蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「直井くんはあたしのものだからさ!」

随分と長く感じた夏休みは終わり、今日から2学期が始まる。

 

教室には少し肌が焼けていたり、急に髪が染まっていたり、やたら化粧がケバくやっている奴なんかもいた。

 

変化の時期…ということなんだろうな。

 

『でー、ありまして、夏休み気分はここで断ち切り…』

 

変わらないのは校長の長話だけ…か。

 

 

 

 

 

 

 

「うぉ~…あっつい!直井くん、あっついよぉ!!」

 

未だ衰えることのない猛暑の中、校長先生の長話でぐったりしてるので、教室への帰り道でしょうがなく、しょうがな~く直井くんに抱きつく。

 

これは致し方のないことなのである…残暑め…憎い!あたしは残暑が憎いよぅ!

 

「暑いなら離れろ!余計に暑苦しいわ!!」

 

「直井くん冷え性だし」

 

「そんなの関係あるか!」

 

ぶんぶんと体を揺らしてあたしをふるい落とそうとする。

 

しかし舐めてもらっちゃ困る…あたしだってプライドがあるのさ…プロハグラーとしてのプライドがね!

 

「しおりん離れてあげなよ~…」

 

「あらみゆきち、あなたも抱き心地が良さそうね!頂くわ!」

 

「きゃっ、ちょっと今日は何キャラなのそれ?」

 

プライド?何それみゆきちより美味しいの?

 

否!断じて否ぁ!!

 

「やっと離れたか…」

 

するとあたしが離れた隙をついて直井くんは早足で教室へと向かってしまう。

 

「直井くん…!直井くん、カムバーック!!」

 

「人の名前を大声で呼ぶな、この痴れ者め!」

 

「ガーン!」

 

ショック…しおりん大ショックだよ…直井くんにそんな風に思われたなんて…

 

「しおりん!いい加減離してよぉ~!」

 

「ええい!人の名前を大声で呼ぶな、この痴れ者め!」

 

「なんで?!」

 

ふふーん、1回言ってみたくなったんだなぁ、これが。

 

むむん…しかし直井くんとの距離は中々縮まりません…しおりん、ピンチ…

 

「ね、ねえしおりちゃん」

 

「ん?なにあーちゃん」

 

頭を悩ませていると、クラスメイトの秋田熱海ちゃん、通称あーちゃんが声をかけてきた。

 

「直井くんと、なんでそんなに絡んでるの…?」

 

「んー?」

 

よく分からない質問に首を傾げる。

 

「だって、直井くんって、確かに顔は格好いいけど、口は悪いし、なんかずっとあたしたちのこと見下してる感じしない?」

 

「あ、分かるそれ」

 

「ちょっと怖いよね~」

 

あたしたちの会話が耳に入ったようで次々とクラスメイトの子達が同意と共に会話に参加していく。

 

「ふむふむ、確かにねぇ…仏頂面だしねぇ」

 

「ずっと眉間に皺寄ってるよね」

 

まあまあ、直井くんの普段の態度だとこういう評価になりますわな~。

 

「で、でも直井くんだっていいところもあるんだよ?」

 

「おっとみゆきち、彼氏持ちの身で直井くんにまで唾をつけるつもりかい?」

 

「ち、違うよ!」

 

ふふふ、ちょっとからかっただけでこの反応…ういやつよのぅ。

 

「分かってる分かってる。直井くんはあれで意外と面倒見いいしね。なんだかんだあたしの相手してくれてるし~」

 

あれ?これはもしかしてあたし狙われてる?!しおりんまさかの違う意味でピンチ?!

 

「でもさぁ…ねぇ?」

 

「うん…」

 

あたしとみゆきちの直井くんのフォローを聞いたあーちゃんたちは、苦い顔で互いに目を合わせていく。

 

これは…嫌な予感…

 

「直井くんとはあんまり関わらない方が…いいんじゃない?」

 

…うわぁ。

 

「だよね…だってしおりに何かあってからじゃ遅いしさ」

 

あー…やばいやばいやばい…この流れはマズイ…

 

「そうだよ、なんの拍子にキレるかわかんないよ?」

 

「だ、だから、直井くんはそういう人じゃないよ?」

 

「分かんないじゃんそんなの。ただでさえ変な感じだしさぁ」

 

「分かる。初めの自己紹介も意味わかんなかったもんね」

 

みゆきちがなんとか流れを止めようとしてくれるも、あっけなく撃沈。

 

これは暗にこう言っているんだ。

 

『これ以上直井くんと関わるならハブる』

 

これは…困った…

 

想像しなかったわけじゃない。あれだけ浮いてる人にあれだけしつこく絡んでいれば、いつかはあたし自身が浮いてしまう。

 

けど、あたしがしっかり周りに関係の基盤を作っていればそこまで問題にならないと思っていたのに。

 

実際問題なかったはずなんだけど、これが噂に聞く2学期に急に人間関係が変わるあれ、なのかな?

 

それか直井くんの嫌われかたが尋常じゃなかったのか。

 

もしくは…あたしの関係の作り方が甘かったか。

 

しかし…あー、ハブられるのとか勘弁…ようやく転勤なんかも無くなって、安心して本当の友達を作れるようになったのにさぁ。

 

でも…なんでなんだろう?

 

直井くんを諦めたくないんだ。

 

初めは、放っておけなかった。

 

それが次第に、本当に仲良くなりたくなってきた。

 

これは恋心とか、そういう類いのものじゃないけど、直井くんは手放しちゃいけない気がするんだ。

 

だから…

 

「大丈夫!皆のしおりんはそう簡単にやられたりしないさ!」

 

「そういう意味じゃ――「ノープロブレム!」

 

喋らせない。これ以上直井くんの悪口も聞きたくないもんね!

 

「直井くんはあたしのものだからさ!」

 

ぐっ、と親指を立てておまけにウィンクもかます。

 

「…意味分かんない。行こう」

 

「あ、うん…」

 

「じゃ、じゃあね」

 

捨て台詞を残してさーっと去っていってしまう。

 

まあ意味分かんないのは当たり前だね。意味ないし!

 

「しおりん…」

 

「みゆきち…」

 

そんな心配そうな目で見ないでよ…ほらほら、涙まで出てきそうだよ?

 

「こんな風に見つめ合ってたらあたしたちの関係怪しまれるよ?」

 

「~~~っ!もう、茶化さないで!」

 

「あーんみゆきち置いてかないでぇ!」

 

怒ってるみゆきちも可愛いけどね!

 

なんて…まあ、みゆきちがいればあたしは無敵だから大丈夫大丈夫。なんたってあたしの初めての親友だもん。

 

それに今は岩沢さんにひさ子さんに、SSSの人たちもいる。

 

だから、大丈夫。

 

そう言い聞かせる2学期の始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん、あの馬鹿め…」

 

 

 

 

 




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