蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「さっさと謝らんかいボケがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「今日は球技大会の種目毎のメンバーを決めるわよー」

 

ヒヤヒヤものの文化祭を乗りきり、その後の中間テストも無事に終わり、今度は球技大会。

 

二学期は本当に行事が多い。

 

しかもこれが終わってまたしばらくすればまたテストだ。

 

眼が回るくらい忙しい。

 

しかし…球技大会か…

 

「今年の種目はこれね」

 

黒板に書き出された種目は、男子が野球とバスケ。女子はバレーとバスケ。

 

このどちらかに絶対にメンバー登録をしなければならない。

 

当然、控えとなることになる奴も一定数出来ることになってしまうわけだが。

 

だがしかし、そこに俺は活路を見いだしている。

 

「蒼。まさか補欠になって出ない…とか考えてないよね?」

 

考えてます。

 

「まあ、補欠で出番が少なければ眼のこともバレないだろうけどさ…いいの?」

 

「はぁ?なにが?」

 

いいもなにも、それが最良の手段なのは明白だろう。

 

「岩沢さんに言われたんでしょ?眼のこと気にしなくてもいいってさ」

 

「それは…そうだけど…」

 

そう言われ、俺の思っていることを全部ぶつけても、岩沢はその言葉を曲げなかった。

 

俺は悪くない、そう言われたことが何より嬉しかった。

 

でも…

 

「それでも、むやみやたらに見せびらかすもんじゃねえだろ」

 

「…ま、いいけどさ。隠せるかどうかはまた別の話だしね」

 

「…?」

 

「おーい柴崎、お前野球やんね?」

 

悠の意味深な台詞に首をかしげていると、日向が勧誘にやってきた。

 

そういえば野球やってたって言ってたっけ?

 

「いいけど、俺補欠にしてくれ」

 

「は?なんで?」

 

俺の申し出を受けて、困惑しながらそう訊いてくる。

 

とりあえず適当な理由でもつけとくか。

 

「球技苦手なんだよ」

 

「えぇ…まあいいか…千里は野球どうだ?」

 

「いいよー」

 

「よっし、んじゃ今日から放課後練習な!」

 

「は?」

 

「え?」

 

唐突な日向の提案に俺と悠二人して目を点にする。

 

「いや、なにも球技大会くらいで練習なんて…」

 

「やるからには勝たねえとつまんなくね?」

 

「俺、球技、苦手…」

 

「苦手だから練習すんだろ…てかなんで片言?」

 

俺と悠の抗議もまるで効果なく、どうやら回避する術はないらしい。

 

…まあ、練習の段階で下手くそだって印象付けられれば出番も減るか…

 

「しょうがねえなぁ…あ、でも部活は?」

 

「ゆりっぺにはちゃんと言ってあるって」

 

普段はアホなくせにこういう時だけは手回し早いな。

 

「よーし、んじゃとっととメンバー決めて練習に行こうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ軽くキャッチボールから始めっか」

 

あのあと日向は有言実行と言わんばかりにさっさとメンバーを集めて、うきうきと少し離れたところにある公園へと場所を移した。

 

ここならそれなりの高さまでのフェンスも張られているし、まあそうそう危険なことにはならないだろう。

 

「ほれ、グローブ取ってけー」

 

このグローブやらバットやらは全部学校の備品で、ゆりの口利きによって借りられたらしい。

 

「柴崎は俺とな」

 

「ん?おう」

 

てっきり音無とやるんだろうと思っていた日向から声をかけられて微妙な返事をしてしまう。

 

「苦手なんだろ?俺経験者だからさ、ちっとコツとか教えてやんよ」

 

あ、そういうことにしてたな。

 

「ありがとな。でも壊滅的に下手くそだから後悔するなよ」

 

「なんで自信満々なんだよ…まあいいや。ほら、とりあえずちょっと距離取ろうぜ」

 

そう言って離れていく日向に合わせて俺も距離を取る。

 

「こんなもんだな。よーし、いくぞー」

 

「おー」

 

シュッと綺麗な回転のかかった、非常に受け手に優しい球を放ってくる。

 

だが悪いな日向…そんな心遣い、俺には通用しないぜ。

 

「あ」

 

グローブの先に当てて落球させる。

 

「マジで苦手なんだなー」

 

「ああ、悪いー」

 

「いいっていいってー、ほら投げ返してこーい」

 

だが、そんな程度じゃ終わらないぜ…

 

「よいしょー!」

 

勢いの良い掛け声とともに思いきり地面にボールを叩きつける。

 

三回、四回とバウンドしたところで日向のもとにたどり着いた。

 

「……よっし、お前補欠」

 

「だろうな」

 

そのためにこんな無様な姿を晒しているんだから、そうでなくっちゃ困る。

 

まあこれでそうそう本番で出番は来ないだろ。

 

「まさかこんな運動音痴とはなぁ…」

 

いつの間にか近くに寄っていた日向がしみじみとそう口にした。

 

「昔から球技は駄目でな」

 

嘘です。昔野球部を野球で、サッカー部をサッカーで、バスケ部をバスケで圧勝しました。

 

「走ったり泳いだりは普通なのにな」

 

「ボールが来ると慌てちまってさ」

 

嘘です。めっちゃくっきり見えるんで慌てることとかまず無いです。

 

「まあ柴崎ってメンタル弱そうだもんな」

 

「…まあな」

 

これは本当です。ていうかなんて言い草だこの野郎。

 

「ま、他のやつの動きを見るってのも練習になんだぜ?ほら、音無とか結構いい線いってるし」

 

「ふーん」

 

「藤巻と大山も結構上手いな」

 

「悠は?」

 

音無とキャッチボールしているのにさらっと省かれてたんだが。

 

「あー…アイツなんか手ぇ抜いてるだろ。つーかやる気なくね?だからよく分からん」

 

「本当すみませんうちの子が…」

 

と言っている俺もわざと運動音痴に見せかけているんだが。

 

「そろそろ次の練習にしたら?飽きるだろ皆」

 

「ん、それもそうだな。おーし、皆ーノックやんぞノックー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ノックを終え、皆のポジション適正なんかを見極め、無事俺の補欠も決まった。

 

「んじゃあ最後に締めでバッティング練習すっか。音無頼むな」

 

「ああ」

 

日向に促されて音無がマウンド(の体の場所)に向かう。

 

日向曰く、コントロールが良いからピッチャーで、らしい。

 

ちなみに悠がキャッチャーなのだが、今日は防具を用意していないのでキャッチャー無しでやることになった。

 

「じゃあ好きなやつから打ってけよー」

 

「よっしゃあ!まずは俺がぶっとばしてやるぜ!」

 

意気揚々とバッターボックス(の体の場所)に向かう藤巻。

 

やっぱり皆バッティングは一際楽しいのか、俺も俺もと率先して練習していた。

 

そして、何回りかした後、音無がこう言った。

 

「日向はいいのか?」

 

「俺もやっていいのか?」

 

「何言ってんだよ、当たり前だろ」

 

「完全に今回は教える立場だと思ってたわ。そんじゃま、お言葉に甘えて…と」

 

転がっていたバットを手に取り、打席に立つ。

 

しっかりと完成されているバッティングフォームだけを見ても、やはり素人軍団の俺たちとは一線を画しているのが分かる。

 

「よし、いくぞ」

 

「こいやぁー!」

 

シュッ、と放られたど真ん中絶好球。

 

そんな球を捕らえられないわけはなく、もちろん芯を食い、腰から回転し、振り抜く。

 

打球は高く、綺麗な放物線を描き……フェンスを越えていった。

 

ガシャーーン!!

 

「「「「………………」」」」

 

けたたましい音が耳に届いた瞬間、俺たちの間に重苦しい沈黙が流れた。

 

「何やってんだよ!そんな思いきり打つことねえだろ!!」

 

「お、俺だってあんな飛ぶと思わなかったんだよー!!俺ホームランバッターじゃねえし!」

 

「お、俺しーらね!」

 

「俺もー!」

 

「あぁー!お前らぁ!」

 

俺と日向で口論している隙をついて仲間たちが逃走していく。

 

そいつらが走り去っていった虚空に手を突きだして呆然としている日向。

 

……よし、俺もこの隙をついて逃げよう。

 

俺の中の良心は激しく痛んだが、しかし今どきこんなカ○オみたいなことで叱られるのはごめんだ。

 

そう決心し、忍び足で逃走を謀ったのだが、がしっと肩を掴まれた。

 

遅かったか…

 

諦めて後ろを振り向くと、日向が今にも泣きそうな顔をしていた。

 

これは今から叱られるのが嫌で泣きそうなのか、それとも仲間たちにあっさりと見捨てれたからなのか…

 

「しばさきぃ~頼むよぉ~見捨てないでくれよぉ~!」

 

「はぁ…分かったよ…」

 

「音無までいなくなってるのを見たときはどうしようかと思ったぜ…」

 

薄々感じてはいたけど、音無は日向にだけは容赦ないよな…

 

「まあ…謝るのにそんな人数で行ってもなんだしな。とにかくボールが飛んだ家に行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公園を出てすぐの、打球が直撃した、一軒家の前に着く。

 

中々立派な佇まいの家で、ここの家庭がそれなりに裕福なことが窺える。

 

そして、日向は緊張した面持ちでその家のインターホンの前に立ち尽くしていた。

 

「……なあ、もしさ―――「嫌だ」

 

「何でだよぉ?!俺まだ用件伝えてねえだろ!?ホワァーーイ!!?」

 

またホワってる…

 

「いや、この場面でその切り出し方とか、ろくなことじゃねえだろ」

 

「べ、別にそんなことねえよ!」

 

「なら言ってみろよ、なんて言おうとしたのか。ほれ、ほれ」

 

「そ、その……もし弁償になったら…一緒に払ってくんね?」

 

「ろくなことじゃねえじゃねえか!!」

 

「しゃあねぇじゃん!!もう小遣いねえんだよ!!俺の母ちゃん超金にう――――「るっさいんじゃボケぇぇぇぇぇ!!!」

 

口論の最中、日向の顔面めがけ一筋の白い線が駆け抜けた。

 

綺麗なバックスピンのかかったそれはまさしく俺たちの使っていた軟球そのもの。

 

「がふっ?!」

 

鼻っ柱に軟球が直撃し、衝撃で地面へとぶっ倒れる。

 

その軟球が飛んできた方向を見ると、謝り来た一軒家の玄関の扉が開かれて、一人の少女が立っていた。

 

ピンク色の髪をたなびかせ、目端をつり上げて、こちらを睨み―――

 

「さっさと謝らんかいボケがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

謝罪を要求した。

 

……うん…やっぱ逃げよ……

 

 




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