優勝を誓った球技大会の当日がやってきた。
うちの学校は土曜に球技大会が行われることになっていて、招待状さえあれば誰でも見に来てもいいことになっている。
だから家族や、他校にいる恋人を招待している奴も少なくなく、他の学校よりもモチベーションの高い。
俺が招待したのはユイと、もう一人。
「先輩!」
グラウンドに出てチームの皆と話していると、聞き慣れた声が響いた。
「ユイ」
振り返ると柵の外でぶんぶんと腕を振るユイの姿があった。
皆に一言詫びてユイの下に駆け寄る。
「先輩、優勝してくれるんですよね?」
「いきなりそれかよ…する…つもりだけどよ」
しねえと、会わす顔がねえしな。
お前にも、あの二人にも。
「さっきまでお袋さんのとこいたのか?」
「はい。昨日と変わらず、顔色も良かったですよ。今日はひなっち先輩の活躍を目に焼きつけてくるって報告しときました!」
「は、はは…頑張んなきゃな…」
応援に来てるはずなのにプレッシャーばっかかけられてんだけど…
いや、まあしょうがねえよな。そんだけ賭けてるものが大きいってことだ。
しかもユイはまだ何を言われるのかも分かってねえんだし、勝ってもらわなきゃ困るもんな。
もう一度気を引きしめる。
「おーい日向ぁー!そろそろ開会式だぞー!」
「おー!今行くよー!ってわけだユイ、お袋さんに言った通り、俺の活躍を目に焼きつけとけよな?じゃ―――「ま、待って!」
精々空元気を見せながら皆のとこに戻ろうとすると、ジャージの袖を掴まれる。
「あ、あの…勝てなくても、怒りませんからね?!」
「………はぁ?」
「お、一昨日負けたらボコボコにするとか言っちゃったんで!それでビビって負けられても困るんで!」
「あのなぁ…」
くそっ!なんか可愛い応援の台詞でも言われんのかと期待した俺の純心に謝れ!
「あと…その…頑張って…ください…」
「……………~~~~~~っ」
決して目を合わそうとしないのも、顔が真っ赤なのも照れの表れで、それがすげえ可愛くて……
不意打ちすぎんだろ…っつーかなんだその下げて打ち上げるみたいな…!
くっそでも…それでテンション上がっちまう俺はつくづく単純だぜ…
「あったりめーだろ!優勝してきてやんよ!」
「……はい!」
その後顔を真っ赤にしてにやけながら皆のところに戻ると全員から一発ずつどこかしら殴られた。
開会式は特に問題なく終了して、各種目の一回戦から順に試合が始まっていく。
グラウンドでの競技は男子の野球しかないと言っても、1、2、3年合同で行われるうちの球技大会では一学年7クラス、つまり総勢21チームの試合をいっぺんに出来るわけもなく、3試合ずつ順に行うことになるわけだ。
もちろんあまり時間をかけていられないから、1試合5回までで、6点差つくとコールド扱いになる。
俺たちの試合は三順目で、まだ余裕があるので、とりあえず作戦会議を始めることにした。
「優勝候補は3年6組だ。ここは引退したとはいえ、3年の野球部員が6人もいやがるからな」
自分で言いながらどんな片寄りかただよ…と呆れる。
まあ決勝まで当たらないことが唯一の救いかもな。向こうがどっかでこける可能性だってあるんだしな。
「まあまあ、俺たちが決勝までいける保証もないし、気楽にいこうぜ」
そんな呑気な台詞に、何人かのチームメイトが、まあなーと同調していく。
そういうわけにはいかないんだけどな…
でもこれは俺だけの問題で、こいつらに押しつけるわけにいかねえ。
だから俺もその場しのぎの笑顔を作っておく。
「ま、どこまでいけるかはピッチャーの音無次第になってくんな」
「日向…プレッシャーかけるなよ。ただでさえ奏が来てて緊張してるんだから」
いつのまにか呼び方が変わってることは一旦置いといて…
「まあまあ、内野はきっちり固めてやっから」
音無はとにかくコントロールがいい。
だから打者に引っかけさせるような配球にして、内野ゴロでアウトを稼ぐ作戦だ。
そのため、内野は経験者の俺がセカンドに、他もサードに藤巻、ショートに千里、ファーストは長身の長野と、素質のあるメンバーで固めておいた。
キャッチャーも、ちょっとばかし大役すぎるかとも思ったけど、同じく素質のあった大山に任せた。
外野も最低限の捕球は板についきている。
「やれることはやったさ。あとは…そうだな。皆に良いとこ見せてやろうぜ」
「皆って?」
「皆は皆さ。招待してる人とか、クラスの皆にだよ。ひょっとしたらプチモテ期がくるかもしんねーぜ?」
適当に言ったその一言で皆目を爛々と光らせる。
「っと、1試合目もう終わったみたいだな。よーし、アップがてらキャッチボールでもやるか!ほら、皆ペア組めー」
俺の号令で、皆三々五々に散らばってキャッチボールを始める。
「柴崎は俺とな」
「え、おう」
千里と組もうとしていた柴崎をひき止めてこちらに呼び寄せる。
不思議そうな顔をしてこっちに来る柴崎に、俺は今からちょっと酷いことを言わなきゃならない。
「あのさ…柴崎」
「どうしたんだ?なんからしくないな」
「今日、もしかしたらお前に出番をやれねえかもしれねえ…」
「え…」
「悪い!俺、今日は絶対勝たなきゃ駄目なんだよ…」
誠心誠意頭を下げる。
いくら柴崎が壊滅的に下手くそだとしても、普通ならどこかで出番はやるべきだ。
だけど今日、それは出来ない。
もちろん全試合余裕勝ちで決勝も楽勝な展開ならどこかで出してやれる。
けど、現実は甘くない。出してやれるタイミングを失う可能性の方が断然高い。
だから先回りで謝っておかなきゃいけないと思っていた。
「いや、全然いいぜ?」
「……え?」
……聞き間違いか?普通どんなに運動音痴でも、戦力外通告は傷つくはずなんだけど…
「い、いいのか?」
「ああ、むしろ好都合だな」
好都合…って、そんなに下手なのを見られたくない…ってことか。
「でも、なんで勝たなきゃ駄目なんだ?」
「あー…まあユイ絡みでさ。ちょっとな」
「ふーん…そうか、まあなら俺は足引っ張らないよう大人しくベンチに座っとくわ」
深く聞き入らないのは、本当はそこまで理由に興味がないからなのか、何かを察してなのかは分からないけど、あっさりと引いてくれたことに内心感謝する。
「皆には話さないのか?」
「こんなの俺の個人的な理由だしな。皆に言ったところで、だから?ってなもんだろ」
「まあ…そうか。とりあえず気合いは入ってるしな」
ちらっと、目線を他のメンバーの方へ移す。
俺の言ったプチモテ期を手に入れるためにやたら張り切ってる奴らを見て肩を竦めた。
常に岩沢に言い寄られてる柴崎からしたら、プチモテ期なんて全く興味ねぇんだろうなぁ。
とか考えていたところで、2試合目の終わりを告げる声が聞こえてきた。
「よし!皆、俺たちの出番だぜー!」
「「「「おおぉぉー!」」」」
結果から言えば圧勝も圧勝、1回コールドという相手に申し訳ないくらいの圧勝だった。
攻撃は余裕で打線が一巡し、2順目の八番打者でようやくスリーアウト。
守備は作戦が見事に嵌まって内野ゴロ3つで試合終了。
1回戦は順調すぎて怖いくらいだった。
しかし2回戦はその順調すぎたことが仇になった。
1回の表、一番の音無に続き、大山、千里、藤巻、俺と細かく繋いで二点を取ったのだが、後続が大振りを繰り返して三者連続三振。
どうも1回戦で打撃に手応えを感じたらしく、良いところを見せようとして大振りをしてしまっているようだった。
指摘はしたものの、もう二点を取っていたこともあり、誰も修正をせず、実質一~五番だけで攻撃を行うことになってしまった。
相手も下位打線が大きいのを狙っていることに気づいたようで、上位は最悪フォアボールでもいいと厳しいところばかりを狙い、下位にはボールだけを投げ込む作戦を取ってきた。
そのせいでこちらの得点は伸び悩んだのだが、守備は相変わらずの固さを誇り、最終的には4対0で試合終了。
準決勝である3回戦は今までの相手よりもレベルが高く、1回は一点を取るに留まり、相手にも一点を返されるヒリヒリしたスタートとなった。
2回はお互い0点で終わり、3回はうちが0点、相手に一点を取られ、この大会で初めて相手にリードを許すことになった。
相手には野球部が3人いて、その3人を打線の初めに並べてそこで確実に点を取ってくる。
しかしこっちの攻撃は、相手の野球部が上手く守ったこともあって疎らにしか繋がらず、ギリギリのとこで点を取れないでいた。
流石にこれはマズイと思ったうちは最終回に奮起して三点をもぎ取り、相手に一点返されたもののギリギリで逃げ切ることに成功した。
しかしこの試合で音無の球では野球部を抑えることが難しいという課題が浮き彫りになったのだった。
決勝の前に1度昼食を摂るため長めの休憩時間を挟むことになった。
皆が決勝まで勝ち残ったことに浮かれムードの中、俺は一人頭を悩ましていた。
音無の球では野球部を抑えられない。だけど次の相手は野球部がさっきの倍いやがる…どう抑えれば良いってんだよ…?
こっちの攻撃だって問題だ。
たった3人の野球部だけでも点を取るのに苦戦したんだ。6人もいたら……
「はぁ…」
「日向?どうしたんだ?折角決勝までこれたのにため息なんて吐いて」
祝勝ムードの中一人考え込む俺に気づいて音無が声をかけてきてくれる。
まあ音無にならちょっとくらい話してもいいよな…
「俺さ、今日絶対優勝してぇんだ」
「そりゃ俺もここまできたら優勝出来ればとは思ってるよ」
「出来ればじゃなくて、しなきゃなんねえんだ」
「…どうしたんだ日向?なんか、らしくないぞ」
確かに、いつもの俺なら音無と同じくらいにしか思わなかったんだろうなぁ。
「俺が勝たねえと、助けられねえ奴がいんだ」
アイツは…今はまだ笑ってる。お袋さんがこの世にいるから。
でも、それはすぐに終わる。
その時アイツは…笑っていられないだろう。
今日、優勝しなければ。
「…あのユイって子か?」
一発で当てられて思わず笑いがもれる。
「ははっ、んだよ、バレバレかよ」
「まああれだけあの子のために練習抜けてればな。嫌でも分かるよ」
「流石は親友ってとこか」
「…………………」
「なんか言えよ?!」
何?!親友って思ってたの俺だけだったの?!片想いだったのかよぉ?!
「冗談だよ。でもそんな話したら皆気がつくさ」
「そうかぁ~?まあ大山は付き合い長いから分かるだろうけどよ」
藤巻はそんなの分からないだろうし、つーかどうでもいいって言いそうだし。
千里はよくわかんねえし…
他のクラスの奴らだって、俺の扱い雑だしなぁ。
「まあ話せとは言わないけどな。おいそれと言えないことなんだろうし。だけど…つまり次の試合で俺が炎上したら洒落にならないってことだよな…」
「い、いやいや!これは俺の問題だし、音無は気にしないで投げてくれって!」
「そうは言っても…」
「むしろ変に抱え込んで調子崩されたらそっちのが困るぜ。な?」
「…分かったよ。だけど、全力は尽くすぞ」
「なーに当たり前のこと言ってんだよ音無くん」
言葉とは裏腹に、明らかに強ばっている顔をデコピンをすることで和らげる。
「俺はちょっと散歩してくっから、お前も奏ちゃんとこでも行ってリラックスしてこいよ」
「…そうだな」
奏ちゃんの名前が効いたのか、いくらか柔らかくなった表情を見て胸を撫で下ろす。
さて…俺も散歩してリラックスしてくるか。
特に目的無しに校内を彷徨いていると、見慣れた顔を発見した。
「おーいゆりっぺー」
「げっ」
「げっとはなんだ、げっとは?!」
「冗談よ。うっさいわね」
音無と言いゆりっぺと言い、冗談がキツいぜ…時々マジで傷つくんだからな…
「それよりなんの用?」
「いや用ってわけじゃねえけど。見かけたから声かけただけで」
「あらそう。ならさよなら~」
「おーいおいおい!ちょっとは幼馴染みとの会話を大事にしようぜ?!」
「幼馴染みだからこそ会話に飽き飽きしてるんだけれどね」
言うにことを書いて飽き飽きって…
大山にはこんなにキツく言わねえのになぁ…
「っていうか、こんなとこであたしなんかに油売ってないで、あのユイって子のところに行けば?」
「あ~…ユイ…か」
正直、今は顔を会わすのはマズイ気がする。
本当は今だって携帯にどこにいるのかとメッセージが届いているのに、会ったら気負ってしまいそうで返事が出来ていない。
「……何か訳ありかしら?」
ゆりっぺはユイのお袋さんが倒れたこと知ってた…よな。
「今日ユイのために優勝しなきゃいけねえんだ」
「…あほらし。ただのノロケじゃない」
「ちげぇんだって!」
呆れてどこかに行こうとするゆりっぺの肩を掴んで引き止める。
「何が違うのよ?」
一応話を聞いてくれるつもりはあるみたいで、改めてそう話を振ってくる。
「なんつーか、あんま詳しいことは言えねえんだけどさ…ユイを助けるため…っつーか…結構重要なことをこれに賭けててさ」
「要領を得ないわね。あなた馬鹿なんだからぼかしながら話して伝わるわけないじゃない」
「う…」
本当にばっさりだな…
「でも、他人に言えないくらい重要なことなのは分かったわ」
……なら初めからそう言ってくれよ…
「…どうしても勝たなきゃいけないのね?」
「…おう」
急に真剣な顔つきになり、しばらく何かを考えた後、ゆりっぺは口を開いた。
「なら1つ、策を授けるわ」
「え?」
昼ごはんを食べ終わり、柴崎たちを探して歩き回っているんだけど、人が多くて中々見当たらない。
「いないっすね~」
「たかが球技大会に人集まりすぎだろ…」
ひさ子の言うことも最もだけど、そもそも球技大会に観覧が必要なのかの方が気になる。
ちなみにあたしとひさ子はバレーで1回戦負け。関根、入江も同じくだ。
ひさ子は怪我だったし、まああたしとしては突き指なんかしたらたまったものじゃないから良いんだけど。
まあそんなことより今は柴崎を探さなきゃ。
「……ん?」
人混みを慎重に見ていく中、見覚えのある尻尾(?)が目に入った。
あれって…
「ちょっと、岩沢?」
急に走り出したあたしに気づいてひさ子が声をかけてきたが、足を止めず尻尾を追う。
幸い急いで移動してたわけじゃないようですぐに追いついた。
「ユイ」
肩を掴んで声をかけると、振り向いた顔がみるみると驚愕の表情に変わっていく。
「い、岩沢さんんんんん?!」
「うん、そうだけど」
なんでそんなに驚いてるんだろう?ここあたしが通ってる学校なのに。
「あ、い、う……」
「え?」
「お…じゃなくて!え、えっと…こんにちは!」
「ん?ああ、こんにちは」
ユイってちゃんと挨拶を欠かさないタイプだったんだ。なんか意外。
「あ、あの、なんで岩沢さんが?」
「え?そりゃあたしここに通ってるし」
あれ?言ってなかったっけ?確か日向と同じ部活って紹介されたはずなんだけど。
「そ、そうじゃなくてなんであたしなんかに声を?」
あ、そういうこと。
でもなんで、か…うーん…前世、とか言えないしな…
「ユイが好きだから…かな」
「え、ええぇぇぇぇ??!!」
「岩沢…完全に誤解させてるよ、それ」
追いついてきたひさ子が呆れながらそう言う。
後ろにいる入江と関根も同じように呆れた風だ。
「誤解?何が?」
「あ、あああああたしには既に心に決めた人がぁぁ!!」
「うん知ってる」
あたしもだし。
「で、でも岩沢さんが求めるなら……え?」
「日向、でしょ?」
今さら何言ってるんだろう。
「え?!な、なんで?!あたし誰にも…って一人知ってる人いたぁぁぁ?!え?!あの人まさか言いふらして―――「うるっさい!」
ゴチン!とひさ子の拳骨がユイの頭に落とされる。
「い゛っ?!」
ぐぉぉぉ…とその場に踞るユイ。
「騒ぎすぎだっつーの!人目をちょっとは気にしろっての」
「ひさ子さーん、拳骨のせいで余計に見られてますよー」
「女の人が拳骨って、あんまり見れない光景だもんね…」
「ひさ子…やりすぎじゃない?」
「悪いのあたしかよ?!絶対岩沢とユイだろ?!あーもう、とりあえず場所変えるよ!」
ひさ子が選んだ場所はSSSの部室の前。
確かにこんなとこでわざわざ昼食をとる人もいないし、落ち着いて話せる。
「で、今日はどうしたの?」
「ひなっち先輩に招待されたんですけど…ていうか、あのなんであたしの好きな人がバレてたかの方が気になるんですけど…」
「気にするな」
「いやでも―――「気・に・す・る・な」
「……はい」
ひさ子からの威圧に屈したユイ。
気の毒だけど助かった。訊かれたって答えられないし。
「しかし日向先輩やるね~しっかり自分の活躍を見せつけてやろうって腹だね」
「そうなんですけど、なんかそうじゃないみたいで」
「どういうこと?」
「あたしもよく分からないんですけど…今日優勝したら何か言いたいことがあるって」
その言葉を聞いた関根が一人、フゥー!と歓声を上げた。
「それ絶対告白じゃん!隅に置けないねぇ~!」
このこの~とユイの脇腹を肘でつつく。
「それが…どうもそういう浮いた話じゃなさそうで…」
「え?でもわざわざ招待して優勝したら言いたいことがあるとか、告白以外なくない?」
そう関根に言われて、少し逡巡してから口を開く。
「あたしのお母さんが…倒れて…」
「え…」
あまりの衝撃的な告白に流石の関根も思わず絶句する。
「それで…何か…多分お母さんのことで言いたいことがあるみたいで」
あたしにも何のことなのか分からないんですけど…と、語るユイは嘘をついてるわけではない様子だった。
「でもそんな大事なことなら優勝したらとか、そんな条件必要なのかな?」
「確かに。ユイのお母さんのことならユイには教えなきゃダメじゃない?」
「ま、何かあるんだろうさ。あいつは馬鹿だけど考え無しにそんなことする奴じゃないし」
「あたしもそう思います」
「……てか岩沢?あんたがユイを捕まえたのになんで黙ってんのさ」
初めの一言以来口を開いていないあたしに気づいたらしく、そう訊かれる。
「いや、つまり日向が優勝しなきゃいけないってことでいい?」
「日向がっていうか、うちのクラスがだけど…つーか今さらその感想かよ…」
「うん、じゃあ柴崎を探さなきゃ」
そう思い立ってすぐに走り出した。
後ろから全員のはぁ?!という声が聞こえてきたけど構わず走る。
待ってろ柴崎!
ぞわっ
「っ?!」
な、なんだこの悪寒は…
「風邪か…?」
まあもう随分冷え込んできたこの時期に、ただただ外でじっとしてんだもんな。そりゃ体も冷えるわ。
「カイロでも持ってきとくべきだったな」
「柴崎、寒いのか?」
「ああちょっと悪寒が…って、岩沢?!どこから出てきた?!」
「今さっき探しに行こうって走り出したら結構すぐ見つかってさ」
悪寒の正体はお前かよ…いやまあそれは置いといてだ。
「探してたってことは、何か用か?」
……いや、コイツはよくよく考えたら大した用もなく、いっつも俺を探してたような気がする。
どうせまたしょうもないこと言い出すんだろう。
「そうなんだよ柴崎。次の試合に出てくれないか?」
「はぁ?嫌に決まってんだろ」
案の定、訳の分からない頼み事に困惑しながらも断る。
俺のトラウマとか知ってるくせにいきなり何言い出してんだ?
「あのな、次ってなんだか分かってるか?決勝だぞ決勝。そんな目立つ舞台で俺が出たら…」
「柴崎が眼のことを気にしてるのは分かってるよ。でも、どうしても今日は優勝しなきゃ駄目らしいんだよ」
初めはまたいつもみたいに、柴崎の野球やってるところを見てみたい!とか、下らない理由だろうと思ってたけど、どうやら違うみたいだ。
「……はぁ。とりあえず、順序だてて話せよ。今のままじゃ何がなんだかわかんねえし」
「柴崎…!」
「まだ出るとは言ってないからな。勘違いするなよ。まずはきちんと話を聞いてからだ」
だからその無闇にキラキラした視線を直ちにやめろ。
と、その後岩沢から詳細は理由を聞き、とりあえず何故岩沢がそんな頼みをしたかの納得はいった。
そして、今朝の日向の言っていたユイ絡みの何かも分かり、図らずとも疑問が解消された。
だけど…
「無理だな」
「え……」
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