遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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前回のあらすじ

ゴッズジャック「俺がジャック・アトラスだ!」
AVジャック「いいや俺だ!」
フィールジャック「ふざけるな俺だ!」
偽ジャック「俺なんだよなぁ」

コナミ「▽ジャック・アトラス ▽ジャック・アトラス ▽ジャック・アトラス ▽ジャック・アトラス」

クロウ「全部いらねぇ」


第119話 ぬるい

治安維持局の一室にて、4人の男が長椅子に、1人の男性がモニター前の椅子に腰かけていた。モニター前の椅子に座っているのは治安維持局長官、この部屋の主であるジャン・ミシェル・ロジェ。

そして長椅子に座るのはそんな彼の補佐を務める謎の男、プラシド。ロジェに忠誠を誓うデュエルマシーン、セルゲイ・ヴォルコフ。そして忠誠を誓ってない方のデュエルマシーン、白コナミ。最後にプラシドが連れて来た白マントの青年。

白コナミとセルゲイがチェスを行い、それを白マントの青年がボーッと見つめる中、ロジェはプラシドへと問いを投げかける。

 

「まさかジャック・アトラスが負けるとは……少々誤算だが、構わんか。それで、本当にあの、お前が連れて来たジャック・アトラス・Dとやらはジャックに勝てるのか?」

 

「無論だ。ジャック・アトラス・Dはタクティクス、就職率、コミュニケーション能力、仕事能力、ユーモアにおいてジャック・アトラスを大きく上回っている。更に同時製作したホイール・オブ・フォーチュン・Dとは合体する事が可能だ」

 

「お前たまにアホになるのなんなの?」

 

「因みにセルゲイにも合体機能をつけておいた」

 

「セルゲェェェェェイッ!おまっ、お前うちの子になにしてくれてるんだ!?」

 

フフン、と得意気に胸をそらすプラシドの胸ぐらを掴み、ガクガクと揺らすロジェ。このプラシドと言う男、実に有能なのだが、たまにやる事がアホでズレている。セルゲイを大事にしている彼としては勝手に改蔵、ではなく改造する彼の行為は許せないものである。

例えると部下に彼女を調教された感じ、寝取りである。

 

「安心しろ、長官」

 

「何が安心しろなんだコナミ。私はお前がセルゲイにした所業を忘れていないぞ。敵に回すのが怖いからこちらにいて貰うが」

 

と、そこで今までセルゲイと静かにチェスをしていた白コナミが顔を上げ、ロジェへと声をかける。一瞬ビクリとするロジェだが、セルゲイの背後に隠れ、ギロリと白コナミを睨む。

 

「この勝負、ジャック・アトラス・Dの勝ち以外、ありえん」

 

――――――

 

「馬鹿な――俺と全く同じ姿だと……!?」

 

一方その頃、彼らの話題の中心にいる、ジャック・アトラスとジャック・アトラス・Dは、ピットにてデュエルディスクを構え、対峙していた。

と言ってもまだデュエルは始まらず、ジャックはジャック・Dの姿に動揺を隠せず、その目を見開いている。それも当然か、自分と同じ姿をしている男をその目で見たのだ。驚かない方が無理と言うものだろう。

 

「一緒にするな、俺とお前では天と地、月とスッポン、雲泥の差がある。最早ジャック・アトラスで無いお前と比べるのも烏滸がましいと言うものだ」

 

「何だと!?」

 

「何が違う?エキシビションマッチと言う場で、チャレンジャーに盛大に負けた犬よ」

 

「ぐ……!榊 遊矢がそれ程のデュエリストだったと言う事だ……!」

 

「違うな、確かに榊 遊矢は強い。だが――貴様がジャック・アトラスであるならば、こんな不様な結果にはならなかった」

 

否定、否定、否定。赤き眼でジャックの一言一句を否定していくジャック・Dに対し、ジャックはギリリと歯軋りを鳴らす。どれだけ言おうと自分が負けた事には変わらない。言い返せない。

 

「もうお前は用済みだ。猿山の大将も充分楽しんだだろう?俺に玉座を譲り、とっとと消え失せろ。それが貴様の為と言うものだ」

 

哀れな家畜を見るように、ジャック・Dの眼は優しく、だからこそ残酷だ。少なくとも――ジャック・アトラスに向けられるものではない。ジャックの姿をした何かを見る眼だ、それが――ジャックのひびが入ったプライドに、火を点ける。

 

「ふざけるな紛い物!貴様如きに譲る程、キングと言う称号は甘くない!」

 

「……お飾りのキングが良く吠える。ならばチャンスをやろう、この俺とデュエルをすると言う栄誉!この俺に敗北すると言う誇りを持って、俺にキングの座を徴税されていけ!」

 

ガシャリ、ジャック・Dの左腕に巻かれたデュエルディスクよりワイヤーが伸び、ジャックのデュエルディスクを拘束する。

このデュエル、逃れられないと言う事か、臨む所だ、この無礼な男に目にものを見せてやるとジャックは意気込み、闘志を燃やす。

 

「「デュエル!!」」

 

そして始まる、王者と魔王のデュエル、互いに5枚のカードを引き抜き、火花を散らす。フン、とジャック・Dが鼻を鳴らし、ジャックを指差す。

 

「このデュエル、榊 遊矢が成し遂げられなかった4ターンで終わらせてやろう、先攻はチャレンジャー、貴様に譲ろう、俺に勝利を捧げよ」

 

「ほざくな!負けた時の言い訳に使わん事だ、俺のターン、俺は『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

ジャックがその手より召喚したのは炎のローブを纏い、音叉とステッキを手にした悪魔のモンスター。彼の持つチューナーの代名詞であり、優秀なレベル2チューナーだ。

 

「『リゾネーター』モンスターを召喚した事で、手札の『レッド・ウルフ』を特殊召喚!」

 

レッド・ウルフ 守備力2200

 

次に登場したのはレベル6、狼の姿をした赤い悪魔。『レッド・リゾネーター』と合わせる事でダイレクトに彼のエースに接続が可能となるカードだ。

 

「『レッド・リゾネーター』の効果は使わんのか?」

 

「俺の勝手だ、俺は魔法カード、『手札抹殺』を発動!互いに手札を捨て、捨てた枚数だけドロー!そしてレベル6の『レッド・ウルフ』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!王者の咆哮、天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むが良い!シンクロ召喚!荒ぶる魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

シンクロ召喚、『レッド・リゾネーター』が光のリングとなって弾け飛び、『レッド・ウルフ』の中の6つの星を包み、閃光が輪を貫く。1ターン目から早速現れる、ジャックのエースカード、紅蓮に燃える力強い体躯から双翼を伸ばし、折れた角を唸らせる傷だらけの魔竜が、雄々しく咆哮を放つ。

が、ジャック・Dはこのモンスターを見ると表情を歪ませ、忌々し気に舌打ちを鳴らす。

 

「ふん、そんな満身創痍のモンスター等、最早『レッド・デーモン』では無いわ!」

 

どうやら傷だらけのスカーライトの姿がお気に召さないらしい。魔竜を鼻で一笑し、吐き捨てる。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP4000

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

エースモンスターを召喚し、ターンを終了、準備万端なジャックを見て、ジャック・Dはつまらなそうに鼻を鳴らし、デッキから1枚のカードを引き抜く。一体どんな戦術を見せてくるのか、ジャックは注意深く神経を尖らせる。

 

「俺のターン、ドロー!ぬるい……ぬるい……ぬるい……っ!ぬる過ぎる!貴様ぁ!キングを舐めているのかぁぁぁぁぁっ!!」

 

ゴウッ、ジャック・Dが赤に染まった両目を見開き、青筋を立ててジャックへと怒号を放つ。瞬間、彼を中心として突風が吹き荒れ、思わずジャックは両腕を交差して退く。とんでもない気迫だ。どこからこんなエネルギーが沸いて来ると言うのか、ジャックは呆然とする。

 

「後攻めでこそ真価を発揮するスカーライトをポンと出す。いや、その前に、主役を1ターン目から出して仕事もさせない!それだから貴様はニートなのだ!見せてやろう!真のキングと言うものを!永続魔法、『補給部隊』を発動し、『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

互いに最初に出すモンスターは同じ、『レッド・リゾネーター』。尤も、彼の『レッド・リゾネーター』が纏う炎は赤黒く、禍々しいものがあるが。そしてここから――ジャックと違うルートへと切り替わる。

 

「召喚時効果により、手札の『トリック・デーモン』を特殊召喚!」

 

トリック・デーモン 攻撃力1000

 

次に現れたのはデュエルモンスターズ史上でも有名な部類に入る、『デーモン』の名を持つ小さな悪魔の少女。『デーモン』を扱うならば必須とも言えるカードだ。

 

「更に!『デーモン』モンスターがフィールドに存在する事で、手札の『デーモンの将星』を特殊召喚!」

 

デーモンの将星 攻撃力2500

 

畳み掛ける展開、3体目のモンスターはレベル6、攻撃力2500とステータスだけでも優秀な『デーモン』を率いる一軍の将。『レッド・ウルフ』と同じレベル6、と言う事はやはり――。

 

「『デーモンの将星』の続く効果により、『トリック・デーモン』を破壊!『トリック・デーモン』の効果でデッキから『デーモンの騎兵』をサーチする!更に『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札3→4

 

美しい流れだ。チューナーと非チューナーを揃えつつ、効果のデメリットを最小限に抑える、基本に忠実、計算された精巧なプレイング、成程、ジャック・アトラスを名乗る相応の腕は持っているらしい、とジャックは観察する。だからと言って認める訳ではないが。

 

「待たせたな!貴様に真のキングを見せてやる!万雷の喝采で迎えるが良い!俺はレベル6の『デーモンの将星』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!漆黒の闇を裂き天地を焼き尽くす孤高の絶対なる王者よ!万物を睥睨しその猛威を振るえ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

ゴウッ!今にも全てを焼き尽くさんとする炎が2人のジャックをサークル状に囲み、巨大な火柱がジャック・Dの眼前で迸る。火柱は球体状、まるで太陽のような形となり、中より王者の産声が上がる。殻を破り、フィールドに参上したのは紅蓮の魔竜。

 

赤黒の体躯より双翼と尾を振るい、頭からは天に反り立つ角と山羊のような捻れた2本、計3本の角、赤く輝くラインが身体に走り、勇猛な雄叫びを放つその姿は――傷一つ無い、『レッド・デーモン』。

眼前に立ち塞がる、自身が最も信頼するカードと同じ姿に、ジャックは言葉さえ失う。

 

「……ッ!?」

 

「クク、美しいだろう?俺の『レッド・デーモン』は。貴様の紛い物と違い、この威風堂々とした王者の姿、見惚れる事は許してやろう」

 

「貴様……何だ、そのモンスターは……!?」

 

上機嫌に自らの『レッド・デーモン』の喉を撫で、自慢するジャック・Dに対し、自らのエースと同じ姿をした炎魔竜を睨み、ジャックが青筋を浮かべる。彼からすれば、この炎魔竜こそ紛い物なのだろう、そんな彼の思いを見透かし、ジャック・Dはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「勘違いするな、このモンスターは正真正銘オリジナル、貴様の『レッド・デーモン』とは違う存在。特と味わえ!その力を!天に二日をいらん!いや、太陽は俺の下にあれば良い!炎魔竜の効果!このカード以外の攻撃表示モンスターを全て破壊する!敵対せし王国を焼き払え!真紅の地獄炎!」

 

「何だと!?グッ、スカーライトが……罠発動!『スカーレッド・コクーン』!スカーライトの装備とする!」

 

粉砕、玉砕、大喝采。刃向かう敵を地獄の炎が焼き尽くす。それは勿論、スカーライトとて同じ、格上さえも捩じ伏せる力の前に、互角である王者が逆らえる筈も無く、容易く崩れ落ちる。

 

「こんなものか?そのモンスターにすがりつく事だけは長けていると思ったが、期待外れも良い所だ!バトル!炎魔竜でダイレクトアタック!極獄の裁き!」

 

「手札の『バトル・フェーダー』の効果!このカードを特殊召喚する事で、バトルフェイズを終了する!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

がら空きとなった所へ炎魔竜のブレスが襲いかかろうとしたその時、ジャックの手札より福音が鳴り響き、鐘を抱いた悪魔が現れ主人を守る。危うい所だった。後少しで3000ものダメージを受ける所であった。

 

「ふん、良いだろう、最初からキングが全力でかかれば、勝負は一瞬!キングのデュエルは、エンターティイメントでなければならない!」

 

「口だけは達者だな……!」

 

ギィッ、左腕を振るい、好戦的な肉食獣――いや、魔竜を思わせる凄絶な笑みを浮かべ、ジャック・Dは爛々と紅玉の瞳を輝かせる。

 

「メインフェイズ2、『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

次に登場したのはレベル1の優秀な『リゾネーター』モンスター。自己特殊召喚に『リゾネーター』のサルベージと『リゾネーター』に欠かせない1枚だ。

 

「拝んでいけ!レベル8の『炎魔竜レッド・デーモン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!深淵の闇より解き放たれし魔王よ!その憤怒を爆散させよ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

更なる進化へ。炎魔竜だけでも驚きなのにジャック・Dは新たな『レッド・デーモン』を呼び覚ます。現れたのはより強靭な体躯となり、胸に竜の顔を模した飾り、両腕なら戦斧の如き刃を伸ばした魔竜。攻撃力3200――これではスカーライトで打破不可能だ。

 

「レベル9の『レッド・デーモン』……!」

 

「ククク、俺の『レッド・デーモン』の進化は光よりも速い!フィールドから墓地に送られた『シンクローン・リゾネーター』の効果により、『チェーン・リゾネーター』を回収!カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、『スカーレッド・コクーン』の効果により、スカーライトを蘇生する!太陽は何度でも昇る!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

ジャック・アトラス・D LP4000

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!舐めるなぁっ!俺は『ダブル・リゾネーター』を召喚!」

 

ダブル・リゾネーター 攻撃力0

 

ジャックのターンに移り、彼が召喚したのは双頭の『リゾネーター』。相手の場にはスカーライトで破壊不可能な攻撃力3200の『レッド・デーモン』。ならば取る手は1つ。それ以上のモンスターへと、ジャックも『レッド・デーモン』を進化させる。

目には目を、歯には歯を、『レッド・デーモン』の進化体には、『レッド・デーモン』の進化体を。ジャックの胸から紅蓮の炎が灯り、彼は炎を掴み、1枚のカードへと宿す。

 

「『ダブル・リゾネーター』の召喚時、『バトル・フェーダー』をチューナーにする!レベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』に、レベル1の『ダブル・リゾネーター』と『バトル・フェーダー』をダブルチューニング!王者と悪魔、今ここに交わる。赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄叫びを上げよ!シンクロ召喚!現れろ!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500

 

ダブルチューニング、ジャックの奥の手が早くも発現し、2体の魂がスカーライトに捧げられ、スカーライトの傷が癒え、その体躯がより逞しく、力強くなる。紅蓮の炎に染まった翼に頭から伸びるドレッドヘアーのような何本もの角、暴虐の魔竜が今、雄々しく咆哮を放つ。

 

「タイラント……か、この場合、僣主と言うより暴君だな」

 

「しかとその目に焼きつけろ!タイラントの効果!このカード以外のフィールドのカード全てを破壊する!アブソリュート・パワー・インフェルノ!」

 

「つまらんな、アビスの効果!1ターンに1度、相手フィールドの表側表示のカードの効果を無効にする!」

 

「何――ッ!?」

 

自分、相手のターンを問わず、カードの種類も自在の無効化効果。敵より力を奪う王者の力にタイラントが地に叩き伏せられ、そのアギトに集束していた炎が霧散する。進化前とは違い、攻防一体、優秀な効果だ。

だがまだまだ、タイラントの効果が無効化されただけではジャックは止まらない。

 

「バトル!タイラントでアビスへ攻撃!獄炎のクリムゾンヘルタイドォッ!」

 

「迎え撃て!深淵の怒却拳!」

 

ジャック・アトラス・D LP4000→3700

 

魔竜のブレスと拳がぶつかり合い、爆風が吹き荒れる。効果で破壊出来なければ攻撃で破壊すれば良いだけの事、単純な力技で捩じ伏せた。

 

「ふん、どうした?進化した『レッド・デーモン』とやらもこの程度か?」

 

「調子に乗るな、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→3

 

「更に永続罠、『リビングデッドの呼び声』。アビスを蘇生する」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

「チッ、俺はこれでターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP4000

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)

手札0

 

互いのフィールドには高い攻撃力を誇る『レッド・デーモン』。しかし攻撃力で言えばジャックのタイラントが上、いくら無効化効果を持っていても、これではジャックに攻撃は通らない。ならばどうすれば良いか、簡単な事だ。進化した『レッド・デーモン』が届かないなら――更に進化させれば良い。

 

「俺のターン、ドロー!『チェーン・リゾネーター』を召喚!」

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

ここで登場したのは『ダブル・リゾネーター』や『シンクローン・リゾネーター』と同じレベル1の『リゾネーター』モンスター。背中から鎖を伸ばし、ジャック・Dのデッキへと繋げる。

 

「『チェーン・リゾネーター』の効果でデッキから『シンクローン・リゾネーター』をリクルート!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「言った筈だ、俺の『レッド・デーモン』の進化は、光よりも速いと!」

 

「何――まさかっ!?」

 

「そのまさかを成し遂げてこそ真のキング!俺はレベル9の『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』に、レベル1の『チェーン・リゾネーター』をチューニング!泰山鳴動!山を裂き地の炎と共にその身を曝せ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

シンクロ召喚、更なる進化を求め、アビスをも踏み台とし、フィールドに王者の咆哮が轟く。現れたのはレベル10、攻撃力3500、ダブルチューニングもしていないのにタイラントと並ぶ性能を誇る、赤黒の鎧を纏い、両腕の刃を更に鋭利なものとした魔竜。その圧倒的な気迫に、思わずジャックの肌が粟立つ。

 

「馬鹿な――3体目の『レッド・デーモン』だと……!?」

 

「これ位で驚いてもらっては困る!俺はベリアルの効果により、『シンクローン・リゾネーター』をリリースし、墓地のアビスを復活させる!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

「『レッド・デーモン』の蘇生効果……!?」

 

「何を驚く、アビスの進化体なのだ、これ位持っていなければ困る。『シンクローン・リゾネーター』の効果により、『チェーン・リゾネーター』を回収」

 

『シンクローン・リゾネーター』が炎に舐め上げられ、火柱が上り、中よりアビスが再び姿を見せる。並び立つ2体の『レッド・デーモン』。超弩級モンスターの連続だ。

 

「貴様は『レッド・デーモン』を2体並べていたが……俺のデュエルは3歩先を行く!魔法カード、『復活の福音』!墓地より炎魔竜を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

更に『炎魔竜レッド・デーモン』がフィールドに復活し、3体の『レッド・デーモン』が並び、王者の咆哮が重なり合う、何と言う豪快なプレイング、とんでもない腕前にジャックの喉がゴクリと鳴る。とんでもない強さだ。口を閉ざすジャックに対し、ジャック・Dは顔に手を当て、高笑いを始める。

 

「ククク、ハハハハハ!これぞ空前絶後!地上最大のショーのクライマックスだ!圧倒的力を持って食らい、血を啜る!闘気滴る極上のデュエルこそ、キングの真髄ッ!それを体現出来なくなった貴様はキング、いや、ジャック・アトラスですらないっ!特と刮目せよ!真のキング、ジャック・アトラス・Dのデュエルは、4歩先を行く!魔法カード、『左腕の代償』!手札2枚を除外し、デッキから装備魔法、『堕落』をサーチし、発動!貴様のタイラントのコントロールを奪う!今の貴様に相応しいカードだ、さぁ、貴様の『レッド・デーモン』は頂いていくぞ!」

 

「何ィ!?」

 

『レッド・デーモン』が『デーモン』モンスターである事を活かし、更にジャックのタイラントまで奪い、4体もの『レッド・デーモン』をフィールドに並ばせるジャック・D。とんでも無いにも程がある。この男は、〝あの時〟よりも進化している――。

 

「!?ぐぅ、何だ……!?」

 

と、そこで――ジャックの脳裏に稲妻が駆け抜け、とある光景がフラッシュバックする。疾駆する2つのホイール・オブ・フォーチュンに、眼前に立ち塞がる、3体の『レッド・デーモン』に似たモンスター。自分は、この男と1度闘った事があるのか?それとも――この光景のジャック・アトラスは――自分とは、何かが違うのか――。

 

「ふん、まだ思い出せんか……まぁ良い、俺を倒した時、貴様が持っていた大切なもの、それを取り戻さない限り、貴様は俺と対等ですらない!俺はあの時よりも進化したぞ!貴様がジャック・アトラスだろうと、捩じ伏せる程に!さぁ、散るが良い!4体の『レッド・デーモン』で、ダイレクトアタック!」

 

ゴウッ、ジャック・Dのフィールドより、4体の紅蓮の魔竜が飛び立って飛翔し、それぞれ弾丸の如くジャックに襲いかかる。圧倒的な力の嵐。それはジャックを呑み込み、身体中を焦がさんばかりに焼き尽くし――ドサリ、と敗者が倒れ伏す。

 

ジャック・アトラス LP4000→1000→0

 

決着、宣言通り、4ターン、ジャックを倒した榊 遊矢すら優に越え――真の王者が、いや、魔王がここに君臨する。その名は――ジャック・アトラス・D。今この瞬間こそ、真のキング、真のジャック・アトラスが決まった瞬間だった――。

 

「ぐ……貴様は……一体……」

 

倒れ伏したジャックが霞んだ視界の中、何とか這い、ジャック・Dの足を掴む。疑問、疑惑、表情に浮かんだものに、ジャック・Dはふんと鼻を鳴らし、答える。

 

「言っただろう、俺はキング、ジャック・アトラス・D……!全ての次元において、最強のキングとなる男……いずれ貴様にも分かるだろう、いずれな……」

 

その言葉を最後に――ジャックは意識を手放す。立っているのはジャック・Dと、背後からやって来たであろう、男、白いケープを纏った、プラシドだ。

 

「遅かったな、この俺のデュエルを見逃した訳ではあるまい?」

 

「充分見させてもらった。予想通り、いや、予想以上の実力をな。ロジェも気に入ったようだ、製作した俺としても鼻が高い」

 

「フ、当然だ。俺こそがキング・オブ・キングなのだからな。色々手を回しているようだが、俺がいれば心配あるまい」

 

「さて、どうだかな。我等の望みを手にする為には、必要なものが多過ぎる」

 

ニヤリと獰猛な笑みを浮かべるジャック・Dに対し、産みの親であるプラシドは溜め息を吐く。ジャック・Dは知っている。この男が自分の知らぬ計画の為に奔走している事を。今も何かを造る為に忙しなく駆け回っているのだ。最近では白コナミの手を借りて少しは楽になっているようだが。ご苦労なものだと思いながらも、彼は――。

 

「フム、そうか。ではこの男を地下牢にでも運んでおいてくれ」

 

「……人の話を聞いていたか?俺は忙しいと言っただろう」

 

ジトリ、気遣う事もせずプラシドを働かせようとするジャック・Dに向かい、プラシドがケープの奥から覗く眼を半眼にして睨む。もしやショートやウィルスにでもかかって本来のジャックのニート成分が出て来たか。

 

「分かっている。だが大の男、そもそもこいつは嫌でも目立つ外見だ。このホイール・オブ・フォーチュンも運ばねばならん。そこで、だ。貴様の持つ剣が使えば手間もかからんだろう?」

 

チラリ、ジャック・Dがプラシドの腰元に差された剣に視線を移す。物騒な物言いだが、この剣はデュエルディスクの次元転移機能を利用し、デュエルエナジーを消費し、彼の行った事がある場所の次元の壁をショートカットして繋ぐ、どこでもドアのような超絶便利な道具だ。

 

「ハァ……仕方あるまい、言っておくがこの剣はあくまで紛い物、デュエルエナジーを大幅に食うんだ。少しでも溜めたい今この時には余り使いたくないんだがな……」

 

「チッ、そうだったか、出来れば俺も1つ欲しかったが仕方あるまい」

 

「では俺はジャックを運んでおく。後は頼むぞ――キング」

 

「任せておけ、俺はそいつとは違い、働き者なんだ」

 

ザンッ、剣で次元を切り裂き、ジャックを運ぶプラシドを見送り、ジャック・Dがフレンドシップカップ会場へ向かって歩み出す。成り変わったキング、最初の仕事は――。

 

「さぁ、フレンドシップカップ本選、ルール変更のお知らせだ――!」

 

歯車がまた、狂い出す。

 

――――――

 

「ルール変更……?」

 

エキシビションマッチが終了し、ランサーズメンバーが集まり、ポテチのカスでギトギトにされた沢渡の部屋にて、アリトがむぅと頭に疑問符を浮かべ唸っていた。

そう、あのエキシビションマッチの後、ジャックが再び会場に現れ、ルール変更を告げて来てのだ。キングの地位ならばある程度の融通が効くと言う事だろう。別段ジャックが有利となるルールでもない為、それは通った。最も、いきなりだったので運営はてんやわんやで駆け回っているが。そして気になるルールの内容は――。

 

「3対3の勝ち抜きアクションライディングデュエルねぇ……」

 

「タッグフォースルールに似ているな、チームでフィールド墓地のみ共有、デュエルを行っている走者が負けた時点で次のプレイヤーに強制的にターンが移行。ここ辺りが使えそうだ」

 

「墓地アドバンテージが稼ぎやすいな、尤も、俺はデッキの都合上、ファーストホイーラーになるが」

 

3対3の勝ち抜き戦、フィールド、墓地のみを共有したアクションライディングデュエル。それがジャックが提示した内容であった。チームメンバーはランダムに選出、ジャックのチームも加えた全8チームのトーナメントとなるようだ。走者が負けた時点でフィールド、墓地の状態を引き継ぎ、相手ターンであろうと強制的に次の走者にターンが移行する特殊ルールを持っている。如何に次のプレイヤーを有利にするかが鍵になるだろう。

 

そして――今、テレビのモニターに、チームメンバーが発表される――。




偽ジャックとか言う格好いい方のジャック。台詞全部好き。

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