最後の記憶 (入江 大山)
柴崎くんの提案、というか、全員の意思で散々に分かれた私たち。
私と誠さんはいつも練習に使っていた空き教室にいる。
そう、使っていた…
今日私たちは此処から消える。
辛くて悲しい、未練ばかりの過去を振りきって…ううん、此処で過ごした楽しくて嬉しい思い出も振りきって、此処から旅立つ。
「…誠さん」
「なぁに?」
消えることを考えると寄り添いながら握る手に、思わず力が入る。
「私たちは…どうなるんでしょうか…?」
「どうなるんだろうね…」
「此処から卒業して、本当に生まれ変わることなんて…出来るんですか…?」
「どうなんだろうね…」
つい1歩踏み出すことに怯えて励ましをもらおうとしてしまう私に、しかし誠さんは私が望む言葉を言ってはくれなかった。
誠さんも不安…なのかな…
そりゃそうだよね。誠さんだって、私と同じでどうなるか全く分からない状況なんだから…
「僕はさ…あんまり無責任なことって言いたくないんだ。絶対来世はあるよとか、人間に生まれ変われるよ、とか」
「は、はい…」
「だから、責任を持って言えることしか言えないよ?」
「そう…ですよね」
甘えすぎだってことかな…
「例えば、もし人間に生まれ変われたとしたら、絶対に僕が入江さんのこと見つけるから…とか」
「…え?」
「そうなったら絶対、絶対にもう一回好きになってもらえるように頑張るから…とか、こんな感じに責任を持って言えることしか言えない」
「なんで…ですか?なんでもし生まれ変われたら私を見つけられるんですか?」
「だって、僕が入江さんのことを放っておけるわけがないもん」
ぐいっ
その言葉と同時に繋いでいた手を引っ張られ、誠さんに吸い寄せられる。
「ん…」
そのまま私の唇に誠さんの唇が重なった。
いつもより少し乱暴なその感触は何か踏ん切りをつけるためなのかもと直感で思った。
「約束するから。僕は来世で入江さんにもう一度恋をして、それでもう一度恋人になるって」
「…はい」
「それで…その…結婚もする!それは…此処では出来ないことだから」
「…はい」
「死んでも幽霊になって会いに行くから…」
私と誠さんの目が徐々に潤み始めていく。
きっと、終わりを感じ取っているんだ。
「私、幽霊が苦手なんです」
「う、うん」
「でも、もし来世で大山さんが幽霊だとしても…大山さんだったら…嬉しいです…!もう一度逢えるだけで…!探し出してもらえただけで…!」
もう止められなかった。
潤みは雫に変わって私の目から溢れていく。
がばっと誠さんはそれを隠すように私を胸元に抱き寄せた。
痛いくらいの力が今は心地よかった。
満たされてしまった。
言葉にも行為にも誓いにもその全てに幸せを感じてしまった。
そう、もう全て終わり始めている。
過去形になり始めている。
未来に向かおうとし始めている。
「幸せでした…」
「僕もだよ…」
きっと今、更に腕に力を込めたんだと感じた。
だけどその感触はなかった。
ああ…消えるんだ…
最後に、もう一度約束したい…
「絶対…探し出して下さいね」
口に出した言葉は、届いたのか分からないまま私たちはその世界を後にした。
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ちなみに誠は大山くんの下の名前です(一応ちらっとだけ今までの話で出しています)