遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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一週間って早い(小並感)。


第98話 最高のSatisfactionを貴方に

治安維持局のビルがお面ホイーラーのD-ホイールに突撃された。それはもうシティを揺るがす程の大事件には……ならなかった。街の住人はロジェの無事を知ると共に何だ何時もの事か、と平和に過ごす。彼等はお面ホイーラーの奇行に慣れているのだろう。それもどうかと思うが。

 

そしてこの事件はコナミの耳にも入って来たが――意外な事に、彼は特に何もしなかった。

気になりはするが――彼とは遠くない内に再戦すると、デュエリストの勘が告げている。今は稼ぎ、仲間を探す事が先決だ。

今日も昨日のようにユートと共に公開デュエルをする。だが変わっている事が1つ、それは彼等の傍に、仲間となったジルがいる事だ。

 

「うむ、今日も良いデュエル日和で結構。さぁ、ナッシュ殿、ダニエル殿、共にデュエルに励もうぞ!」

 

「あ、ああ……協力してくれるのは良いんだが……暑苦しいなぁ」

 

グッ、と力強い握り拳を作り、2人へと爽やかな笑みを向けるジル。今日も今日とてピッカピカの黄金鎧に身を包んでおり、何とも眩しい。下心なく、善意で接してくれるのは分かるが、それにしてもムサッ苦しい男である。

 

「フ、なぁに私としても修行になる。ナッシュ殿、ダニエル殿のデュエルを見て研鑽するのだ!」

 

「おおもう……」

 

良い奴、良い奴なのだが面倒臭い。それがユートから見たジルの評価だった。因みに稼ぎはコナミ達へと渡している為、本当に彼の人の良さが伺い知れると言うものだ。

兎に角、一応これで当初の目的の1つであった仲間集めも成功……なのだろうか?清廉潔白の騎士道精神の塊のような彼の事だ。アカデミアの事を告げれば許しまじと協力してくれるだろう。

 

「ん……?――ッ!?」

 

と、そんな和気あいあいとした時だった。コナミがある一点に視線を運ぶと同時に驚愕し、身体を弾くように勢い良く立ち上がり、走り出したのは。

 

「お、おいコ、ダニエル!?」

 

「む、ただ事では無い様子、追うぞ、ナッシュ殿!」

 

最近では落ち着いているコナミがこうまで焦るのはただ事では無い。ユートもジルもそれを察したのだろう。狭き路地裏へと入っていくコナミを追う為、2人も駆ける。一体何がコナミをそうさせるのか、ユートは彼の背を追いかけながら言葉を投げ掛ける。

 

「おい、何があった!ダニエル!」

 

「蟹がいた!」

 

――蟹?いきなりの訳の分からぬ、要領を得ない返答を聞き、ユートとジルが顔を見合せ首を傾げる。こんな路地裏に蟹。確かに珍しいが、だからと言ってここまで彼が焦るだろうか。

コナミとしては返事をするのも面倒で台詞を短くする為、こんな訳の分からぬ答えとなっているのだが。

 

「――ッ、何――!?」

 

と、そこで――どう言う訳か、行き止まりとなってしまう。コナミの言う、蟹の姿もそこには無い。まさか幻覚を見たと言うのか。

いや、あれは確かに。と考え込むコナミに漸く2人が追い付き、その肩を掴む。

 

「おいダニエル……何も無いじゃないか」

 

そんな時だった。周囲のビルから彼等の背後に、ぞろぞろとガラの悪い男達が集まり、下卑た笑みを3人に向けて来たのは。

 

「ッ!こいつ等は……!?」

 

「へへへっ、まさかそっちからこんな所に来てくれるとは……手間が省けたぜ」

 

「チ、オレが軽率過ぎたか……」

 

「お前達がタンマリ金を持ってんのは分かってんだ。おら、金と、そこの男はその高そうな鎧を置いていきな」

 

「ふん、不快な者共だ。例え私がどれだけ汚されようと、心と鎧は屈しない!」

 

コナミが自らの軽率な行動を呪い、目の前の男達を睨む。大方コナミ達の持った金を奪おうと考えたデュエルギャングだろう。ジルがレ○プ寸前の女騎士のような台詞をほざく中、コナミとユートは男達の数と技量を量る。

実力が高そうな奴も見えない。数も3人ならば相手にならない程度だ。これならば特に苦戦もせずに切り抜けられるだろう。3人がデュエルディスクを構え、応戦しようとした時――そこに、どこか懐かしい音色が響き渡る。

 

「――!こ、これはまさか……!」

 

「間違いねぇ!奴が、いや奴等が来た!」

 

「あり得ねぇ、何だってこんな時に――ハーモニカの音色が!」

 

そう――響き渡る旋律は、ハーモニカのもの。それを耳に入れたギャング達はざわざわと騒ぎ立て、その表情を見る見る内に恐怖に染まったものに変えていく。

ユートとジルが何が起こっているのかと訝しむ中――コナミだけはこの音色の意味を理解する。そして男達が振り返った視線の先に――吹き荒ぶ砂煙の中を歩く、2つの影。

 

「あ、ああ……!」

 

砂煙が晴れ、徐々にその影が明らかとなっていく度に男達の顔色が青くなっていく。それ程までに、あの影は彼等にとって恐ろしいものなのか、そして――2つの影が男達の前で立ち止まる。

 

1つはヘルメットとゴーグルを装着し、首にスカーフを巻いた小柄な少年、そしてもう1つは――ユートとジルは彼の溢れ出る闘気に目を見開く。

気だるげな眼に無造作に伸ばされた青白い髪、目の下から顎まで走る黄色いマーカー、黒いジャケットを風に靡かせた彼は口にしていたハーモニカを放し、その鋭い目付きでギャングを睨む。

 

「チームサティスファクション……!」

 

「伊集院 セクト……そして、鬼柳 京介……!」

 

小柄な少年の名がセクト、そして長髪の男の方が鬼柳と言うらしい。今ここにいるのはリーダーである鬼柳とセクトだけだが、彼等はこのシティでもデュエルギャングも恐れる、チームサティスファクションなのだ。

 

「おいおい3人を相手に随分な数だなぁオイ!情けなくねぇのか!なぁ、アニキ!」

 

セクトと呼ばれた少年が小柄な身体に反して勝ち気な言葉を男達に放ち、鬼柳をアニキと呼ぶ。どうやら2人は親分子分の間柄らしい。

鬼柳はふん、と鼻を鳴らした後、獣のような獰猛な笑みを浮かべ、腰から一丁の拳銃を取り出す。

 

「って銃……!?」

 

「いや、あれは――デュエルディスクだ」

 

突然鬼柳が銃を取り出した事でユートが動揺するも、直ぐ様コナミが補足する。確かに本来銃弾を装填する弾倉にはデッキが設置されている。成程、この銃がデュエルディスクなら、弾丸はカードと言う事か。

鬼柳は銃形態のデュエルディスクの銃口を天へと向け、ニヤリと笑う。

 

「どうだって良い……問題はこいつ等が俺を満足させてくれるかどうかだ……!」

 

瞬間、鬼柳が引き金を引き、銃声が轟き響き渡る。銃はその姿を変形させてソリッドビジョンで形成された銃弾型のベルトが彼の腕に巻き付き、光のプレートが浮かび上がる。

臨戦体勢――まるで野生の虎と対峙しているかのような感覚にギャング達が思わずデュエルディスクを構える。

 

「デュエッ!」

 

鬼柳の勢いの良い掛け声と共に――デュエルが始まった――。

 

――――――

 

「あ、あり得なぁい……!」

 

バタリ、と最後の1人が倒れ伏す。あれから数十分後――ここに立っているのは5人だけとなった。無論その5人はコナミとユート、ジルに鬼柳、セクトだ。

結果としてはコナミ達の圧倒的勝利。特に鬼柳が凄まじい勢いでギャングをバッタバッタとなぎ倒していったのだ。尤も、彼の戦術はユートにとってハラハラさせられるものだったが。

 

「こんなんじゃ満足できねぇぜ……」

 

鬼柳が溜め息を吐き出し、不満足そうに顔を俯かせる。呆れた男だ。これだけデュエルを繰り返し、満足していないとは。彼の実力の高さが分かる。

すると彼はコナミへと視線を移し、コナミの帽子の奥に隠れた視線とぶつかり合う。

 

「……へぇ……」

 

「……」

 

「ア、アニキ……?あれコナミじゃ……」

 

「おいダニエル……?」

 

合図はそれだけで充分だった。心配そうに覗き込むセクトとユートを他所に、向かい合い、デュエルディスクを構える2人。まさか――と思った時にはもう遅い。

目と目が合えばデュエル。それが訓練されたデュエリストの常識である。

 

「「デュエッ!!」」

 

満足式の掛け声と共に――満足を求める2人のデュエルが開始された――。先攻は鬼柳。このシンクロ次元でもトップクラスの実力を誇るだろう彼との闘い、苦戦は必至となる筈だ。だがコナミとて負けるつもりは無い。実力は劣っているだろうが、これから起こるであろう激戦の為、彼に勝利して殻を破る。

 

「満足させてくれよ……?俺のターン、魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨て、その分ドロー!カードを3枚セット、墓地の『ヘルウェイ・パトロール』を除外し、手札の『インフェルニティ・ネクロマンサー』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

鬼柳が切り込み役として選んだのは髑髏のような頭から緑色の髪を伸ばし、ローブを纏った死霊使い。『インフェルニティ』では蘇生役を担うモンスターだ。そしてこれで――鬼柳の手札は0、満足へと入った。

 

「アニキ、本気だ……!」

 

ハンドレス、手札0と言う不安定なこの状況こそが、鬼柳のデッキ、『インフェルニティ』が最大限に力を発揮する。まるで彼の生き様を示しているかのような戦術。しかし、これは決して運任せでは無い。

 

「ネクロマンサーの効果により、墓地の『インフェルニティ・デーモン』を蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

お次は『インフェルニティ』のキーカード。2本の捻れた角を伸ばした悪魔のモンスターだ。

 

「『デーモン』の効果!手札0の状態でこいつが特殊召喚した事でデッキの『インフェルニティ・ミラージュ』をサーチし、召喚!」

 

インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0

 

更に展開、次はどこかの民族の被り物のような頭部にローブを纏ったモンスターだ。このモンスターもまた、手札0で強力な効果を発揮する。

 

「ミラージュをリリースし、墓地の『インフェルニティ・ビートル』と『インフェルニティ・ビショップ』蘇生!」

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

インフェルニティ・ビショップ 守備力2000

 

一気に2体の蘇生。今度は黒いヘラクレスオオカブトを模した昆虫族と本を手にした男だ。

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』にレベル2のビートルをチューニング!破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

シンクロ召喚。ビートルがその身体を弾き飛ばし、ライトグリーンのリングとなって『デーモン』とネクロマンサーを包み込み、閃光が貫く。現れたのは彼が扱う満足龍の一柱。

白鎧と青と体躯を唸られた三つ首の竜だ。世界をも凍結させてしまう圧倒的なエネルギーを放ち、地面がピキピキと凍っていく。

 

「トリシューラのシンクロ召喚時、相手の手札、フィールド、墓地からカードを1枚ずつ除外する。尤も、フィールドには無いが、お前の墓地の『光の護封霊剣』と手札のカードを除外する!」

 

「チッ――!」

 

「そしてリバースカード、オープン!魔法カード、『シンクロキャンセル』!トリシューラをエクストラデッキに戻し、シンクロ召喚に使用したモンスターをフィールドに戻す!」

 

「何ッ!?」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

ここでまさかのカードが発動され、鬼柳のフィールドに再び素材が蘇る。速攻魔法では無いが、シンクロ版、『融合解除』と言えるカードだ。この状況でのこのカードは非常に不味い。

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティガン』サーチ、セット!そしてレベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』にレベル2のビートルをチューニング!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

「墓地の『スキル・プリズナー』と手札を除外!更に2枚目の『シンクロキャンセル』発動!」

 

「ふざけんな!」

 

更に『シンクロキャンセル』、驚愕の戦術に思わずコナミがイラッとして叫ぶ。折角『手札抹殺』で送られたカードも見る見る内に除外されていく。

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティ・リベンジャー』をサーチし、リバースカードオープン!『インフェルニティガン』!リベンジャーを捨て、ネクロマンサーで蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル4のビショップとレベル4の『デーモン』にレベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

3度フィールドで咆哮する氷龍。制限カードである筈なのに何故3度もシンクロ召喚されているのだろうか。

 

「墓地の『ギャラクシー・サイクロン』と手札除外!ガンを墓地に送り、『インフェルニティ・リベンジャー』と『インフェルニティ・デーモン』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

更に展開、現れたのは『デーモン』とテンガロンハットと2丁拳銃を構えた小さなガンマン人形だ。

 

「デーモンの効果で『インフェルニティバリア』サーチ、セット!レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』にレベル1のリベンジャーをチューニング!漆黒の張下りし時、冥府の扉は開かれる。舞い降りろ闇よ!シンクロ召喚!出でよ、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

漸くトリシューラ以外のシンクロモンスターの登場。漆黒の体躯にその名の通り百の眼を刻んだ龍だ。不気味な外見に加え、攻撃力3000、しかしこのモンスターの恐るべき所はその効果にある。

 

「ワンハンドレッドの効果で墓地のミラージュを除外し、名前と効果をコピー!リリースし、墓地の『デーモン』とネクロマンサー蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で2枚目のバリアをサーチ、セット!ネクロマンサーの効果でリベンジャー蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』にレベル1のリベンジャーをチューニング!地獄と天国の間……煉獄よりその姿を現せ、シンクロ召喚!『煉獄龍オーガ・ドラグーン』!!」

 

煉獄龍オーガ・ドラグーン 攻撃力3000

 

フィールドに3体目の満足龍が姿を見せる。赤黒い鱗を持つ、正当派のドラゴンだ。『インフェルニティ』カードでは無いものの、このカードはハンドレス時にその真価を発揮する。

 

「最後に『インフェルニティ・ビートル』をリリースし、2体に分裂!」

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

「ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『煉獄龍オーガ・ドラグーン』(攻撃表示)『氷結界の龍トリシューラ』(攻撃表示)『インフェルニティ・ビートル』(攻撃表示)×2

セット3

手札0

 

長いターンが終わり、漸くコナミのターンになる。が――鬼柳のフィールドには手札0の時、モンスター、魔法、罠の効果を無効にし、破壊するカードが何と3枚もある。正直言ってヤバイ。LDS3人組よりも酷いものを見た。しかし、幸い抜け道はある。コナミはデッキトップに手を置き、勢い良くドローする。

 

「オレのターン、ドロー!良し、オレは『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

コナミが呼び出したのは透明なガラスの頭部から光るカメラアイのサーチライト、両手に備えた大砲と下半身のキャタピラが特徴的なモンスターだ。

 

「『カードガンナー』か……」

 

鬼柳が面倒臭そうに舌打ちを鳴らす。ここでこのモンスターは実に厄介だ。効果にカウンターを打つべきか迷う。

 

「『カードガンナー』の効果!デッキトップの3枚を墓地に送り、送った数×500、攻撃力をアップする!」

 

「カウンター罠、『インフェルニティバリア』!フィールドに『インフェルニティ』モンスターが存在し、手札が0の場合、相手のモンスター、罠、効果の発動を無効にし、破壊!」

 

「だが『カードガンナー』の墓地肥やしはコストだ。そしてこいつが破壊された事でドロー!」

 

ダニエル 手札2→3

 

破壊した事でドローし、コナミの手札が僅かに潤う。

 

「カウンターを打ってくれた事で上手くいった。魔法発動、『ギャラクシー・サイクロン』!セットされた『インフェルニティバリア』を破壊!」

 

「そうはいくか!オーガ・ドラグーンの効果でその効果を無効にし――」

 

「甘い!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、オーガ・ドラグーンの効果を無効!」

 

「何ッ!?」

 

2重に3重に張り巡らせた鬼柳の布陣を見事潜り抜け、コナミの手が冴え渡る。鬼柳が『ブレイクスルー・スキル』を見逃したからこそ出来た突破だ。残りの手札は2枚、全力で鬼柳に対抗する。

 

「カードを1枚セット、魔法カード、『命削りの宝札』を発動、3枚ドロー!」

 

ダニエル 手札0→3

 

「手札を1枚捨て、魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動!デッキから『慧眼の魔術師』と『竜脈の魔術師』をサーチし、セッティング!」

 

コナミのデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、ソリッドビジョンのプレートに虹色の輝きが灯る。同時に彼の背後に2本の光の柱が伸び、中に出現した秤を持った銀髪の『魔術師』と短刀を握った若い『魔術師』が天空に線を結び、美しい魔方陣を描き出す。何とも幻想的で美しい光景だ。そして初めて目にするであろうペンデュラムに鬼柳とセクト、そしてジルがその表情に驚愕を貼りつける。

 

「ほう……満足させてくれそうじゃねぇか……!」

 

「何だこりゃあ……!」

 

「何と……ダニエル殿は何者なのだ……!?」

 

「……俺も知らんが……奴は強いぞ……!」

 

各々コナミの使うペンデュラムカードに驚く中、ユートがニヤリと笑みを深める。一時はどうなるかと思ったが、危機は乗り越えた。このターンは攻撃に移れないが、次のターンからがコナミの本領発揮だ。

 

「竜脈のペンデュラム効果で手札の『貴竜の魔術師』を捨て、オーガ・ドラグーンを破壊!」

 

「チッ――!」

 

更に手を打ち、厄介なオーガ・ドラグーンも撃破する。これでこちらを妨害するカードは全て取り払った。手札も墓地もボロボロにされていたと言うのに、見事とと言う他無いだろう。

コナミもまた、チャンピオンシップでの激闘、暗次の想いを力に変え、着実に成長している。

 

「オレはこれでターンエンドだ」

 

ダニエル LP4000

フィールド

セット1

Pゾーン『慧眼の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札0

 

これでコナミも手札0、鬼柳に対抗して満足状態となった。まだまだ勝負は分からない。見事効果無効を潜り抜けたコナミに対し、鬼柳はニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「やるじゃねぇか……そうで無くちゃ満足出来ねぇ!俺のターン、ドロー!バトルだ!トリシューラでダイレクトアタック!」

 

「させん!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

トリシューラの三つ首へと冷気が集束し、氷の弾丸が形成されて撃ち出される。レベル9にしては少ない数値だが、2700のダメージは放置出来ない。コナミは地面に渦を広げ、中より伸びる光の剣を握り、氷弾を切り裂き防ぐ。

 

「メインフェイズ2、トリシューラをリリースし、『インフェルニティ・デストロイヤー』をアドバンス召喚!」

 

インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300

 

ここで登場したのは破壊者たる魔人のモンスター、手札が0の場合、モンスターの戦闘破壊時に相手のLPを1600削る効果を持っている。とは言えこの状況で使える特徴はレベル6と言うレベル8シンクロへ繋ぐ為のステータスだけだが。

 

「レベル6のデストロイヤーにレベル2のビートルをチューニング!死者と生者、ゼロにて交わりし時、永劫の檻より魔の竜は放たれる!シンクロ召喚!出でよ、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』!!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

黒いスモークが鬼柳のフィールドに巻き起こり、中より鋭い爪が黒煙を切り裂き、身体中より紫電をスパークさせる魔竜が姿を見せる。刃のような角、ギョロギョロと不気味に蠢く複数の眼、計4本の腕に薄い羽と全体的に昆虫を思わせるドラゴンだ。

これこそが最後の満足龍。効果はそれ程強力では無いが、『インフェルニティ』の名を持つだけでこのカードの価値は一気に増す。

 

「ビートルを守備表示にし、ターンエンドだ。さぁ、どう出る?」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ビートル』(守備表示)

セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!慧眼を破壊し、デッキの『竜穴の魔術師』をセッティング!そしてリバースカード、オープン!『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに『妖刀竹光』をサーチする!準備は整った!揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『V・HEROヴァイオン』!」

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

V・HEROヴァイオン 守備力1200

 

振り子の軌跡を描き、フィールドに光の柱が轟音と共に降り立ち、震撼させる。光を粒子として散らし、中から姿を見せたのは衣装に瑠璃の珠を散りばめ、秤を持った銀髪の『魔術師』と頭部がカメラとなった映画泥棒のような『HERO』モンスターだ。

 

「ヴァイオンの召喚、特殊召喚時、デッキの『E・HEROシャドー・ミスト』を墓地に落とし、シャドー・ミストの効果でデッキから『E・HEROエアーマン』サーチ!更にヴァイオンの効果で墓地のシャドー・ミストを除外し、デッキの『置換融合』をサーチ!ターンエンドだ」

 

ダニエル LP4000

フィールド『慧眼の魔術師』(守備表示)『V・HEROヴァイオン』(守備表示)

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札3

 

ここで融合しても『インフェルニティ・デス・ドラゴン』に勝てず、『ホープ』を召喚しても相性が悪い。序盤に手札を削られた事もあり、今は防御に徹するコナミ。しかし――死神はそう簡単に防御を許さない。

 

「おいおい、がっかりさせてくれるなよ、固まってるだけじゃ満足出来ねぇぜ。俺のターン、ドロー!俺は『疫病狼』を召喚!」

 

疫病狼 攻撃力1000

 

現れたのは飢えた黒の狼。赤い瞳を輝かせ、息を荒くしてコナミのフィールドに狙いを定める。

 

「『疫病狼』の効果で攻撃力を倍に!」

 

疫病狼 攻撃力1000→2000

 

「『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の効果発動!手札0の場合、相手モンスター1体を破壊し、その攻撃力分の半分のダメージを与える!慧眼を破壊!インフェルニティ・デス・ブレス!」

 

ダニエル LP4000→3250

 

『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の眼がギョロギョロと蠢いた後、竜はそのアギトに黒雲を集束し、一気に解き放つ。弾丸のように襲いかかるブレスは『慧眼の魔術師』は破裂され、コナミへとダメージを与える。

 

「この効果を使ったターン、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』は攻撃出来ねぇ……が、『疫病狼』は別!ヴァイオンに攻撃!」

 

「チッ――!」

 

「ターンエンドだ。『疫病狼』は自壊する」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ビートル』(守備表示)

セット1

手札0

 

「何て男だ、あの壁を破りダメージを与えるとは……」

 

「へっ、アニキを舐めんじゃねぇ!アニキにかかりゃキングなんて目じゃねぇ!アニキはこのシティ最強のデュエリストなんだ!」

 

「フ、よせやいセクト」

 

コナミが守備表示モンスターで防御を固めたにも関わらず、それを全滅させた上でダメージを与えた鬼柳の手腕にユートが舌を巻く。対するセクトは嬉しそうに兄貴分であるセクトを自慢し、鬼柳はどこか嬉しそうに応える。

シティ最強、成程、キングと言う者が何かは分からないが、確かにその名に相応しいと思える程強いデュエリストだ。事実、この鬼柳はコナミが今まで闘って来た誰よりも強い。

 

「上等だ、そうでなければ満足出来ん」

 

「む……」

 

「オレのターン、ドロー!オレは『E・HEROエアーマン』を召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

相手が強ければ強い程、コナミの魂は燃え上がる。彼がその手から召喚したのは青いボディに背からファンの翼を伸ばした風の『HERO』だ。『HERO』の中でも必須と言えるカードであり、召喚時、サーチ効果を持つカードの代表格と言える。

 

「エアーマンの召喚時、デッキの『E・HEROブレイズマン』をサーチ!装備魔法、『妖刀竹光』をエアーマンに装備!魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

またもペンデュラム召喚。次に現れたのは先程のターンでも召喚した慧眼と炎の鬣を伸ばした『HERO』だ。

 

「慧眼ってのは破壊した筈じゃ……」

 

「ペンデュラム召喚はスケールの間のレベルのモンスターを手札、そしてエクストラデッキからはペンデュラムモンスターを召喚するものだ。そしてフィールドで破壊されたペンデュラムモンスターはエクストラデッキへ送られる」

 

「はぁ!?それってズルじゃん!」

 

ここで疑問を浮かべたセクトにコナミが説明し、セクトが目を剥いて苦言を漏らす。確かにズルと呼ばれても仕方無いものかもしれない。

だが、デュエルディスクが作動している以上、ルール内、それに持てる力を全て出し切らねば鬼柳とは互角に渡り合えない。そう、互角には。全力を出しても、勝てるかは怪しい。

 

「ガタガタ言ってんじゃねぇセクト。良いぜ、面白いじゃねぇか」

 

その証拠に鬼柳本人はそれも自分を満足させてくれるスパイスとしか思っていない。ペンデュラムで精神を揺れると思ったが――これだから自身の腕を、デッキを信頼する強者は困る。

 

「ならもっと面白いものを見せてやろう!ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ、発動!フィールドのブレイズマンとエアーマンで融合!融合召喚!『E・HERO GreatTORNADO』!」

 

E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800

 

融合召喚、更にシンクロ次元の既知の外側の力を使い、コナミは勝負に出る。吹き荒れる風を身に纏い、現れたのは黒いマントを靡かせた嵐の英雄。コナミが多くの召喚の中で最も頻繁に使う召喚だ。

 

「融合召喚……ナッシュ殿、貴公等は一体……?」

 

「……そうだな、これが終われば全て話そう」

 

流石にジルがナッシュ達を怪しく思い目を細め、ユートがそろそろ話す頃かと覚悟を決める。

 

「融合……」

 

「ほう……」

 

対するセクトは何か思い当たるものがあるのか考え込み、鬼柳はニヤリと笑みを深める。

 

「『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』サーチ!TORNADOの融合召喚時、相手モンスターの攻守を半分に!タウンバースト!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000→1500

 

TORNADOが風を弾丸にして撃ち出し、鬼柳のモンスターを弱体化させる。デス・ドラゴンの厄介な所は攻撃力の高さと『インフェルニティ』の名を持つからこその蘇生の容易さだ。

 

「バトル!TORNADOで『インフェルニティ・デス・ドラゴン』へ攻撃!スーパーセル!」

 

「永続罠発動!『スピリット・バリア』!墓地の『インフェルニティ・ビショップ』を除外し、破壊も防ぐ!」

 

TORNADOが自身の周囲に嵐を発生させ、それを1つに束ねて竜の形をした竜巻を作り出し、魔竜に撃ち出す。

 

「慧眼で追撃!」

 

続けて慧眼がその秤で自身の前に小さな魔方陣を描き出し、その中から光の弾丸を撃ち出し、デス・ドラゴンを貫く。しかしデス・ドラゴンも負けじと黒き弾丸を放ち、相撃ちとなる。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ダニエル LP3250

フィールド『E・HERO GreatTORNADO』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札3

 

互いにダメージと言う名の先制パンチを交換し、様子見はもう終わった。コナミのターンが終了し、鬼柳のターンに移る。鬼柳はどう出るか――。

赤い悪魔と死神のデュエルは、更なる加速を見せる。

 

「さぁ、満足させてもらおうか――!」

 

勝利の女神を口説き落とすのは、どちらか。

 




と言う訳でリーダー登場。インフェルニティの回し方の難しさにヒィコラ言った回です。満足民頭おかしい(誉め言葉)。

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