蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「あるぞ、新曲」

2学期が始まりもうそろそろ2週間が経った。

 

この時期になるとうちの学校が忙しなくなってくるのが

 

「じゃあ文化祭の出し物を決めるわよー」

 

そう、文化祭。

 

うちはそれほど文化祭に力を入れてはいないので、恐らくは出し物もそう苦労はせずに終われるはずだ。

 

「ていうかめんどくさいからあたしが決めるわよ?定番のメイドカフェ…だけじゃつまらないわね…うーん、あ、メイド執事カフェで決定ね。異論は認めないわよ?」

 

ほらな…クラス委員長のゆりが横暴かつ適当ですもの…

 

「仲村さんが決めたなら仕方ないか…」

 

「逆らえるわけないもんな…」

 

「諦めよう…むしろあの人に忠誠を誓うことを悦びに変える力を手にしよう…」

 

クラスメイトもこの悟りっぷりだ。

 

いやもう本当…清々しいほどに誰も歯向かうことが出来ない。

 

本来なら一生徒の横暴を止める立場であるはずの先生は…

 

「あさはかなり」

 

これしか言わないしな…

 

「役割も勝手に決めて後日プリント配るから今日はもう授業終わり、解散でいいですよね椎名先生?」

 

「あさはかなり」

 

「OKかいさーん」

 

あさはかなりから何故肯定の意と受け取れるかは不明だが、本当にこの言葉を合図に今日は授業終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、分かってるとは思うけれど、あたしたちの本番はこっちよ」

 

かなり早くに出し物決めを終えたうちのクラスの奴ら以外が集まるのを待ってからゆりが話し出す。

 

「あたしたちSSS部の出し物は、もちろんガルデモのライブ。各クラブにつき出し物は1つだから、このライブに全力を尽くすわよ」

 

「はい、質問」

 

「何かしら柴崎くん?」

 

「舞台発表なら一応有志での参加も可能ってなってるはずだけど、ライブだけでいいのか?」

 

うちの学校は、展示、出店、舞台発表等の中から各クラブ、クラスにつき1つしか参加は出来ないが、舞台発表のみ例外として有志での参加が認められている。

 

ゆりのことだからライブは有志として参加し、他に何かしらの出店なんかをするだろうと踏んでいたのでふと疑問を感じたのだ。

 

「ただでさえクラスの出し物もあるし更にもう1つ…なんてしたらどれも中途半端になってしまうでしょ」

 

「それは…そうか」

 

だが、ゆりなら…というか、このクラブの目的を考えると、それも青春のうち、と言うのではないかと思っていた。

 

「それに、岩沢さんとひさ子さんとの約束でもあるのよ」

 

「約束?」

 

「ああ、あたしたちが入る代わりに文化祭ではあたしたちをメインに動いてくれって頼んでたんだ」

 

俺が聞き返すと、その答えはひさ子が引き継いで話してくれた。

 

そんな約束があったのか。なら、納得だ。

 

「他に質問がないならとりあえず今日は話は終わりよ。各々青春を謳歌しなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?柴崎くんのとこはメイド執事カフェなの?!」

 

ゆりの号令で皆談笑したり身体を動かしたりと好きなことをしに行った。

 

が、俺たちはもちろん文化祭に向け練習…と、その見学。

 

今は休憩を兼ねて文化祭のことについて話している。

 

「ということは岩沢さんやひさ子さんのメイド服姿が…!ゲヘヘヘ…」

 

「大山さんの執事姿……」

 

俺たちのクラスの出し物を聞いただけでこの反応の違いよ…

 

片や乙女らしく恋人の凛々しい姿を思い浮かべてのうっとりとした表情。

 

片や性犯罪を犯す直前の38才童貞のような下卑た表情。

 

同じ女子でなぜこんな差が…

 

「柴崎さんと音無さんの執事……!」

 

そして約1名男が混じっているが、しかも入江と似た表情だが、こちらはスルーが得策だな。

 

ていうかまだ誰が接客するとか決まってないから。

 

「関根たちは何するんだ?」

 

「あたしたちはおばけ屋敷!」

 

「おばけ屋敷って…入江さん大丈夫?」

 

そういえば入江はおばけとか苦手だったな。

 

肝試しの時もかなり怯えてたし。

 

「さ、さすがに自分たちで作ったものくらいなら平気です……多分」

 

最後にとても不安の残る一言が付け足されたが、まあ大丈夫だろう。

 

あくまで文化祭の範囲でしかないわけだし、そんな本格的なものは作れないはずだ。

 

「しかし大変だな。クラスの方も手伝わないといけないのに、バンドの練習もなんてな」

 

「んー、そうなのかな?あたしはどっちも楽しみでしょうがないけどなぁ~」

 

「はっ、楽しみ…か」

 

関根がこちらの心配を吹き飛ばすようなことを言ったかと思うと、それを鼻で笑う直井。

 

「なんだよ?何かあんのか?」

 

「いえ、楽しめればいいな、と思っただけですよ?」

 

いや明らかにそんな前向きなことを含んだ笑いかたじゃなかったんだけど…

 

「まあいいけどさ…でも、大前提として、練習時間って足りんのか?」

 

「だよね。クラスの手伝いしてたら遅れちゃうし」

 

「まあ、そうは言ってもあたしたちはかなり完成度高いっすからなぁ~新曲でもない限りそんなに―――「あるぞ、新曲」

 

「へ?」

 

「あるっていうか、出来た」

 

なんでもないことのようにさらっと言い切る。

 

この間悩んでたやつが今出来たんだろう。

 

「でも、まさか文化祭でやらないっすよね?」

 

「やるよ。そのために間に合わしたんだから」

 

「あ、あはは…が、頑張りま~す…」

 

ま、多少楽できるだろうとか思ってたんだろうなぁ。

 

関根、南無三。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、放課後の時間を使って文化祭の準備の係決めを行うことになったわけですが…

 

「衣装係かぁ」

 

「私もだけど…しおりん指に怪我とかしないでね?」

 

本当はおばけ役をやりたかったんだけど、まさか衣装係にされるとは…

 

「頑張ろうね~」

 

「皆必死に作るんだからサボろうとかしないでよ?」

 

「そうそう、家でもやらないと終わらなさそうだし~」

 

あくまで冗談ですよ~って言いたげな調子で笑いかけてくるあーちゃんたち。

 

でも分かる。これはただの嫌がらせだ。

 

あたしたちがバンドの練習があるのを知ってて、一番仕事量の多いこの係になるように仕組まれたんだ。

 

こういうめんどくさい手で来られるならいっそ無視の方がマシだったかも…

 

「ちょっと!直井くんなんで帰ろうとしてるの!」

 

あーちゃんたちに合わせて笑顔を作ってると、教卓の方からクラスメイトの怒声が聞こえてきた。

 

「下らん。こんなの僕に関係ないじゃないか。やりたい奴らでやっていろ」

 

好き放題言ったあげく、帰ってしまった。

 

あー、面白いなぁ直井くん。本当その感覚大好き。先生が既に諦めてて干渉しようともしないのもポイント高ーい。

 

「うっわー、ないわー」

 

「何様なんだろね?」

 

「やっぱ関わりたくないわ」

 

でも、でも出来れば今はやめてほしかったよぅ!

 

こういう些細なことでどんどん針のムシロになってくのにぃ!

 

「まあいいや。とりあえず採寸とかやっちゃおっか。しおりーよろしくー」

 

「あ、あたし?」

 

「そうよ、いいでしょ?別に誰でも」

 

「ま、まあねー!」

 

誰でもいいなら自分でいけばいいのに!と、まあ心の中だけで留めておく。

 

あんまり事は荒立てない方がいいもん、絶対。

 

みゆきちも心配そうにこっちを見てたから、視線で大丈夫だと訴える。

 

下手に庇われてみゆきちがターゲットにされるよりマシだもん。

 

「それじゃあおばけ役の人じゃんじゃん来てー!あ、何のおばけがいいかも一応聞くよーん」

 

我慢我慢!たった1ヶ月の辛抱だもん!

 

 

 




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