蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「洒落になんねっての……」

次の日。

 

昼休みになり、球技大会のメンバーを集める。

 

「皆、ちょっと今日からの練習で頼みがあんだけどよ」

 

「なんだ?改まって」

 

「そうだそうだー気色悪いぞー」

 

「野次酷くね?!」

 

せめてまだ気持ち悪い…いや、キモいって言ってくれよ!

 

つーか、折角人が殊勝な態度取ってるっつーのにこの扱い…

 

「あーもういい!とにかく頼みっつーのはだな、今日からちょっと俺たちの練習にまぜてやりたいやつがいんだけど、いいか?!」

 

「まぜたいやつ?」

 

「ああ、この間俺のホームランで窓割っちまった家のユイってやつなんだけど――」

 

がしっ!!

 

説明を続けていると、肩の関節が外れたんじゃねえかと思うくらいの力で握られた。

 

振り返ると、そこにはひさ子と岩沢が目を見開いて俺の方を見て(睨んで?)いた。

 

「今…なんつった?」

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は放課後、場所はユイの家へと移り……

 

「っっっっっきゃーー!!!」

 

ユイの歓声が耳をつんざいている。

 

その歓声の理由は…

 

「い、岩沢さんに…ひさ子さん…入江さんに関根さん……!!が、ガル……ガル……ガルデモぉぉ!!?」

 

ユイの憧れ、ガルデモのメンバーが予告もなしに目の前に現れたからだ。

 

俺だけだと思ってなんの心の準備もしていなかったせいで余計にびっくりしたんだろう。

 

「どうも」

 

「どうもって…もうちょっとファンにくらい愛想よくしても良いんじゃねえの?」

 

「日向、それ岩沢の最大限のファンサービスだから」

 

「これで?!」

 

確かに、にこっと笑ってはいるけど柴崎にはこの100倍くらい可愛げあんのに!?

 

「ごらぁ!岩沢さんにその口のきき方はなんじゃい?!」

 

「クラスメイトなんですけど?!部活仲間なんですけどぉ?!」

 

ていうか放心から立ち直って一言目がそれっておかしくね?!

 

「まあまあ、日向がアレなのはいつものことだし置いといて……ユイ、だっけ?」

 

「は、はい!?」

 

ひさ子に名前を呼ばれて、カチコチに固まるユイ。

 

つーか、だっけも何もひさ子たちがユイの名前に反応したくせに…なんか変だよなぁ…口止めまでするし…

 

「あたしらのファンなんだってね。日向から聞いたよ」

 

「は、はいぃ!もう岩沢さんの声とかひさ子さんのテクニックとかやばすぎでした!」

 

「ナチュラルにあたしら省かれちゃったねぇみゆきちぃ」

 

「そうだねー、悲しいねー」

 

「も、もももちろんお二人の演奏も凄かったです!本当ですからぁ!!」

 

……あっという間に馴染んどる…

 

関根とかひさ子とか、まあ考えの読めない岩沢は100歩譲って分かるとしても、人見知りの激しい入江までこんなすぐに……俺だって結構最近まで人見知られてたのに。

 

ファンだからか?

 

「ひ、ひなっち先輩?!ちょ、ちょっと!」

 

「は、お、おい?!」

 

考え事をして気が逸れているところを思いっきり引っ張られ、すっ転びそうになりながら玄関に引きずり込まれる。

 

ガチャ、と鍵を閉め、さっきまでの興奮そのままに口を開く。

 

「な、なんなんですか?!どうなってんですか?!夢なんですかこれ?!」

 

「夢じゃねえよ、ほれ」

 

「いだだだ!」

 

落ち着かせるのと、現実だってことを分からせるために頬っぺたをつねる。

 

「分かったか?」

 

ぶんぶん首を縦に振ったのを確認してから手を離す。

 

「夢じゃない……って、だとしたらなんでこんなとこに?!」

 

折角落ち着かせたってのにまた耳元で大声を出しやがる。

 

もっぺんつねってやろうかこのやろう…

 

「クラスのやつらにお前が練習に参加していいか確認した後、ひさ子が手ぇ怪我してて練習出来ねえから駄目元で、ファンが知り合いにいんだけどって言ったら来てくれたんだよ」

 

って、言ってくれってひさ子に言われてんだよなぁ…

 

「っていうことはひなっち先輩が連れてきてくれたってこと…?」

 

「そーいうこった!感謝しろよな!」

 

でーんと胸を張って威張ってやる。

 

本当はなんもやってないけど…

 

まあコイツのことだ、こんな風に言ったら何をどうやったって素直に礼なんて…

 

「……あ、ありがとひなっち先輩!!」

 

「っっ?!!」

 

素直に礼を言う…どころか、どこの欧米人だってくらいに抱き締めてきた。

 

「は…?!ちょ……?!」

 

「本当に憧れてたんだ!まさかこんな早く会えるなんて思ってなかった!」

 

混乱する俺のことなんてまるで意に関せずハグしたままの状態で感謝の言葉を口にする。

 

おまけに喜びの行き場が足りないのか、抱き締めたままもぞもぞと動くもんだから、いくら幼児体型と言っても感触が……しかも今まで気にしてなかったけど普通に女子の良い匂いが…

 

って、やべえだろこれは!!

 

「だったら早く岩沢たちと話すべきだな!ほらさっさと離れて鍵開けろ!オープンザドア!!」

 

「は?!そういえばそうですね!」

 

ようやく我に帰って俺から離れて外へ飛び出していくユイ。

 

扉が閉まるのを確認してから、1度ため息を吐く。

 

「……あっぶねぇ…」

 

バクバク鳴っている胸を押さえる。

 

危うく反応しちまう所だった…

 

くっそ…あんなちんちくりんに反応しかけるとか…

 

「洒落になんねっての……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なー日向ー」

 

「なんだよー?」

 

場所を公園へと移し、今は音無とキャッチボールに励んでいる。

 

「お前が俺たちに混ぜようとしてたあのユイって子、ずっとひさ子たちと話してるけどいいのかー?」

 

「あ~…良いんじゃねー?本人がしたいようにさせてやってくれー」

 

まあその内野球にも混ざりたくなんだろうしな。

 

「そっかー、じゃあさー」

 

「今度はなんだよー?」

 

「岩沢追いかけっこしてる柴崎はどうするんだー?」

 

「……………ほっとけー」

 

「ほっとくなよぉぉぉ!!」

 

「うおぉっ?!」

 

噂をすれば影、っていう感じで颯爽と登場して流れるように俺を盾扱いしてくる柴崎。

 

何に対する盾かっつーと、そりゃもちろんすぐに追い付いてきた岩沢相手なわけで……

 

「ちょ、痴話喧嘩に巻き込むなよ」

 

「痴話喧嘩じゃねえ!」

 

「そうだぞ日向!あたしたちは喧嘩なんてしてない!ラブラブだ!」

 

「んなわけあるかぁ!」

 

マジで俺を間に挟んでこういうするのやめて欲しい……今は特に……

 

「つーか、なんで追いかけっこしてんのお前ら?」

 

「柴崎に野球教えてくれって言ったら逃げたから」

 

「あ~、そりゃコイツすげえ下手だから恥ずかしかったんじゃねえか?許してやってくれよ」

 

なんだよ、結局恥ずかしいとこ見せたくねえって理由かよ。やっぱコイツらデキてんじゃねえのか?

 

「え?柴崎が?そんなわけ…もごもご」

 

「うるさい…邪魔になるから行くぞもう」

 

何か言いかけた岩沢の口を塞いで、引きずったままどこかに連れて行った。

 

なんだぁ…?

 

「日向」

 

「音無…なんか柴崎変じゃね?」

 

わざわざこっちまで助けに来てもらったくせに、あんな簡単に岩沢を連れてどっかに行って…

 

「なんか、隠し事してるみたいなっつーか…」

 

「……いや、気のせいじゃないか?柴崎だって心底嫌がって逃げてる訳じゃないしさ」

 

「そう…か。それもそうだな」

 

明らかに、今妙な間があった。

 

多分音無は柴崎の隠し事がなんなのか知ってるんだろう。

 

知ってる上で言えないことなら訊かない。

 

そんなのは、友達を困らせるだけだしな。

 

「んじゃそろそろノックでもすっか」

 

「ひなっち先輩ひなっち先輩~!!」

 

気まずくなる前に話を変えるため、皆に呼び掛けようとした時、ユイがやたらハイテンションで走ってきた。

 

しかし今来られんのは正直ちょっと気まずい…

 

「んだよ?」

 

「あのねあのね、ひさ子さんが今度あたしのギターの腕を見てくれるって!!」

 

「おーそうか。良かったな」

 

「えぇ~それだけぇ~?」

 

気まずいわりには至って普通の反応をしたはずなのに、不満そうに首を傾げる。

 

「それだけって…他に何言えっつーんだよ?」

 

「うぅ~…もういい!ひなっち先輩のバーカバーカ!」

 

「はぁ?!」

 

何がダメなのかまるで分からない上に、あっかんべーまでされてしまった。

 

なんだアイツ…?

 

「ははっ、日向、懐かれてるな」

 

「はぁ?」

 

「あの子、多分日向と一緒に喜びたかったんだよ。自分の嬉しいことを日向と共有したかったって言えば分かりやすいか?」

 

俺と…共有…

 

「いやでもよぉ、そんなガキじゃねえんだし」

 

「それでもあの子から見れば日向はお兄さんじゃないか。それに、お前から聞いた話から察するに、今までの話し相手はほとんどお母さん相手だったんだろ?だとしたら尚更…」

 

「…そっか」

 

きっと、あのお袋さんはユイが楽しかったこと、嬉しかったこと、そういうのを聞く度にユイと同じように喜んでいたんだ。

 

そんで、ユイはそういう会話がほとんどだったから、近くで一番共有したい相手に俺を選んでわざわざ飛んできた……

 

「くっそ、俺馬鹿かよ…」

 

俺が一番気づいてやんなきゃいけねえのに…

 

「ははっ、今さらだろ?」

 

「へーへー!その通りでごぜーやす!チッ、おーいユイー!」

 

俺の呼び掛けに反応して、ユイが振り向く。

 

そうだよ、俺は馬鹿なんだ。

 

馬鹿なんだからいつまでも悔やんでたってしゃあねえ。だったら、今やることは1つ。

 

「ノックやんぞー!いつまでも喋ってねえで野球やろうぜ!」

 

「…うん!やるー!」

 

今度こそユイを笑顔に。

 

 




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