因みに私用で忙しくなるので今回で一旦投稿は休止、次の投稿は10月後半になると思います。最近休みばっかで申し訳ありません。
「まさか権現坂達も捕まってたとはなぁ……ウフフ」
「俺とて赤馬の奴が囚人服を着ているのを見た時は何かの悪夢かと思ったぞ」
時は少しだけ進み、遊矢達はとある場所にて、権現坂とデニスと合流していた。その場所は――脱出不可能とされる犯罪者達が集う収容所だ。
ここは右と左の塔の2つに別れているらしく、突如現れた月影に助けられた零羅を除き、今右の収容所にいるのは遊矢と権現坂、零児にデニス、エヴァ。クロウとその友のシンジ。
そして左の塔には沢渡とその子分3人、黒咲、アリトにセレナとSALがいるようだ。
こんな時に限ってコナミがいないのは手痛い。彼ならば無茶苦茶な方法で脱出するのだろうが、今回はそうはいかない。どうするべきかと遊矢が唸る中、ある男が彼に声をかける。
「ここにいたか、遊矢」
「零児……君は本当に何でそんな格好をしているんだい?」
その男とは赤馬 零児、With囚人服だ。白と黒の縞模様の服に身を包んだ、収容所の風景に溶け込んでいる、キャラ崩壊を起こしている姿に思わず遊矢の口調も砕ける。それ程までに違和感を感じさせてくれる光景だ。2回目だが慣れる気がしない。
「何、木を隠すなら森の中と言う奴だ、それより遊矢。脱出の手がかりを掴んだ。着いて来てくれ」
「本当か!?」
いきなりの有益な情報に遊矢と権現坂が目を丸くする。流石は赤馬 零児。ふざけた格好をしていると思いきや有能な働きを見せてくれる。遊矢は素直に彼に着いて行き――その先で、この収容所の右塔の頂点である、燻ったエンターテイナーと闘う事になる――。
――――――
「あぁクソッ!何で俺様がこんなむさっ苦しい所にいなきゃなんねぇーんだよ!」
「「「沢渡さぁーん、落ち着いて下さいよぉー!」」」
一方、収容所の左塔にて、沢渡 シンゴは自分達に割り振られた雑居房の壁を蹴っていた――。と思いきや壁が思った以上に固かったらしい。足に爪先から衝撃が跳ね返り、痺れて膝を抱える沢渡。何とも格好つかない男である。
「落ち着け沢渡、暴れても状況は良くならんぞ」
「正論だな。はぁ、せめて遊矢と同じ部屋ならなぁ……」
同じ雑居房の住人である隼とアリトが沢渡を諭すが、彼としては落ち着かない。考えるよりも行動してみるタイプの沢渡にとって、こうして動きを封じられるのは何よりストレスが溜まる。どうにか出来ないものか――そんな時だ、雑居房の前に1人の男が現れたのは。
「ハハッ、威勢が良い奴が来たもんだなぁ」
「あぁん?誰だテメェ!」
「ああ、俺は青山ってんだよ。お前さん達、何を仕出かしたか知らねぇが、収容所は初めてだろ?色々教えてやるよ」
ニィッと人の良い笑みを浮かべる男、青山。有り難い申し出だ。未だ騒ぐ沢渡の口を塞ぎ、隼が前に出て彼に答える。
「ああ、良ければ頼もうか、俺もここにあるあのサーキットのようなものが気になっていたんだ」
そう言って収容所の真ん中に引かれたサーキットのような線路をチラリと一瞥して答える隼。まずは情報収集を。脱出の手がかりになるようなものを掴む為、積極的に、しかし穏和に打って出る。この男も丸くなったものだ。とは言え他の2人、アリトと沢渡がそう言った場面で頼りになりそうもないのもあるが。
「ああ、あれか?あれは見たまんまだよ。ライディングデュエルって奴のサーキットさ、外からやって来た奴等がこれがねぇと夜しか眠れねぇとか言って、許可を得て作ったんだ。今ボスを決める為、あれを使ってデュエルをしているんだ」
「ほう――ボス……か」
ボス、成程、ここの収容所の頂点に立つ者ならば、何か鍵になるものを握る事が出来るだろうと隼は推測する。ならば話は早い。この青山から情報を引き出し、ボスと話す、もしくはボスとなる事でこの収容所全体を掴む。
恐らく右塔にいる零児もこれ位の事は試しているだろう。こちらも足手まといにならないようにと隼は顎に手を当て考える。
「おっ、噂をすれば何とやらだ。ほら、ボスが帰って来たぜ」
青山の視線の先へと沿うように隼がその猛禽類を思わせる眼をサーキットへと向ける。だがそこには誰もいないように見える。
いや、これは――キィィィィンッと、耳鳴りを起こすように響く音、その出所はサーキットが引かれた先にある――穴だ。まるで鉱山の如く、人1人が余裕で入るものの、D-ホイールで抜けるには少々狭い穴がある。まさか――と思ったその瞬間、穴から眩きライトがキラリと輝き、ドシュゥゥゥゥゥ!白煙の尾を靡かせ、1機のD-ホイールが走り抜ける。
まるで髑髏を思わせるヘルムに、肩にスパイクがついたライダースーツ、後部に巨大なブースターを取り付けたそのD-ホイールを操るホイーラー。
それに追従するは頭部からゴウゴウと燃える炎を伸ばし、ローブとマントを纏った骸骨だ。掌を後ろから飛び出して来たD-ホイーラーに向け、炎に包まれた髑髏を弾丸のように撃ち出す。
「『バーニング・スカルヘッド』の効果ぁ!こいつが特殊召喚に成功した時、お前さんに1000ポイントのダメージを与える!」
「ぐっ、がぁぁぁぁぁっ!?」
瓜生 LP1000→0
「――奴は――!?」
「おいおいおい、ボスがやられちまったぜ、何者だあいつぁ……!?」
馬鹿な、そう言わんばかりに2人が瞠目する。青山はこの左塔のボスである、昆虫族使いのデュエリスト、瓜生が敗北し、新たなボスが生まれた事で。
対する隼は今君臨したボスと、そのボスが使うモンスターを見て、そう、隼はたった今ボスとなった男を知っている。
ヘルメットを脱ぎ捨て、炎を思わせるファンキーな髪型に光を反射するサングラス、顎から生えた無精髭が特徴的な男――。
「炎城……ムクロ……!」
炎城 ムクロ。この男は隼がこの収容所に来る事となった理由、地下デュエルでの対戦者の1人にして、勝利こそしたが隼を後一歩の所まで追い詰めた凄腕のD-ホイーラーなのだ。どうするかと悩む彼をよそに、ムクロは停止したD-ホイールに乗ったまま高々と声を上げる。
「どうだテメェ等!これでこの俺様がここのボスだ!文句のある奴ぁかかって来い!」
ニヤリ、不敵な笑みを浮かべ、啖呵を切るムクロ。不味い、こんな事を言われれば、後ろの馬鹿共が黙っていないと隼が振り返り――時既に遅し。そこにいた筈の沢渡とアリトの姿が忽然と消えていた――。
そしてサーキットの方で聞こえる覚えのある声。頭が痛い。こんな気持ちをユートに味わわせていたと思うと今更ながら申し訳なくなる。
「オウオウオウ!良い度胸じゃねぇか!この沢渡 シンゴ様を前にボスを気取るたぁ!上等だぜ、俺が相手になってやんよ!やんよぉ!」
「おう良い気合いだぜ沢渡!セコンドには俺がついてやる!存分にエンタメってやれ!」
「「「沢渡さん、やっちゃて下さいよぉー!」」」
柿本、山部、大伴も引き連れ、ムクロの挑発に乗り、名乗りを上げる馬鹿2人、いや、5人か。ムクロはそんな彼等の登場に眼を丸くした後、喉から笑い声を絞り出す。
「ハハハハハッ!良いねぇ、熱いぜお前さん達!その挑戦受けて立つ!おい瓜生、ボス命令だ、お前さんのD-ホイールを貸してやんな!」
「……チッ、仕方ねぇか……おいガキ、壊すんじゃねぇぞ、後、あの野郎をぶっ倒して来い」
沢渡の突然の挑戦を受けて立ち、今しがたデュエルで下した瓜生へ沢渡にD-ホイールを貸すように指示を出すムクロ。垂れ目で顔にマーカーを刻んだ男――瓜生も仕方なく頷き、リベンジを果たしてくれと沢渡の前にD-ホイールを停止する。
「へっ、任せとけよおっさん!……で、D-ホイールってどう操作すりゃ良いんだ?」
「バッカ沢渡、そんなもん気合だ気合!こう、抉り込むようにアクセルを踏むべし!踏むべし!」
「舐めんじゃねぇアリト!言っとくが俺様は補助輪の沢渡と呼ばれる男だぞ!」
ギャーギャーとアホ丸出しで騒ぎ立てる2人を見て、こんなんで大丈夫かと口元を引き吊らせる瓜生。それは隼も同じ。遠巻きに見ていた彼は溜め息を吐き出し、勝手に行動する沢渡に悪態をつく。
「補助輪て……中学生だろお前……っ!」
「「「沢渡さぁーん、また特訓付き合いますよぉーっ!」」」
「おい、あいつ等お前の知り合いじゃ……止めなくて良いのか……!?」
たった今沢渡達が隼の仲間だと気づいたのか、隼より慌てて彼等の心配をする青山。普通に良い奴だ、何故この収容所に入ったのが本気で分からない。だが隼はそんな彼へと、心配無用と胸を張る。
「安心しろ、奴等は心配する程やわじゃない――」
「アクセルどこ!?ブレーキは!?」
「わっかんね!俺馬鹿だからわっかんね!」
「気がする」
「大丈夫!?お前の仲間大丈夫!?」
が、その信頼は幻想なのかもしれない。
「おいおいおい、そんなんで大丈夫か?言っとくが俺はライディングに関してはあのキングに負けねぇ自信があるし、手を抜くつもりはねぇぞ、小僧」
「ハッ!安心しろよ!俺がボスになって、おっさんは隠居でもしときな!アリト、後ろ持ってて、放さないでね!」
「いや無理ィ!」
「ここのサーキットはオートパイロットでも対応出来ねぇぞ」
「オートパイロット……?あ、これか」
話を聞かず、ラッキーと考え、沢渡がオートパイロットモードに移行する。確かにこれで運転の面の不安は解消される。……サーキットがまともならばだが。見るだけで分かる簡素なサーキット、デコボコな道や狭い穴の通路。不安要素はまだまだある。
何より相手は炎城 ムクロ。彼は――ライディングでは超一流だ。
「準備は良いか……?さぁ行くぜ、3、2、1……ッ!」
兎にも角にも、ボスの座を賭け、沢渡 シンゴ、初のライディング劇場が幕を上げる。
「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」
互いに弾かれるようにD-ホイールを発進する。その差は明白、明らかにムクロの方が好スタートを切った。ブースターより火炎を吹き上げ、見る見る内に差を開くムクロ。
このブースターはボルガーカンパニー製の最初はとんでもないスピードを約束するが後半になればその代償として大幅にスピードを落とす諸刃の剣、しかしホイーラーはあのムクロ。彼がそんな弱点を分かってない筈が無い。テクニックでどうにかするだろう。
そしてこれで――先攻はムクロに渡った。狭き穴を潜り、ムクロがデッキより5枚のカードを引き抜く。
「俺のターン、俺は永続魔法、『ミイラの呼び声』を発動!俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、手札のアンデット族モンスターを特殊召喚する!来な!『バーニング・スカルヘッド』!」
バーニング・スカルヘッド 守備力800
現れたのは先程の瓜生とのデュエルに決着をつけた、火に包まれた髑髏のモンスター。ステータスも低く、折角アンデットの上級モンスターを出せる手段をこのカードに取ったのか、沢渡が首を傾げる。しかし――思い出す、このカードの効果は――。
「こいつが特殊召喚に成功した時、相手に1000のダメージを与える!ヘル・バーニング!」
「うわっちゃぁ!?」
沢渡 シンゴ LP4000→3000
『バーニング・スカルヘッド』が自身を弾丸のように撃ち出し、沢渡を火炎で焦がす。LP4000では強力なバーン効果。彼のデッキはこれを主軸としている為、後3回繰り返せばデュエルが終わる。
「モンスターをセットし、ターンエンドだ」
炎城 ムクロ LP4000
フィールド『バーニング・スカルヘッド』(守備表示)セットモンスター
『ミイラの呼び声』
手札1
ムクロのターンが終了し、何とか沢渡が追い縋って自分のターンに入る。これ以上差を開かれればダメージのフィールも激しさを増してしまう。とは言っても沢渡がオートパイロットを解除すればその時点でクラッシュする可能性が高い。採掘場のような場所に出て、沢渡はデッキからカードを引き抜く。
「俺のターン、ドロー!舐めんじゃねぇ、俺は『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』と『魔界劇団―ワイルド・ホープ』でペンデュラムスケールをセッティング!」
「ほう……ペンデュラム……エクシーズと言い、最近は面白いカードが出回ってんのか?」
沢渡の背後に光輝く2本の柱が出現し、中に現れた少女と期待の新人が天――と言っても洞窟内だが、沢渡の頭上に線を結び、魔方陣を描き出す。いきなりのペンデュラム、見慣れぬカードにムクロが少しばかり驚くが、エクシーズで通った道だ。冷静に観察する。
「ほら、中央のモニターでサーキット内部の様子が見られる」
「良くこんな所に金をかけようと思ったものだ」
「囚人のストレスを発散させて、脱出させないようとでもお偉いさんが考えたんだろ。監視カメラの意味も込めて」
その様子をサーキットの中央に展開された大型モニターより隼と青山、囚人達が興味深そうに見つめる。一種のお祭り事。一大イベントを逃すまいと囚人達がエキサイトする。
「そこだ沢渡!お前の得意のパンチでダメージを稼げ!」
「ペンデュラム召喚!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!」
魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500
振り子の軌跡で光が沢渡へと並走し、現れたのは劇団のヒロイン、名の通り、可愛らしい悪魔族モンスターだ。
「おいおいペンデュラムってのはそれだけか?」
「へっ、ペンデュラムの真価は後半なんだよ!ティンクル・リトルスターのペンデュラム効果!このターン、プリティ・ヒロインはモンスターに3回攻撃出来る!」
「何ィ!?」
ペンデュラムゾーンのティンクル・リトルスターが光の粉をプリティ・ヒロインに降り注がせ、その愛らしさに磨きがかかる。モンスター限定とは言え強力な効果。だが――当然デメリットもある。
「だがこのターン、プリティ・ヒロイン以外のモンスターは攻撃出来なくなる。ま、俺のフィールドのモンスターはこいつだけだから関係ねぇがな。さぁ、プリティ・ヒロイン!スカルヘッドとセットモンスターへ攻撃!」
プリティ・ヒロインがその手に持った鞭を振るい、ムクロのモンスターを薙ぎ倒す。だが彼がセットしていたモンスターは――。
「ハッハー!セットモンスターは『ピラミッド・タートル』!戦闘破壊された事でデッキから『スカル・フレイム』を特殊召喚!カモォン!マイフェイバリット!!」
スカル・フレイム 攻撃力2600
背にピラミッドを負った黄金の亀だ。プリティ・ヒロインの鞭がピラミッドの甲羅を破壊し、その中より影が飛び出す。アンデット族にとって優秀なリクルートモンスター、ムクロが呼び出したのは――彼のエースと言えるモンスター。炎の鬣を伸ばし、ローブと真紅のマントを纏った骸骨のモンスターだ。攻撃力2600、いきなりの最上級モンスターの登場に沢渡が怯む。
「チィッ!アンデットってのはこれだから……!俺はカードを2枚セットし、ターンエンドだ」
沢渡 シンゴ LP3000
フィールド『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)
セット2
Pゾーン『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』『魔界劇団―ワイルド・ホープ』
手札1
「さぁ、楽しもうぜ?俺のターン、ドロー!本来ならバーンで攻めるんだが……ここはバトルとしゃれこもうか!『スカル・フレイム』でプリティ・ヒロインへ攻撃ィ!」
沢渡 シンゴ LP3000→1900
「倒れんな沢渡ィ!腕を折り畳んでガードしろぉ!」
『スカル・フレイム』が拳を突き出して眼前に魔方陣を描き出し、メラメラと燃える灼熱の弾丸をプリティ・ヒロインへと撃ち出す。炎に焼かれ、慌ててエクストラデッキに引っ込むプリティ・ヒロイン。これでモンスターは失ったが――プリティ・ヒロインは沢渡へと1枚のカードを渡していった。
「プリティ・ヒロインがモンスターゾーンで戦闘、効果破壊された場合、デッキの『魔界台本』魔法カードを選び、フィールドにセットする!『魔界台本「魔王の降臨」』をセット!更に罠カード、『魔界劇団の楽屋入り』でデッキの『魔界劇団―ビッグ・スター』と『魔界劇団―デビル・ヒール』をエクストラデッキに!」
「ほぉう?俺はカードをセットし、ターンエンドだ」
炎城 ムクロ LP4000
フィールド『スカル・フレイム』(攻撃表示)
『ミイラの呼び声』セット1
手札2
ガリガリとデコボコの道を進み、互いのD-ホイールが疾駆する。だがその差は歴然、まだ2人の間には差があり、ムクロは危う気なく突き出た岩や石を避け、対する沢渡は危な気に進んでいく。ガタガタと機体を揺らし、沢渡が舌打ちを鳴らす。
「俺様のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!『魔界劇団―デビル・ヒール』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!」
魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500
魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000
魔界劇団―プリティ・ヒロイン 守備力1000
ペンデュラム特有の大量展開、ここで大型が沢渡のフィールドに降り立ち、並走する。エースカードである隻眼の大スター、黒いジャケットにメタリックな渦巻くワインレッドの髪のモンスターに、ずんぐりむっくりとした白い仮面をつけ、大口を開けた悪役モンスター。そして先程のターンも登場した麗しのヒロインだ。
「そしてリバースカード発動!『魔界台本「オープニング・セレモニー」』!俺のフィールドの『魔界劇団』モンスターの数×500LPを回復する!」
沢渡 シンゴ LP1900→3400
相手がバーンで来るならばこちらは回復するまで。何せ後2回『バーニング・スカルヘッド』を特殊召喚されればジ・エンドとなる所まで来ているのだ。少しでも多くLPを残しておきたい。バーンデッキと言うのはそれだけ厄介なのだ。しかも相手はビートダウンにもシフト出来るフットワークの軽さと来た。
「さ、ら、に!ビッグ・スターの効果でデッキから2枚目のオープニング・セレモニーをセット!そして魔王の降臨を発動!俺様の攻撃表示の『魔界劇団』の数までテメェの表側表示のカードを破壊!『スカル・フレイム』と『ミイラの呼び声』を破壊!」
「チッ――!」
「よっしゃ、良いぞ!決めちまえ!」
チェーン発動を許さぬ強力な除去カードの炸裂。魔王の降臨を読み込んだビッグ・スターが巨大な悪魔の翼を広げ、羽ばたいてソニックブームを巻き起こし、ムクロのフィールドのカードを破壊する。更には強力な突風を受け、ムクロのD-ホイールが傾き減速する。少し――差が縮まった。
「さぁ、バトルだ!ビッグ・スターでダイレクトアタック!」
「させねぇよ!罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地より戦闘、効果耐性を与え、『ピラミッド・タートル』を特殊召喚!」
ピラミッド・タートル 守備力1400
「チッ、ここでそのカードかよ……!」
「耐性があるから効果は発動出来ねぇがな」
折角ここで決着がつけられそうな所でこの防御、どうやら攻めだけの男ではないらしい。だが長引けばペンデュラムを操る沢渡にも分がある。
「このラウンドでも仕留めそこなったか……だが充分、コーナーに追いつめろ沢渡!」
「ターンエンドだ」
沢渡 シンゴ LP3400
フィールド『魔界劇団―ビッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団―デビル・ヒール』(攻撃表示)『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(守備表示)
セット1
Pゾーン『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』『魔界劇団―ワイルド・ホープ』
手札2
コースは何度目かのカーブに入り、互いに機体を傾かせ、減速を抑えて進もうとする――が、ここもデコボコ道、ムクロはそのテクニックで制するが、沢渡は躓き、ガンッ、クラッシュへ――。
「――ッ!デビル……ヒィィィィルッ!」
危うくクラッシュしそうになった瞬間、沢渡が叫び、その声に応え、デビル・ヒールが機体の動きを修正し、更に加速させる。確かにテクニックで劣るが、彼はアクションデュエリスト。モンスターと共に、サーキットを駆け抜ける。
「へぇ……やるじゃねぇかボウズ」
「ハッ、当たり前だっつーの!」
「んじゃ俺も、気合見せねーとな……!ドロー!魔法カード、『トレード・イン』!手札の『スカル・フレイム』をコストに2枚ドロー!」
炎城 ムクロ 手札1→2
「俺は墓地の『スカル・フレイム』を除外し、手札から『スピード・キング☆スカル・フレイム』を特殊召喚!!」
スピード・キング☆スカル・フレイム 攻撃力2600
切り札登場、ここで現れたのは下半身が鎧を纏った馬のようになった『スカル・フレイム』。その炎を風に靡かせ、フィールドを疾駆する姿は正にスピード・キング。ムクロのデッキのビートバーンの象徴と言えるカードだ。
「それがお前の切り札って訳か……!だが攻撃力は『スカル・フレイム』と変わんねぇぜ?」
「おかしいな、俺の記憶では3000はあった気がすんだが……まぁ、良い!スピード・キングの効果で相手に墓地の『バーニング・スカルヘッド』の数×400のダメージを与える!」
沢渡 シンゴ LP3400→3000
「永続魔法、『一族の結束』を発動!俺の墓地にはアンデット族モンスター1種類!よってアンデット族の攻撃力を800アップする!」
スピード・キング☆スカル・フレイム 攻撃力2600→3400
ピラミッド・タートル 攻撃力1200→2000
「チィッ!しょっぱい真似を……!」
「ヒャッハー!直ぐに言ってられなくなるぜ!スピード・キングでデビル・ヒールへ攻撃!」
沢渡 シンゴ LP3000→2600
スピード・キングがその蹄で地を駆け抜け、巨体を誇るデビル・ヒールを轢き倒す。圧倒的攻撃力、だが沢渡とて対策が無い訳ではない。
「プリティ・ヒロインの効果!自分、または相手がダメージを受けた時、そのダメージ分、相手モンスター1体の攻撃力をダウン!」
スピード・キング☆スカル・フレイム 攻撃力3400→3000
「ほぉう……だが何だか攻撃力が下がってしっくり来たぜ。『ピラミッド・タートル』でビッグ・スターへ攻撃!」
炎城 ムクロ LP4000→3500
「リクルート効果で『馬頭鬼』特殊召喚!」
馬頭鬼 攻撃力1700→2500
現れたのはその名の通り、馬の頭部をした鬼のモンスターだ。斧を手にし、ビッグ・スターに向かって駆ける。
「追撃と行くぜ!『馬頭鬼』でビッグ・スターへ攻撃!」
『馬頭鬼』が壁を足場にしてビッグ・スターに向かい、斧を振るって叩きのめす。ゴシャッ、と頭から地面に叩きつけられるビッグ・スター。しかし彼も負けていない。ガシリと斧を掴み、奪い取って『馬頭鬼』を切り裂き、相撃ちに持ち込む。
「メインフェイズ2、『馬頭鬼』を除外し、墓地の『バーニング・スカルヘッド』を蘇生!」
バーニング・スカルヘッド 攻撃力1000→1800
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
炎城 ムクロ LP3500
フィールド『スピード・キング☆スカル・フレイム』(攻撃表示)『バーニング・スカルヘッド』(攻撃表示)
『一族の結束』セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!」
サーキットも終盤に差し掛かり、またもカーブが2人を襲う。ムクロはそのテクニックで、沢渡は自身のモンスターに助けを求めようとするも――。
「独り立ちしなくちゃ駄目だぜ少年!罠発動!『不知火流燕の太刀』!『バーニング・スカルヘッド』をリリースし、ペンデュラムカード破壊!その後デッキから『不知火の宮司』を除外!」
「破壊されたワイルド・ホープの効果で『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』をサーチ!」
「宮司が除外された事でプリティ・ヒロインも破壊!」
「プリティ・ヒロインの効果でデッキから『魔界台本「魔王の降臨」』をセット……!」
1枚で3枚のカードを破壊し、沢渡を追い詰めるムクロ。これでペンデュラムは出来ない。沢渡のデッキは純ペンデュラム構築、ムクロはそれを見抜き、妨害したのだ。それだけではない。これで沢渡のモンスターは0。つまり――カーブの修正を行う助けは無い。曲がり切れずクラッシュは不可避。誰もがそう思った時――。
「なめんなっつってんだよぉっ!!」
ガンッ、何と沢渡は機体を壁へと乗り出し、猛スピードでムクロを抜き去る。まさかの高等テクニック、アクロバティックな動きにムクロを始め、観戦していた者達も目を見開く。
「なっ、馬鹿な……っ!?テメェ、自転車も乗れねぇような奴じゃ……!」
「ハッ、俺様は天才なんだよ。その気になりゃあこん位朝飯前よ!」
そう、彼はオートパイロットから徐々に慣らし、ライディングデュエルを学習したのである。目の前にはライディングの教本のような男もいる。天才肌である彼が吸収するのも仕方がないと言える。言えるが――。
「だからって、デュエル前まで素人だった奴がここまでライディングをものにするとはな……!」
正しく天才。
「だが、テメェのお得意のペンデュラムはもうねぇ!どう出て来るよ!」
「分かってねぇなぁ!俺様がそれ位対策してねぇとでも思ってんのか!?それに俺はエンタメデュエリスト、ここから逆転するのさ!魔法カード、『手札抹殺』!手札全てを墓地へぶち込む!」
「何っ!?」
運命を賭けたラストドロー。沢渡はギャンブルのように手札全てを賭ける。思い切った戦術、そして沢渡のドローが、空中に光のアークを描く――。
「来たぜ!俺は『妖仙獣鎌壱太刀』を召喚!」
妖仙獣鎌壱太刀 攻撃力1600
「馬鹿な……『妖仙獣』だと……!?」
「おいおい、沢渡の奴、スイッチヒッターだったのかよ……!」
ここで現れるモンスター、『妖仙獣』を見て、隼とアリトが驚愕する。まさかまさかと度肝を抜くその一手、馬鹿げた構築が――ピンチを覆す。現れる鎌を手にした人型鼬のモンスター。羽織を風に靡かせ、スピード・キングに並走する。
「鎌壱太刀の効果で手札の『妖仙獣鎌弐太刀』を召喚!」
妖仙獣鎌弐太刀 攻撃力1800
次は鼬兄弟の次男坊、羽織に袴、壱太刀と同じく和風デザインのモンスター。しかし手にしたのは鋭く輝く日本刀。そしてこのモンスターの次は――。
「弐太刀の効果ぁ!さぁ、壱、弐と来たら分かるな?召喚!『妖仙獣鎌参太刀』!」
妖仙獣鎌参太刀 攻撃力1500
短刀と薬を手にした三男がフィールドに降り立ち――3体の鼬が揃い踏み、流れるような三連星に囚人達が歓声を上げる。
「「「沢渡さん、やっちゃって下さいよぉー!」」」
「ハッ!だが攻撃力ではこちらが上!しかもこいつは破壊されれば墓地の『スカル・フレイム』を呼び出す!残念だったなぁ!」
「教えてやるぜ……!雑魚モンスターだろうと、使い方次第で勝てるってなぁ!壱太刀の効果!フィールドにこいつ以外の『妖仙獣』が存在する場合、相手モンスター1体をバウンスする!」
「何ィ!?」
3体の鼬がそれぞれ刃を重ね、白銀の斬撃を放ってスピード・キングをクラッシュさせる。これで――道は開いた。
「さぁ行け!壱太刀!弐太刀!参太刀!ジェットストリームアタックだ!」
炎城 ムクロ LP3500→0
襲い来る、3匹の息の合ったコンビネーションアタック、斬撃の嵐が、ムクロのLPを削り取り、白煙を上げ、停止するムクロのD-ホイール。
勝者、沢渡 シンゴ。その度肝を抜くデュエルはこの場全員を魅了し――彼は誰もが認めるボスとなったのだった――。
人物紹介21
炎城 ムクロ
所属 コモンズ
5D,sより参戦。ライディングデュエルでの活動を主とするデュエリスト。ライディングの腕ならばあのキングをも凌ぎ、もしもアクションカードやスピードスペルがあった場合、黒咲さんと沢渡さんとの勝負は分からなかったであろう実力を持つ。
黒咲さんとの地下デュエルにて敗北し、地下自体が見つかった事で収容所行きへ。尤も本人は余り気にしておらず、前向きでいる模様。
性格は楽観的で陽気、豪快で細かい事を気にしない、気の良いおっさん。
使用デッキはビートでもバーンでも立ち回れる『スピード・キング☆スカル・フレイム』、エースカードも同じく『スピード・キング☆スカル・フレイム』。
社長の囚人服とか言うクソコラが書きたかったのが遊矢達と行動を共にさせた理由だった気がします。
と言う訳で沢渡さんのデッキは『魔界劇団妖仙獣帝』とか言う訳の分からないデッキとなりました。
だってね、純魔界劇団だと魔王の降臨連打ばっかになっちゃってデュエル構成的にワンパターンになっちゃうんだもん。
最後まで凄く悩みましたが、他の戦略が出来る魔界劇団の新規の気配もありませんでしたし。こうなったら全部ぶち込んじゃえとなり、こうなりました。まぁ、主人公2人が『オッドアイズEM魔術師』と『オッドアイズ魔術師HERO』だからセーフ(震え声)。
案外書くのが楽しいデッキとなり、成功と言える気がします。多分。