遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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第116話 2歩先を行く

評議会のビルにて、保護された少女、柊 柚子はフレンドシップカップの様子を写したテレビ画面に釘付けとなっていた。モニターの奥にあるのは絶対王者、ジャック・アトラスに果敢に挑む幼馴染み、榊 遊矢の姿。

彼女はデュエルが二転三転する度に面白い程表情を変え、自分1人しかいない、声も届かない筈なのにテレビに向かって喋る。

 

「遊矢、頑張って!ファイトよ!」

 

「あぁっスタート遅れちゃった!ま、まだ巻き返せるわ!」

 

「凄い凄い!相手の効果を利用した!」

 

「こ、攻撃が防がれたっ!?3ターン目が来ちゃったぁ!」

 

「うわーんカウンターにカウンター!?」

 

「遊矢が負けちゃうー!?」

 

以上がその様子である。まるで自分の事のようにあわわあわわと慌てふためく柚子。そして現在、遊矢が「発動していたのさっ!」を行い、ジャックの猛攻を防いだ今、彼女は感極まって涙ぐんでいた。

 

「遊矢……!」

 

遊矢の成長を見て、思わず感動したのだろう。画面のデュエルに夢中となっていた彼女は、ドアの隙間からこっそり様子を覗き、気不味そうにするセレナとSALに気付かなかった。

 

――――――

 

一方、ランサーズメンバーの男性陣の殆どが集う沢渡の部屋では、まるでお祭り事のように盛り上がっていた。

 

「よっしゃー!流石俺様のライバル!スカーライトの攻撃を防いだぜぇっ!」

 

「良く言うぜ、『大革命返し』がカウンターされた時は、もうダメだぁ、おしまいだぁ。とかヘタレてたのによ」

 

「それはアリトもでしょ?ドラネコがあるから大丈夫なのにねぇ」

 

「うっせーし!」

 

勿論その原因は遊矢の見事な脱出劇。彼等はポテチを頬張りながらそれはもう夢中になっていた。もう沢渡が部屋をポテチのカスで汚されるのを気にしない程である。男が数人集まった時のテンションは凄まじい。

普段は仲の悪い隼とデニスが遊矢の活躍を見て肩を組む位だ。それとも一晩明かして遊矢に協力する、と言う過程を経たからか。

ワイワイガヤガヤ、騒ぎまくるランサーズ。その余りの喧しさにクロウやシンジ、鬼柳にセクト、徳松、デイモン、トニーがやって来て注意するも、妙なテンションで結局一緒になって観戦してしまうのはまた別のお話――。

 

――――――

 

その頃――治安維持局のビル、とある一室にて、モニターに写し出された遊矢の実力を見て、今までセルゲイとチェスをしていた白コナミが手を止め、興味深そうに見いっていた。

 

「……榊……遊矢」

 

「ふむ、中々やりますね、この少年も」

 

彼等がデュエルを見つめる中、テーブルで静かにデュエルを見つめていた長身の男は下らないものに対するように、ジャック・アトラスを睨み、鼻を鳴らした後、室内を出る。その様子を唯一、プラシドだけが見ていた――。

 

――――――

 

場所は更に変わり、フレンドシップカップ会場、アクションフィールド、『クロス・オーバー・アクセル』へと変わったサーキットにて。ジャックの猛攻を凌いだ遊矢はある筈の無い4ターン目を迎え、デッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!俺は『EMペンデュラム・マジシャン』を召喚!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

現れたのは赤い衣装を纏い、振り子を揺らしたマジシャン。ドクロバット・ジョーカーと同じく『EM』のキーカードであるが、その効果が発揮されるのは特殊召喚時、通常召喚するようなモンスターでは無い。当然遊矢がそんなミスを行う筈が無い。彼はスカーライトの攻撃時、爆風に運ばれ、拾ったカードを発動する。そう、アクションデュエルの武器を。

 

「さてさて皆様ご注目!取り出したるはこのカード!私榊 遊矢が今からアクションデュエルについてご説明致します!アクションデュエル!それは戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が、モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!デュエルの最強進化形!デュエリストとモンスターが力を合わせ、フィールドに散らばったアクションカードを使い、デュエルを有利に進めるのです!ですが1度に手札に加えられるアクションカードは1枚まで!では早速、私がスカーライトの攻撃をかわし、竜の住処から手に入れたお宝を見せましょう!あぁ、もしかしたらスカーライトは私がこれを取るだろうと思って怒って攻撃したのかもしれませんねぇ。\ドッ/」

 

「ドッじゃない!一体どうやってるんだそれ……!?さっさとせんか!」

 

ピッ、と遊矢が裏側にAと書かれたカードを見せ、長々と説明するとジャックに怒られてしまう。折角初見のお客さんに説明しているのになぁ、ちぇっ、と遊矢は唇を尖らせながらも、そのカードをD-ホイールのプレート部分に叩きつける。

 

「ではでは発動!アクションマジック、『デキテルレンジ』!このカードは自分フィールドのモンスターを1体手札に戻し、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚します!私がレンジに入れるのは『EMペンデュラム・マジシャン』!3、2、1、チーン!さぁさぁ上手に焼けました!レンジを開けるとあら不思議!」

 

『EMペンデュラム・マジシャン』が突如出現した電子レンジに入り込み、3秒程暖められる。そしてレンジが開くとモクモクと白煙を上げ――。

 

「ホッカホカの『EMペンデュラム・マジシャン』です!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

「同じではないかっ!」

 

ホカホカと妙にホットとなった『EMペンデュラム・マジシャン』を見て、思わずジャックが突っ込みを入れる。 \ドッ/

 

『こら遊矢ー!真面目にやりなさーい!』

 

「ありゃ、怒られちゃった。ですが私は大真面目!特殊召喚された『EMペンデュラム・マジシャン』の効果発動!このカードと『EMドラネコ』を破壊し、デッキから『EMリザードロー』と『EMラクダウン』をサーチ!」

 

「成程、そう言う事か……!」

 

「行くぜジャック!俺は『EMリザードロー』をセッティングし、ギタートルのペンデュラム効果でドローし、リザードローも破壊して更にもう1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3→4

 

「そして魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→5

 

サーチに加えドローブースト。これで遊矢の手札は5枚、この5枚を駆使し、遊矢は隠した爪でジャックの喉元を狙う。全神経を研ぎ澄ます――。

 

『ここで手札を補充、遊矢、どう出るか!?』

 

「さて――お手並み拝見と行こうか、チャレンジャー」

 

寄せられる期待を裏切らない為にも――深呼吸を繰り返し、決心をつける。

 

「良し!俺は『EMラクダウン』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMリザードロー』!『EMファイア・マフライオ』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

天空の振り子が揺れ、4体のモンスターがフィールドに現れる。先程までに現れた振り子のマジシャンとドクロバット・ジョーカーの『EM』エリートコンビにカードのエリマキを持つ蜥蜴と炎の鬣を持った獅子。

 

「そして『EMペンデュラム・マジシャン』と『EMドクロバット・ジョーカー』でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

遊矢の背後に星を散りばめた渦が発生し、2体のモンスターが光となって吸い込まれ、渦は集束、小爆発を引き起こし、中より黒煙がフィールドを侵食する。

黒煙の中で蠢くは赤く輝く雷と血流、バチバチと双眸が閃き、中より鋭い刃が黒雲を引き裂き、現れたるは刃物のようなアギトと翼を広げる黒竜。ユートのエースモンスターだ。

 

『おぉーっと今度は何だぁーっ!?ペンデュラムの次はエクシーズ!一体どのようなモンスターなのか!?』

 

「ダーク・リベリオンの効果発動!ORUを2つ取り除き、スカーライトの攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

 

「何……!?スカーライトが……!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→1500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→4000

 

ダーク・リベリオンの双翼に嵌め込まれた紅玉より稲妻が走り、スカーライトより力を奪う。王者に向けた反逆の牙を研ぎ澄まし、狙いを定める。

 

「更にラクダウンのペンデュラム効果で相手モンスターの守備力を800ダウンし、このターン、ダーク・リベリオンは貫通効果を得る!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 守備力2500→1700

 

「ぬぅっ――」

 

「バトル!ダーク・リベリオンで『スピア・ドラゴン』へ攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイッ!!」

 

ズガガガガガッ、ダーク・リベリオンがそのアギトを地に突き刺し、猛スピードで削りながら火花を散らして突き進む。『スピア・ドラゴン』の所に来た瞬間、大きく跳躍、雷を纏った牙で切り裂き、一気に4000のダメージがジャックを襲う。

 

ジャック・アトラス LP5700→1700

 

「くっ――!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→2

 

くるくると回転するホイール・オブ・フォーチュン。だがまだまだ、遊矢は更に追撃をかける。

 

「速攻魔法、『瞬間融合』!フィールドのダーク・リベリオンとファイア・マフライオを融合!融合召喚!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

ペンデュラムからエクシーズ、エクシーズから融合へ。ジャックにとって未知の力を全て使い、オレンジと青の渦から現れたのは獣骨の鎧を纏い、オッドアイと額に開いた獣の眼を光らせる竜だ。攻撃力3000、そしてこのカードの効果を使い――ジャック・アトラスの喉元へ届かせる。

 

「ビーストアイズで、スカーライトに攻撃!届けっ!ヘルダイブバーストッ!」

 

蒼炎が、スカーライトに着弾し、黒煙が上がる。

 

――――――

 

「おぉぉぉぉぉっ!?やったか!?」

 

評議会ビル、とある一室にて、ライダースーツを身に纏い、遊矢と似た顔立ちをした少年、ユーゴがテレビ内で起こる遊矢とジャックの対戦を食い入るように見つめていた。

 

「すげぇなコイツ!俺やナッシュと似ているってだけで驚いたのに、ジャックに勝つなんて……悔しいなぁっ、ジャックを倒すのは俺だって決めてたのによぅ」

 

どうやら彼は遊矢の事を忘れているらしい。まぁ会っている、とも言えないから仕方無い事か。楽しいやら悔しいやら、遊矢とデュエルしたいなぁと思いながらテレビを見つめていると――黒煙が晴れ、そこにあったものは。

 

「――なっ――」

 

――――――

 

『猛追――!流れるような攻撃を食らったジャック、これは無事なのか!?って言うか融合って何!?』

 

「……いや、まだだ……!」

 

上空で飛翔するヘリから放たれるメリッサの実況も流し、遊矢がD-ホイールを停止させる事もなく走行する。そう、デュエルはまだ終わっていない。

その証拠に――ビーストアイズの効果が発動されず、遊矢の背の黒煙を裂き、白い閃光が駆け、レーンに乗り出し、大ジャンプ。遊矢の眼前に躍り出る。

 

「ククク、今のはヒヤヒヤしたぞ」

 

『ジャック復活ゥー!ええっ!?どうなってんのぉ!?』

 

「本当、どうなってんの?」

 

「ダーク・リベリオンの攻撃の際、俺のホイール・オブ・フォーチュンは回転し――その時、フィールドに落ちていたこれが手におさまっただけの事だ」

 

「……アクションマジック、『回避』……!」

 

そう、彼は遊矢と同じくモンスターの攻撃を受け、アクションカードを拾い、それを利用してかわしたのだ。何と言う才気、先程使ったアクションカードを直ぐに実戦投入して来た。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド。エンドフェイズ、『瞬間融合』で呼び出したビーストアイズは破壊される……!」

 

榊 遊矢 LP2900

フィールド『EMリザードロー』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMギタートル』『EMラクダウン』

手札0

 

互いの勝利宣言は不発に終わり、ここから先は未知の領域へ。2人共に宣言が失敗したと言うのに、その顔には陰りが見られず、むしろデュエルを楽しむ笑みが浮かんでいる。

 

「俺のターン、ドロー!スカーライトの効果発動!このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊!その数×500のダメージを与える!」

 

「くっ、罠カード、『ピケルの魔法陣』!効果ダメージを0に!」

 

ダーク・リベリオンにその機能を半減されたにも関わらず、凄まじい王者の一喝が熱波となってリザードローを焦がす。これで遊矢のフィールドはがら空き。攻撃力1400以上のモンスターを召喚すれば射程圏内。危険地帯だ。

 

「安心しろ、俺の手札にはモンスターは存在しない。スカーライトも弱体化し、矜が乗らん、誇るが良い、俺のスカーライトを一時でも退かせた事を!魔法カード、『シンクロキャンセル』!スカーライトをエクストラデッキに戻し、素材である一組を蘇生!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「もっと酷い……!」

 

スカーライトが玉座に戻り、2体の臣下がフィールドに見参する。これで攻撃力の合計は3000、しかも――『レッド・リゾネーター』が呼び出され、更に厄介な事になった。

 

「『レッド・リゾネーター』の効果!『レッド・ワイバーン』の攻撃力分、LPを回復!」

 

ジャック・アトラス LP1700→4100

 

LP回復、この効果が優秀かつ厄介だ。折角削ったLPも初期値まで戻ってしまった。ここからまたスカーライトを呼び出すか、遊矢が予測する中、彼はその様子を察したのか、意外な展開に出る。

 

「バトル!『レッド・リゾネーター』でダイレクトアタック!」

 

「っ!永続罠、『EMピンチヘルパー』!その攻撃を無効にし、デッキから『EMインコーラス』を特殊召喚!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

突如の強襲、シンクロを行わず、攻撃を仕掛けるジャックに僅かに驚愕した遊矢は数秒遅れるも何とか防ぐ。彼のデッキからカラフルな3羽のインコが羽ばたき、音波の壁を放ち、『レッド・リゾネーター』の音波を相殺する。

 

「やはり防いだか、貴様の表情、またドラネコのようなカードがあると踏んだが、今度はリバースカードだったようだな」

 

「ッ!」

 

そう、彼はスカーライトが来ると想定した遊矢の表情を見ただけで何かあると見抜いていたのだ。何たる慧眼。踏んだ場数が段違いだ。

 

「『レッド・ワイバーン』でインコーラスへ攻撃!」

 

「戦闘破壊されたインコーラスの効果発動!デッキから『EMスプリングース』を特殊召喚!」

 

EMスプリングース 守備力2400

 

インコからガチョウへ。インコーラスが羽を散らして遊矢のエクストラデッキに避難し、羽のブラインドからスプリングースが飛び出す。攻撃を何とか受け流し、次のターンの布石も出した所で――王者は更なる追撃をかける。

 

「ほう、やるでは無いか、お陰で仕留め損なった。だが言った筈だ!2歩先を行くと!罠発動!『緊急同調』!バトルフェイズに、俺はシンクロを行う!」

 

「なっ――!?」

 

『更に追撃ィー!防ぐ遊矢に攻めるジャック!一向に手を休ませてくれません!』

 

『場のモンスターの合計レベルは8!ここはスカーライトが来るか!?いや違う!この状況で出されるのは、恐らく紅蓮の剣客!』

 

「優秀な解説だ、流石は百戦錬磨のMCと言った所か!俺はレベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、深紅の刃となる!熱き波濤を超え、現れよ!シンクロ召喚!炎の鬼神、『クリムゾン・ブレーダー』!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800

 

スカーライトと同じレベル8、MCの宣言通り、フィールドに焔纏う旋風を逆巻かせ、切り裂いて現れたのは紅蓮の剣客。

真っ赤に燃える鎧は火の粉を弾き、鋭き剣を王者の為に振るう。魔竜に仕える剣士。その効果は今この状況では脅威的だ。このモンスターの登場に、遊矢の額から汗が伝う。何も熱いからでは無い。むしろこれは冷や汗だ。

 

「上級殺し……!」

 

「ほう、やはり知っていたか、そう!このモンスターがモンスターを破壊し、墓地に送った場合、次の貴様のターン、貴様はレベル5以上のモンスターを召喚、特殊召喚出来無い!さぁ、『クリムゾン・ブレーダー』!スプリングースへ攻撃!レッドマーダー!」

 

「ぐっ――、アクションマジック、『フレイム・チェーン』!相手モンスターの攻撃力を400ダウン!」

 

「緩いわ!アクションマジック、『ノーアクション』!アクションマジックの発動を封じる!」

 

「ッ――!」

 

アクションマジックによる援護も封じられ、『クリムゾン・ブレーダー』の赤き斬撃がスプリングースを切り裂く。これで遊矢は次のターン、上級の召喚を封じられた。『クリムゾン・ブレーダー』を破壊しようにも、上級が出せなければグンと難易度が跳ね上がる。ジャック相手にこれは不味い。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP4100

フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキの『EMドラネコ』、墓地の『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

ここで手札増強カード、優秀なドローソースが多い壺カードの中では使用後ペンデュラム召喚しか特殊召喚が行えなくなる、と言う少々使いにくいが、レベル5以上を呼び出せない今はありがたい1枚だ。デメリットも気にせずに済む。チラリと引いた2枚に目を配らせ――次の手を打つ。

 

「墓地のスプリングースを除外、ペンデュラムカードをバウンスし、『EMギタートル』と『EMオオヤドカリ』をセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!ピンチヘルパーを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「魔法カード、『EMキャスト・チェンジ』!手札の『EMラクダウン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「さぁ、行くぞ!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMシルバー・クロウ』!『EMファイア・マフライオ』!『EMリザードロー』!『EMインコーラス』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMリザードロー 攻撃力1200

 

EMインコーラス 守備力500

 

一気に飛び出す5体のペンデュラムモンスター。振り子のマジシャンに鋭き爪を地を疾駆する銀狼、炎の獅子に3羽のインコ、カードのエリマキトカゲと騒がしいサーカス団がフィールドを盛り上げる。まずは『EMペンデュラム・マジシャン』。このカードで『クリムゾン・ブレーダー』を攻略する糸口を掴む。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果!スケールを破壊し、デッキから2枚の『EM』をサーチ!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!『EMペンデュラム・マジシャン』の効果と発動を封じる!」

 

しかし――そうは問屋が下ろさない。ジャックのリバースカードがオープンし、ソリッドビジョンによって4本の鎖が飛び出し、振り子のマジシャンを雁字搦めに拘束する。流石はキング、こちらのキーカードを一目散に封じて来た。だが――今度は遊矢が一手先を行く。

 

「魔法カード、『破天荒な風』!シルバー・クロウの攻守を1000アップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2800

 

「相撃ち狙いか!」

 

「いいや!シルバー・クロウで『クリムゾン・ブレーダー』へ攻撃!この瞬間、シルバー・クロウの効果で『EM』達の攻撃力は300アップする!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力2800→3100

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→1800

 

EMファイア・マフライオ 攻撃力800→1100

 

EMリザードロー 攻撃力1200→1500

 

EMインコーラス 攻撃力500→800

 

ジャック・アトラス LP4100→3800

 

「ぬぅ……!」

 

シルバー・クロウの雄叫びが『EM』を鼓舞し、その鉤爪が『クリムゾン・ブレーダー』の剣をへし折り、鎧を砕く。見事『クリムゾン・ブレーダー』を撃破、下級モンスター達の結束の勝利だ。

 

「ペンデュラムモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した事で、ファイア・マフライオの効果発動!そのモンスターの攻撃力を200アップし、続けて攻撃可能!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力3100→3300

 

ジャック・アトラス 手札1→2

 

ファイア・マフライオが口から煙草の煙のようにリング状の炎を吹き、シルバー・クロウの道筋を作り出す。直ぐ様火の輪を潜り始めるシルバー・クロウ。その爪から火花が散り、発火する。

 

「シルバー・クロウでダイレクトアタック!その効果も忘れずに!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力3300→3600

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1800→2100

 

EMファイア・マフライオ 攻撃力1100→1400

 

EMリザードロー 攻撃力1500→1800

 

EMインコーラス 攻撃力800→1100

 

襲い来る炎の爪、この攻撃を受けてしまえば大ダメージは必至、決着がつけられるその瞬間――リン、ゴーン、と鐘の音が響くと共に、シルバー・クロウの行く手を、黒い影が遮る。

 

「手札の『バトル・フェーダー』を特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

現れたのは鐘を鳴らす小さな悪魔。ここでもまた防がれてしまった。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

榊 遊矢 LP2900

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMリザードロー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMオオヤドカリ』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3

 

「『バトル・フェーダー』をリリースし、アドバンス召喚!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』!」

 

ストロング・ウィンド・ドラゴン 攻撃力2400

 

ここで現れたのは緑色の体躯をし、突風を引き連れた屈強な竜。『パワー・ブレイカー』共々『レッド』モンスターでは無い。彼のデッキ構築の広さを思い知らされる。

 

「このカードは貫通効果を持っている!バトルだ!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』でファイア・マフライオに攻撃!ストロング・ハリケーン!」

 

榊 遊矢 LP2900→1700

 

「くっ――『EMリザードロー』と『EMオオヤドカリ』の効果発動!まずはオオヤドカリを特殊召喚!」

 

EMオオヤドカリ 守備力2500

 

強風に吹き飛ばされるファイア・マフライオと入れ替わりに現れたのは子ヤドカリを自身の貝に住ませた大きなヤドカリ。守備力2500、強力な壁の上、これでペンデュラムゾーンも空いた。

 

「リザードローの効果で『EM』モンスターの数だけドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→5

 

「チッ、そんな効果があったのか、俺はカードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

『互いに攻撃しては防ぎ合う!果たしてこの均衡を崩すのはどちらか!』

 

ジャック・アトラス LP3800

フィールド『ストロング・ウィンド・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「このタイミングで……?俺は『EMダグ・ダガーマン』をセッティング!」

 

「そしてこの瞬間、もう1枚の罠発動!『裁きの天秤』!」

 

「そう言う事か……!」

 

「俺と貴様のフィールドのカードの差は5枚!加えて俺の手札は0!よって5枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→5

 

『おぉーっと、ここでジャックも遊矢に対抗し、大量の手札を確保!しかも攻撃も封じたぁーっ!』

 

遊矢とジャック、互いに大量の手札を引き込み、次の展開へと繋げていく。全力のぶつかり合いだ、スタミナの消費も、補給も激しい。

 

「ギタートルの効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札5→6

 

「更にダグ・ダガーマンの効果で墓地の『EMスライハンド・マジシャン』を回収!『EMペンデュラム・マジシャン』とシルバー・クロウをリリースし、アドバンス召喚!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

「スライハンド・マジシャンの効果!手札を1枚捨て、ここは『ストロング・ウィンド・ドラゴン』を破壊!」

 

『補給部隊』と迷う所だが、貫通効果を持ち、シンクロ素材にも繋げられる『ストロング・ウィンド・ドラゴン』は厄介だ。多少相手の手数を増やしても今の内に処理しておくべきだろう。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札5→6

 

「そしてペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

「効果でこのカード自身とダグ・ダガーマンを破壊、『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMレインゴート』をサーチ!俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をセッティング、カードを2枚セットし、リザードローを守備表示に変更、ターンエンド、この時、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊し、デッキから『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

榊 遊矢 LP1700

フィールド『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)『EMリザードロー』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMオオヤドカリ』(守備表示)

セット3

Pゾーン『EMギタートル』

手札5

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、アクションマジック、『ティンクル・コメット』!スライハンド・マジシャンの攻撃力を1000ダウン!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!スライハンド・マジシャンをリリースし、攻撃力分、LPを回復!」

榊 遊矢 LP1700→4200

 

「俺は自分フィールド上にモンスターが存在しない事で『レッド・ガーゴイル』を特殊召喚!」

 

レッド・ガーゴイル 守備力1400

 

現れたのは4本腕の炎の悪魔。容易な召喚条件を持っており、ジャックのデッキでは優秀な部類に入る。

 

「そして『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「召喚時効果により、『クロック・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

クロック・リゾネーター 守備力600

 

次々と呼び出される『リゾネーター』モンスター、お次は背に時計を負った悪魔だ。仕掛けて来るか、遊矢は目を細め、手札の1枚を握り締める。

 

「俺はレベル4の『レッド・ガーゴイル』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

再びシンクロ召喚、ここで姿を見せたのは炎に包まれた魔竜。その見た目はスカーライトと良く似ている。ビデオで見た限り、このモンスターは円滑油のような役割を持っている。

 

「シンクロ召喚時、墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「そしてレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

更に――止めを刺すように、エースカード、スカーライトがフィールドに舞い戻る。最悪だ、勝負を一撃で決めかねないこのカードの登場は重い。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』、『レッド・ワイバーン』、『クリムゾン・ブレーダー』、『レッド・スプリンター』、『レッド・ガーゴイル』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札3→5

 

「スカーライトの効果発動!特殊召喚された『クロック・リゾネーター』も破壊されるが――このカードは表側守備表示の場合、1ターンに1度、戦闘、効果で破壊されない!」

 

「俺は手札の『EMレインゴート』を捨て、このターン、戦闘、効果破壊から『EMリザードロー』を守る!」

 

「――ほう」

 

榊 遊矢 LP4200→3200

 

「リザードローの効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

レインゴートにはもう1つ、手札から捨て、効果ダメージを防ぐ効果があるが、今はドローを取る。少しでも手数を増やし、ジャックに大ダメージを与える布陣を整えたいが為の行動だ。肉を切らせ、骨を断つ。

 

「俺は魔法カード、『二重召喚』を発動!『ファラオの化身』を召喚!」

 

ファラオの化身 攻撃力400

 

今度は黄金の仮面を被った黒い獣のモンスター。ジャックのデッキには全くシナジーが無いが、このモンスターの登場に遊矢は目を丸くする。

 

「嘘だろ……」

 

「控えるが良い!レベル3の『ファラオの化身』に、レベル3の『クロック・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

「『ファラオの化身』の効果で自身を!『レッド・ライジング・ドラゴン』の効果で『クロック・リゾネーター』を蘇生!」

 

ファラオの化身 守備力600

 

クロック・リゾネーター 守備力600

 

『おおっと!これは何と言う事だぁーっ!『レッド・ライジング・ドラゴン』がシンクロ召喚されたにも関わらず、素材が復活、と言う事は――!』

 

「ループする……!」

 

「その通りだ!俺はレベル3の『ファラオの化身』に、レベル3の『クロック・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

そう、これこそがジャックのループコンボ、『レッド・ライジング・ドラゴン』と『ファラオの化身』、そしてレベル3の『リゾネーター』、この3体により、何度でも『レッド・ライジング・ドラゴン』が呼び出される。

 

「2体を蘇生!」

 

ファラオの化身 守備力600

 

クロック・リゾネーター 守備力600

 

「再びレベル3の『ファラオの化身』に、レベル3の『クロック・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

「効果で『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「効果でスカーライトの攻撃力分、LPを回復!」

 

ジャック・アトラス LP3800→6800

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP6800

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)『レッド・ライジング・ドラゴン』(攻撃表示)×3『レッド・リゾネーター』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

『ジャックのフィールドにはエースカードのスカーライトを含め、シンクロモンスターが4体、対する遊矢は凌ぐしか無い!これがキングの力なのか!?』

 

強い――上空で実況するメリッサの言う通り、圧倒的な力を見せるジャックに対し、遊矢は闇雲に消費させられるのみ。このままではジリ貧、一体どうしたらと弱気になった時――。

 

――……見てられんわ、このうすのろめ――

 

「え――?」

 

遊矢の左眼が、金色に輝いた――。

 

 




これにて今年の更新は終了です。良いお年を。

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