蒼き空の騎空団 作:闇カリおっさん来ない
――月―b日 晴天
今日も今日とて快晴だった。魔物や空賊達なのが厄介なのもいつも通りだったが、たまにはあいつらにも休日と言う物が存在してもいいのではないだろうか。いや、存在してたら多分生きていけないだろうな。俺らも生きていけないし。
というのも、我が騎空団の家計は現在火の車だ。騎空団も人数が六人になった事から大分賑やかになった(というか、居候がうるさい)。悪いことではないが、良いことばかりでもない。食費倍増はもちろんのことだが、新しく入った二人は錬金術師なのが一番の理由だろう。
錬金術師は大きく捉えれば研究者に分類される人種だ。何かと気になる事があると理解できるまで徹底的に調べ尽くす癖があるらしく、二人のうち特にカリオストロが顕著だ。
流石に数百年も眠っていると世界のほとんどが変わったと言っても過言ではないらしく、毎日事あるごとになにか問題を見つけてきては研究に耽る。その研究材料代と研究機器代はもちろん我が騎空団の財布から出ている。
俺からすればふざけるなの一言なのだがウロボロスを突きつけられては反論することさえ命の危機になりえる、当然俺も死ぬより生きたいので怒声を飲み込む。
情けないと言われようと騎空団なんて大体が自分本意に生きるために空に出たような、言い換えれば不良集団だ。だからあそこで逃げの一手を選ぶことは間違ってはいないのだ。そうだ、間違っていない。
そういえば、最近食料の減りが早いような気がする。六人になったとは言えカリオストロの特別製ボディは食料を摂取する必要性はないらしく入団当初から飯はロクに食っていない。だから実質五人分の食料しか減らないはずなのだが、どう見ても六人分減っている。
カリオストロがこっそり食べているのだろうか。明日それとなく尋ねてみようか。
――月―c日 大荒れ
今日は一日中天気が悪かった、雨も降れば雷も鳴っていた。どうしてこういう日に限って俺が見張り担当をしなければならないのか。いや、原因は分かっている。俺の運が極端に悪すぎるのだ。
元々はクムユが今日の見張り番担当だったのだが、あんな小さく華奢な女の子をこんな天気の中に放り出すわけにも行かずネツァとじゃんけんし、負けたのが俺だった。簡単に言えばそうなる、結果だってちゃんとした方法で出されたのだから理解もできる。だが納得できるかと言えばそうでもない。
小さい男とは自分でも思うが、こんな自分とはもう二十年近く付き合ってきている。今更変えることなど出来はしない、出来ることと言えばそれが表に出ないように思っている以上にそれを抑制することだろうか。まぁ出来はしないのだろうけど。
そういえば先日に書いた食料の件、カリオストロに聞いたところ逆に怒られてしまった。そんなことせずとも団員なのだから堂々と食堂で食べるとのこと。
全くもって正論である。
では一体誰が食料を減らしているのだろうか、うちにはそんな一人で二人分を消費するような大食いはいないはずだが。ネツァはちゃんとネツァに合わせて一人分の枠として用意しているからありえない。
もしかして、クムユなのか? いや、だがクムユは小さいし、何よりそれほど運動もしない。消費量はうちの騎空団の中でもトップクラスの少なさのはずだ。
まさか、あの胸の維持費として払われているのでは……?
盛り上がってきた。明日からクムユの観察を始めよう。
――月―d日 晴天
観察と言えど、うちの騎空艇は狭い。あまりに露骨にしているといくらクムユが相手とは言え、すぐにバレてしまうだろう。
そういうことで、まずは姉貴分であるシルヴァからクムユについての話を聞いてみた。具体的には最近のクムユの悩みであるとか、おかしいと思えるところの話である。
しかしこのシルヴァ、やはりと言うべきかシスコンの気があった。クムユの話をしたいと声をかけたところ、直ぐ様眼を輝かせて満面の笑みでクムユの良いところについて語り始めた。
やれ優しい子だ、気を使える子だ、大和撫子に相応しいだのなんだの。まるで話が止まらない。
なんとかその話を後に持ち込めたものの、有力な情報は得られなかった。確かに悩みはあるようだが、それを解決するのはあの子でなければならない。姉貴分というのはそういうものだよ。と話してくれた。
なんとも露骨に話を切られたものだと不満を表に出す前に、シルヴァによるクムユ講座が始まってしまい、丸一日付き合わされた。
今日はもう疲れた。
――月―e日 曇天
昨日に引き続きクムユの観察を行ったが、あまり上手くいっていない。というのも尾行しているとどうしてかいいタイミングで邪魔が入るのだ。
まず朝一番の食事時に食堂から出ていったクムユを追おうとするとネツァが腕相撲で勝負を挑んできた。魔法使い側の俺が一人で前線をはる筋肉に勝てるわけもなく悔しがっていると、いつの間にか帰ってきていたクムユに慰められていた。
次に昼時の食事時に同じように行こうとすると居候がスキンシップと称して抱きついてきたりするのだ、それにネツァまで便乗してくるものだから身動き一つ取れず、いつの間にか帰ってきていたクムユに助けてもらいなんとか俺の尊厳は保たれた。全くここぞとばかりにいきり立つ俺の尊厳にも困ったものだぜ。
夕飯時にも邪魔は入ってきた、誰かと言うとかなり意外ではあるが、邪魔をしてきたのはカリオストロと我らが狙撃主だ。まず狙撃主がいい酒があるんだと俺を酒の席に誘ってきた、これは頻繁にとは言わないが、彼女の気分が向いた日にはよ必ずと言っていいほどのことだから特に思うことはない。恥ずかしいことに俺は酒があまり強くないから、彼女を満足させれているかどうかは微妙ではあるが、団長はそのままでいいんだと微笑みを浮かべて語ってくれた狙撃主の誘いを、誰が無下に出来ようか。
意外なのはここからだった、なんとここ数日研究に没頭していた研究狂いの、あのカリオストロまで便乗してきたのだ。しかも俺には世話になっているからと酌まですると言うのだから驚きだ。
人に媚びるようなことを、研究絡み以外のことでは自分から絶対にしないカリオストロが酌だなんて、絶対に裏があると感じた。が、露骨に嫌がるのも俺の命が危ない。受けようとする俺の言葉を待ったと遮ったのは、さらに意外にもシルヴァであった。
シルヴァの言い分はこうだ。
「これは私たち二人の必要な息抜きであり、明日の仕事の調子にも関わることだ。他人、ましてや入ったばかりの新人が入っては無駄に気を使って息抜きでは無くなってしまうだろう」
なるほど、一理ある。彼女とのこの行為は息抜き以上の意味を持ってはいないが、それでも明日を生き抜くために必要なものであるし、実際気を使わずに語り合うと言うのはかなり気分がいいから翌日の調子にも関わってくるものだろう。
それに対してのカリオストロの反論はこうだ。
「必要な息抜きであることは認めるが、それは俺様を弾く理由にはなり得ていない。新人であるからこそ、腹を割って話すべきなのはいつの時代も変わらないことだ。あんたのその行為は新人と古参の溝を広げ、チームワークを疎かにするお馬鹿なものだ。百歩譲ってあんたの意見が正しいものだとしても、それを口を開いてもいない団長の意思として団員が述べるというのは間違っているんじゃないか」
俺はこれにも一理があると思った。確かに今までは俺たち二人で行ってきたが、俺らはもう輪を広げてしまったのだ。そこに限定的と決めて弾いて閉塞的になるのは、団として生きていく上では間違っているとも言えるだろう。だが同時に、広げていくということは多くのストレスを抱えることに繋がる。それを発散すべき場と行為がこれであるというのに、ここまでそういう場になってしまっては本末転倒とも言える。
だからこそ腹を割って話すべきだとカリオストロは述べる。輪を広げたのなら新人とよく語り、そして互いによく知り、団のためによりよい環境を整える。つまり、新人たちの信頼を勝ち取る場を個人的主張で消してしまっては団として破綻することになるということだろう。
そこで俺は二人にストップをかけ、カリオストロに酌をすることを許可を出して互いに腹を割って話すことにした。
二時間という短い時間の飲み会ではあったが、シルヴァの不機嫌顔を拝め、カリオストロの研究への意欲を知ることが出来たし、そして何より二人の仲が目の前で深まったのを見れた。かなり充実していたのではないだろうか。
さて、程よくお酒も入っているし、今日はゆっくりと眠れそうだ。
そしてこれを書こうとした直前に、クムユの観察を思い出したので明日こそは観察を行おうと思う。団員全員が邪魔をする理由、きっとそれは食料が減っている事件と無関係ではないのだから。
――月―f日 晴天
ついに今日、全ての真実を掴むことができた。食料を一人分ただ飯で食らっていたのは、ペンギンの機械的着ぐるみにつつまれた何かだったのだ。
我が騎空団は小規模ではあるが毎日全員働いていては有象無象関係無しに死んでしまうだろう。そのため拙いものではあるがローテーションを組み、週に三日ほどの休日を設けている。今のところ目立った不満も出ておらず、なんとか上手くいっていると言ったところだ。
今日はたまたま休みがクムユと重なり、しかも他の団員が出払っていると言う邪魔もされずに観察するにはまさにうってつけの日であった。だからなにとなしに彼女の行動を眺めていたのだが、ふと気を緩めた隙にクムユがいなくなっていることに気がついた。自分で言って悲しくなるが、うちの騎空船はかなり小さい。そろそろ増設作業かなにかしないとパンパンになってしまうぐらいには小さい。だから隠れる場所などかなり限られているのだ。
あとはしらみ潰しに気配を殺して探していたら、誰も使っていない倉庫から彼女の話し声が聞こえるではないか。しかも、まるでそこに誰かがいるかのように、友達へ話しかけるようなフランクな口調で。俺は背筋がゾッとした。この騎空船にまさか、幽霊的な何かに取りついているのではないかと。
あとは必死になった俺が手持ち無沙汰で部屋に突入してみれば、そこにペンギンがいたというわけだ。
幽霊じゃなかったのか、と呆けているとクムユが涙目で謝りながら事情を話してくる。
曰く、立ち寄った島の街への道中で倒れているのを一人で発見し、思わず心配となって船へ連れ込んでご飯を食べさせたのは良いものの勝手な行動をしてしまったことに対して中々謝れる勇気を持ち出せなかったらしい。謝らなくては謝らなくてはと思っていたらあれよあれよ他の団員に見つかってしまい、団員達にはクムユが俺に謝罪を切り出せるように、と協力してもらっていたらしい。
その話を聞いたとき、思わずホッとした。思えば何かとクムユがフラりといなくなっていたからある程度は心配に思っていたのだが、そういう事情があっただけで、別段彼女に何かあったわけではないのだ。良かった良かった。
しかしそれとこれとは話は別。無断でどこの馬の骨ともわからない奴を拾ってきただけでなく貴重な食料まで与えただ飯食らいにしてしまったのはいただけない。自分からついてくると言ったからといって、それは当の本人だけで家族が今ごろ心配して捜索願いを出してしまっていたらどうするんだ。と、軽く怒っているとペンギンの着ぐるみが音をたてて震えだす。なんだなんだと思っていたら、ペンギンの首から上が蓋のように開き、なんとびっくり。玉のような金髪美少女が飛び出してきたではありませんか。
「クムユちゃんを怒らないであげて!」
そう言って飛び出してきた彼女に誰だお前はと質問を投げ掛けると、
「あっ、やっぴー☆ ペンギーだよ!」
いや、誰だよ。
結局彼女の登場のせいで空気がぐだぐだとなってしまい、とりあえず彼女にはただ飯の分騎空団で働いてもらうことを約束し、団員No.7として我が騎空団の一員とすることで事件は終結を迎えた。
しかし女性の比率もかなりの物になってしまった。そろそろ男性もスカウトしたいものである、出来れば色々と場所を取らないハーヴィンなんかが狙い目だろう。
これからの出会いに期待して、今日はこれで筆を置こうとおもう。
あなたの最推しハーヴィンはだれ?
筆者の推しはまた再来年の今頃にお教えしましょう。