遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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第100話 インチキ効果も良い加減にしやがれ!

「笑顔!」

 

「飯!」

 

「笑顔!」

 

「飯!」

 

コナミ達が鬼柳とデュエルをしている頃、遊矢達は何故か勘違いされてセキュリティに襲われている所を、クロウ・ホーガンと言う男に助けられ、彼が暮らすボロ家で口喧嘩していた。

 

この場にいるのは遊矢、零児、零羅、沢渡、セレナ、クロウに沢渡の子分とクロウを慕う子供達、そして遊矢達が保護した柚子に良く似た少女だ。

 

喧嘩の原因は価値観の違い、遊矢が笑顔が一番大事な物だと言うのに対し、クロウが飯の方が優先されると主張し返したのだ。そこで案外短気な2人はカチンと来てしまったと言う訳である。この様子を見ている零児は呆れて深い溜め息を吐き出す。

 

「よぉし上等だ、こうなったらどっちが本当に大事な物か、デュエルだホウキ頭」

 

「お?言ったなトマト頭、ボッコボコにしてやんよ、やんよぉ!」

 

どちらも幼稚である。特にクロウは大人気ないにも程がある。額にM字を描いたマーカーの側に青筋を浮かべ、メンチを切り合うトマトとホウキ。一触即発、今にも爆発しようとする2人。しかし、そんな2人へと歩み寄る影が1つ。

 

「遊矢、クロウ、めっ」

 

「そうだぞ遊矢、エヴァの言う通りだ!」

 

細身の身体に白いマントを羽織り、フードを被った柚子に似た顔立ち、どこかボーッとした表情が特徴の少女、デッキ以外を持っておらず、名前が不明の為、セレナ命名、エヴァだ。

彼女は幼い子供をあやすように遊矢の額を小突く。

 

「ごめんなクロウ」

 

「早ぇ!お前はそれで良いのか!?」

 

エヴァの「めっ」を受け、遊矢がキリッとした表情を浮かべ見事にセットした掌をリバースする。余りにも早い変わり身だ。流石のクロウも驚愕する。恐るべきはエヴァに秘められた母性、バブみか。柚子に似ている事もあり、遊矢はデレデレとしている。

 

「めっ、だってさ、ウフフ」

 

「ん、良い子」

 

「聞いたかクロウ!ちょっと聞いた!?」

 

「うるせぇっ!女にデレデレしやがって……!」

 

「クロウはモテないもんね」

 

「フランク、ちょっと黙っていてくれ」

 

最早エヴァのバブみの前に牙を抜かれた遊矢。そんな彼の姿を見て、クロウが顔に手を当ててボスッとソファに倒れるように座り、溜め息を吐く。

すると彼が世話を焼く子供から思わぬフレンドリーファイア。これにはクロウもマジ顔になって「やめよう、な?」と諭す。笑顔なのだが目が笑っていない。

 

「ったく、どいつもこいつもだらしねぇな。女だ何だの下らねぇ」

 

「全くッスよ沢渡さん!」

 

「膝が震えてるッスよ沢渡さん!」

 

「目尻に涙が浮かんでるッスよ沢渡さん!」

 

と、ここで口を挟んで来たのは沢渡 シンゴだ。口ではぶつぶつ言っているが、取り巻きの言う通り彼も女っ気が無いのを気にしている。彼の場合、そのプライドの高い性格と残念な所が原因だろうが。

 

「へぇ、話が合うじゃねぇか」

 

「ハッ!どうだ?俺とデュエルでも。シンクロ次元の実力がどれ程か、俺が試してやるよ」

 

鼻を鳴らし、クロウを挑発する沢渡。彼の台詞は本音だが、その裏には零児の指示がある。彼が沢渡へと、恐らく仲間になるだろう、クロウ・ホーガンの実力を量れと指令をかけたのだ。沢渡もデッキ調整を兼ね、それに乗る。

 

「上等だ、俺もお前達の事をまだ信頼した訳じゃねぇ。デュエルで見せてもらうぜ、そこん所を」

 

ニヤリ、クロウが沢渡の挑発に乗り、獰猛な笑みを浮かべ、全身から闘気を放つ。その強者特有の雰囲気を見て、遊矢と零児が目を鋭くする。セレナとSALと言えば気づいてはいるが、そんな事はどうでも良いとばかりにエヴァに膝枕をされて寝息を立てる始末。

強い、数多の激戦を潜り抜けたであろう歴戦の戦士のような佇まいだ。クロウはそのまま立ち上がり、外へと出る。場所を変えると言う事だろう、沢渡もそれに倣い、遊矢と零児、それに続いて零羅、沢渡の子分が後を追う。

 

「さて、準備は良いな?」

 

「俺は何時でも構わねぇぜ」

 

2人がデュエルディスクを構え、光輝くプレートを展開する。LDSの中でも高い実力を誇る沢渡と、未知の強敵、クロウ。この予想もつかない対決に、その場にいる全員が目を離すまいとする。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻は愉快なペンデュラム集団、『魔界劇団』を操るエンタメデュエリスト、沢渡 シンゴだ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、戦術を組み立てる。

 

「俺は『魔界劇団―エキストラ』を召喚!」

 

魔界劇団―エキストラ 攻撃力100

 

まず登場したのは物語を影で支える脇役だ。円盤状の投影装置からハットを被った単眼の悪魔が出現する。脇役ながら劇団を支え、回転させるには必要不可欠のカードと言える。

 

「エキストラをリリースし、効果発動!デッキから『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』をペンデュラムゾーンに設置する!」

 

「ペンデュラム……?」

 

「へっ、お楽しみはこれからだぜ!俺は更に『魔界劇団―デビル・ヒール』をセッティング!これでレベル2から7のモンスターを同時に召喚可能!」

 

沢渡がもう1枚のカードをデュエルディスクにセッチシタ途端、その両端から中心へと向かい、虹色の光が灯り、彼の背後に2本の柱が上り、天空に魔方陣を描き出す。舞台は整った。沢渡は両手を広げ、声高々に叫びを上げる。

 

「ペンデュラム召喚!『魔界劇団―サッシー・ルーキー』!」

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

振り子の軌跡を描き、現れたのは草木のように生い茂った髪型をした生意気そうな悪魔だ。手足をブラブラと垂らし、面倒そうにクロウを睨む。

 

「「「出た!沢渡さんのペンデュラム召喚だ!」」」

 

「フゥー☆」

 

「ペンデュラム……成程、カラクリはフィールドに設置された2枚か。それでレベル2から7のモンスターを同時、複数特殊召喚するって事か。とんだインチキだぜ」

 

冷静に分析し、沢渡の台詞から推理するクロウ。とんでもない推理力、恐らくは数多の闘いで身に付けた観察眼だろう。沢渡を持ち上げる3人を他所に、遊矢と零児がクロウの予測に舌を巻く。

 

「そしてダンディ・バイプレイヤーのペンデュラム効果により、ペンデュラム召喚した時、エクストラデッキのエキストラを回収!」

 

「エクストラデッキ……どう言った原理か分からねぇが、ペンデュラムモンスターはエクストラデッキに送られる訳か」

 

「ご名答過ぎて怖いぜ。種明かしも出来ねぇよ。俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『魔界劇団―サッシー・ルーキー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―デビル・ヒール』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ぶち抜いてやるぜ、覚悟しな!俺は2枚の永続魔法、『黒い旋風』を発動!こいつは俺が『BF』モンスターを通常召喚した時、そのモンスターより低い攻撃力を持つ『BF』をサーチするカードだ!」

 

「専用のモンスターを『ガジェット』化するカード……!」

 

「これだけでも充分に巻き返せるカードだな」

 

クロウのフィールドに黒い羽を逆巻く旋風が吹き荒れる。このカードこそ彼のデッキでキーとなるカード。これがある限り、クロウは『BF』を召喚する度に2枚の手札を稼ぐ事となる。

 

「羽帚ッスよ沢渡さん!」

 

「いやいや『サイクロン』ッスよ沢渡さん!」

 

「ここは『ツイン・ツイスター』ッスよ沢渡さん!」

 

「握ってねぇ」

 

「「「沢渡さぁーん!?」」」

 

横合いから子分3人がそれぞれ助言を出すが、残念な事に今沢渡の手札、フィールドには魔法、罠を破壊するカードは無い。せめて『アブソーブポッド』があればと思うもこれもない。

 

「俺は『BF―蒼炎のシュラ』を召喚!」

 

BF―蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

クロウが畳み掛けるべく召喚したのは『BF』の切り込み役、細身の身体を覆うような黒翼を広げ、長い手足を持った鳥人。『BF』の中でも比較的攻撃力が高いアタッカーだ。

 

「『黒い旋風』の効果で『BF―疾風のゲイル』と『BF―月影のカルート』をサーチ!ゲイル以外の『BF』が自分フィールドに存在する事でゲイルを特殊召喚する!」

 

BF―疾風のゲイル 攻撃力1300

 

サーチから特殊召喚へ。見事に展開に繋げ、フィールドに特殊召喚されたのは黄色い顔に髪のような緑の羽毛を生やし、身体は紫の羽で覆った鳥獣族のチューナーだ。特殊召喚が容易な上、チューナー、そして強力な効果と3拍子揃ったカードであり、クロウもこのカードには信頼を寄せている。

 

「ゲイルの効果でサッシー・ルーキーの攻守を半分にする!」

 

「あぁん!?」

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700→850

 

この戦闘補助こそがゲイルの強み。しかもこの効果は永続的に続くのだ。これならば守備表示で出せば良かったかと沢渡が眉根を寄せて舌打ちを鳴らす。

 

「バトルだ!シュラでサッシー・ルーキーを攻撃!」

 

「サッシー・ルーキーは1ターンに1度破壊されねぇ!」

 

「だがダメージは受けてもらうぜ!」

 

沢渡 シンゴ LP4000→3050

 

シュラがサッシー・ルーキーに向かい、2つ名の由来であろう蒼い炎を発射し、サッシー・ルーキーが何とかそれを防ぐ。微量だが、見過ごせないダメージだ。チクチクとしたダメージに顔をしかめる。

 

「ゲイルで追撃!」

 

沢渡 シンゴ LP3050→2600

 

「チッ、だがサッシー・ルーキーが破壊された事でデッキから『魔界劇団―ワイルド・ホープ』をリクルート!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 守備力1200

 

サッシー・ルーキーがゲイルの放つ突風でエクストラデッキに送り込まれるものの、最後の意地で自身と肩を並べる劇団のニューホープを呼び出す。ハットを被り、レーザー銃を構えた、どこか気取った印象を持つモンスターだ。

 

「ちょっとは出来るって事か。メインフェイズ2、レベル4のシュラにレベル3のゲイルをチューニング!黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ!シンクロ召喚!『BF―アーマード・ウィング』!」

 

BF―アーマード・ウィング 攻撃力2500

 

ゲイルが3つのリングとなって弾け飛び、シュラを包み込んで閃光と共に姿を変える。シンクロ召喚、動き出したクロウの前に降り立ったのは黒鉄の鎧と翼を広げた、嘴の中の赤いフェイスガードが特徴的な機械染みたモンスターだ。

おおよそ鳥獣族に見えないが、隼の操る『RR』もこんなものだったかと遊矢は観察を続ける。彼にとって見ると言う事はそれだけで成長に繋がるのだ。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

「おっとその前に罠発動!『魔界劇団の楽屋入り』!ペンデュラムゾーンに『魔界劇団』が2枚ある場合、デッキの『魔界劇団』2体をエクストラデッキに送る!俺は『魔界劇団―ビッグ・スター』と『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』を送る!」

 

クロウ・ホーガン LP4000

フィールド『BF―アーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』×2セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!行くぜ!ワイルド・ホープを攻撃表示に変更し、ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!『魔界劇団―サッシー・ルーキー』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

これが『魔界劇団』の展開力、次々と団員が登場し、フィールドを盛り上げる。現れたのは先程も登場したサッシー・ルーキーに可愛らしい少女型の悪魔。そして渦巻く赤髪に黒い衣装を纏った『魔界劇団』の大スター、沢渡のエースモンスターだ。

 

「ビッグ・スターの召喚、特殊召喚時、相手は魔法、罠を発動出来ない。更にビッグ・スターの効果により、デッキから『魔界台本「魔王の降臨」』をセットし、発動!自分フィールドの攻撃表示の『魔界劇団』の数までフィールドの表側表示のカードを対象として破壊する!俺は俺のフィールドのダンディ・バイプレイヤー、お前のフィールドのアーマード・ウィング、『黒い旋風』2枚を破壊する!」

 

「インチキ効果も良い加減にしやがれ!」

 

そしてこのカードこそ『魔界劇団』において切り札足り得る魔法カード。相手フィールドを蹂躙し、破壊し尽くす。しかもレベル7以上の『魔界劇団』がいればチェーンも出来ない為、ペンデュラムの展開力を合わせれば一気に止めまで持ち込める。

ビッグ・スターが台本を広げ、紫色の屈強な肉体を誇る魔王に扮し、赤い熱波を放ってクロウのカードを焼き尽くす。吹き荒れる黒煙を受け、クロウが顔をしかめる。

 

「チッ――!」

 

「『魔界劇団―エキストラ』を召喚!」

 

魔界劇団―エキストラ 攻撃力100

 

「そしてワイルド・ホープの効果でモンスターゾーンの『魔界劇団』の種類×100攻撃力をアップする!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→2100

 

「エキストラをリリースし、『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』をセッテイング!さぁ、バトルとしゃれこもうぜ!プリティ・ヒロインでダイレクトアタック!」

 

「させっかよぉ!永続罠、『リビングデッドの呼び声』!墓地のアーマード・ウィングを蘇生!」

 

BF―アーマード・ウィング 攻撃力2500

 

「チッ、ならビッグ・スターで攻撃!」

 

「相撃ち狙いか?なら残念だったな!アーマード・ウィングは戦闘で破壊されず、自分への戦闘ダメージは0になる!」

 

「うそぉん!?」

 

ビッグ・スターで相撃ちに持ち込み、残るモンスターで大ダメージを与えようとしたのだろうが、残念な事にアーマード・ウィングには戦闘破壊耐性がある。よって失われるのはビッグ・スターのみ。唯一の救いはビッグ・スターがペンデュラムモンスターな点か。

 

「くっ、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP2600

フィールド『魔界劇団―ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔界劇団―サッシー・ルーキー』(攻撃表示)『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』『魔界劇団―デビル・ヒール』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺は『BF―極北のブリザード』を召喚!」

 

BF―極北のブリザード 攻撃力1300

 

クロウのターンに移り、彼が召喚したのは『BF』と言うには程遠い、白い羽毛を持つ嘴の広いチューナーモンスターだ。

 

「ブリザードの召喚時、墓地のレベル4以下の『BF』、シュラを守備表示で特殊召喚する!」

 

BF―蒼炎のシュラ 守備力1200

 

「レベル4のシュラにレベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『BF―星影のノートゥング』!」

 

BF―星影のノートゥング 攻撃力2400

 

シンクロ召喚、舞い上がる黒羽を広げ、現れたのは屈強な肉体を持ち、その右手に美しい波紋が広がる剣を握る鳥人だ。汎用レベル6でもあり、優秀な効果を持っている。

 

「ノートゥングの特殊召喚時、相手に800のダメージを与える!」

 

沢渡 シンゴ LP2600→1800

 

「そして相手モンスター1体を選び、攻守を800ダウン!プリティ・ヒロインを選ぶ!」

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500→700

 

「まだだぜ、ノートゥングがモンスターゾーンに存在する限り、俺は通常召喚に加え1度だけ『BF』を召喚出来る!来い!『BF―蒼炎のシュラ』!」

 

BF―蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

「もう逃げられねぇぜ、やれ!アーマード・ウィング!プリティ・ヒロインに攻撃!ブラック・ハリケーン!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!このターンの攻撃を封じる!」

 

アーマード・ウィングが羽を散らし、旋風を起こして攻撃するも、沢渡が攻撃を丸ごと封じる。これで危機は去ったが、一瞬も気を抜けない。

 

「「「流石ッスよ沢渡さん!」」」

 

「……現状は沢渡の不利かな?」

 

「だろうな、だが彼には魔王の降臨がある。巻き返しは充分可能。しかし……彼が2回目を許してくれるか」

 

「うん、沢渡も実力はあるけどどこか不安定だし」

 

遊矢と零児が顎に手を当てて静かに観察し、分析する。確かにビッグ・スターを出せばまた魔王の降臨がある。だがクロウに2回目が通じるか。それも沢渡はマルチデッカーとしてどんなデッキも使いこなす高い実力を持っているが、不安定なデュエルをする。強いと思ったら弱い。弱いと思ったら強い。だが――零児は知っている。彼が最も強い時は――子分3人に、格好つける時。彼は歓声を受けて強くなるタイプだ。

 

「ふぅん、面白いじゃねぇか。だがテメェの種は全部見た。このままじゃジリ貧になるだけだぜ?メインフェイズ2、リビングデッドを墓地に送り、魔法カード、『マジック・プランター』!2枚ドローだ」

 

クロウ・ホーガン 手札1→3

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP4000

フィールド『BF―星影のノートゥング』(攻撃表示)『BF―蒼炎のシュラ』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、ノートゥングをリリースし、罠発動!『ゴッドバードアタック』!テメェのペンデュラムカードを破壊する!」

 

「んなっ――!?」

 

ノートゥングが天より降る雷を受け、電光の速度で羽ばたき、剣で沢渡のペンデュラムカードを切り裂く。不意打ちの一撃。クロウはペンデュラムの特性を見抜き、ペンデュラム召喚自体を封じに来た。ヤバい、流石の沢渡も驚愕し、その額から汗が伝う。それでも――その顔に浮かぶものは。

 

「何がおかしいんだ?」

 

ニヤリと口角を持ち上げる、不敵な笑み。

 

「ハンッ、エンタメデュエリストは何時だって笑ってピンチを切り抜けるんだよ」

 

「沢渡……!」

 

エンタメデュエリストだから。だからこそピンチで笑い、何とかして見せる。そんな彼に遊矢が目を見開いて息を呑む。何て男だ。これが沢渡 シンゴ。思わず流石と舌を巻いてしまう。負けてられないと笑ってしまう。

 

「まだ手はある!プリティ・ヒロインをリリースし、アドバンス召喚!『光帝クライス』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

フィールドに金色の鎧を纏う皇帝が君臨する。帝モンスター、ペンデュラム召喚でも効果を発揮し、能動的にスケールが割れる為に投入したカードだ。このカードで逆転を狙う。

 

「効果発動!ワイルド・ホープとサッシー・ルーキーを破壊し、2枚ドロー!更にワイルド・ホープの効果で『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』をサーチ!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→4

 

一気に3枚の手札回復、これならばペンデュラムカードを1枚でも引けば巻き返せる。引いたカードの1枚は――ペンデュラムモンスター、思わずニヤリと笑みを浮かべ、沢渡は額に手を当てる。

 

「やっぱ俺、カードに選ばれスギィ!俺は『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』と『魔界劇団―デビル・ヒール』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

瞬間――パリンッ、と沢渡の背後に伸びた光の柱がガラスのようにひび割れ、崩れ落ちる。一瞬の出来事、誰もが目を見開き、ワンテンポ遅れた沢渡がクロウを見る。まさか――。

 

「シュラをリリースし――『ゴッドバードアタック』……!ぶち抜いてやったぜ……!」

 

またしても『ゴッドバードアタック』、それにより沢渡のペンデュラムが崩れ去る。最悪だ。沢渡の手札にはもうペンデュラムカードは無い。召喚権も使い、クライスは自身の効果でバトルに参加出来ない。がら空きのチャンスなのに――踏み出せない。

 

「ぐっ――カードを2枚セットし、ターンエンドだ!上等だぜ……!」

 

沢渡 シンゴ LP1800

フィールド『光帝クライス』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ダーク・バースト』発動!墓地の極北のブリザードを回収し、召喚!」

 

BF―極北のブリザード 攻撃力1300

 

「効果でシュラを蘇生!」

 

BF―蒼炎のシュラ 守備力1200

 

「レベル4のシュラにレベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『BF―星影のノートゥング』!」

 

BF―星影のノートゥング 攻撃力2400

 

「バーンダメージと攻撃力ダウンを食らえ!」

 

沢渡 シンゴ LP1800→1000

 

光帝クライス 攻撃力2400→1600

 

「チッ、ちまちまと……!」

 

「バトル!ノートゥングでクライスへ攻撃!」

 

「罠発動、『ガード・ブロック』!ダメージを0にしてドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→1

 

流石にこれ以上のダメージは不味いと考えたのか、沢渡が罠でダメージを防ぎ、手数を増やす。これでこのターンは防いだ。しかしLPは残り1000、対して相手はノーダメージで4000のまま。何とかしなければこのまま一気にケリをつけられる。

 

「ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP4000

フィールド『BF―星影のノートゥング』(攻撃表示)

手札1

 

「俺のターン、ドロー!これじゃねぇ……!モンスターとカードをセットしてターンエンドだ!」

 

沢渡 シンゴ LP1000

フィールド セットモンスター

セット2

手札0

 

これじゃないと頭を振り払い、残る手札を全てセットする沢渡。このままじゃジリ貧だ。『魔界劇団』はペンデュラムありきの戦術となる為、スケールが崩れればこうなってしまうのは必然。コナミや遊矢、零児のようにペンデュラムの先があればと思うが――直ぐに否定する。

違う、無いものねだり等、ここでは使えない。自分は自分だ。他の者のようになりたいなど、断じて沢渡 シンゴではない。

 

(くっだらねぇ事考えてんじゃねぇーぞ俺!俺様は沢渡 シンゴだ!他の凡人なんぞと違う!むしろ俺のようになりたいと思わせろ!)

 

「ふん、良い顔になって来たじゃねぇーか!俺のターン、ドロー!やれ、ノートゥング!セットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『アブソーブポッド』!リバース効果でセットされた魔法、罠を破壊し、その数だけドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→2

 

ノートゥングの一撃がセットされた『アブソーブポッド』のスイッチを押し、それを引き金として沢渡の手札が回復する。だがまだだ、まだ逆転の一手に届かない。

 

「チッ――!」

 

「良いカードが引けなかったか?カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

クロウ・ホーガン LP4000

フィールド『BF―星影のノートゥング』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

絶体絶命、どうしようも無いピンチが沢渡に降りかかる。不味い、不味い、不味い。ここで引けるか引けないかが運命の別れ道――。

 

「「「沢渡さん、ファイトッスよー!!」」」

 

だが――3人の応援を引き金に――気づいたら、右手が1枚のカードを引き抜いていた――。空中に描かれる真っ赤なアーク。引いたカードは――。

 

「あ――」

 

逆転への一手。

 

「ッ!俺はッ!『魔界劇団―ワイルド・ホープ』と『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

沢渡の背後に光の柱が2本上り、天空に線が結ばれ、巨大な魔方陣が描かれる。破壊はされない。だがこのペンデュラムはスケールが同じ、2同士。

 

「それじゃあ得意のペンデュラムは出来ねぇな」

 

「そいつはどうかな?ワイルド・ホープのペンデュラム効果により、もう一方のスケールを9に変更!」

 

「何――ッ!?」

 

「ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!『魔界劇団―デビル・ヒール』!『魔界劇団―ワイルド・ホープ』!『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー 守備力700

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

一気に展開。沢渡が勝負に出て5体のモンスターを同時にペンデュラム召喚する。劇団の主役、ビッグ・スターに名悪役である紫の巨体に白い仮面、大口を開いたデビル・ヒール。期待の新人、ワイルド・ホープにラッパを吹き鳴らす白髭をたくわえた脇役、ダンディ・バイプレイヤーに可愛らしいプリティ・ヒロイン。劇団が総出でフィールドを盛り上げる。

 

「ビッグ・スターの効果で魔王の降臨をセットし、発動!尤も、破壊出来るのはノートゥングだけだがな。ダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキの『魔界劇団―デビル・ヒール』を特殊召喚!」

 

魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000

 

「ワイルド・ホープの効果発動!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→2100

 

「そして魔法カード、『魔界台本「オープニング・セレモニー」』を発動!LPを2500回復!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!俺の手札とフィールドのカードは2枚!お前のフィールドのカードは8枚!よって6枚のドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札1→7

 

沢渡 シンゴ LP1000→3500

 

「引いたカードの中に『BF―そよ風のブリーズ』!このカードは効果で手札に加えられた場合、特殊召喚する!」

 

BF―そよ風のブリーズ 攻撃力1100

 

現れたのはオレンジと黄色の羽を持ったチューナーモンスターだ。ここでモンスターを特殊召喚し、壁を増やす手腕は凄まじいとしか言えない。だが――沢渡はその上で踏み越える。

 

「プリティ・ヒロインで攻撃!」

 

「手札のカルートを切り、ブリーズの攻撃力を1400アップ!」

 

BF―そよ風のブリーズ 攻撃力1100→2500

 

沢渡 シンゴ LP3500→2500

 

「ぐっ――LPを回復しといて良かったぜ……!プリティ・ヒロインの効果で2枚目のオープニング・セニモニーをサーチ!」

 

気を抜けばこちらのターンだろうとLPを削りに来る。やはり侮れない男だ。念の為、オープニング・セレモニーの効果で回復して良かったと心から思う。

 

「デビル・ヒールで攻撃!」

 

「手札の『BF―蒼天のジェット』を捨て、ブリーズの戦闘破壊を防ぐ!」

 

クロウ・ホーガン LP4000→3500

 

ここに来て初めて――初めて沢渡の刃がクロウの喉元に届く。デビル・ヒールのラリアットがブリーズに炸裂し、ジェットの後押しを受けてブリーズが何とか立ち上がる。

 

「もう1体のデビル・ヒールで攻撃!」

 

そこに再び、ラリアットが炸裂する。

 

クロウ・ホーガン LP3500→3000

 

「ワイルド・ホープで攻撃!」

 

「通す!」

 

クロウ・ホーガン LP3000→900

 

一発逆転、ワイルド・ホープの光線銃の一撃がクロウのLPを削り取る。後一撃、沢渡は全力の気合いを込め、自らのエースカードに指示を出す。

 

「さぁ、終幕だ!ビッグ・スターで攻撃!」

 

「――この瞬間、手札の『BF―熱風のギブリ』を特殊召喚!」

 

BF―熱風のギブリ 守備力1600

 

しかし――その一歩は届かない。現れた6枚の翼を広げ、赤い鶏冠を逆立たせる鳥獣が壁となり、ビッグ・スターの攻撃を阻む。

 

「グッ、だが俺のLPは2500!モンスターも揃った今、負ける気がしねぇ!」

 

それはフラグと言う奴である。

 

「カードをセットしてターンエンドだ!」

 

沢渡 シンゴ LP2500

フィールド『魔界劇団―ビッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団―デビル・ヒール』(攻撃表示)×2『魔界劇団―ワイルド・ホープ』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ワイルド・ホープ』『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』

手札0

 

だが沢渡の言う事も最もだ。彼のLPは今や2500に回復し、フィールドには強力なモンスターが4体、果たしてクロウはこの状況を更に覆す事が可能だと言うのか(フラグ)。

 

「おいおい、この状況で沢渡さんが負ける訳ねぇぜ(フラグ)」

 

「勝ったな、風呂入ってくる(フラグ)」

 

「大人しくサレンダーするんだな(フラグ)」

 

柿本、山部、大伴の3人によって次々と立てられていくフラグの数々、それを横で見る遊矢と零児はおい馬鹿やめろと止めようとするが――時既に遅し。もう逆転のフラグはビンビンである。

 

「認めてやるよ、お前は強いし、悪い奴でもねぇ。だが、相手が悪かっただけだ!俺のターン、ドロー!」

 

引き抜かれる逆転の一手――。この純白のアークが沢渡の運命を別つ。

 

「魔法カード、『手札抹殺』、手札を入れ替える!うし、永続魔法『黒い旋風』を発動!カルートを召喚!」

 

BF―月影のカルート 攻撃力1400

 

「旋風の効果でゲイルをサーチし、特殊召喚!」

 

BF―疾風のゲイル 攻撃力1300

 

「カルートを手札に戻し、墓地の『BF―精鋭のゼピュロス』を特殊召喚し、俺は400のダメージを受ける!」

 

BF―精鋭のゼピュロス 攻撃力1600

 

クロウ・ホーガン LP900→500

 

現れたのは青い鶏冠に嘴を帽子のように伸ばした人型の『BF』モンスター。デュエル中1度しか発動出来ないものの、実に優秀だ。

 

「ゲイルの効果でワイルド・ホープの攻守半減!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→800

 

「レベル4のゼピュロスにレベル3のゲイルをチューニング!シンクロ召喚!『BF―アーマード・ウィング』!」

 

BF―アーマード・ウィング 攻撃力2500

 

天空に昇る黒い羽、旋風を巻き上げ、再びフィールドに登場するアーマード・ウィング。このモンスターが、このデュエルに決着をつける。

 

「ッ!だがそいつじゃ俺のLPを――ん?待て、カルートがあるじゃねぇか!」

 

「その通り!さぁ、アーマード・ウィング!ワイルド・ホープに攻撃!この瞬間、カルートを切る!」

 

BF―アーマード・ウィング 攻撃力2500→3900

 

ああ悲しいかな、沢渡 シンゴ。1度はクロウを追いつめたにも関わらず、漆黒の閃光を受け、ギャグ漫画のように吹き飛ばされる。

 

沢渡 シンゴ LP2500→0

 

勝者、クロウ・ホーガン。しかし――遊矢達は違和感を覚える。確かにクロウは強い。

だが――思っていた彼の実力には、何故か物足りなさがあった。

 

 

 

 

 

 

 




今回は沢渡さんとクロウの絆を深める回。まぁ、この作品でこの2人がタッグを組む事は恐らく無いでしょうが。
因みにクロウのデッキについては投入している『BF』がある程度限定されています。理由は追々分かっていくかと。

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