス・ドラゴンのアギトから放たれる黒い炎がベエルゼに命中し、爆風が巻き起こり、セクトの機体を揺らす。

正気に戻ったか?原因であろうベエルゼを撃破した事で、鬼柳が僅かな期待を寄せ、セクトをチラリと横目で覗くが――。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

伊集院 セクト LP2800→1100 手札1→2

 

『ベエルゼ撃破!このまま攻めに移るか鬼柳!』

 

彼の瞳にはまだ黒い狂気が宿ったまま、これでも駄目なのか、と、鬼柳は舌打ちを鳴らして次の手に打って出る。まだ可能性はある。

 

「俺は魔法カード、『マジック・プランター』を発動!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

「そして永続罠、『悪魔の憑代』!レベル5以上の悪魔族モンスターのリリースを軽減し、『インフェルニティ・アーチャー』を召喚!」

 

インフェルニティ・アーチャー 攻撃力2000

 

止まる事無く、次の手へ。フィールドに現れたのは上級の悪魔、弓を持った黒とオレンジのカラーリングの魔人だ。上級にしては低い攻撃力だが、その分効果は強力、と言っても、今は意味が無いが。

 

「カードを1枚セット、バトル!アーチャーでダイレクトアタック!」

 

セクトのLPは1100、対する『インフェルニティ・アーチャー』の攻撃力は2000、この一撃が通れば鬼柳の勝利だが――。

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

そう簡単に行かせてはくれない。セクトの眼前にワインレッドのサングラスと草臥れた三角帽を被ったニヒルな笑みが特徴的なかかしが飛び出し、木の枝で矢を弾く。機を損じてしまったか、ここで仕留め切れなかったのは少々不味い。

 

「俺はこのままターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2250

フィールド『インフェルニティ・アーチャー』(攻撃表示)『インフェルニティ・ガーディアン』(守備表示)

『悪魔の憑代』セット1

手札0

 

再び手札は満足。これで『ガーディアン』は耐性を取り戻した。『ガーディアン』の耐性はあくまでハンドレス状態の時のみ。手札が1枚でも残っているならば失われ、たちまち鬼柳を守る盾は砕かれてしまう。それだけは死守しなければならない。

相手にベエルゼと言う手がある限り、このモンスターが鬼柳の命綱なのだ。

 

『再び鬼柳が逆転!二転三転するデュエルに目が離せない!』

 

「俺のベエルゼをコケにしやがって……!俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地のレベル7か8のドラゴン族モンスターを蘇生する!来い、ベエルゼ!!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000

 

2度目――あの手この手で攻略しようと、ベエルゼに特化させたセクトのデッキでは容易く復活し、鬼柳を脅かす。

しかも今度は『復活の福音』が墓地にある為、耐性が二重になってしまった。

 

「バトル!ベエルゼでアーチャーに攻撃!」

 

「『悪魔の憑代』を墓地に送り、アーチャーの破壊を防ぐ!」

 

「だがダメージは別だ!」

 

鬼柳 京介 LP2250→1250

 

「ぐぁっ――!」

 

2頭の竜のアギトが迫ったその時、鬼柳は『悪魔の憑代』を墓地に送って何とか破壊を防ぐも、超過ダメージが襲いかかり、フラついてしまう。強烈な一撃だ。ここで何とかしなければ後続の柚子がこれを相手にする事になる。それだけは回避しなければならない。これは自分達の問題なのだから。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP1100

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』

手札0

 

「くっ、俺のターン、ドロー!カードをセット、バトルだ!アーチャーでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

伊集院 セクト LP1100→100

 

ハンドレス状態の時、ダイレクトアタックが可能なアーチャーの攻撃で止めを刺そうとするも、すんでの所で回避される。残りLP100、あと少しだ。あと少しでセクトに手が届く。

 

「しゃらくせぇ……!」

 

「ターンエンド!」

 

鬼柳 京介 LP1250

フィールド『インフェルニティ・アーチャー』(攻撃表示)『インフェルニティ・ガーディアン』(守備表示)

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ハーピィの羽帚』!相手の魔法、罠カードを全て破壊!」

 

「罠発動!『ヒロイック・ギフト』!お前のLPを8000にし、2枚ドロー!」

 

伊集院 セクト LP100→8000

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

セクトが鬼柳のセットカードを一掃しようとしたその瞬間、鬼柳はセットカードの1枚を使う事で、2枚のカードを手札に加える。とは言えこれでセクトのLPは8000に回復、しかも手札を得た事で『ガーディアン』の耐性も失われた。発動しない方が得策、明らかにプレイングミスと言える行動だ。

 

『おおっと鬼柳どうした?セクトのLPを回復させてしまったー!』

 

「舐めてんのかテメェ……!ふざけんじゃねぇぞ鬼柳ゥ!」

 

セクトが鬼柳のプレイングミスに目を血走らせて怒気を放つ。鬼柳にも恩恵があるが、セクトに比べれば小さなものだ。敵に塩を送る鬼柳に再び見下されたと感じたのだろう、劣等感を刺激され、セクトのD-ホイールから伸びる黒い翼がより巨大となってホイールから吹き出す。

 

「これが、俺に出来る最善の手だ……!」

 

「ッ!ならくたばりやがれ!ベエルゼで『インフェルニティ・アーチャー』へ攻撃!」

 

鬼柳 京介 LP1250→250

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!!」

 

激昂したセクトがベエルゼに指示を出し、ベエルゼの双頭がアーチャーを食い尽くす。馬鹿な男だ。アーチャーを蘇生させるカードを引き込めさえすれば、勝てたかもしれないものを。

 

「ターンエンド!」

 

伊集院 セクト LP8000

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』

手札0

 

鬼柳のLPは3桁、対するセクトのLPは初期値の倍、8000。そしてフィールドには圧倒的な猛威を奮うシンクロモンスター、暴食の決闘竜、『魔王龍ベエルゼ』。明らかに不利、勝機は閉ざされたと誰もが会場に戻って来た鬼柳に注目を集める中――鬼柳は自身のベンチにいる柚子達に視線を向け、申し訳無さそうに微笑む。

 

「――え?」

 

「セクト、悪かったな……俺が出来の悪いアニキだったせいで――だけど、俺は嬉しかったんだ。俺なんかを慕ってくれるお前の存在が。大切にしたいって思う余り、確かにお前を下に見てたのかもしれない。……だからもう、アニキぶるのはこれで終わりだ。最後だから、アニキらしい所を見せてやりたいってのも、俺の我儘かもしれない」

 

「……何を、言ってやがる……!」

 

「頼んだぜ……ユーゴ……お前に任せて、すまねぇな……俺のターン、ドロー!魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠を一掃、カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

鬼柳 京介 LP250

フィールド『インフェルニティ・ガーディアン』(守備表示)

セット2

手札0

 

鬼柳 京介、最後のターン、全ての想いを2枚のカードに乗せ、ターンエンド。この2枚で、ベエルゼを除去し、セクトを倒す。そんな奇跡にも等しい事を――この男は、シンクロ次元最強の男は、やってのける。

 

「訳の分からねぇ事を、俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、ダブル罠発動!」

 

セクトのターンに移行すると共に、鬼柳が2枚のカードを発動する。どちらも罠カード。その、効果は――。

 

「その、カードは……っ!?」

 

「チェーン2、『強制退出装置』で、『ガーディアン』とベエルゼをバウンス!」

 

まずは一番厄介なベエルゼをバウンスし、『ガーディアン』と共にフィールドをリセット、これで後続の憂いを消し去り――鬼柳の手に、何かのスイッチが握られる。

 

「チェーン1、こいつが俺のオトシマエだ!『自爆スイッチ』!俺のLPがお前より7000以上少ない事で――互いのLPは、0になる!」

 

それは、デュエルモンスターズと言うゲーム上、引き分けに持ち込む事が出来る、珍しいカード。鬼柳としては最後のD-ホイーラーを道連れにする為、自身の持つ『インフェルニティ・ゼロ』の存在や、勝ち抜きルールを利用して投入したカードなのだが――まさか彼に使うとは思っていなかった。

 

「最初から、狙ってたのか……?『ヒロイック・ギフト』で引き込めるか分からないのに……!」

 

「そうだ……これが俺の、答えだ。上も下もねぇ、俺とお前が対等な証」

 

「そんなものっ……そんなんだから上から目線だってんだ!」

 

「そう、かもな……」

 

鬼柳がフ、と笑みを浮かべ――スイッチに、手を添える。これが、鬼柳の答え。

 

「やっ、やめ――」

 

「いいや、限界だ。押すねっ!」

 

カチリ、と渇いた音がその場に響き――激しき爆発が巻き起こり、爆風が2人を呑み込もうとしたその時、鬼柳がD-ホイールを疾駆させ、セクトのD-ホイールを、爆発に巻き込まないように突き飛ばす。

 

「なっ――!」

 

「……ごめんな――セクト」

 

鬼柳 京介 LP250→0

 

伊集院 セクト LP8000→0

 

セカンドホイーラー対決、決着――勝者は存在せず、2人はD-ホイールからスモークを上げながらベンチに帰還する。特に損傷が酷いのは鬼柳だ。ギガントLがボロボロに傷つき、鬼柳もセクトを庇ったからかボロボロだ。フラフラと走行し、ガシャリと倒れてしまう。

 

「鬼柳さん!」

 

「鬼柳!」

 

思わず飛び出す柚子と徳松。まさか彼がここまでになるとは。運ばれて来た担架に乗せられる彼を心配し、2人が身を乗り出す。

 

「すまねぇな柚子……」

 

「鬼柳さんが謝る事なんか無い!」

 

「へへ……気をつけろよ。きっと、セキュリティはアカデミアと繋がってやがる。セルゲイって野郎も危険そうだ」

 

このデュエルを通し、確信した鬼柳が柚子へと忠告する。そう、セキュリティは十中八九アカデミアと通じている。227の融合モンスターも、セクトのベエルゼも、出所はきっとアカデミアだ。そして鬼柳は医務室に運ばれていき――覚悟を決めた柚子は、怒りに燃えながらヘルメットを被り、D-ホイールに跨がる。相手のラストホイーラー、セルゲイも準備万端なようだ。

 

「私は貴方達を許せない……!鬼柳さんと、セクトの絆を引き裂いて、利用する貴方達を、絶対に……!」

 

「……」

 

キッ、と気丈にセルゲイを睨む柚子だが、セルゲイの方はまるで機械のように無反応。聞こえていないと言わんばかりに無視だ。それが柚子には堪らなく許せない。鬼柳とセクトの絆を利用するアカデミアに、メラメラと怒りを燃やす。

あんなにも仲の良い、兄弟のような2人を争わせるアカデミアを許してはいけないと柚子の良心が訴える。

そして――3つのランプが灯り、2人のD-ホイールが発進する。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!」」

 

コーナーを取り、先攻を握ったのはセルゲイ、彼はデッキより5枚のカードを引き抜き、ギョロリと視線を落とす。

 

「俺は『茨の囚人-ヴァン』を召喚」

 

茨の囚人-ヴァン 攻撃力0

 

フィールドに現れたのは茨で木の板に磔にされた不気味で恐ろしい容姿のモンスター。まるで拷問されているかのようなカードだ。悪趣味としか言えないこのカードの攻撃力は0、それを剥き出しで召喚していると言う事は何か厄介な効果があるか、防ぐ手立てがあるに違いない。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000

フィールド『茨の囚人-ヴァン』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

攻撃力0の下級モンスターを召喚、カードを2枚セットしてターンエンド。大ダメージを与えるチャンスとも言えるが、果たして何が待ち構えているのか、怒りに燃えながらも柚子は冷静に分析する。

 

「私のターン、ドロー!相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない事で、手札の『幻奏の歌姫ソロ』を特殊召喚!」

 

幻奏の歌姫ソロ 攻撃力1600

 

現れたのは優秀な特殊召喚効果とリクルート効果を持った『幻奏』モンスター。比較的フィールドに出しやすく、後続に繋げられると言うのは大きな利点だ。

 

「ソロでヴァンに攻撃!」

 

「ヴァンの効果発動!手札の『茨の囚人-ダーリ』を公開し、400LPを払い、戦闘ダメージを0に!うっぐぅぅぅぅ……」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000→3600

 

手札のモンスターを公開、LPを払ってダメージを0に、成程、確かに攻撃表示で出しても問題は無いが、結局破壊されるならばセットでも充分な筈だ。セルゲイの身体に茨が絡みつき、LPを失う事で苦悶の声を上げる。一体何を狙っているのだろうか、色々な意味で。

 

「そしてダメージステップ終了時、墓地のヴァンと公開したダーリを特殊召喚!」

 

茨の囚人-ヴァン 攻撃力0

 

茨の囚人-ダーリ 攻撃力0

 

本当の狙いはこちら、モンスターの展開か。これならば2体のモンスターを呼び出し、上級モンスターの布石にする事も出来る。だが――このモンスター達には、それ以上の不気味さを感じる。今度は車輪に磔にされた女性のモンスターだ。

 

「私はモンスターをセット、カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

柊 柚子 LP4000

フィールド『幻奏の歌姫ソロ』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!俺はレベル1のヴァンに、レベル1のダーリをチューニング!歪曲した煩悩をさらけ出し、茨に肉塊を委ねよ。シンクロ召喚、現れろ、『茨の戒人-ズーマ』!」

 

茨の戒人-ズーマ 攻撃力0

 

シンクロ召喚、2体のモンスターを素材に現れたのは首枷を装着し、茨に絡まれたモンスター。見るだけで不安になるようなカードだ。こちらも攻撃力0、一体どんな戦術を取るのか分からない。

 

「シンクロ召喚時、フィールドのモンスター全てに茨カウンターを乗せる!」

 

茨の戒人-ズーマ 茨カウンター0→1

 

幻奏の歌姫ソロ 茨カウンター0→1

 

「ターンエンド。この瞬間、ズーマの効果で自分フィールドの茨カウンターの数×400のダメージを受ける。うっ……くふぅ……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3600→3200

 

「えっ――?」

 

訳が分からない。柚子はこの茨カウンターでセルゲイがデュエルを有利に進めて来ると思っていたが、そうではないらしい。むしろ自分を傷つける効果に困惑してしまう。

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3200

フィールド『茨の戒人-ズーマ』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

『セルゲイ、一体何を考えているのか、折角展開したシンクロモンスターも自分を傷つける要因にしかなってないぞー!』

 

「わ、私のターン、ドロー!私は2体のモンスターをリリースし、アドバンス召喚!『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600

 

ここで登場したのは最上級の『幻奏』モンスター、展開能力を持った1枚だ。

 

「プロディジー・モーツァルトの効果で手札の『幻奏の音女エレジー』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女エレジー 攻撃力2000→2300

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600→2900

 

更に上級を展開、これで『幻奏』モンスターは効果破壊されず、攻撃力も300アップした。攻めるなら今、少々怪しいが、やはり攻撃しなければ始まらない。

 

「バトル!エレジーでズーマに攻撃!」

 

「ズーマの効果!400LPを払い、墓地のシンクロ素材に使用したヴァンとダーリを対象とし、発動!戦闘ダメージを0にし、ダメージステップ終了と共にこのカードと対象としたモンスターを蘇生!ぬっ、ふぉぉぉぉ……っ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3200→2800

 

茨の戒人-ズーマ 攻撃力0

 

茨の囚人-ヴァン 攻撃力0

 

茨の囚人-ダーリ 攻撃力0

 

再び茨が絡みつき、汚いおっさんが汚い喘ぎ声を上げる。一体誰得なのか、テレビ画面越しに見ている者からすればお茶の間凍結である。

 

「プロディジー・モーツァルトでズーマに攻撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!ぐっふぅぅぅぅっ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2800→1350

 

プロディジー・モーツァルトがタクトを振るって音波で攻撃し、ズーマとセルゲイが苦悶の声を上げる。フラフラと足取り危うくなるD-ホイール。

おかしい、余りにも上手くいき過ぎている。柚子がLPにダメージを負っていないのとは裏腹に、セルゲイはどんどんLPが減っていく。激しい違和感、そして不気味さが上手くいっている筈の柚子を不安にする。

 

それが確信に変わったのは――セルゲイの、恍惚とした表情を見た時。悦んでいる。自分が傷ついて尚。ゾッと背筋に冷たいものが伝う。

もしかすると――自分は何か、取り返しのつかない事をしているのではないか。

 

「――ッ!私はこれでターンエンド!」

 

柊 柚子 LP4000

フィールド『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』(攻撃表示)『幻奏の音女エレジー』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

激突するラストホイーラー、柊 柚子とセルゲイ・ヴォルコフ。嵐の前の静けさが漂う中、圧倒的な不利を抱えたセルゲイのマシンアイが――怪しく、鈍い赤の輝きを放つ。




白コナミとジャック・Dが連戦してやっと勝てる可能性が出て来る鬼柳さんとか言うチート。この人単騎で無双しかねないから扱いに困りゅ……。
セルゲイ書くの楽しいです。でも書いてると何をやってんだろうなぁと思うキャラでもあります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。