コナミが働きますように リン
コナミが働きますように ツァン
コナミが働きますように ユーゴ
5000兆円欲しい 白コナミ
髪が欲しい 赤馬 零王
時は少しばかり遡る。コナミ達がこのシンクロ次元に到着した頃、遊矢もまたシンクロ次元へと足を踏み入れていた。その傍にいるのは――赤馬 零児の姿。しかも2人きりである。気不味い。
遊矢は淡々と歩く零児にチラリと視線を移し、何とも言えない気分を味わっていた。
そう、遊矢と零児には余り接点が無い。ランサーズのチームワークを磨く特訓でも忙しい彼とは主に事務的に顔を合わせるだけだったのだ。
言うなれば友達かな?それも少し違うか――とあやふやな関係。尤も最大の原因は零児の話しかけるのを躊躇うオーラと性格にあるが。
何せ彼、友達と言える人物がいない。認めたくないが、ぼっちに含まれる男なのだ。
唯一友達っぽい月影も上司と部下の関係。黒咲は多分否定する。それも、「え?友達だっけ?」と最も傷つく形で。最後に沢渡は――分からない。割りと本気で。
兎に角、ここにいるのは真澄んをも越えるエリートぼっち、赤馬 零児なのだ。ユートがいない事もこの気不味さに拍車をかけている。助けてユート。いやコナミのお守りで無理。
「な、なぁ」
「……何だ?」
ギロリ、遊矢が何か話題を、とこの空気に堪え切れず零児に声をかけた途端、鋭き眼光が遊矢を射抜く。怖い。隼とはまた違った怖さだ。
隼が猛禽だとすれば彼は獅子。またはそれを従える悪魔だ。思わず「ひぃっ」と喉から声が漏れる小動物。
しかし彼は零児と正反対に位置するリア充。コミュニケーション能力が高い彼はぼっちの鋭い威圧感を何とか押し退け話しかける。
「あ、あのさ、赤馬って何でアカデミアの事を知っていたんだ?チャンピオンシップの前から知ってるみたいだけど」
おどおどとしながらもしっかりと零児と目を合わせ、聞きたかった事を口にする。そう、どうにもこれが気にかかっていた。何故零児はアカデミアの事を最初から知っていたのだろうと。
「……昔、私が小さな子供だった頃、そう、君の父、榊 遊勝が失踪する前の事だ」
「……」
「私の父もまた、失踪していたのだ」
「……ぇ――」
ふと、声にならない声が漏れる。父の失踪。意外な形での共通点、それは――何かが繋がっていると感じ取ったから。そして――その勘は、的中する。
「母が悲しむ中、私は何とか手掛かりを探そうと父が研究を続けていた地下に足を運び――そこで次元転送装置を発見した」
「……」
遊矢は自然とデュエルディスクに視線を向ける。次元転送装置、今更思い知るがとんでもない代物だ。その雛形がまさか、零児の父が造ったものだったとは。
「私はそれを使い――融合次元、アカデミアに到着した」
「――!」
「そこで見たのは何だと思う?変わり果て、アカデミア総帥、プロフェッサーとなった父、赤馬 零王の姿だ」
絶句。赤の瞳が大きく見開かれ、頭の中が真っ白となる。零児の父が、アカデミアの総帥。そんな馬鹿なと思いながらも――合点がいったと、力強い説得力がある。だがまさか、彼の父があんな非道を行っているとは。遊矢はどんな顔をすれば良いのか分からなくなる。
「だが、この話には続きがある」
「?」
そう、話はここでは終わらない。むしろここからが問題。遊矢も関わって来る事だ。零児は足を止め、遊矢と向き合う。同じく足を止める遊矢。
「スタンダード次元に戻された私は、父を止める為、あるデュエリストへとこの話を持ち出し、協力を申し込んだ。その、デュエリストの名は――」
バクバクと心臓がうるさい位早鐘を打つ。息も出来ない圧迫感と緊張感。まさか、まさかと思考が駆け巡り、ゴクリと唾を呑み込む中――零児は眼鏡をかけ直し、その事実を告げる。
「榊 遊勝。私の父の友であり――君の父だ――」
「――ッ!」
予感は、的中する。全てが遊矢の中で繋がる。数年前の失踪に隠された真実。それが今、遊矢の前で明らかとなる。証人、赤馬 零児の口から。
「彼は私の父と友であったらしく、この件を承諾。そして調整中の次元転送装置を使い、私にも黙って行ってしまった。――すまない」
全ての真実を吐き出し、零児が目を閉じ、スッと頭を下げて謝罪する。突然の事に遊矢としては困惑しかない。だがそれでも、零児は責任は自分にあると頭を上げない。
「君の父が失踪したのも、君の父が臆病者と呼ばれるのも、君が臆病者の息子と呼ばれてしまったのも、全て私の責任だ。謝ろうと許される事では無い。憎んでくれても構わない。だが、どうか君の力を貸してくれ――」
それは、心からの謝罪なのだろう。目の前で初めて見る、赤馬 零児の弱い姿。確かに、彼のせいで全てがああなったのかもしれない。遊矢には、彼に罰を与える権利があるのかもしれない。彼の罪に対して、罰を決める権利が。
ならば――と遊矢は覚悟を決め、彼に歩み出る。
「顔を上げてくれ、赤馬」
「……」
「確かにさ、赤馬が今までこんな事を黙っていたのはムカついたけどさ、これ、父さんも悪いと思うんだよね」
「……は?」
ううむ、と唸りながら返答する遊矢に対し、零児の口から珍しく疑問が飛び出す。いや、これは正確には戸惑いか。何を言っているか分からない。と言う種類のものだ。
しかし遊矢としては――本当に零児だけが悪いとは思えないのだ。
「話を聞く限り、父さんが勝手に次元転送装置使ったみたいだし、俺達にも一切相談無いし、ストロング石島の試合が終わるか、事情を話して中断するかなりあっただろうに……ハァー、なんか昔っからそー言う所あるんだよなー父さん。何か抜けてると言うか、自分本位と言うか……な?」
「いや、な?と言われても」
尤もである。いきなり父について愚痴り出す遊矢に対し、何と返せば良いのか分からない零児。それもそうだろう、殴られても仕方が無いと思っていたのに、当の本人はのほほんとしているのだから。
「私は、君に罰せられなければいけないと――」
「ん、じゃあさ、お互い馬鹿やらかした父親叱りつけて謝らせて仲直りしよーぜ。はい決まり」
「はい決まり……っ!?」
あっけんからんと言い放つ遊矢。その強引な手にぼっちである零児は衝撃を受けて驚愕する。何とも軽い、事を重く受け止めてしまう零児としてはもにょってしまう。
「考え過ぎって言うか、責任感じ過ぎなんだよ赤馬は。元々悪いのはお前の父親みたいなんだからさ、知るかーってならない?」
「い、いやだがな?」
「お前友達いないだろ?」
「ぐっはぁっ!」
ついに飛び出す爆弾発言。零児の重い性格がとうとう面倒臭くなった遊矢がそうなんだろ?と視線を向け、図星をつかれた零児が胸を抑えて倒れ、マフラーが揺れる。
「何時かハゲるぞ」
「やめろ、それだけはやめろ」
実際父がハゲな零児はその言葉にハゲしく反応する。ぼっちでも良いが、ハゲるのだけは彼としては勘弁したい。
「1人で抱え込み過ぎなんだよ。仲間なんだからさ、もっと俺達を頼ってくれ」
「――」
仲間だから。ああそうだ、遊矢と零児は友達と言うには首を傾けざるを得ない。だから、今の彼等の関係は、ランサーズの、共に闘う仲間。零児とした事が――いや、今まで1人で闘って来た零児だからこそ、気づけなかった。
デュエルでは、確かに零児が上だ。だけど――敵わないな、なんて思いながら、零児は差し伸べられた手を受け取る。
「これからも僕とよろしく頼む。遊矢」
「ああ、零児」
手を取り合う2人のデュエリスト。もうそこには、空気の悪さも何も無い。ここにいるのは、共に闘う仲間なのだ。
再び仲間を探し始める遊矢と零児。すると――その視線の先に、フラフラと足取りの危うい人影が現れる。身の丈に合わないブカブカの真っ白なローブに身を包んだ、遊矢より少しだけ背が高い少女。その顔は――。
「柚……子……?」
遊矢の大切な幼馴染みと驚く程似ていた――。
「……?」
「柚子!柚子じゃないか!どうしてこんな所に!?自力で脱出を!?」
思わず足早に駆け寄り、ガシッ、と少女の肩を掴んで捲し立てる遊矢。何だかどこかで見た事がある光景だ。焦りまくる遊矢に対し、少女はどこか掴み所の無い、ボーッとした金色の瞳で遊矢を見つめながら首を傾げている。
「ああ、柚子良かった……大丈夫か?ご飯はちゃんと食べてたか?ちゃんと寝ているのか?」
「……?」
「落ち着け遊矢、恐らく彼女は――」
保護者全開な遊矢を見かね、零児が彼の肩に手を置いたその時、ファサッ、と遊矢が少女の肩をガクガクと揺らした為か、フードが頭から外れる。
すると、そこにあったのは――遊矢に良く似た、ふわりとした緑の髪に、1本のアホ毛。柚子に良く似た顔立ちに、金色の瞳。ローブの下に纏ったのは、ライダースーツ風の衣装。そう、彼女は――。
「柚子じゃなぁい」
柊 柚子ではない。目の前で突きつけられた事実にガクリと膝を落とし、項垂れる遊矢。しかし、零児は柚子のそっくりさんな彼女に驚愕しながらも、やはりと目を鋭くする。一体何故ここにいるのか分からないが、遊矢も言った通り、自力で脱出でもしたのだろうか。恐らく彼女は――。
「君は、瑠璃だな?」
「……?私の、名前、瑠璃?」
黒咲 瑠璃。黒咲 隼の妹であり、柊 柚子やセレナと良く似た顔立ちと聞く少女。今はアカデミアの捕らわれていると聞いたが。そんな事を考える零児を裏腹に、目の前の少女の様子はどこかおかしい。
「?君は瑠璃じゃないのか?」
「……分からない」
「……何?」
問いかける零児に対しても、少女はどこか他人事のように、ボーッとした表情で零児に視線を運び、ポツリと答える。
「私は、誰なの?」
名も知らぬ、柚子と良く似た少女は――記憶を失ってしまっていた――。こうして、恐らくアカデミアから狙われているであろう少女を放って置けず、遊矢と零児は少女を保護し、再び歩み出す。
何とも奇妙な珍道中、遊矢達が沢渡達と合流し、セキュリティの襲撃を受け、鉄砲玉のD-ホイーラーに救われるのは、数十分後の出来事となる――。
――――――
時は戻り、コナミ達が意外とガッポガッポと稼いでいた晩。セキュリティのデュエルチェイサー、227は高架下のおでん屋台で溜め息をついていた。原因は無論、先日のお面ホイーラーとのデュエル。彼とのデュエルともあって、クビは逃れたが――見ず知らずの少年もデュエルに参加していた事で減給されてしまったのだ。飲まずにはいられない。
「あぁークソッ、親父!もう一杯!後はんぺんと卵!」
「おいおい旦那、飲み過ぎだぜ?潰れても知らねぇからな」
「うるせぇっ!飲まずにやってられるかよぉぉぉ……」
店主の注意も聞き入れず、杯をグビッとあおる。所謂やけ酒。ガブリとはんぺんを口に入れる。そんな時だった、屋台の暖簾を潜り、1人の男が227の隣に座ったのは。
白い帽子を目深に被り、同色のジャケットを纏った男だ。彼の来訪に「おっす」と227が手を上げる。実は彼、227の知り合いなのだ。
「親父、大根とちくわを頼む」
「また旦那か、ツァンちゃんかリンちゃんに叱られても知らねーぞ、後良い加減ツケを払っとくれ」
「今日もツケで頼む」
「このニート聞いちゃいねぇ……」
「良いよ親父、この場は俺が払う。その代わり俺の愚痴に付き合えデュエルニート573」
そう、実はこの男、無職なのである。当然金を持ち合わせていない彼に店主は苦い顔をする。まぁ、何だかんだ何時も許してしまうのだが。たまに彼の保護者のような少女が金を払ってくれる時もあるが。
とことんクズ、渾名はキング(笑)とデュエルニート573と言うのがそれを物語っている。今回は飲み友達である227が出すようだ。
「サンキュー227」
「別に良いけどよ……お前DPは?」
「パチで儲けてパックを大人買いよ」
クズである。しかしここ、シンクロ次元ではニートであろうと凄腕のデュエリストならばモテる。いや、ニートで凄腕のデュエリストならば、か。羨ましい限りである。
「お前なぁ……」
「シンジ達が革命だ!って言うからついな」
「知るかよ、誰だよそれ」
ハァ、と溜め息を吐きながら卵を食す227。これでは逆に愚痴を聞いてしまっているではないか。何とか話題を変える為、227は話を切り出す。
「それより俺の愚痴聞けよ。俺さ、公務で違反者2人とタッグデュエルして負けたんだけど、減給されちまったんだよ」
「ほう、酷い奴もいるもんだ」
「そうだろう!?長官には感謝してるけど、あいつら絶対取り締まってやる……!」
「俺も応援しよう、頑張ってシティの平和を守ってくれ」
全く酷い奴がいるものだと互いに頷きながら酒をあおり、大根を口に含む2人。当然227の言っている相手はユーゴとお面ホイーラーの事だ。しかし、その事まで知らないデュエルニートこと白コナミ――何とお面ホイーラーの正体である彼は他人事のように対応する。
世の中には知らない方が良い事もあると言う事か。因みに白コナミはその際対戦した相手が227だった事は知らない。様々な食い違いや勘違いが発生し、このような珍妙な事態になっているのだ。
「そうそう、俺さ、何とか昇進しようとこれに出ようと思うんだ」
話はまた変わり、227が懐をゴソゴソと漁り、1枚の用紙を取り出す。フレンドシップカップと大きな文字が書かれたそれはどうやらデュエル大会の案内のようだ。世話になっている施設で昼間っからゴロゴロしたり好き勝手遊び回る白コナミは初めて目にする。
「そんなものがあったのか、面白そうだな」
「参加する気か?やめとけ、これ負けると即地下送りだぜ?俺はお前と蹴落とし合うなんてしたくねぇよ」
「自分が地下送りになるかもしれんのに参加するのか?」
「だって昇進したいし」
野心家な227は何としても昇進しようとこの大会に出て優勝するつもりらしい。凄まじい昇進へのこだわり、だが白コナミとしても大会がある以上出てみたい。
「受付は治安維持局1階か」
「一応用紙を持っていれば応募でも大丈夫だぜ。ま、この話はここまでだ、親父!もう一杯!」
ここで話を切り上げ、227が更におでんと酒を追加し、白コナミと共に飲み食いし、互いに千鳥足になるまで酒に酔う。
人生とは様々な縁がある。ここで何かが違っていたなら――運命は大きく変わっていたのかもしれない。
――――――
場所は変わって、治安維持局の長官室、そこには長官であるジャン・ミシェル・ロジェがお面ホイーラーの件を何とか処理し、念願の日常アニメリレーを行っていた。
「やはりきんモザは素晴らしい……そうは思わないか?セルゲイ」
その背後には筋骨隆々の大柄な男。短く切り揃えられた銀髪にマーカーだらけの強面、セルゲイ・ヴォルコフは、ロジェが落ちぶれていった者達の溜まり場である地下より吊り上げた強力なデュエリストだ。
元々はとんでもない荒くれ者だったのだが、ショッカー並の改造手術とロジェの英才教育によって忠実な部下となっている。ロジェとしても彼には愛着が沸いており、良好な仲である。
「……俺としてはがっこうぐらしの方が……ん?」
「あれには騙された……日常系だと思えば……ニ○ロプラスめ……!まぁ、あれも面白いが。ん?どうしたセルゲイ」
こうして日常系アニメに語り合う仲である。そんな中――セルゲイがガラス張りの窓の外、星々が輝く空に何かを捉える。キュイッ、とセルゲイが高性能センサーを搭載したカメラアイで空に現れた何かをズームする。
夜空に一際輝く星、流星か何かか。徐々にその輪郭が明らかとなっていく。白い翼の鳥?それとも飛行機?いや、猛スピードでこちらに進んで来るあれは――。
「お面ホイーラー……!」
「セルゲイ、その名を出すのはやめろ」
二又に分かれた先端に、戦闘機のようなシルエット、巨大な翼を広げた異色のD-ホイール。それは雲を切り裂き、猛スピードで――治安維持局のビルに盛大に突っ込んだ。
ガシャァァァァンッとガラスが割れる破壊音、パラパラと散る埃。ロジェの左右真横に伸びる2本の先端、目の前で粉々にされた高画質モニター。もう、何が何だか分からない。
「え?えっ?何何何?何これ意味分かんない」
思わず素面となり、叫ぶのを通り越して一端冷静になろうとするロジェ。現実逃避をしているとも言う。そんな中だった。巨大なD-ホイールより人影が降り立ったのは。
「長官、下がってください。貴方は、俺が守る」
「え?これもしかしてお面ホイーラー?んん?」
未だに混乱するロジェを庇うように前に出てカメラアイで塵埃の中でフラフラと歩む人影を睨むセルゲイ。そして、煙が晴れたそこにいたのは、白い帽子を被り、同色のジャケットを纏った青年。しかしその顔にお面は無く、少し朱が差している。
恐らく彼がお面ホイーラーの正体なのだろう。ジッ、セルゲイが更に分析するとアルコール成分を検出。成程、飲酒運転してここに突撃したと言う事か。
「頭痛い……フラフラする……すんませーん、フレンドシップカップの受付ってここれすかー?」
フラフラと覚束無い千鳥足で歩き、セルゲイの前まで歩み出る。どうやらここが1階と勘違いしているようだ。
「飲酒運転はやめろ、取り敢えず罰金だな」
この場で最も冷静なセルゲイはセキュリティに所属していると言う事もあり、目の前の男を取り締まろうとする。この男もどこかズレている。
「俺金持ってない……」
と、そこで一気に白コナミの顔色が青くなり、その場に苦しそうにして蹲る。一体どうした、セルゲイが心配して覗き込んだその時。
「うっぷ……ヴェロロロロロロ!!」
白コナミがセルゲイに向かい、盛大に吐いた。モザイクがかったものが宙へと投げ出され、ベシャリと虹を描きながらセルゲイの顔へと飛来する。
酷い。地獄のような光景にロジェが言葉を失い、口をパクパクと金魚のように開き、ドMなセルゲイは逆に恍惚とした表情で喜ぶ。酷い絵面だ。
「う、あースッキリした。ん?あれここ1階じゃない。まぁ、良いや。すんません、受付お願いしまーす」
「アホかぁぁぁぁぁっ!!」
漸く酔いが覚めたのか、白コナミがキョロキョロとしながらもロジェに受付を願い、冷静に戻ったロジェがその表情を怒りに染め上げ激昂する。
「セルゲイ!この馬鹿をデュエルで拘束しろ!相手がお面ホイーラーだろうと、貴様なら倒せる筈だ!この際あのデッキも使って良い!全力で叩き潰せ!」
「……了解」
ギラリ、ロジェの指示を受け、セルゲイが眼を赤く煌めかせ、ニヤリと笑う。無論ゲロまみれで。対する白コナミは「お、デュエルか?」等と呑気に呟き、自らのD-ホイールからデュエルディスクを取り外し、左腕に装着する。
そして始まる、お面ホイーラー、白コナミとロジェが手塩にかけて育て上げたセルゲイの因縁の対決――。
「「デュエル!!」」
先攻はセルゲイだ。彼はデッキより5枚のカードを引き抜き、白コナミを睨む。相手はあのお面ホイーラー。高速シンクロを得意とする強力なデュエリストだ。油断せず、全力で行く。
「俺のターン、フィールド魔法、『地縛牢』を発動。このカードが有る限り、モンスターの攻守を変化させる効果は無効となる」
ドロリ、と。厳か――と言う雰囲気を破壊され、見るも無惨となった長官室が亡者の手が伸びる恐ろしいフィールドへと変わる。白コナミも手の形をした牢に閉じ込められ、辺りには霊魂がユラユラとさ迷う。
「『地縛』……?」
「そしてフィールドゾーンにカードが存在する事で、手札の『地縛囚人ストーン・スィーパー』を特殊召喚」
地縛囚人ストーン・スィーパー 攻撃力1600
登場したのは黒い影に青く光る線を走られたイルカを模したモンスター。ヒレの傍には囚人と言うだけあり、枷がついている。まるでナスカの地上絵が立体化したかのような姿だ。
「そして『地縛囚人グランド・キーパー』を召喚」
地縛囚人グランド・キーパー 攻撃力300
次はレベル1のチューナーモンスター。このカードを出したと言う事は、シンクロへと繋げる気か。
「ここで魔法カード、『異界共鳴―シンクロ・フュージョン』を発動!自分フィールドからシンクロ、融合モンスターとなる素材を墓地に送り、シンクロと融合召喚を行う!」
「融合だと……?」
「ククク、我等が持つ特権!平伏せ、お面ホイーラー!2つの召喚を使うデュエリスト、セルゲイの前に!」
シンクロと融合、2つの召喚法を使いこなすデュエリスト。成程、確かにこのシティでは初見殺しで強力なデュエリストだ。このシティのキングだろうと初戦で融合を目にするならば苦戦は必至であろう。が――残念ながらこの男はもう、こんなデュエリストとは闘っている。
もっと言えば、そのデュエリストは、2つどころか4つの召喚法を使ったのだ。面白いとはなるが、驚愕には値しない。
「レベル5のストーン・スィーパーにレベル1のグランド・キーパーをチューニング!大地に取り憑きし妖精よ、その妖しき力で万物を揺るがせ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリン』!」
地縛戒隷ジオグレムリン 攻撃力2000
まずはシンクロ召喚。現れたのは青白い紋様を走らせた悪魔の影。手や足、胴に尾と強力な枷を纏い、左翼に弓矢のような物を負ったずんぐりとしたモンスターだ。
「石に囚われし者よ!地に封じられし者と1つとなりて大地を掴め!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリーナ』!」
地縛戒隷ジオグレムリーナ 攻撃力2000
次はジオグレムリンと対を為すような黄色い紋様の融合モンスター。ジオグレムリンは2本角、このモンスターは1本角、同じく頑丈な拘束を受けた獣のような4本足の悪魔だ。
「狛犬みたいだな」
「カードを1枚セットし、ターンエンド」
セルゲイ・ヴォルコフ LP4000
フィールド『地縛戒隷ジオグレムリン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグレムリーナ』(攻撃表示)
セット1
『地縛牢』
手札0
「俺のターン、ドロー!面白いカードだ。あの時を思い出す。俺は魔法カード、『調律』を発動!」
「カウンター罠、『地縛魔封』ゥ!自分フィールドゾーンにカードが存在する場合、相手の発動した魔法カードの発動と効果を無効にし、破壊!」
「チッ、ならば魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!手札のモンスターを捨て、デッキのレベル1モンスター、『チューニング・サポーター』を特殊召喚!」
チューニング・サポーター 守備力300
現れたのは中華鍋を被り、マフラーを靡かせた小さなモンスターだ。彼が愛用する非チューナーであり、デッキの回転速度を上げる事に貢献している。
「魔法カード、『機械複製術』!『チューニング・サポーター』を選択、デッキから同名モンスター2体を特殊召喚!」
チューニング・サポーター 守備力300×2
「『ハイパー・シンクロン』を召喚」
ハイパー・シンクロン 攻撃力1600
次に現れたのは額に赤い宝石、背にマフラーを伸ばした青いロボットだ。レベル4のチューナー、と言っても使いにくい部類に入るカードだ。
「『チューニング・サポーター』はシンクロ素材にする場合、レベルを2として扱う事も出来る。レベル2の『チューニング・サポーター』2体にレベル4の『ハイパー・シンクロン』をチューニング!集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」
スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500
現れたる白コナミのエースモンスター。風と星屑を纏い、煌々と神々しく輝く、まるで女性的な天使を思わせる美しい白竜。存在はロジェとセルゲイを圧倒し、2人はその美しさに思わず見惚れてしまう。
「美しい……!」
『……官、ロジェ長官、無事ですか!?』
と、ここで外部からの通信がロジェの元に来る。彼の傍の空間にモニターが開き、オペレーターと思わしき女性が心配そうに覗き込んでいる。
「む、ああ、こちらは無事だ。それと丁度良い、セキュリティに通信、このビル周辺に厳戒体制を。マスコミも受け付けさせるな」
『りょ、了解です』
折角白コナミを倒しても逃がしてしまっては意味がない。彼はこの場から逃がすまいとロジェが総力を持って白コナミを拘束しようと画策する。尤も、彼のD-ホイールならばこれも無意味かもしれないが。
「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」
白コナミ 手札1→3
「そして魔法カード、『二重召喚』。俺は『グローアップ・バルブ』を召喚」
グローアップ・バルブ 攻撃力100
お次は植物に目が生えたような不気味なモンスター。レベル1のチューナーの中でかなり有能な1枚だ。これでフィールドには『スターダスト・ドラゴン』とレベル1のチューナーと非チューナー、白コナミは完全に――このターンに終わらせようとしている。
「レベル1の『チューニング・サポーター』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!集いし願いが新たな速度の地平へ誘う、光差す道となれ!シンクロ召喚!希望の力、シンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』!」
フォーミュラ・シンクロン 守備力1500
フィールドに光が走り、それを追うように音をも越えて、F1カーを模したモンスターが現れる。シンクロチューナー、異質な存在だ。
「『フォーミュラ・シンクロン』と『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」
白コナミ 手札1→3
更に手札を回復、これだけ動いているのにも関わらず、手札が3枚、最早手札はいらないが。
シンクロモンスターとシンクロチューナー、これでシンクロの先へと進化出来るが――それはあくまで、D-ホイールに乗っている時だけ。だが――彼は今も昔も、そんな常識を破壊する。
「レベル8の『スターダスト・ドラゴン』にレベル2のシンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!集いし夢の結晶が新たな進化の扉を開く。光差す道となれ!アクセルシンクロ――!」
「消え……た……!?」
瞬間、白コナミの姿がフッ、と溶けるように虚空へ消える。人が消える。そんな馬鹿な――考えるのも束の間、眩い光がフィールドを照らし、1体の竜に乗った白コナミが再び現れ、手の形をした牢を破壊する。
「生来せよ、『シューティング・スター・ドラゴン』!!」
シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300
空気抵抗を無くす為にヘルメットのようになった頭部、戦闘機を思わせる平行な翼。逞しい四肢、全体的にガッシリとした体躯に風と星屑を纏い、『スターダスト・ドラゴン』が進化した白竜が、流星の如く姿を見せる。
その神々しさ、美しさを増した姿を見て、セルゲイが更に恍惚な表情を見せて呟く。
「美しい……!」
ただ一言、その一言が何よりもこの竜を表していた。
「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果でデッキの上から5枚を捲り、このターン、その中にあったチューナーの数まで攻撃権を得る」
「――ハッ、ハハハハハ!馬鹿め!そんな博打、2枚程度が限界、むしろ1枚もなかった方のリスクが高い!」
発動されるアクセルシンクロモンスター、『シューティング・スター・ドラゴン』の効果、その博打とも言える効果にロジェは大笑いする。
そう、こんな効果、チューナーが2枚位がせいぜいだろう。ロジェの言う通り、1枚もなかった方のリスクが大きい。だが――無論この男にそんな常識が通じる訳がない。
「1枚目!チューナーモンスター、『ニトロ・シンクロン』!2枚目!チューナーモンスター、『エフェクト・ヴェーラー』、3枚目!チューナーモンスター、『クイック・シンクロン』!4枚目!チューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン』!5枚目!チューナーモンスター、『ドリル・シンクロン』!」
当然、当然のように、運命を嘲笑うかの如く、5枚全てがチューナー。その圧倒的な豪運に――ロジェも言葉を失い、目を見開く。こんな、こんな馬鹿げた事があって良いのか――。
「5回連続チューナーだと!?そんな、そんなものっ、ただ運が良かっただけではないかぁぁぁぁぁっ!!」
思わず魂の底からの叫びが木霊する。最早それしかなかった。彼は――自身の育てたセルゲイこそがキングをも葬る最強のデュエルマシーンだと思っていた。
だが違う、この男こそ――破滅の、デュエルマシーン。
「スターダスト・ミラージュ――!」
5体になって分裂し、オーロラのような色合いとなる流星。幻想的で美しい光景――だが、セルゲイが最も美しいと思ったのは――目の前に立つ、白い帽子のデュエリスト。
「美しい――!」
セルゲイ・ヴォルコフ LP4000→2700→1400→0
5色の流星が撃ち出され、それに貫かれてセルゲイが恍惚の表情のまま、きりもみ回転で宙を舞い、壁に打ち付けられ、ひびが走って倒れ伏す。終わって見れば1ターンキル――圧倒的な実力を見せつけ、白コナミは勝利した。
「セルゲェェェェェイッ!セルゲイ、大丈夫か!?セルゲイ!?セルゲイ!?」
セルゲイを心配し、思わずロジェが駆け寄り抱き起こす。怪我はしているが、気絶しているだけ。良かった――ホッ、と胸を撫で下ろすのも束の間、ロジェはキッ、と白コナミを睨む。しかしこんな化け物に彼が勝てる筈もない。
どうすれば良い――ロジェが必死に策を練る中、1人の男が現れる。
「――ほう、まさかそちらから来るとはな」
音もなく、その男は文字通り空間を裂いて現れる。白いケープで顔を隠し、腰に剣を差した男――プラシドだ。白コナミも彼の接近には気づけず、驚愕して振り返り、ロジェはおおと助けが来た事に安心する。
「プラシド!良く来てくれた!この男を何とかしてくれ!」
「……プラ/シド……?」
「任せておけ、何、意外と簡単な事だったんだ、なぁ、コナミよ」
「?」
ロジェがプラシドへとすがり付き、プラシドが応える。そう、簡単な事だったのだ。彼を何とかする事事態は。プラシドは白コナミへと向き直り、首を傾げる彼へと話しかける。
「俺達の、仲間になれ」
発せられる、この場の時間をも止める発言。一体何を言っている?ロジェが呆然とする中――白コナミは、ニヤリと笑みを深める。
今、この時――治安維持局長官、ジャン・ミシェル・ロジェは――最強の駒を手にいれた――。
「だが俺はレアだぜ」
結局、白コナミが放ったこの台詞の意味は良く分からなかったが。
コナミ 一応遊勝塾の手伝い、ショップの店番やバイト、趣味のモンスターのフィギュアやNo.プラモ作りで柊家に貢献。こっそり通帳に貯めている。
黒コナミ レジスタンスにて活動。
紫コナミ 教師、一番まとも。
白コナミ 無職
この差よ。