今回限りで二度と登場しないので安心してください。
そんな事より瑠璃かわいいよ、瑠璃。
「はぁ……」
コナミが道場破りに出掛けて暫くたった頃、遊勝塾にて柚子が溜め息を吐いていた。原因は言わずもがな、遊勝塾の塾生、赤帽子のコナミである。彼は道場破りに行くと言った切り帰って来ない。昼には帰って来ると言っていたがその時に何処かの道場の看板を引っ提げて戻って来ないか不安である。勿論、冗談の類いかと最初は思った。いや思いたかった。頼むから思わせてくれと天に祈った位だ。コナミは冗談を言う性格ではない。天然で凄い事を然も当然のようにやり遂げる人物なのだ。何時もなら頼もしいがこの時程コナミの凄さを恐れたのは初めてである。
「柚子ー、今何時ー?」
柚子が頭を抱え唸っている処に、遊矢が声を掛けてくる。正直この暢気さに少しイラッとしたが遊矢は関係ない、と気を落ち着かせる。
「はぁ……一大事――」
――――――――
「『ジ・エンド・オブ・ストーム』!!」
「ッ!?」
黒門がカードを発動した途端、凄まじい爆風が発生し、『E・HEROジ・アース』が弾け飛ぶ。
「MATTE!?そりゃあ出現率658008分の1の『ジ・エンド・オブ・ストーム』じゃねぇか!?」
「ヒャハハハ!そうだぜぇ?こいつは相手フィールド上のモンスター全てを破壊し、1体につき300ポイントのダメージを与える!」
コナミ&刀堂 刃 LP4000→3700
「くっ……!カードを1枚伏せてターンエンドだ」
コナミ&刀堂 刃 LP3700
フィールド セット1
Pゾーン 『竜脈の魔術師』 『竜穴の魔術師』
手札0(コナミ) 手札5(刃)
「わっ私のターンですっ、ドロー!」
コナミのターンの終了と同時に少女はその細腕をぷるぷると動かし、恐る恐ると言った様子でカードを引き抜く。
「うぅん……、使うべきかなぁ?でっでもぉ」
「さっさとしろ。このノロマッ!!」
「はっはいぃ!」
カードを使うべきか否か迷っているのだろう、ウジウジと長考する少女を隣の黒門が一喝する。短気な彼には長考と言うものが不快なのだろう。そのこめかみがビキビキと怒りを溜め込んでいる。
「魔法カードぉ『影依融合』発動しますぅ。手札の『シャドール・ビースト』ちゃんと『シャドール・リザード』ちゃんを融合!融合召喚!『エルシャドール・ミドラーシュ』ちゃん!」
エルシャドール・ミドラーシュ 攻撃力2200
現れたのはギョロギョロと巨大な眼を不気味に動かす竜と緑色のポニーテールの少女の人形。使い手と同じく薄暗い雰囲気を醸し出しており、何故かねねが使う事に違和感としっくり来ると言った真逆のフレーズが頭に浮かぶ。
「墓地に送られた『シャドール・ビースト』ちゃんと『シャドール・リザード』ちゃんの効果発動。『シャドール・リザード』ちゃんの効果によりデッキの『シャドール・ヘッジホッグ』ちゃんを墓地に送り『シャドール・ヘッジホッグ』ちゃんの効果で2枚目の『シャドール・リザード』ちゃんを手札に加えます。そして『シャドール・ビースト』ちゃんの効果で1枚ドロー」
光焔 ねね 手札3→5
ねねの足元より影が伸び、人形達が力を与えていく。意外にもねねは蠢く人形達を怖がる事なく「ありがとうね」と笑顔で人形達を一撫でする。やはり自分のデッキのモンスターだけあって愛着があるのだろう。人形達も何処か嬉しそうである。
「バトルですぅ『エルシャドール・ミドラーシュ』ちゃんでダイレクトアタック!」
少女の命令と共に手元の杖をクルクルと回し、此方に向ける。すると杖の水晶より黒き球体が出現し、蛇のように地面を這い、コナミ達に迫る。
「罠発動。『ピンポイント・ガード』。墓地の『E・HEROブレイズマン』を守備表示で特殊召喚し、破壊耐性を与える!」
E・HEROブレイズマン 守備力1800
しかしその黒球も場に降り、膝をついたブレイズマンの前に生えた巨大な手により阻まれる。
「更にブレイズマンの効果でデッキより融合を手札に加える」
「ふぇぇぇん……。失敗しましたぁ。モンスターをセットしてターンエンドですぅ」
「何やってんだ阿呆がっ!」
「おっ怒らないでくださいよぉ……」
黒門 暗次&光焔 ねね LP4000
フィールド 『エルシャドール・ミドラーシュ』(攻撃表示) セットモンスター セット3
手札3(黒門) 手札5(ねね)
目の前でコントのようなやり取りをする二人組、この二人、本当に大丈夫だろうか?敵である此方が不安になってくる。
「俺のターンだな!ドロー!」
漸く自分の出番だと言わんばかりに笑い、自らのデッキから1枚のカードを引き抜く刃。だが引いたカードが悪かったのか、少し眉根を寄せ、「むっ」と唸る。
「悪くはねぇが……ミドラーシュがいるからな」
呟き、頭を掻きながらねねの前で飛行する人形を苛立ちを含んだ瞳で睨み付ける刃。隣で彼の呟きを聞いていたコナミは頭に?マークを浮かべている。あのモンスターは何か強力な効果を持っているのだろうか?と『エルシャドール・ミドラーシュ』の事を知らないコナミとしては俄然興味が湧いてくる。いや、それよりもねねの操る『シャドール』モンスター自体に興味がある。コナミは幼子のように目をキラキラと輝かせる。
「俺は『XX―セイバーボガーナイト』を召喚するぜ!」
XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900
赤い外套を翻し、荒々しさを感じさせる獣の戦士が現れる。その出で立ちは騎士と言うより傭兵と言った方が納得がいく姿をしている。
「ボガーナイトの効果、このカードが召喚に成功した時、手札より星4以下の『X―セイバー』モンスターを特殊召喚出来る!俺は『XX―セイバーフラムナイト』を特殊召喚!」
XX―セイバーフラムナイト 攻撃力1300
ボガーナイトの赤いマントより飛び出したのは美しい金髪の少年戦士。彼は右手の剣をまるで鞭のようにしならせニタリと笑う。
「『エルシャドール・ミドラーシュ』ちゃんがいる限り、お互いに特殊召喚は1ターンに1度しか行えませんよぉ?刀堂さんはシンクロ召喚の使い手。特殊召喚を制限すれば苦しい筈。それにミドラーシュちゃんは効果破壊の耐性を持っています」
先程まで頭を抱えぷるぷると震えていたねねがミドラーシュについて饒舌に語る。何処か誇らしげなのはやはり自分のモンスターだからだろう。あんな内気な少女にこのような一面が有るとは少し驚きである。
「俺まで制限喰らうじゃねぇか!このポンコツ!」
「くっ黒門さんはグラファさんをポンポン出せるじゃないですかぁっ!?」
「俺はソリティアがしてぇんだよ!!」
自分達が有利だと言うのに理不尽な理由で怒り狂う黒門。先程まで誇らしげだったねねが怒りにあてられ、また涙目になって震える。可哀想である。
「はんっ!安心しろよ!すぐに制限を解いてやるぜ!バトルだ!『XX―セイバーボガーナイト』で『エルシャドール・ミドラーシュ』に攻撃!」
「ええっ!?攻撃力はミドラーシュちゃんが上なのにっ!?」
「アクションマジックに決まってんだろ!」
そう言うと同時に2人がフィールドを駆ける。地面に落ちたカードを自らの竹刀で掬い上げ、決闘盤に叩きつける刃。
「その通り!アクションマジック『エクストリーム・ソード』!ボガーナイトの攻撃力を1000上げるぜ!」
XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900→2900
ボガーナイトの剣が巨大化し、少女と竜の人形へと迫る。そこに待ったを掛けたのは黒門だ。彼は1枚のカードを拾い上げ、此方へ見せる。
「甘いんだよ!アクションマジック『エクストリーム・ソード』!此方も1000アップだ!」
黒門の手から刃と同じカードがデュエルディスクのプレートに叩きつけられようとする。してやったりと言わんばかりの獰猛な笑顔。しかし。
「アクションマジック『コスモ・アロー』。相手がドロー以外で魔法カードを手札に加えた時、そのカードを破壊する」
コナミの手より矢が放たれる。高速で飛来する矢は黒門の手の剣を貫き、発動を封じた。
「サンキュー、コナミ!」
黒門の助けも虚しく、ボガーナイトの凶刃が少女と竜の人形を切り裂く。まるで大木が伐採されるような鈍い音が辺りに響き、人形が葬られる。
黒門 暗次&光焔 ねね LP4000→3300
しかし人形の影がズルズルと這い、自らの主の元へと逃げるように動き回る。一体何が――?コナミが其処まで思考し気づく。成程。あのカードには破壊された後の効果もあるのか。と。
「ミドラーシュちゃんの最後の効果。墓地に送られた場合、墓地から『シャドール』魔法、罠カードを手札に加えますぅ。私は『影依融合』を手札に加えます。ごめんねミドラーシュちゃん」
光焔 ねね 手札5→6
申し訳なさそうにミドラーシュの影に謝罪するねね。しかし何が気に入らなかったのか、人形の影はツンッとそっぽを向き、地面へ潜っていった。彼女が何をしたと言うのだろう?相方にイジメられ、モンスターに冷たくされ、またもや涙目になっている。その様子は保護欲を擽られる小動物のようである。
「フラムナイトでセットモンスターを攻撃!」
フラムナイトの刃が蛇のようにしなり黒い球体状となったモンスターを襲う。セットモンスターは『シャドール・ハウンド』その守備力はフラムナイトの攻撃力には及ばない。
「『シャドール・ハウンド』ちゃんの効果で墓地の『シャドール・ビースト』ちゃんを手札に加えます」
「フラムナイトが守備表示のモンスターを破壊した事により、墓地の『XX―セイバーガルセム』を特殊召喚!」
XX―セイバーガルセム 攻撃力1400→2000
「ガルセムでダイレクトアタック!」
「っ!アクションマジック『回避』!」
自身に迫る剣を防ぐねね。正しく危機一髪。ガルセムの攻撃に驚いたのかびくびくと震えている。
「メインフェイズ2『XX―セイバーフォルトロール』を特殊召喚!」
XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400
現れる赤の鎧を纏い大剣を振るう巨人。『X―セイバー』のキーカードであり、このカードを如何に速く出せるかが『X―セイバー』の肝となるだろう。
「そして!レベル4のボガーナイトにレベル3のフラムナイトをチューニング!光差する刃持ち屍の山を踏み越えろ!シンクロ召喚!出でよ!『X―セイバーソウザ』!」
X―セイバーソウザ 攻撃力2500
金髪の少年が光の輪となり、獣の戦士がその中を潜り抜ける。光が晴れ、その先に現れたのは二刀の剣を交差し、人の道を外れたような薄気味悪い笑みを浮かべる壮年の大男。
「更にフォルトロールの効果、墓地のフラムナイトを特殊召喚するぜ!」
巨大な剣を地面に突き刺す大男。次の瞬間、地面が爆発し、まるでマジックショーの如く金髪の少年が舞い戻る。
「レベル6のフォルトロールにレベル3のフラムナイトをチューニング!白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XX―セイバーガトムズ』!」
XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100
再び輪となり、大男を包み込む金髪の少年。大男の体に次々と白銀の鎧が、籠手が、兜が取り付けられ、真紅のマントが伸びていく。そして最後には巨大な剣がひび割れ、中より輝く二又の剣が現れる。二又の剣の柄を力強く握り一振りする剣士。ブオンッと風を斬る音が此方まで聞こえてくる。正しく彼が『X―セイバー』の切り札。刀堂 刃の最強の剣。そう思わせる程に、雄々しく、凛々しい。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ。かかってきやがれ黒門ぉ!」
コナミ&刀堂 刃 LP3700
フィールド 『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示) 『X―セイバーソウザ』(攻撃表示) 『XX―セイバーガルセム』(攻撃表示) 『E・HEROブレイズマン』(守備表示) セット1
Pゾーン『竜脈の魔術師』 『竜穴の魔術師』
手札2(刃) 手札1(コナミ)
刃が前方に構えた右手を空気を引き裂くように振り、黒門に向かって好戦的な笑みを浮かべる。どんな方法を取ってきてもお前には負けないと意志の強い瞳で雄々しく吠える。
「上等だ刀堂ぉ!俺のターン、ドローぉ!!来たぜぇ!『魔轟神レイヴン』召喚!」
魔轟神レイヴン 攻撃力1300→1600
現れたのはカラスのようなマスクに腕に赤黒い羽根を生やした神の名を持つ光の悪魔。
「『魔轟神』!?そんなカード、昔はっ!?」
「ハハハハッ!昔のままだと思うなよぉ!?刃くぅぅん!レイヴンの効果手札の『暗黒界の尖兵ベージ』、『暗黒界の軍神シルバ』を手札から捨て、レイヴンのレベルを2つ上げ、攻撃力をアップする!」
黒門 暗次 手札3→1
魔轟神レイヴン レベル2→4 攻撃力1600→2400
「更にこの瞬間、永続罠発動ぉ!『強制接収』!有り金全部置いてけよぉ!?そして『暗黒界の尖兵ベージ』と『暗黒界の軍神シルバ』の効果により2体を特殊召喚する!」
暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900
暗黒界の軍神シルバ 攻撃力2300→2600
尖兵を引き連れた銀の悪魔が崖より帰還する。その姿は黄金の悪魔程荒々しいものではない。だが抜き身の刀のような鋭さを感じさせる。
「シルバを手札に戻し、墓地のグラファを特殊召喚する!」
暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000
刀は鞘に納められ再び戦場に舞い戻る龍の神。これこそが『暗黒界』の真価。『暗黒界』の切り札であるグラファの戦線維持の容易さ。墓地に有る限り、何度でも、何度でも蘇る悪魔に相応しき力。このカードを何とかしない限り、コナミ達の勝利は難しい。
「そしてレベル4のベージにレベル4のレイヴンをチューニング!シンクロ召喚!出でよ!『魔轟神ヴァルキュルス』!」
魔轟神ヴァルキュルス 攻撃力2900→3200
尖兵をカラスの神が光となって包み込む。尖兵の姿が星となり、天空より黒き光が差し込む。激しい地響きを轟かせ、異界の神が地に降り立つ。漆黒の翼を雄々しく広げ、赤と黒の鎧を纏った悪魔が不気味に赤の瞳を輝かせた。
「……やっぱりシンクロか……!」
「おうよ、昔は確かに只の『暗黒界』だったが今は『魔轟神』を取り入れたんだ。昔のままだと嘗めてたら痛い目見るぜぇ?」
まるで新しい玩具を自慢するかの如く自身の神を誇る黒門。
「さぁて後はテメェの手札掻っ払うかぁ!罠発動!『光の招集』、手札を全て捨て、墓地の光属性モンスターを捨てた数だけ手札に加える!俺が捨てたのは1枚、墓地のレイヴンを手札に加える!だが狙いは其処じゃねぇ!『強制接収』の効果により、テメェの手札も1枚捨てられる!ほらほらジャンプしてみろよぉ!」
「チッ!調子に乗りやがって!」
刀堂 刃 手札2→1
「まぁだまだ!言ったよなぁ!?有り金全部ってよぉ!?『暗黒界の門』の効果、墓地のシルバを除外し、手札のレイヴンを捨てドロー!さぁテメェも捨てようぜぇ?平等じゃなきゃなぁ?刀堂ぉ?」
口を歪め、目を細くして、此方を嘲笑う黒門。最悪だ。このコンボのせいで相手は容易に展開し、此方は手札をボロボロにさせられる。このままではと刃は冷や汗を垂らす。
「ふざけやがって…!この俺がハンデスさせられるなんてな……」
刀堂 刃 手札1→0
ついに刃の手札が0となる。手札とは可能性。しかしその可能性が全て奪われた。このままでは刃のモンスターが破壊され、次のターン、自分の逆転が難しくなるだろう。だがこんな時にふと、ある事が気になったコナミは黒門に話し掛ける。
「黒門……と言ったな」
「ああ!?何だテメェ!?今いいとこだろうが!」
「何故其処まで刀堂 刃を恨む」
そう、黒門は刃に対して並々ならぬ恨みを抱いている。裏切り者。そこまで言う理由はどこにあるのか、と気になったのだ。
「……いいぜ。教えてやるよ。元々この道場は俺達3人だけだった。俺と光焔、そして刀堂のな」
どうせ此方が勝つのだ。その位教えてやろうと、黒門は語り始める。何故、刃を恨むのか、何故仲間だった者を拒むのか。その理由を。その怒りを。
「俺達は何時も一緒だった。道場でも学校でも、笑って泣いて、苦しい時も悲しい時も楽しい時も嬉しい時も、この道場で何度もデュエルした。勝っても負けても楽しくて……」
目を細め、昔の思い出を懐かしむように、いや、実際に懐かしんでいるのだろう。思い出を語る黒門の瞳は先程とは打って変わって、柔らかく、優しげだ。
「ある日誓い合った。この3人でこの道場を一番強くしようと、互いに競いあって、最高のタッグを組もうと」
だがそれも束の間。
「だが!刀堂は裏切った!俺達を!俺達の誓いを裏切ったんだ!より強いLDSに目が眩んでなぁ!」
赤の瞳を見開き、歯を剥き出し、怒りを露にする。彼にとってそれ程、共にあり、共に強くなると言う事は大事なのだろう。親友と共に育った場所を一番にする事が夢だったのだろう。
「……オレにはそう思えんな」
そんな彼の叫びをまるで馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに溜め息を吐き、吐き捨てるコナミ。
「……何?テメェに何が分かる!?関係者でもねぇテメェがよぉ!?」
「刀堂 刃が強さに目が眩んだのなら、何故お前を助けようとする?」
「……何を……」
「強さに目が眩んでいるなら、何故力を振るい、暴れるお前を止めようとした。何故お前の事が目に入った?」
「そんなもの――!」
「お前が刀堂 刃を裏切り者と吐き捨てようと刀堂 刃はお前を友達と思っている。蔑まれようが、罵られようが、仲間を助けようとする男が本当に裏切り者なのか?」
そう。どれだけ彼に裏切り者と言われながらも刃は彼を救おうとした。仲間に辛く当たられようともその手を取ろうとした。コナミにはそんな彼が裏切り者だと言われる事が納得できない。信じられないのだ。
「コナミ……」
「オレはこの男を信じる。嘗ての仲間を裏切り者と蔑み、更にパートナーに自らのストレスをぶつけるお前より、そんなお前を仲間と思い、救おうとする男。どちらを信じると言うなら、オレは刃を信じる」
コナミには深い事は分からない。刃とは知り合ったばかりで黒門達とて同じだ。だが刃は言った。協力してくれ、と。敵である自分に頭を下げたのだ。恥を捨てて、自分の友達を助けて欲しいと。多くの者を知るコナミにとって彼は悪人の中には入らない。寧ろその言動は、その研ぎ澄まされた剣のような意思は、絆を何よりも大事にしたデュエリストに似ている。
「『暗黒界の龍神グラファ』は、部下を気にかけ、自らが戦場に立つモンスターだ。どれだけ倒されようが、蘇り、仲間を守ろうとする。強き者だ」
目の前の巨大な悪魔と少年を見比べる。多くのデュエリストにとって自らの切り札は分身も当然。だが目の前の少年はどうだ。
「お前は仲間を信じようとしたか?そのモンスターのようにパートナーを気にかけ、手を取り合おうとしたか?」
「ぐっ…… 」
コナミの真剣な眼差しに呻き、後ずさる黒門。
「光焔 ねね、何故お前は黒門の言いなりになっている?」
「えっ?」
不意にコナミの視線がねねに移る。コナミと黒門の会話に夢中になっていたねねは思わず、間の抜けた声を出してしまう。
「『エルシャドール・ミドラーシュ』……捜し求める者……お前は何かを自分の意思でしようとしたか?お前は人形じゃない。何故黒門の言いなりになる?」
コナミが感じた違和感。それは黒門の事だけではない。あれ程カードを想うねねがミドラーシュだけ明確な拒絶を受けた。それは主に対するメッセージだ。何故、人形 ではないのに、ねねを操る糸はないのに意思を持たないのか。何故、自分の意思を捜そうともしないのか。ミドラーシュは心配していたのだ。主の事を。
「……るせぇ……うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ!訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇ!バトルだ!踊れ刀堂ぉ!死のダンスを!『暗黒界の龍神グラファ』で『X―セイバーソウザ』を攻撃!」
怒りに身を任せるように、駄々を捏ねる子供のように吠え、命を下す黒門。グラファは一瞬主を一瞥した後、夜のような黒き翼を広げ、双剣の戦士へとその牙を突き立てる。
コナミ&刀堂 刃 LP3700→3200
「まだだ!ヴァルキュルスで『XX―セイバーガトムズ』を攻撃!」
武骨な鎧を纏った黒き神が剣を持った白銀の戦士に襲いかかる。地面スレスレな飛行を繰り返し、その野太い剛腕で大地を抉り取っていく。そして白銀の鎧までも。
「罠発動!『幻獣の角』!発動後、獣族、獣戦士族1体の攻撃力を800上げる装備カードとなる!『XX―セイバーガトムズ』に装備!」
XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→3900
「何っ!?」
それは一瞬の出来事。ガトムズの握る二又の剣はその鋭さを増し、1本の光の剣となる。光の太刀は神の剛腕を切り裂き、その強固なる鎧までも貫いた。
黒門 暗次&光焔 ねね LP3300→2600
「『幻獣の角』の効果で1枚ドロー!」
刀堂 刃 手札0→1
「クソッ!カードをセットしてターンエンドだ!!」
黒門 暗次&光焔 ねね LP2600
フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)
『強制接収 』 セット2
手札0(黒門) 手札7(ねね)
上手くいかない。そんな思いが黒門の中でぐるぐると気持ち悪く渦巻く。舌打ちを一つ鳴らし、俺は悪くない『筈だ』と自分に言い聞かせる。自分自身でもどうすれば良いのか分からないのだ。目の前にいる『暗黒界の龍神グラファ』の背を見つめるも彼は何も答えてくれない。
「オレのターン、ドロー」
そんな中、暗い渓谷にコナミの声が響く。
「オレは『召喚僧サモンプリースト』を召喚し、効果により守備表示に」
召喚僧サモンプリースト 守備力1600
「サモンプリーストの効果、手札の『融合』を捨て、デッキより『カメンレオン』を特殊召喚」
カメンレオン 攻撃力1600
魔法使いの老人がその場に現れ、黒き球体を発生させる。中より現れたのはコナミのお気に入りのカードである『カメンレオン』。
「レベル4の『召喚僧サモンプリースト』にレベル4の『カメンレオン』をチューニング。星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」
閃光竜スターダスト 攻撃力2500
『カメンレオン』が光の輪となりサモンプリーストが潜り抜け8つの星となる。星はまるで星座のように並び、その姿を竜へと変える。煌々と美しき星を白き体躯に散りばめた、光輝く星の竜。ある青年が使役した星屑の竜と似た守護の力を持つモンスターが顕現する。
「……迷うならカードを取れ。悩むからこそデュエルに臨め。カードは何時も答えを出してくれる。お前達の想いを全て受け止めてやる」
それは遠くにいる彼の真似。デュエルを通して答えを見つけ出して来た。絆を信じたデュエリストの真似事。自分には過ぎた事かもしれない。彼のように上手くいかないかもしれない。それでもコナミは信じる。
――オレに出来なくとも、隣にはパートナーがいる。奴等の友がいる。何よりデュエルはきっと――オレ達に答えを出してくれる。
何やらSEKKYOO臭くなってしまったかもしれん。自分はデュエリストとモンスターが一体となっているシーンがすごく好きです。遊戯王の面白いところですよね。次回で刃編は終了、遊矢の視点に切り替わってそれが終わり次第番外編に移りたいと思っています。……ところで皆覚えてる?コナミ君、満足ジャケット着たままだよ?