蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「しおりん、鼻の下伸びてるよ」

昨日の直井くんの話を聞いて、腹が立ったりなんだりしたんだけど…

 

『だが…嫌いじゃない』

 

「えへ…えへへへ…」

 

あの言葉を思い出すだけで全部吹っ飛んでにやにやしちゃうよ!!

 

恐るべし恋の魔法…!

 

「うわぁ…」

 

明らかにひさ子さんが引いているけど気にしなーい。

 

だってもう、あたしの頭と心は直井くん一色なんだもん!なーんちゃって!なーんちゃってぇ~!

 

「ますます気持ち悪いな…」

 

「しおりん、昨日は上の空だったし今日はそんなだけど、どうしたの?」

 

「気持ち悪い…?そんな…?」

 

そんなってどんなの?!キモいってことだよね?!

 

え?自覚?ありますよ?

 

「あたしにも…ついに春がやってきそうなんですよぉ!」

 

「関根に……」

 

「春が………?!」

 

え、な、なにその反応…?

 

正直しおりん的には適当に流されるかと思ってましたですわよ?

 

「やったじゃないか関根!相手は直井だよな?!いや、直井以外は認めないけどな!」

 

おおっとぉ?!ここに来てまさかの直井くん激推し?!ひさ子さん直井くんのこと生意気だって言ってなかったでしたっけ?!

 

「おおお、おち、落ち着いてくらさいひさ子さん!しおりんのことですからまだ分かりません!」

 

落ち着くのはどう見てもみゆきちの方だよ?!ていうか何気に酷い!

 

いや、しかし…

 

「ふっふっふ…まさかひさ子さんとみゆきちがそこまで興味を持ってくれるとは…!ならば話しましょう!今に至るまでの壮大なメモルゥィーを!!」

 

「いらん。とりあえず今どうなのかだけ教えろ」

 

「重要なのは過程じゃなくて結果だよしおりん?」

 

急に冷た?!みゆきちシビアすぎるし!

 

いつものみゆきちじゃないよぉ~。

 

「実は昨日なんだかんだありまして…嫌いじゃない、と言っていただけました!」

 

「嫌いじゃない……」

 

「…………それだけか?」

 

「え?そうですよ?」

 

「ちっ、んだよ。解散解散」

 

「しおりん。せめて好きだって言われてから惚けてよ…」

 

厳しい!!なんで?!

 

なんでそんなにシビアなのさぁ?!

 

「話終わった?なら練習しよう」

 

「岩沢さ~ん。安定して興味がないってのが逆に清々しいっす~」

 

「…あたしが口を挟んでも意味ないからね」

 

「……?」

 

なんか最近岩沢さん変なんだよなぁ…いつもの音楽キチ感がないし、柴崎くんのことも避けてるし…

 

「岩沢さ―――「さ、練習練習。雑談は終わりだ」

 

む、丁度遮られた…

 

……ま、岩沢さんならきっと勝手に元に戻るよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~今日も疲れたっすなぁ~」

 

「おじさんみたいだよしおりん」

 

「ノンノン、今時はそういう女の子がウケるのよ?」

 

「そんなの聞いたことないよ…」

 

まあ適当に言っただけだからね。

 

でも来ると思うな~。おっさん系女子。

 

「あの、すみません」

 

「はいはい?って…」

 

校門の辺りで声をかけられ振り向くと、そこには

 

「直井くん…?」

 

じゃ、ないよね。話し方的に……てことは…

 

「もしかして、直井くんのお兄さん…?」

 

「……君、もしかして文人の友達かい?!」

 

昨日の話を鑑みて指摘すると、いきなり両肩をがっちりと掴まれる。

 

ひぇ!直井くんと同じ顔がこんな近くに…!

 

とぉ、いかんいかん!どれだけ似てたって別人なんだから!

 

「と、友達と言って良いものなのか分からないけど…」

 

「いや、文人から僕の話を聞いてるってことはきっと仲が良いんだよ」

 

「そ、そうですかぁ~?」

 

「しおりん、鼻の下伸びてるよ」

 

おっと!これは直井くんの家族公認の仲を得るためにはしてはいけない顔だ!

 

いや、いやいや待て関根しおりよ。

 

突然のことでなんだかんだと流されてしまっているけど、直井くんはお兄さんと疎遠のはず。

 

なのになんでここに来ているのかをまず訊かねば。

 

「えっと、直井くんに何か用?」

 

「いや、今日は別の人に用があったんだ」

 

「へぇ。誰々?知ってる人なら紹介するよ」

 

「君だ」

 

「………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えー……なんだかんだありまして…

 

「ホット1つ。関根さんは?」

 

「あ、じゃあカフェオレを…」

 

「ホットとカフェオレですね。かしこまりました」

 

何故か二人きりでお洒落~なカフェへ来ております。

 

いや、違うからね?直井くんと瓜二つの顔に釣られたんじゃないからね?

 

これはお兄さんが、直井くんのことで話があるっていうから付いてきただけだから!勘違いしないでよね!

 

「関根さん、一応聞いておきたいんだけど、文人とお付き合いをしているのかな?」

 

「あひゃ?!」

 

いや待て。あひゃってなんだあひゃって。

 

「し、失礼」

 

「い、いや…不躾な質問だったかな?」

 

あはは…と苦笑いしているのを見て胸が痛む。

 

くっ…この人良い人だ…それに引き換えあたしはなんだ?失礼ってなんだ?エージェントか何かか?!

 

「い、いえいえ!えっとね、付き合ったりはしてないよ」

 

「そう…なんだ。ごめんね、文人が自分のトラウマを話すくらいだから、てっきり…」

 

やっぱりあの話って直井くんは相当覚悟を決めて話してくれたんだよね…

 

不謹慎だけどにやけそうだ。

 

「あのさ、なんで今日あたしを探してたの?」

 

しかも探してたと言っても、顔も名前も知らない状態で。

 

「昨日ね、文人が家で…鼻唄を歌っていたんだ」

 

「鼻……唄…」

 

直井くんの鼻唄かぁ~さぞ麗しいのでしょうなぁ~。

 

……じゃなくて

 

「それで…あたしを?」

 

「うん。文人が楽しそうにしてたのなんて、いつぶりだろうって思って。きっと学校で良いことがあったんだろうな…って思ったらいてもたってもいられなくてね」

 

この人…もしかしてブラコン?

 

「僕のせいで…笑わなくなってしまったから」

 

「あ……」

 

…そりゃそうだ。

 

直井くんの話を聞いたら、お兄さんが罪悪感を感じてるなんて当たり前だよね…

 

「関根さんのお陰だね…きっと」

 

「い、いやいや~あたしはただ直井くんと楽しくお喋りできたらな~って思ってただけで…」

 

「文人にはね、そう思ってくれる人が今までいなかったんだ。いや、いたのかもしれないけど、文人がそう感じられる人がいなかった…と言うべきなのかな」

 

まあ、文人の方から拒絶していたのも原因なんだけど…と前置きし。

 

「だから、関根さんの存在は文人にとっては青天の霹靂だったと思うんだ」

 

「あははー、そんな大袈裟な…」

 

「大袈裟じゃないよ。きっと文人も関根さんのことを大切に思ってる」

 

「いや…その……」

 

自分の顔が紅潮していくのが分かる。

 

だって…だってさ!直井くんが本当にあたしのことを大切に思ってるんだとしたらって思うと止まんないんだもん…!

 

こんなときでも都合の良い妄想をしてしまう自分の頭が恨めしい…!

 

「関根さん…やっぱり文人のことが?」

 

だよねー。分かるよねー。

 

「えへへ…実はそうなんだよね」

 

「それは…いつ頃から?」

 

「え?わりと最近…かな」

 

「好きになったのは何がきっかけで?」

 

「実は、ちょっとクラスの子と揉めたんだけど…その時に直井くんが助けてくれて。なんていうか…優しいなぁって」

 

正直こういうこと話すの超恥ずかしいけど…でもなんか、隠しちゃいけない気がする。

 

「そうか…やっと文人のことを分かってくれる人が出来たんだね…」

 

「え?!ちょっと?!」

 

あたしの話を聞いた途端、健人くんは涙を流し始めた。

 

「ごめん…嬉しくて」

 

「…そっか」

 

そうだよね。

 

きっと、ずっと気に病んでたんだろうし…嬉しいよね。

 

「安心してよ。直井くんはあたしが責任をもって育てるからね!」

 

「あの、僕が頼みたいのはそうじゃないんだけど…」

 

「へへ、みなまで言うなって…あたしにかかりゃあお茶のこさいさいよ?」

 

「いやあの……ふふ、なるほど。文人はこうやってペースを乱されたんだね」

 

一瞬呆れかけて、笑った。

 

うんうん、やっぱり笑顔がかわゆすなぁ~。

 

「…うん。関根さんなら、文人のことを任せられるよ」

 

「任せられるって…」

 

まるで、他人事みたいな…

 

「ねぇ、二人は仲直りするつもりは…ないの?」

 

「………ないよ。ううん、そもそも僕にそんな権利はないんだよ…僕は文人を傷つけたんだから」

 

「なら、直井くんが仲直りしたいって思ってたら良いんだよね?」

 

「それは…もちろんそうだけど」

 

ありえないって言いたそうな顔をしながら頷く。

 

でも、あたしには分かるんだ。

 

直井くんは絶対仲直りしたいと思ってるって。

 

確かに直井くんは心に深い傷を負った。だけど、それは直井くんが健人くんを好きだったからなんだ。

 

だったら、仲直りできない道理なんてないはずだよ!

 

「任せてよ!あたしが絶対仲直りさせるから!」

 

 




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