遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

122 / 202
新年明けましておめでとうございます。今年もこの作品をよろしくお願いいたします。
……書き始めた頃はここまで続くとは思ってなかったなぁ。


第117話 キングは1人

榊 遊矢とジャック・アトラスによるエキジビションマッチが行われる中、評議会のビル、最上階、幹部達が集う場にて、ランサーズメンバー、赤馬 零児と零羅、風魔 月影とユート、エヴァの姿があった。

彼等はモニター内に写る激闘を見つめ――不意に、幹部の1人であるゲールが鼻を鳴らし、口を開く。

 

「最初は良かったが……結局防戦一方ではないか」

 

ピクリ、遊矢を罵倒する言葉にユートの眉根が上がる。何も知らない癖に、と口に出しそうになるが彼等とは協力関係を結ばねばならない。堪えてゲールを一瞥した後モニターに視線を戻す。

ゲールの言う事も一理あるのだ。今の遊矢の布陣はジャックに対して余りにも頼りない。何をやっている、お前はそんなものじゃないだろうと思う中、零児が溜め息を吐き、鋭い目付きでゲールを睨む。

 

「そう焦らないでいただきたい。デュエルはまだ終わっていません」

 

「ッ、だが実際、LP、フィールド共に榊 遊矢が押されているではないか?ですな議長?」

 

零児の睨みにオレンジのローブを纏い、魚顔をした男性、ボルドーが口を出し、議長であるタキ・ホワイトに同意を求める。

すると彼は好々爺とも見える笑みを浮かべたまま、顎に手を置き、ふぅん?と頷く。

 

「そうですねぇ、融合次元とやらと闘うと言うには、頼りないかと」

 

ニッコリと、何を考えているのか分からない笑みを浮かべるタキ。だが零児は興味ないとばかりにモニターに向き直り、更に口を開く。

 

「ならばこそ最後まで見るべきだ。榊 遊矢の剣が、ジャック・アトラスの喉元に届く、その時を」

 

彼等も信じる。榊 遊矢の、勝利を――。

 

――――――

 

シティ、繁華街にて、フレンドシップカップの様子を写す、ビルに設置された大型モニターを見つめる影が1つ、いや、4つあった。フードつきのマントを纏った4人、その中の1人は見入ったようにモニターを見つめ、その赤い瞳を大きく見開く。

 

「ユー……ト……?」

 

震える唇からかすかに漏れた声。それは少女特有のものだ。その場に立ち止まってモニターを注視する彼女に対し、2人の男が苛立ったように少女の肩を掴む。

 

「おい何をしている!お前まで迷子になられては困る!」

 

「で、でも――目、ユートが……!」

 

「――目さんだ!敬語を使え!む、榊 遊矢では無いか」

 

「おいサンダー!お前まで一緒になってどうする!?大体お前がドジるからあの子が記憶喪失に……」

 

「「あ、いたんだ 」」

 

「いたよっ!俺の名前を空白にするなっ!」

 

「よしよし」

 

「うう……宇理亜たん……宇理亜たんだけだぁ、俺の味方は……」

 

存在を忘れられ、ガクリと膝をつく男の頭をローブを纏った赤毛の幼女がよしよしと撫でる。モニターの前で立ち止まり、騒ぐ黒マント、幼女もつくとなれば間違いなく事案である。

少女と一緒になって「何をやっている榊 遊矢!俺に勝ったのに負ける等許さんぞ!」と声を上げる男の首根っこを掴み、ズルズルと引き摺る影の薄い男。少女もその後をついて行くが、気になってモニターへ振り向く。

 

「榊……遊矢……」

 

「何をしている!行くぞ瑠璃!」

 

その少女は、正しく――。

 

――――――

 

「誰だ……一体誰なんだ……!?」

 

フレンドシップカップ、サーキットにて、ジャックと対峙する遊矢は、不意に聞こえて来た何者かの声に反応し、D-ホイールの乗りながらも辺りを見渡し、声の主を探していた。思えば――この声は舞網チャンピオンシップ、素良とのデュエル、そしてペガサスとのデュエルでも聞こえたものだ。いや、正確に言えば頭に直接響いた、か。声の主を探せども、観客席にいない事は分かっている。とすれば――やはり、ユートのように――。

 

--ファ○チキください--

 

こいつ、直接脳内にっ!何時も怒っていると思いきや、突然茶目っ気を見せる何者かに戦慄する遊矢。しかしアホをやっている場合では無い。ジャックが自分のターンに移らない遊矢を見て、訝しんで声を張る。

 

「何をしている榊 遊矢!貴様のターンだ!」

 

「あ、ああ!」

 

--やーい、怒られたー、だからうすのろなんだお前は--

 

「誰のせいだと思って……!」

 

--ふん、まぁ良い、おいうすのろ、その男に勝ちたければ、カードの声に耳を澄ませろ--

 

「カードの、声に……?」

 

--そうだ、貴様はデュエルがデュエリストとの対話と思っているようだが、デュエルは己とカードとの対話でもある。カードを信じ、カードの声に耳を傾ける。それが1番の勝利への近道だ。貴様とて経験があるだろう、黒咲と言う男とのデュエル、あれはそれに迫るものがあった--

 

「そう言えば――」

 

彼の言う通り、遊矢は隼とのデュエル中、必死でカードへの助力を求め、何を考えるまでもなく、自然とカード達が手札に引き込まれ、それぞれの役割を果たす為に、デュエルディスクへと運ばれていった記憶がある。

あれが、カードとの対話。いや、対話の一端。

 

--それが出来れば、この男も敵では無い。確かにこの男も少しはやるようだが、その境地へ辿り着いていないのだからな。俺からすればワンパンよ、ワンパン--

 

「……そうか、誰だか分からないけど、ありがとな」

 

--べっ、別に?貴様の為じゃないしっ!勘違いするんじゃない、バーカバーカ!--

 

何故ツンデレ、遊矢は直ぐ様その思考を追い出し、静かに落ち着き払って集中、耳を澄ませる。カードの声を聞き、カードと対話する。仲間を信じ、力を合わせる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードに目を配らせるが--違う、このカードじゃない。

 

--ふん、まだまだだなぁ、俺なんて一発だぞ一発、かぁーっ、これだからうすのろは!--

 

「ぐぬっ、だけど手札は充分ある。引いたカードも悪くない!「罠発動!『強欲な瓶』!1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「魔法カード、『EMキャスト・チェンジ』!手札の『EM』をデッキに戻し、戻したカード+1枚ドロー!『EMカレイドスコーピオン』をセッティング!ギタートルの効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムスケールを崩し、相手に500のダメージを与え、『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

ジャック・アトラス LP6800→6300

 

「2体の『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム効果で破壊し、『時読みの魔術師』と『星読みの魔術師』をデッキからセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMユーゴーレム』!『EMカレイドスコーピオン』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMユーゴーレム 攻撃力1600

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

空中に光の軌跡が描かれ、遊矢のフィールドに3本の柱が落ちる。光の粒子を散らし、現れたのは振り子のマジシャンに命を灯した岩石の悪魔、万華鏡の尾を持った蠍、そして遊矢のエースカード、赤と緑の眼を輝かせる真紅の竜。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』だ。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果発動!スケールを崩し、『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMラディッシュ・ホース』をサーチ!セッティング!そしてユーゴーレムの効果発動!このカードと『オッドアイズ』で融合!二色の眼の龍よ。土より生まれし巨人と一つとなりて、新たな種族として蘇れ!融合召喚!現れよ!『EMガトリングール』!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900

 

2回目の融合召喚、フィールドに現れたのは銃声を轟かせる鬼のモンスター。カチャリと巨大なガトリング砲をスカーライトへ向け、無数の弾丸を発射する。

 

「ガトリングールの融合召喚時、フィールドのカードの数×200のダメージを与える!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、このターンのダメージを回復に回す!」

 

「んなっ――!」

 

ジャック・アトラス LP6300→9100

 

ここでまさかの『レインボー・ライフ』。ガトリングールの放った弾丸が虹色のバリアを通り抜け、雨となってジャックに降り注ぎ、LPを回復する。最悪の展開だ。ガトリングールのバーンが仇となってしまった。

いや、これはジャックが上手いと言うべきか、てっきり『揺れる眼差し』に使わないものだから可能性を見落としていた。

 

--チッ、面倒な……--

 

「くっ、続くガトリングールの効果で『レッド・リゾネーター』を破壊し、攻撃力のダメージを与える!」

 

「『補給部隊』でドロー!」

 

ジャック・アトラス LP9100→9700 手札0→1

 

「ガトリングールとスカーライトを対象とし、ラディッシュ・ホースのペンデュラム効果発動!スカーライトの攻撃力を、ガトリングールの攻撃力分ダウン!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→100

 

「俺のスカーライトを……!」

 

「これで効果による破壊は制限された!魔法カード、『螺旋のストライクバースト』を発動!エクストラデッキの『オッドアイズ』を回収!リザードローとカレイドスコーピオンをリリース!アドバンス召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドの『EMペンデュラム・マジシャン』と『オッドアイズ』を融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

連続融合、怒濤の展開で姿を見せたのは魔眼を隠した真紅の竜。金色に輝く満月を背負い、美しい咆哮を放つ。

 

「ほう、手品が尽きんな」

 

--そうだ、こちらの何よりの武器は貴様は奴のデュエルを知っている上で、奴は貴様のデュエルを知らない事、奴の知らん領域へ持っていけ!--

 

「墓地の『置換融合』を除外、ビーストアイズをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「バトルだ!レベル4以下の魔法使い族を素材としたルーンアイズはモンスターへ2回攻撃が可能!ルーンアイズとガトリングールで『レッド・ライジング・ドラゴン』へ攻撃!連撃のシャイニーバースト!」

 

「アクションマジック、『大脱出』!バトルフェイズを終了する!」

 

--ええい誰だ!アクションデュエルなんて考えた奴は!--

 

渾身の連撃も――王者の喉元には届かない。『レッド・ライジング・ドラゴン』を一掃するチャンスを逃したか、ルーンアイズの背から放たれる熱線も、ガトリングールの弾丸も、ジャックには届かない。強い――アクションデュエルと言う自らの土俵が、ライディングデュエルによってジャックに奪われてしまっているのも大きい。

 

「まだだ!ライフはまだ残っている。残ってる限り、諦めない!俺のライフは!俺のデッキは!俺のD-ホイールは!皆で考えて、動いて拾い集めたものなんだ!俺のエンタメデュエルは何一つ応えてない!応えても無い内に、負けられるかぁっ!」

 

「まだ目が死んでいないか……!」

 

--クク、良いぞうすのろ!そうで無くては面白くない!凡骨ならば凡骨らしく、無様に足掻いて俺を楽しませろ!--

 

「俺はこれでターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP3200

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMガトリングール』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMラディッシュ・ホース』

手札3

 

『遊矢、バーンや連続攻撃と言った方法で窮地脱出を試みるも不発!ですがジャックのスカーライトは弱体化し、光明が見えて来た!』

 

『どう出るジャック!』

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、『紅蓮魔竜の壺』を発動!スカーライトが存在する事で、2枚ドロー!もう1枚だ、2枚ドロー!とどめに3枚目!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3→4→5

 

『紅蓮魔竜の壺』3連発、恐るべきドロー力で一気に手札が5枚まで膨れ上がる。ここからどう出て来るか。

 

「ふん、魔法カード、『シンクロ・クラッカー』を発動!スカーライトをエクストラデッキに戻し、元々の攻撃力3000以下の攻撃力を持つ相手モンスターを全て破壊!」

 

「くあっ――!」

 

--チッ、やりおるわ……!--

 

魔竜が遊矢のフィールドに急接近、長い尾を振るい、遊矢のモンスターを破壊してエクストラデッキに去っていく。これでモンスターを除去した上で弱体化したスカーライトを回収した。

 

「バトル!3体の『レッド・ライジング・ドラゴン』でダイレクトアタック!」

 

「ぐぬっ、罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地の『EMセカンドンキー』に耐性を与え、蘇生!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

「セカンドンキーの効果でデッキの『EMヘイタイガー』をサーチ!」

 

「チィッ、カードを3枚セットし、ターンエンド!」

 

ジャック・アトラス LP9100

フィールド『レッド・ライジング・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札1

 

『遊矢も何とか堪え凌ぐ!さぁ、このデュエルどう動く!』

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMダグ・ダガーマン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

振り子の軌跡で現れたのは、竜とマジシャン、万華鏡の尾を持つ蠍に短剣使い。遊矢はまだ諦めない、必死に勝利への糸口を手繰り寄せ、自分のものにする為に。あらゆるルートを試行錯誤する。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果!このカードとセカンドンキーを破壊し、デッキの『EMマンモスプラッシュ』と『EMバリアバルーンバク』をサーチ!ダグ・ダガーマンの効果でバリアバルーンバクを捨て、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「ラディッシュ・ホースのペンデュラム効果!ダグ・ダガーマンの攻撃力分、『レッド・ライジング・ドラゴン』の攻撃力をダウン!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100→100

 

「そしてカレイドスコーピオンの効果を『オッドアイズ』に使用!このターン、『オッドアイズ』は特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!バトル!『オッドアイズ』で『レッド・ライジング・ドラゴン』へ攻撃!この瞬間、『EMオッドアイズ・ユニコーン』のペンデュラム効果で『オッドアイズ』の攻撃力はダグ・ダガーマンの攻撃力分アップする!その二色の眼で捉えた全てを焼き払え!螺旋のストライクバースト!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「罠発動!『和睦の使者』!このターン、俺のモンスターは戦闘破壊されず、ダメージも0になる!」

 

--しぶとい奴め、それとも貴様がとろくさいのか?--

 

『オッドアイズ』の背に負われたアーク、そのアークに嵌め込まれた赤と緑の宝玉が光輝き、アギトから螺旋状のブレスから放たれた瞬間、『レッド・ライジング・ドラゴン』がバリアに包まれ、防がれる。これも駄目――だがまだ手は残っている。1つタネが潰されただけ、デュエルはまだ分からない。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP3200

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMダグ・ダガーマン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMラディッシュ・ホース』

手札6

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『八汰烏の骸』!1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「フィールドにシンクロモンスターが存在する事により、俺は『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「俺はレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!王者の叫びが木霊する!勝利の鉄槌よ、大地を砕け!シンクロ召喚!羽ばたけ!『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400

 

ここで姿を見せたのは後頭部が隕石のような形状をしたエイリアン染みたドラゴン。

 

「フィールドより『シンクローン・リゾネーター』が墓地に送られた事により、墓地の『チェーン・リゾネーター』回収!召喚!」

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

今度は背から鎖を出した小さな悪魔。レベル1のチューナーモンスターだ。『チェーン・リゾネーター』は背の鎖をジャックのデッキに繋げ、勢い良く何かを引っ張り上げる。

 

「『チェーン・リゾネーター』の召喚時、フィールドにシンクロモンスターが存在する事でデッキの『レッド・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『レッド・リゾネーター』の効果により、貴様の『オッドアイズ』の攻撃力を俺のLPに加える!」

 

ジャック・アトラス LP9100→11600

 

「1万越え……!」

 

LP1万越え、これで更にジャックを倒す事が難しくなった。だが――遊矢は折れない。この程度の危機、何度だって乗り越えて来た。今までの経験を全て活かし、ジャック・アトラスにぶつける。

 

「レベル7の『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』に、レベル1の『チェーン・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

再びフィールドに君臨する真紅の魔竜。王者の如く睥睨するその姿は何度見ても身震いしそうになる。

 

「レベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『クリムゾン・ブレーダー』!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800

 

魔竜に続き、それに仕える剣客までも姿を見せる。これは本格的に不味い事になった。このモンスターは厄介過ぎる。だが同時に、これでスカーライトの効果は発動しない筈だと思ったその時――。

 

「ダブル永続罠発動!『ディメンション・ガーディアン』!『クリムゾン・ブレーダー』と『レッド・ライジング・ドラゴン』は戦闘、効果で破壊されない!」

 

「これはっ――!」

 

『スカーライトの効果から、ジャックのモンスターは逃れる事となる!』

 

「さぁ、敵を殲滅せよ!アブソリュート・パワー・フレイム!」

 

榊 遊矢 LP3200→1700

 

「ぐっ――!」

 

「俺は魔法カード、『マジック・プランター』を発動!『レッド・ライジング・ドラゴン』を守る『ディメンション・ガーディアン』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→2

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!互いにドローし、手札を1枚捨てる!墓地の『グローアップ・バルブ』の効果!デッキトップをコストに蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「レベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400

 

剣客に続き、火竜まで、スカーライトの従者がフィールドに集う。

 

「バトル!3体でダイレクトアタック!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルフェイズを終了!」

 

「ほう……カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

ジャック・アトラス LP11600

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』『ディメンション・ガーディアン』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMダグ・ダガーマン』!『EMマンモスプラッシュ』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

EMマンモスプラッシュ 守備力2300

 

何度も何度も、遊矢の振り子は揺れ動く。勢いを増して、一歩一歩突き進む。今度のルートは――。

 

「まずは『EMペンデュラム・マジシャン』の効果!このカードと『EMオッドアイズ・ユニコーン』を破壊し、『EMモモンカーペット』と『EMギッタンバッタ』をサーチ!そしてモモンカーペットをセッティング!ダグ・ダガーマンの効果でギッタンバッタを墓地に送り、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「行くぞ!マンモスプラッシュの効果で『オッドアイズ』とダグ・ダガーマンを融合!比類なき短剣使いよ。二色の眼の龍よ。今一つとなりて新たな命ここに目覚めよ!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

融合召喚、ゴウゴウと燃える炎を纏い、より強く、より逞しくなった『オッドアイズ』が雄々しく咆哮する。ダーク・リベリオン、ビーストアイズ、ルーンアイズとガトリングール、『オッドアイズ』とユニコーン、ラディッシュ・ホースのコンボも潰された。なら今度は、このモンスターで試すのみ。

 

「ブレイブアイズの融合召喚時、相手モンスター全ての攻撃力を0にする!」

 

「何――ッ!?」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→0

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800→0

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400→0

 

--うすのろ!わかっているだろうな!--

 

「ああ、この効果を使用したターン、ブレイブアイズしか攻撃出来ない、だから――カレイドスコーピオンの効果発動!このターン、ブレイブアイズは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!」

 

ジャックが驚愕するのも束の間、遊矢は内よりの声に応え、カレイドスコーピオンの万華鏡にブレイブアイズを写し、3体に分身させる。ブレイブアイズの両隣に並び立つ、青と緑のブレイブアイズ。見事なコンボでダメージを増量させた。

 

「バトルだ!ブレイブアイズで3体へ攻撃!灼熱のメガフレイムバースト!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!『補給部隊』の効果でドロー!ぐっぬぅぅぅぅっ!」

 

ジャック・アトラス LP11600→10100→8600→7100 手札0→1

 

3体のブレイブアイズのアギトから放たれる、赤、青、緑、光の三原色の炎が混ざり合い、不思議な事に透明な炎となって熱量を持ったままジャックのモンスターを焼き尽くす。半分になったが膨大なダメージを負わせ――更に、今まで破壊されず、不敗神話を築き上げて来た『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』が今、地に堕ちた。

 

「おのれ榊 遊矢、俺のスカーライトを……!だが『ディメンション・ガーディアン』の効果で『クリムゾン・ブレーダー』は破壊されない!」

 

「破壊はね」

 

「何――?ッ!?」

 

『おおーっと、これはどう言う事だ!?スカーライトを地に伏せたのも驚きだが、破壊されない筈の『クリムゾン・ブレーダー』がフィールドを離れていくー!』

 

ギリッ、ジャックが自らの魂を砕かれた事で歯軋りを鳴らし、せめて、と『クリムゾン・ブレーダー』の無事を確認するが――何と、剣客が次元に発生した渦に呑み込まれ、姿を消してしまった。

 

「除外か……!」

 

「ご名答!ブレイブアイズとの戦闘で破壊されなかったモンスターはダメージステップ終了時に除外される!」

 

--クク、良いぞうすのろ。あの涼しい顔が崩れておるわ!フハハハハ!--

 

未だLPはジャックが上、だが――スカーライトを倒し、勢いに乗った遊矢が有利となった。道は開かれた。まだ枝分かれしているが――着実に、勝利へのルートを手繰り寄せ、進んでいく。

 

「カードを3枚セットし、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP1700

フィールド『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMマンモスプラッシュ』(守備表示)

セット3

『EMモモンカーペット』『EMラディッシュ・ホース』

手札4

 

腹立たしく、同時に面白い。ジャック・アトラスはぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた感情のまま、笑みを浮かべて舌打ちを鳴らす。

1度目は――あのトイレで、生意気にも自らに勝利を宣言し、楽しもうと笑って来た。

2度目はサーキットにて。自らの勝利宣言に便乗し、果たしはされなかったがこちらを邪魔してきた。

3度目は――自らの魂、エースカードであるスカーライトの破壊。腹立たしい、上手くいかない事が。面白い、上手くいかない事が。久方振りに――楽しめる――。

 

「良い、良いぞ榊 遊矢!久し振りに、本気で叩き潰したくなって来た!気骨の塊のような貴様を粉々に粉砕してやる!」

 

「来い!ジャック・アトラス!」

 

瞬間――ジャックの脳裏に、電撃が駆け抜け、とある光景がフラッシュバックする。青い目で静かに語りかける青年。顔中にマーカーをつけた少し小柄な青年。ゴシックなドレスを纏った少女。瓜二つな容姿の双子。そして、背の高い青髪の青年と――赤い帽子を被った青年。

笑顔で自らを迎える彼等は、どこか懐かしくて――〝ジャックの記憶には無い〟何かだった。

 

「――ッ!?今のは……」

 

「?」

 

「いや、今はデュエルだ!俺のターン、ドロー!」

 

直ぐ様ビジョンを振り払って遊矢に向き、後ろ向きのままに進むと言うホイール・オブ・フォーチュンだからこそ出来る芸当を見せながらデッキからカードを引き抜く。

 

「魔法カード、『復活の福音』!墓地よりスカーライトを蘇生!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

「スカーライトの効果発動!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!」

 

榊 遊矢 LP1700→950

 

魔竜が咆哮を上げ、その体躯から熱風を放ち、遊矢のモンスターが礫を受けて爆発する。全体破壊にバーン、この効果は遊矢のデッキには荷が重い。

 

「これで終わりと思ったか?」

 

「!」

 

--ほう、スカーライトの上があるか--

 

ギン、王者の眼が遊矢を射抜く。まさか――このスカーライトさえ、切り札では無いと言うのか。冷たい汗が遊矢の額を伝い、地に落ちたその時――王者は動く。

 

「墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外し、墓地から『シンクローン・リゾネーター』と『ダブル・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

ダブル・リゾネーター 守備力0

 

蘇るは2体の音叉を持った悪魔。レベル1のチューナーが2体、レベル9のシンクロか――しかし遊矢の予想に反し、ジャックは思いもよらぬ行動に打って出る。

彼は自らの心臓に手を当て――グッ、と五指に力を込めた途端、その右手が燃え上がる。

 

「なっ――!」

 

「これが俺の全身全霊!行くぞ!俺はレベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』と『ダブル・リゾネーター』をダブルチューニング!」

 

「ダブルチューニング!?」

 

『何とジャック、スカーライトに2体のチューナーをチューニングしたぁーっ!これは熱い!熱いぞぉーっ!』

 

--クク、これだからデュエルは面白い……!あぁ、口惜しい、口惜しいな。せめて完全に貴様の身体を借りられる程回復すれば--

 

シンクロモンスターに2体のチューナーをチューニング、前代未聞、驚天動地の荒業に各々が反応を見せる。荒ぶる魄、言うなれば――バーニング・ソウル。2体の『リゾネーター』がリングとなって弾け、交差してスカーライトを包み込み、巨大な赤い竜が通り過ぎる。

 

「赤い……竜……!?」

 

「王者と悪魔、今ここに交わる。赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄叫びを上げよ!シンクロ召喚!現れろ!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500

 

シンクロ召喚――赤き魔竜が進化し、その翼はより巨大に、より鮮やかな紅に染まり、強者と激闘で刻まれた傷は消え去り、雄々しい角が頭から伸びる。これが、ジャック・アトラスの真の切り札。紅蓮に染まりし暴君の魔竜。その余りの威圧感に――誰もが、言葉が出ない。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で墓地の『レッド・リゾネーター』を回収、そしてタイラントの効果発動!このカード以外のフィールドのカードを、全て破壊!アブソリュート・パワー・インフェルノ!」

 

「くっ、破壊された『運命の発掘』の効果でドローする!墓地に落ちているのは2枚だ!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

赤き炎がフィールドを覆い、全てのカードを焼き尽くす。ジャックも『補給部隊』を失ったが――遊矢はペンデュラムを失ってしまった。

フィールドはがら空き、手札誘発も無い、どうする――。

 

--阿呆め、忘れたのか?--

 

「忘れてないさ……この攻撃も、防いで見せる……!」

 

「バトル!タイラントでダイレクトアタック!獄炎のクリムゾンヘルタイドッ!!」

 

遊矢の眼前に、火の手が迫る。触れれば火傷で済まない、地獄の炎。遊矢はそれを――。

 

「手札のヘイタイガーを捨て、『EMバリアバルーンバク』を蘇生!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

間一髪でかわす。

 

「何だと――!?くっ、ならバリアバルーンバクに攻撃!」

 

現れたのはとぼけた顔をした風船のようなバク。彼は遊矢の眼前に呼び出され、その身を盾にして主人を守る。

 

「ありがとう、バリアバルーンバク」

 

「俺はこのままターンエンド。面白い……貴様のターンだ、榊 遊矢!」

 

ジャック・アトラス LP7100

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)

手札2

 

圧倒的戦術、圧倒的なモンスター。されどその力は遊矢には届かない。デュエルは佳境を迎え、互いの魂は更に苛烈にぶつかり合う。

そんな中――遊矢のデッキに、淡い光が灯る。小さな小さな、今にも消えてしまいそうな光。

 

--私を、呼んで--

 

少女の小さな声が漏れ、風の音に掻き消される。勝利の女神が微笑むのは――どちらか。




次回予告

圧倒的な猛威を振るうタイラントに対し、遊矢は自らの切り札であるオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンで反撃に出る。オープニングのオベリオンとスカーライトのぶつかり合いは果たされなかったが、進化形態だしこれで大丈夫じゃない?

次回の黒咲
沢渡の部屋でついつい無音激臭の屁をかましてしまった黒咲。ランサーズメンバーが鼻をつまみ、犯人を探す中、彼は隣に並ぶデニスに罪を擦り付けようとする!

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