蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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かなり久々の投稿になりました。
良ければ読んでやってください。


「私の誓いは重いですから」

期末テストが終わり、いよいよ2学期も終わるという時期に差し掛かった。

 

補講期間となり、成績が極めて悪くない限り授業はなく、ただ部活動のために登校している。

 

そんな補講期間初日。

 

「冬休みの間は部活動なしだから」

 

唐突にそんな宣言がゆりから発せられた。

 

正直耳を疑った。

 

テスト前であろうと、テスト期間であろうと部活動を休ませることをしなかったあのゆりが、まさかたかが冬休みごときで休みにするなんて……

 

しかし、ゆりが休みと言えばそれはもう決定事項。

 

特に誰も何かを言うわけでもなく冬休みは完全オフとなった。

 

ので………

 

「…暇だな」

 

三時間ほどコロコロをしてからふと、そう感じた。

 

いや、よくよく考えてみれば特に汚れてるわけでもない部屋でコロコロをやり始めた段階で気づくべきだった。

 

「ふぅ」

 

ひとまずコロコロを置いて一息つく。

 

なんか、三時間もコロコロしてるのに暇だって気づけないって相当バカっぽいな…

 

いやでも、考えても見てほしい。

 

まだ冬休みが始まって一日目だぞ?そんな短期間でここまで暇になるとは思わないだろ普通。

 

よって俺は悪くない。悪いのは急に休みにしたゆりだ。

 

ていうか、なんでよりにもよってこんなクリスマスイブとかいうリア充の象徴的イベントの時に休みなんだよ!?

 

部活がありゃ気が紛れるってのに、こう暇だと嫌でも虚しくなってくんじゃねえか…

 

じゃあ誰かを誘って遊べばいい話なんだが……

 

ことごとくリア充。

 

悠も日向も大山も藤巻も直井も!こっちから誘えそうなやつは、ことごとくリア充!!

 

他に誘うとしたら…………岩沢……………はダメだろ馬鹿か。

 

………ていうか、アイツ誘ってこねえな。

 

いつもの感じなら、絶対誘ってくるはずなんだけどな…

 

今なら誘われりゃほいほい付いてくくらいには暇だってのになぁ。

 

そんなことを思ってると、スマホが鳴った。

 

「ん?」

 

画面に目を向けると、遊佐からメッセージが入っていた。

 

文面はというと、今日も例年通りうちでパーティーをやりますよね?という旨を、やたらと遠回しに確認するものだった。

 

特に用事はない、どころか暇で暇でしょうがない俺に断る理由もないので了承した。

 

するとものすごい早さで返信が届いた。

 

「アイツも暇なのか…?」

 

そう思いながら再度メッセージに目を通す。

 

要約すると、『パーティーのための買い出しに行くのですが、荷物持ちとして付いてきますか?』というものだった。

 

例によってものすごく婉曲な言い回しだが。

 

まあ荷物持ち扱いは少し癪だが、時間を持て余してる俺にとっては渡りに船な提案なので引き受ける。

 

すると、すぐさま時間と場所の指定が送られてくる。

 

5時に高校の前で集合、という内容を………まあ察してくれ。

 

ていうか家が隣なのに別の場所で待ち合わせる意味とは…?

 

百歩譲ってそれに目をつぶるとしてもだ。

 

現在の時刻は1時。

 

つまり…………

 

「結局しばらく暇かよ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何をするでもなく無為な四時間を過ごし、5分前に約束の場所に訪れた。

 

すると、遊佐は既に校門の前で待っていた。

 

「わりぃ、待たせたか?」

 

「いいえ、今来たところです」

 

そんな、デートか?とでもツッコミたくなるようなベタなやり取りを挟み歩き出す。

 

「買い出しって何を買うつもりなんだ?」

 

「とりあえずチキンですね。それと頼んでおいたケーキも。それ以外は目に留まったものを順次」

 

「そりゃ中々荷物持ちが辛そうだ…」

 

「だから呼んだんです」

 

「分かってるよ……ていうか…」

 

「はい?」

 

会ったときから気になっていたことを口にする。

 

「なんか…えらくめかし込んでるな」

 

普段がオシャレじゃないわけではない。

 

全体的に青を基調としたもので統一してるのも、最近では珍しくない。

 

だがしかし、普段着ないようなヒラヒラしたワンピースを着ていたり、イヤリングやネックレスを着けていて、どことなく気合いの入っているような…

 

「………クリスマスイブですから」

 

「そ、そう…なのか?」

 

クリスマスイブだと気合いいれないとダメなのか……?

 

女子ってのは大変なんだな…

 

「悪いですか?」

 

「め、滅相もありません」

 

無表情ながら有無も言わさぬ迫力に、そう言わざるを得ない。

 

いや、実際悪くないどころか、とても似合っているのだから文句のつけようはないのだが。

 

「それで、感想はないのでしょうか?」

 

「か、感想なぁ……青が好きなのか?」

 

少し考えた結果、出てきたのは感想じゃなく疑問だった。

 

あ、これまたデリカシーないって言われるやつだな…

 

「…好きですよ。私にとって青というのは特別な色ですから」

 

「………そうだったのか?」

 

最近よく身に付けてるから好きなんだろうなーとは思ってたが、まさかそこまでとは…

 

「…はぁ。行きますよ」

 

「え、なんでため息?」

 

「知りません」

 

「えぇ…」

 

本当にコイツの怒るポイントがわからん…

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りを終え、まずはチキンを買いに商店街の精肉店へと向かう。

 

「なんか…変わったな。ここ」

 

俺たちが生まれる前からある商店街。

 

久しく来ていなかったが、最後に来た頃よりも閉じている店が多く、随分寂しくなっている。

 

「近くに大きなデパートやスーパーが出来ましたからね。そちらに人が流れたみたいですよ」

 

遊佐はきっと俺みたいに久しぶりにここに来たわけではないのだろう。

 

ごく普通に、何度も見た、見慣れた光景なのだろう。

 

だけど、最後に来た時の記憶が、まだまだ活気に溢れていた時代のものである俺にとっては、それは少し寂しい景色に見える。

 

「こうやって、色んなものが変わってくんだな」

 

「なんですか今更。ナイーブになってる柴崎さんなんて、糸じゃない糸こんにゃくみたいですよ?」

 

「ああ…だよな…って、いやそれ普通のこんにゃくじゃねえか」

 

「柴崎さんは常にナイーブというメタファーですよ」

 

「メタファーの意味分かってんのか…?」

 

俺も知らないけど。

 

「つーか、ナイーブになってるわけじゃなくてさ、なんていうか町がこうも変わってるのを見ると、俺たちもいつかはこんな風に変わっちまうのかなって思ったていうかさ…」

 

「だからそれがナイーブになってると言うんですよ」

 

そう言われると…反論出来ん。

 

でも、そう思わせるには十分なほど、ここは寂れている。

 

「それに、変わるに決まっているじゃないですか。私たちだっていつまでもこんな風にいられるわけありません」

 

「そりゃ…そうだけどよ」

 

「どちらかに恋人が出来れば、こんな風に二人で買い物に行くことは出来なくなるでしょう」

 

「………あー、確かにな」

 

考えてみれば当たり前のことなんだが、あまりにもその考えが頭になかったため、妙な間が生まれてしまう。

 

「そうか、確かに恋人がいるってのに、幼なじみとはいえ、異性と二人で出かけるのは難しいよな」

 

相手が理解のある人なら、あるいは許してくれるのかもしれないが、それが恋人を不安にさせるとしたら、やはり自重するべきだろう。

 

「考えもしなかったですか?」

 

「ああ、正直なところ目から鱗って感じだ」

 

一緒にいるのが当たり前すぎたのだろうか。

 

どちらかに恋人が出来たこともないというのも、もしかすると要因の一つではあるかもしれない。

 

けれど、もう少しその可能性について考えたことがあっても良さそうなものだが。

 

「ですが、そういうことです。そんな簡単なことで、関係性というものは変わってしまいます」

 

淡々と、遊佐は諭すように話続ける。

 

「千里さんだって、昔はもっと一緒にいましたよね。恋人が出来てからは、めっきりと一緒にいる時間は減りました」

 

「言われてみるとそうだな」

 

デパートが出来たから、商店街には行かなくなった。

 

恋人が出来たから、幼なじみとは遊ばなくなった。

 

まるで違う事象だが、起きた変化は近い。

 

「近い変化のはずなのに、商店街のことにだけ強く反応をしてしまったのは、恐らくびっくりした反動でしょう」

 

「びっくりした反動…か」

 

「ええ、ですので安心してください。それに、少なくとも私はまだ柴崎さんの隣からいなくなるつもりはありません」

 

「…いいのか?遊佐だって恋人作って楽しく青春したりしたくねえのかよ?」

 

「恋人が出来れば楽しいわけではないでしょう?好きな人と恋仲になれなければ、ただただ苦痛なだけですよ」

 

そりゃまた手厳しいご意見だこと…

 

ていうか、コイツはそもそも恋愛というものに興味自体はある…のだろうか?

 

何度か岩沢絡みの相談でやたらと説得力のある言葉を貰ったところを見るに、俺の知らないどこかで恋を経験しているようにも思える。

 

そう考えてみれば、料理を練習してたり、子供をあやす練習をしてたりと、花嫁修行のようなこともしていた。

 

「お前、案外乙女思考なんだな」

 

「……はぁ」

 

え?なんでそこで深いため息?

 

「さっさと行きましょう。寒いです。心も体も」

 

「え?お、おう」

 

何故体はともかく心が寒くなったのかよく分からないが、先に歩き出した遊佐の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで全部ですね」

 

「そうでないと困るぜ……」

 

軽い口調で告げる遊佐に、両腕をプルプルと震わせながらぼやく。

 

チキンにケーキにシャンメリー、その他諸々食べ物飲み物、挙げ句の果てには装飾具の類いまで買い漁り、その全てを俺が持っている。

 

当然両手には、大量の袋を持つことに……いや、持つっていうか、もうぶら下げまくってるだけなんだが…

 

「ファイトです柴崎さん。なんなら下の棒にぶら下げてください」

 

「こんな状況で出来るか!?…じゃねえ!んなことするか!!」

 

あまりの腕への負担に、頭が働いていないのかもしれん。ツッコミを入れるところを間違えた。

 

「その『こんな状況じゃなければ今すぐMAXにしてぶら下げてやるのに!!』というポジティブな姿勢、嫌いではありません」

 

「だからちげえよ!!」

 

コイツは俺の心の声をしっかり把握していながらこういうことを言うから厄介だ。

 

「さぁ、ちゃきちゃき歩いてください。家までそう遠くはありません」

 

「へーへー…頑張りますよっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊佐の言うとおり、そう遠くはない家路だったが、腕が限界を迎えていた状態の俺には永遠のようだった。

 

「ぷはぁ~!!やっと着いたぜぇ~…!」

 

「お疲れ様です、疲れマラ」

 

「なんで流れるように下ネタを言った?!」

 

「いえ、今なら疲れマラ状態になっているかと思い、確認の意味も込めました」

 

「するな!!てか、おじさんとおばさんに聞かれたらどうすんだ?!」

 

普通俺らの年頃って親にそういうの死んでも聞かれたくない時期なんじゃないのか?

 

少なくとも俺は嫌だ。なんか親父だとノリノリで話に加わって来そうだし。

 

「その心配はありません」

 

「は?なんで?」

 

「今日、両親は帰ってこないので」

 

「………え、そうなの?」

 

「あ、すみません。もうワンテイクお願いします」

 

「は?」

 

意味を理解できず聞き返すと

 

「今日…親、帰ってこないんだ…」

 

「……何故言い直した…?」

 

しかもラブコメ風に。

 

「シチュエーションって大事じゃないですか」

 

「そこに拘るなら初めっからしとけよ」

 

「すみません、幾分慣れないことなもので」

 

まあこんなシチュエーション、そうはないだろうけど…友達いねえしなコイツ。

 

「柴崎さんにだけは言われたくないです…」

 

「なんで俺だけなんだよ?!」

 

「あ、すみません。千里さんもでした」

 

「アイツよりは友達多いわ!!」

 

アイツの友達俺くらいじゃん!

 

俺はいっぱいいるし!

 

「両手で数えきれる程度じゃないですか」

 

「両手で収まるくらいが一番なんだよ!この手で守りきれる数なんだよ!」

 

「何から守るつもりですか…」

 

「世界の危機だよ!!」

 

「オナラで隕石の軌道でも逸らすんですか?」

 

「かいけつ○ロリか?!」

 

懐かしい例え出してくんじゃねえ!

 

あと、オナラとか疲れマラとかのせいでシチュエーションどうこうはとっくに崩れている。

 

「策士策に溺れる…ですね」

 

「いや、勝手に滑って転んで溺れただけだ」

 

あとなんのための策だよ。俺を困惑させるためのか?

 

「もういいから、ちゃっちゃと準備しようぜ。腹減ってきたし」

 

なんだかんだと歩き回って、もう晩飯時だ。

 

「そうですね。柴崎さんの胃袋をがっつり掴むために、腕によりをかけましょう」

 

「はぁ?その必要なくないか?俺、普通にもうお前の作る飯好きだし」

 

「………………これで他意がないのがまた……」

 

「な、なんだ?」

 

何も悪いことを言った覚えはないのだが、何故かジロリと睨まれる。

 

「はぁ…なにも。良いですから、手を洗ってきてください。柴崎さんにも手伝って頂きますからね」

 

「お、おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

言われた通り手を洗い、ついでにうがいもして、遊佐に頼まれるがまま隣で料理の下ごしらえをしていく。

 

揚げ物のパン粉をつける作業であったり、海老のワタを取る作業であったりだ。

 

決して器用ではないので、刃物を扱う際は集中しながら作業していく。

 

すると隣から、トントントン、と小気味の良い音が聴こえてくる。

 

「…やっぱ上手いのな」

 

「…ああ、そうですね。お母さんからしっかりと教わりましたから」

 

独り言のように呟くと、遊佐も一瞬自分に言われたと気づかなかったのか、少し遅れて返事をする。

 

「猫の手。にゃー」

 

そして無表情で、両手を猫の手にしてポーズを取る。

 

「いつから練習してたんだ?」

 

「流さないでくださいよ」

 

不服そうに(まだポーズを取ったまま)ぼやく遊佐。

 

なんて返せってんだよ…?

 

「まあいいですけど。いつからかというと、中学生の頃ですね。丁度学校にまた通うようになってからです」

 

「…そっか。なんか心境の変化でもあったのか?」

 

あっさりと言ってのける辺り、やはり遊佐はあの出来事をしっかりと乗り越えたようで、少し安心する。

 

「そうですね。意地でも魅力的な女性になってやると決意しました」

 

「そりゃまたなんのために?」

 

「奪い取るため…ですかね」

 

ジッと、その瞬間だけ、食材を切る手を止め、俺の眼を見る。

 

「…えらく物騒な言い方だな」

 

何かを訴えかけるようなその視線に、しかし俺はなんと返すべきかわからなかった。

 

「……それくらい強い言葉にしなければ、折れてしまいますから」

 

やはり俺の言葉は、遊佐の望んだものとはかけ離れていたようで、落胆の色を覗かせる。

 

折れる…か。

 

いじめすら乗り越えた遊佐でも折れるような、辛いなにかがあるのだろうか。

 

「まさか、不倫…か?」

 

「違いますよ」

 

「いやでも、奪うって…」

 

「私が奪うのは、運命です」

 

「運命…?」

 

またこの単語か…

 

「放っておけば、そのまま結ばれる二人の間に割って入るのです。生半可な気持ちじゃ出来ません」

 

「ゆりも似たようなこと言ってたけど…」

 

「ゆりっぺさんは凄いです。運命を悟った瞬間に、自分の願いを捨てました。自分よりも、好きな相手の幸せを優先しました」

 

私には出来ません。と、遊佐は言う。

 

その表情には、喜怒哀楽、どの感情も伺えない。

 

「私は、好きな人の幸せを願えない」

 

汚い独占欲の塊です。と、再度無表情で言う。

 

「それが普通なんじゃねえか?」

 

きっと、知ったような口を利くなと、怒られるだろう。

 

それでも俺は言葉を止めない。

 

「誰だって自分が一番可愛いさ。そりゃゆりが立派だってのは俺もそう思う。でも、どれだけ辛くても好きな奴のために頑張るお前みたいなやつも、同じくらい立派だと、俺は思うぜ」

 

遊佐はなにも言わない。

 

表情も変えない。

 

でもそれは、少なくとも怒ってはいないということだ。

 

ならばこのまま続けさせてもらう。

 

「それにさ、これは運命なんて見えやしない俺の戯言だけどよ、好きな奴を奪った後、お前がそいつを運命の相手より幸せにしてやりゃいいじゃねえか」

 

遊佐ならきっと出来る。

 

そう、信じている。

 

「…ありがとうございます。少し、肩の荷が下りました」

 

「あんま思い詰めんなよ?」

 

「はい。考えるのは柴崎さんの下半身のことだけにします」

 

「今すぐやめろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ、なんで部活休みなんだ?」

 

なんだかんだと馬鹿な話を続けたながら準備を終え、遊佐の手料理に舌鼓を打ちながら、ふと気になっていたことを切り出す。

 

「今までテスト期間だろうがなんだろうが、休みになんてならなかったのに」

 

「考えてみれば分かることですよ」

 

「って言うと?」

 

「うちの部には、バカップル…もとい、リア充が増えてきましたよね」

 

「まあ…そうだな」

 

バカップル、と明言してしまった後に訂正しても遅いのでは?というツッコミはひとまず置いておく。

 

「冬休みはクリスマスイブやらクリスマスやら、大晦日から初詣まで、リア充のためのイベントが目白押しではないですか」

 

「ああ、なるほど」

 

つまり、リア充向けのイベントがあるのに、リア充を作ることが目的な部活動がそれを邪魔してどうする?ってことか。

 

「そういうことです」

 

「なんだかんだ、本気でそこのサポートはやってんだな」

 

「ゆりっぺさんはやると言ったらやるお方ですからね」

 

「え?殺ると言ったら殺る…?」

 

「このことはゆりっぺさんに報告しておきます」

 

「冗談冗談!!イッツアジョーク!!」

 

ゆりの耳に入ったら本当に殺されかねん…

 

「何をビビっているんですか。銃弾すら避ける眼を持ちながら」

 

「いや銃弾を避けた経験はねえよ…」

 

それに、ゆりのことだし本当に俺が銃弾を避けられたとしても死角…というか、全方位から射撃されて、なすすべもなく殺されそうだ…

 

「まあ本気で怒らせればやりかねませんね」

 

「だよなぁ…」

 

今まで何人か、ゆりが直々に制裁した奴らがいたが、その後どうなったのか不明なところがまた怖い。

 

「ですが、ゆりっぺさんは仲間にはゲロ甘いですからね」

 

「本当かよ…?」

 

「本当です。ゆりっぺさんはそもそも長女気質ですからね。面倒を見ることが基本的には好きなのです」

 

だからこそリーダーをあそこまで見事に務めていますしね。と、冗談ではなく真面目に言っている。

 

まあ…確かに、皆がアイツを慕っているのは間違いない。

 

アイツが理事長の娘だからとか、そういうことを抜きにしても、誰がどう見たってリーダーは仲村ゆりだと口を揃えて言うだろう。

 

それは認めざるを得ない。

 

「というより、急にどうしたのですか?少し前までなら、部活動が休みになれば『ひゃっほーぅ!休みだぜぃ!ぶぃんぶぃん!!』と喜んでいたでしょうに」

 

「ちょっと待て。俺はそんな喜び方はしない」

 

喜んでたであろうことは否定しないが。

 

「いやまぁなんつーか…今まであんだけ毎日ドタバタ騒ぎしてたから、急に来なくて良いってなったら何して分からねぇっつーか」

 

「…てっきり岩沢さんに会いたくなってるのかと思いました」

 

「なっ…?!んなわけねぇだろ!?なんで俺が…」

 

って、いかんいかん。

 

頭ごなしに否定してたら今までのままだ。

 

「……アイツ一人に会いたいとか、そういうんじゃない。ただ本当に暇すぎて…ってのが強いって感じなんだ」

 

会いたいことは否定しない。

 

アイツといると楽しいのは間違いない。

 

特に最近は、一緒にいる時にまるで時間が早送りになってるような感覚がある。

 

だけどそれは、他のみんなも同じ…だと思う。

 

「嘘は言ってないようですね」

 

「俺だっていつまでも成長しないわけじゃねえよ」

 

「それはどうでしょう?いつまで経っても変われないところはありますからね」

 

「は?例えば?」

 

「幼馴染とはいえ、こんな美少女と二人きりで密室だというのにまるで意識しないところでしょうか」

 

「…………………?」

 

あまり何が言いたいのか分からない。

 

「それは…今更だろ?昔っからこんなことはあったんだし」

 

まさか俺なんかに意識してもらいたいわけじゃあるまいし。

 

美少女としてのプライドが許さないんならしょうがないが、そういうタイプでもない。

 

「世の中には幼馴染から結婚までいくことだってありますから」

 

「いやそりゃそうだけど…」

 

「幼馴染相手に劣情を催して孕ませることだってありますから」

 

「言い方が悪い!!」

 

間違ってはないが!

 

「そもそも、私たちの部には幼馴染から恋仲になっている人や、片想いに至っている人もいます」

 

「いやまあ、そうだけどよ…つまり、何が言いたいんだ?」

 

「私が言いたいのは…要するに…今この場で柴崎さんが私に欲情し、孕ませても怒らないという━━━「ふざけんな!!」

 

ドンッ!!と机を加減なしに叩いて怒鳴る。

 

「俺、前に言ったよな?男相手にあんま挑発するようなこと言うなって。お前は俺が安全だと思ってるのかもしんねえ。実際、俺はお前にそういうこと言われたって手は出さねえよ?」

 

そんなことをして、大切な幼馴染は失いたくないからな。

 

「お前がそういう冗談が好き…なのかはしんねえけど、よく言うのもわかってる。でもな…孕ませるとか気軽に言っちゃ駄目だろ?ただの冗談で済ませるような単語じゃねえよ…」

 

「…すみません失言でした」

 

あまりにも肩を落とした様子に、少し頭が冷える。

 

「なんか、らしくないぞ?そういうとこの線引きを間違えるなんてよ」

 

「そうですね…少し焦りました」

 

「焦った?」

 

一体何にだ?急に焦るような何かがあったのだろうか?

 

「柴崎さんが、遠くなるような気がしまして」

 

「はぁ?今日、ついさっきまだしばらくは隣にいるって話しただろ?」

 

「それは私が勝手に吐いた妄言ですから」

 

「アホかお前は…」

 

まるでらしくない、身勝手な発言に溜め息をつく。

 

「ありゃ元々俺を元気づけるために言った言葉だろうが。間違いなく、俺はそれ聞けて嬉しかったし、俺の方から真っ先に裏切るつもりもねえよ」

 

「……そんな大事なことを、軽い気持ちで約束しないでくださいよ?」

 

「当たり前だろうが。ていうか、お前は軽く約束してんじゃねえかよ」

 

「私の誓いは重いですから」

 

約束じゃなく、誓いだったのか?あれは。

 

それは…確かに重そうだ。

 

しかしまぁ…

 

「大丈夫だ。俺はそこまで自分勝手じゃない。それに、そんな相手もいないからな」

 

「…そうですか。では」

 

ひょい、と、小指を立てた手を突きだしてくる。

 

「まさか…指切りげんまんか?」

 

「それ以外になにかありますか?」

 

「いや、見当もつかんが…」

 

しかし、なんとも幼稚な。

 

遊佐らしくない…いや、昔ならよくやってたし、らしくないことはないのか?

 

「…わかったよ。ほら」

 

渋々同じように手を突きだす。

 

互いに指を絡ませ、お決まりの歌を歌う。

 

「「ゆーびきーりげんまん、嘘ついたら、針千本のーます、指切った」」

 

よくよく聞くと怖い内容の歌を歌い終え、指を離す。

 

「これで、私と柴崎さんは一心同体です」

 

「そこまで誓った覚えはねえ」

 

「チッ」

 

「舌打ち?!」

 

あんな茶番にまで付き合ったのにか?!

 

「茶番なんた酷いです。私は大真面目です。お詫びにキスしてください。ディープな」

 

「意味がわからんし、んなもんお詫びにならんだろうが」

 

わけのわからんボケをかますな。

 

「…って、結構時間経ったな」

 

不意に視界に入った時計の針は、既に11時を指していた。

 

「では泊まっていきますか?」

 

「だからそれはマズイっつってんだろ」

 

「チッ」

 

コイツさては懲りてねえな…

 

「まあ説教は後日にしてやる。今日のとこは、片付けして解散。わかったな?」

 

「はいはい」

 

「はいは一回だ」

 

「ヘイヘイ」

 

「何もかも直ってないどころか悪化してやがる!」

 

「ウォウウォウ」

 

「お邪魔しましたー」

 

「ちょっと待ってください。流石に今から一人でこの量を片付けたくないです」

 

だったらふざけんなって話なんだが…

 

「わかったから、さっさと片付けんぞ」

 

「仕方ないですねぇ…」

 

「お邪魔しましたー」

 

「待ってください」

 

この後、何度かこの流れを繰り返した。

 

家に着いた時には、1時を回っていた。

 




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