蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「ふふ、仲が良いわねぇ~」

直談判の結果、二つ返事でOKをもらった。

 

『あら~いいのかしら?ふふ、ありがとうね~』

 

こんな風に。

 

ユイと俺はあまりの軽さに絶句したが、本人が言うにはこういうことらしい。

 

『今は調子もいいし、あまり迷惑もかけずに済みそうだから~』

 

いや、だからってこの人の危機意識の無さはやっぱり絶句ものなんだけど…

 

とにかく了承を得ればこっちのもんだ。

 

早速次の日は練習を休みにしてユイの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーンと昨日鳴らすことが出来なかったインターホンを鳴らす。

 

すると、ドタドタドタ!と、家の中から騒がしい音が聞こえ、すぐに扉が開けられた。

 

「ひなっち先輩!」

 

やけに嬉しそうな顔をして迎えてきたユイに少し照れ臭さを覚える。

 

「なんだよ早いな。俺も学校終わったらすぐに来たのに」

 

「ふふん、放課後タイムアタックは誰にも負ける気がしないもんねー」

 

「そんなレースした覚えねえよ…」

 

えらく鼻高々に自慢してくる姿を見てやっぱアホだなと再確認する。

 

「つーか、とりあえず上げてくれよ」

 

「おっと、そうでした。どうぞどうぞー」

 

と、無駄話を早々に終えて家に上がらせてもらう。

 

「お邪魔しまーす」

 

ユイの家は4階建ての一軒家で、家も結構広い。

 

それに内装もえらく綺麗で、ゆりっぺ程ではもちろんないけど裕福な家庭なのが分かる。

 

お袋さんの部屋は3階なので、階段を上がる。

 

3階の突き当たりにある部屋の扉を開けると、花が咲いたような笑顔が出迎えてくれる。

 

「あら日向くん、本当に来てくれたのね~おばさん嬉しいわ」

 

「もちっすよ。つーか、これですっぽかしでもしたらユイが殴り込んで来そうなんで…」

 

「あらあら、冗談が上手いのねぇ日向くん」

 

コロコロと鈴の音のように笑っているが、もちろん冗談なんかじゃねえ。本気だ。

 

現に今だってこのくらいの言葉だけでギラギラした視線が痛いくらい刺さってきてやがる。

 

こりゃお袋さんいなかったら一発殴られてんだろうなぁ…

 

「ほーんとおもしろーい」

 

そんな遊佐以上の棒読みが聞こえた瞬間、背中に痛みが走った。

 

「いでででで!」

 

ユイがお袋さんに見えないように背中をつねってきてるのだ。

 

お袋さんは急な俺の叫び声に頭の上に?を浮かべている。

 

くそ…お袋さんいても痛めつけられんのは変わんねえのかよぉ…

 

お袋さんにバレないようにか、少ししたら手を離した。

 

「本当、日向くんがいると賑やかだわぁ~」

 

「は、ははは…」

 

その原因はあんたの娘なんだけどな…

 

とぉ、いかんいかん。俺がここに来た目的はこんなたわいのない話をすることじゃねえぞ。

 

「で、俺は何したらいい?」

 

「あ、じゃあお話しましょう。日向くんのこともっと知りたいわ~」

 

「え、いやでも俺お袋さんの手助けを…」

 

「最近調子がいいの、だから大丈夫よ」

 

ちらっとユイの方に確認の視線を送ると、諦めたかのように頷いた。

 

「はぁ、じゃあ今日のところはとりあえず…」

 

「やったぁ~。じゃあユイちゃん、なにかお菓子とジュース持ってきましょうよ~」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

そう言ってベッドから立ち上がろうとするお袋さんを手で制止する。

 

「いくらなんでもそれくらい俺の方で手伝いますから、座ってて下さいよ!」

 

「えぇ~…でも日向くんお客さんだし…」

 

「もう、お母さん。ひなっち先輩はあたしの手伝いをしに来てるんだから、甘えていいんだよ」

 

ね!っと振られたので、うんうんと強く肯定しておく。

 

ちょっとでも気後れしたらそのまま流されてしまうそうだ。

 

「そっすよ。それに、家のどこに何があるかとか分かってないといざって時役に立たねえっすから」

 

「そう…?」

 

「そーなの!ほら、行こ!ひなっち先輩」

 

ぐっ、とまた昨日のように強く手を引かれる。

 

まあこのくらいじゃないとお袋さんも諦めなさそうだし、今日のところは助かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、2階のリビングやらキッチンやらからお袋さんの言うようお菓子や飲み物をユイに場所を教えてもらいながら調達し、部屋へと戻った。

 

「おかえりなさ~い。どうかしら?大体分かった?」

 

「はい、バッチリっす」

 

「まあ先輩は3歩歩いたら忘れそうですけどね~」

 

「ニワトリか俺は?!」

 

「ふふ、仲が良いわねぇ~」

 

「「どこが(っすか)?!」」

 

心外な台詞に反論したが、ユイとハモってしまって、またお袋さんが、やっぱり仲良い~と言って嬉しそうに笑う。

 

もう一度反論したいけど、そうしてまたハモるとループしてしまいそうで黙ると、その反応まで被ってしまう。

 

「真似しないで下さいよ!」

 

「そりゃこっちの台詞だっつうの!」

 

「もう、ユイちゃんばっかり日向くんと仲良くなってずるいわよ~?私も話したいんだから~!」

 

「「だから仲良くなんてない(です)ってば!」」

 

またハモってしまった俺たちを見て、む~と頬を膨らませ始めた。

 

「あ~!分かりました!分かりましたから、何を話すんすか?!」

 

これ以上続けてもどんどん誤解が進むだけだと悟ってとにかくこの流れを切りにいく。

 

「そうねぇ…日向くん何か部活とかやってるの?」

 

「まあ変な部活っすけど一応やってるっすよ」

 

「変な部活?ひなっち先輩が変って言うってことは相当変なんですね……あいたっ!」

 

余計なこと言ってるバカに軽くチョップをくらわしておく。

 

「どんな活動をしているの?」

 

「とにかく青春する…っていう、ざっくりとした活動を」

 

「なんかアホっぽいですね…」

 

言うな…実際アホばっかいるんだから…

 

「そんなことないわよ、素敵じゃない青春するなんて。そうだ、ユイちゃんも入学したらその部活に入ったらどう?」

 

「え?ユイってうちに入学するんすか?」

 

「ふふ、ユイちゃん日向くんの学校の岩沢さんって子と同じ学校に通いたいみたいでね」

 

ああ、そういやそんなことも言ってたな…

 

「なら岩沢も俺と同じクラブだし、良いかもっすね」

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇ?!同じクラブぅぅぅ?!」

 

「うるせっ!」

 

すぐ隣で大声を出されて思わず耳を塞ぐ。

 

あ、ユイには同じクラブとしか言ってなかったな、そういえば。

 

「ほらユイちゃん!やっぱり入るべきよ!」

 

「岩沢さんと同じクラブ……!ぁ…」

 

キラキラと輝いていた目がすぐに曇っていく。

 

「駄目だよ、あたしなんかじゃ邪魔になるだけだもん」

 

あはは、と頭を掻いて笑顔を浮かべる。

 

それはとても下手くそな笑い方で、嘘ついてるってのがバレバレで、なんでかすげぇムカついた。

 

だけどなんでそんな風に嘘をついて笑うのか、理由が分かっちまうからなんにも言えない。

 

「…ユイちゃん」

 

ぽん、とユイの頭にお袋さんの手が置かれる。

 

「我慢しないで?体調は良くなってるもの、きっとユイちゃんが高校生になる頃にはもっと良くなってるから」

 

だから我が儘言ってちょうだい?と、本物の笑顔を向けると、ユイは目尻に涙を浮かべて強く頷いた。

 

「約束ね、入学出来たら日向くんと同じクラブに入ること」

 

「うん…お母さんも約束…絶対良くなっててね」

 

そう言って2つの約束を交わして指切りをする。

 

俺はなんにも出来なかったのに…お袋さん強えなぁ…

 

「もう、泣かないの。日向くんも見てるわよ~」

 

「ちょ、何見てんすかひなっち先輩?!」

 

「俺のせいなのかよ?!」

 

急な飛び火に驚きつつも、なんだかんだ元気を取り戻したユイに安堵する。

 

「でも驚いたわぁ、私てっきり日向くんは野球部だと思っていたから」

 

「あー…まあそうっすよね」

 

初っぱながホームランで窓ガラスパリーンだもんなぁ…

 

「いや、本当すんません。そこの公園で球技大会の練習してたもんで…」

 

「いいのよ、お陰でこうやって楽しい時間を過ごせるもの」

 

おお…女神みたいな心の広さだ…

 

そう器の大きさに感銘を受けていると…

 

「野球の練習かぁ…」

 

ボソッと、隣からうわごとみたいな声が聴こえた。

 

その声に俺とお袋さんが反応すると、ギクリと身体を強ばらせて口元を塞ぐ。

 

「ユイちゃ~ん?我慢しないでってお母さん言ったわよね~?」

 

「うぅ…でも…」

 

「でもじゃないの、我が儘言ってちょうだい?あたしにも、日向くんにも」

 

「え…」

 

俺も…?という言葉はお袋さんの朗らかな笑顔のせいで出てこなかった。

 

そしてそのままユイとバッチリ目が合い、いいんですか?と言いたげな表情で見つめてくる。

 

ここ俺が出しゃばっていいとこなのか…?いやでもこの我が儘を聞けんのは俺だけだし……なら…

 

「あぁ~……いいよ…遠慮すんな」

 

「日向くん…!」

 

よくよく考えてりゃあ、初対面から顔面にボールぶつけられてんだ。今さら迷惑だのなんだの言うようなことじゃねえ……はずだ。

 

「ね?ユイちゃん、言ってみて。約束の練習だと思って」

 

「あ、あた…し…」

 

恐らく初めて、そうじゃなくても相当久しぶりになるんだろう我が儘は、中々すらすらと言葉に出来ず、つっかえまくる。

 

でもそんなユイにお袋さんは優しく、うん、うんと相槌を打っていた。

 

「あたしも…野球の練習まざりたい…です…」

 

なんとか言い切ったあと、確認するようにお袋さんの顔を見て、お袋さんは嬉しそうに大きく頷いた。

 

そして次に不安そうに俺の顔を窺ってきた。

 

俺はその不安を吹き飛ばしたくなって、にっと笑って右手で胸を叩く。

 

「任せろ!」

 

「う、うん!」

 

「ほらユイちゃん、お礼は?」

 

「あ、ありがと!……ごさいます…先輩」

 

別に…そんな取り繕うみたいにして敬語使わなくてもいいんだけど……

 

でもまあ、ちょっと可愛く見えちまったし…このままでもいいかもな。

 

「あ、でも学校のやつらに拒否られたら無理だぜ?」

 

「そこはもぎ取ってこんかぁいぃ!」

 

「あ、またユイちゃんはそんな言葉を~、めっ!」

 

前言撤回…やっぱ全っっ然可愛くねぇ!

 

 




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