蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「のぶ代先輩」

「今日あなたたちに課す試練はこれよ!」

 

部室にガルデモとマネージャー勢全員が集まると、唐突に仲村が何かをホワイトボードに書き出し、それを強調するようにバンっ!と叩く。

 

そこにはでかでかとこう書かれていた。

 

ドキッ!男女同数のペアシャッフル大会☆

 

……とりあえずいくつかツッコミ所があるんだけど、まず訊かなきゃいけないのは…

 

「なんでシャッフル?」

 

「いいところに目をつけたわね岩沢さん!」

 

ビシッ!と岩沢に向け指を指す。

 

いやいや、むしろそこに気づかず何に気づけと?

 

まあ岩沢がまともな指摘をしたのは俺もビックリだけど。

 

「端的に言うと、あなたたちのその消極的な姿勢が問題なのよ」

 

「消極的だぁ?どういうことだゆりっぺ」

 

「つまり、青春をしよう!って姿勢が足りないのよ。特に藤巻くん、あなたのペアはね」

 

「うぐっ」

 

もちろんひさ子さんもよ。と逆に怖い笑顔と共にきっちり指摘を忘れない。

 

それを受けてそっぽを向いたひさ子の態度からも、二人ともにそういう自覚があったのだろう。

 

「他の組はそうね…基本的には積極的に交流をしてるわ。まあ片方だけが熱烈アプローチってパターンばかりで、もう一人は応えるつもりがあんまり無さそうだけど。だから…この企画よ!」

 

そう言ってまたもやバンっ!とホワイトボードを叩く。

 

「これで1度他の組み合わせを試してみるのよ。それでそっちの方が何かが起きそうなら、もしかしたらペア変更…なぁんてこともあり得るかもしれないわね」

 

「「えぇぇぇ?!」」

 

ガタガタっと慌てて立ち上がったのは岩沢と入江だった。

 

岩沢がオーバーリアクションを取ってる理由は大体見当もつくけど…入江はどうしたんだ?

 

「なにか問題あるかしら?」

 

「ある!ありまくる!柴崎と離ればなれになるなんて耐えられない!!」

 

「クラス一緒でしょあなたは。で、入江さんは?」

 

「わ、私は…その…えっと…せ、折角大山先輩に対して人見知りも無くなってきたので…その…」

 

「また1からやり直すのは大変ってことね。でも入江さん、人見知りを直すのはこれから先役に立つはずだし、悪い話ではないはずよ?」

 

「……は、はい…」

 

異議に対して間髪を入れず対応。それでいて全く反論させるつもりはない口調

 

流石はこの個性の塊の塊をまとめているリーダーなだけあるな…有無を言わさない何かがある。

 

「まあとりあえず1日お試しってだけだから気負わず、気楽にいきましょう!じゃあさっそ…」

「待て!」

 

「ん?何かしら直井くん」

 

「それは…僕が柴崎さんとペアになれるのか?!」

「なれるわけねえだろ」

 

膝から崩れ去る直井を放置して仲村は上機嫌に「さ、くじ引いて~」とくじを差し出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、俺のパートナーが…

 

「何ジロジロ見てんだよ?」

 

「ああいや悪い、何でもない」

 

…ひさ子、か。

 

まあ岩沢とか関根に比べたらすげえ楽だよな。なんだかんだ常識人だし。

 

「しかしゆりのやつ、面倒くさい企画を考えたもんだ」

 

「嫌だったのか?」

 

「逆に訊くけど、あんたは嫌じゃないのか?」

 

「別に?ひさ子なら話しやすいしな」

 

むしろ岩沢以外となら大体話しやすいし。

 

岩沢とだと会話にならないことが多々あるからな…

 

「……あ、そう」

 

なんで不機嫌になってんだ?

 

「で、ひさ子はなんで嫌なんだ?」

 

「あたしが嫌なのはペアを変えるってとこじゃなくて、これのせいで今日は練習無しなのが嫌なのさ」

 

「ああ、なるほど」

 

むしろあの馬鹿と離れられるなら今日みたいにずっとシャッフルしていたいぜ!と、やけくぞ気味に吐き捨てるひさ子。

 

本当藤巻のこと嫌ってるんだな…

 

「じゃあ利害一致ってわけか」

 

「…まあ岩沢の親友としては癪だけど、そうなっちまうかな」

 

「あれ?お前岩沢のこと応援してるの?」

 

「はあ?当たり前だろ、親友の初恋だぞ」

 

いやまあそうなんだけど…

 

「岩沢なら俺よりもっといい奴に惚れるべきと思わないのか?」

 

「…………お、オモワネエヨ?」

 

思ってたな。確実に思ってたな。

 

「ち、違うんだって。そりゃ初めはなんだこの目付きの悪い男はって思ってたけど」

 

俺のジト目を受けて必死に弁解を始めているのだろうけど今のところ完全に悪口になっている。

 

俺のメンタル弱いの知らないのかなこの子?

 

「でもだな、最近はあたしもあんたのことは認めてるんだぜ?」

 

「どこら辺を?」

 

「えっ」

 

「だからどの辺をだよ」

 

「…岩沢のあしらい方、とか」

 

「そんなとこ認められたくねえよ」

 

もっと他になかったのかよ…ていうか、そんなことだけで認めていいわけ?ガード緩くないですか?

 

「いやいや大事なんだぜ?特に岩沢にとってはさ」

 

「あしらい方がか?」

 

「ああ。考えてもみなよ、あの岩沢の奇行を受け止められる奴がどれくらいいる?」

 

「…………」

 

確かに。

 

「外見だけに惹かれて寄ってきた軟派者じゃあまず無理だ。かと言って、深く知ってから好きになるってのも岩沢相手だと少し難しい」

 

「ああ…なるほどな…」

 

ここにきて効いてくるわけだ。アイツの音楽キチという特性が。

 

ただでさえ普通にしてりゃルックス完璧な美少女。それもどこかカリスマ風なオーラを漂わせている。

 

これは話しかけるのにも相当勇気がいる。

 

そしてそれだけでなく、音楽キチのアイツに話しかけたところで…

 

『え?うーん…興味ないな』

 

ここら辺が関の山だろう。下手をすれば反応なし、なんてことも多いに考えられる。

 

岩沢をよく知っている奴なら、コイツまた音楽のことで頭いっぱいか。と理解を示せるが、そうでない相手なら無視されたと思うだろう。

 

なんつー攻略難易度だよ…

 

「な?だから柴崎みたいな相手は貴重なんだ」

 

「だからってなあ…俺が本当はすごい駄目な奴かもしんないぜ?」

 

「あー、それはまあ大丈夫だ」

 

「え?なんで?」

 

「それは…ヒミツだ」

 

そう言って唇に人差し指を当てるひさ子に俺は思わず見惚れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

……つまらん。

 

「~♪~♪」

 

くじで決まったペアで各部屋に隔離されてからずっとこの女はこんな調子でギターを弾いている。

 

そうなると必然的に僕はそれを見るだけということになってしまう。

 

いつもならバンドの練習をしているコイツらを尻目に柴崎さんとお話が出来るというのに…!

 

それでなくともあの金髪馬鹿なら……いや、いやいや、あの馬鹿より酷いわけはないな。アイツが一番厄介で邪魔くさい。

 

少しでもアイツの方がマシだと思いかけた過去の僕を殴り飛ばしてやりたい。

 

しかしだ、そう思いかけてしまうのにも無理はないだろう。

 

なにせ相手が相手だ。

 

この女、岩沢雅美はあろうことかあの神々しくも決して驕らない、僕にとって音無さんと双璧をなす二大恩人の柴崎さんのことを好きだとぬかしているらしい。

 

ありえない。

 

こんな音楽しか取り柄のないような女と柴崎さんじゃあ釣り合いがまるで取れていない。

 

柴崎さんもいつもいつも言い寄られては迷惑そうにしている。

 

…そうだ!ここでコイツを諦めさせられれば柴崎さんもきっとお喜びになるはず!

 

「おい」

 

「~♪~♪~♪」

 

「…おい」

 

「~♪~♪~♪~♪」

 

「おい!この僕から話しかけてやっているんだ!反応しろこのうすのろ!」

 

「ん?あたし?」

 

貴様以外誰がいるというんだこの間抜けめ…!

 

「あまり僕をイライラさせるな」

 

「イライラしてるのか?なんでだ?」

 

「貴様のせいに決まっているだろ!」

 

「え?あたし?」

 

何回言えば分かるというんだコイツ…!

 

いかん、このままではコイツのペースに飲まれてしまう。

 

平常心…平常心…

 

「で、何?あたし早く作業に戻りたいんだけど」

 

「貴様のせいで進まないんだこの間抜け!」

 

「え?あたし?」

 

「その反応はもういい!」

 

なんだこの何を言おうが響かない感覚は…!?

 

ものすごく腹立たしい…!

 

「本題に入るぞ!貴様、柴崎さんのことは諦めろ」

「ごめんそれは無理だ」

 

早いな…ここだけやけに…

 

まあいい。この程度で諦めるとも思ってはいない。

 

「貴様では柴崎さんに釣り合わん。潔く身を退け」

「ごめん無理だ」

 

「…どうせ貴様は大して本気じゃないんだろ?柴崎さんの迷惑になるからあきら…」

「無理だ」

 

「柴崎さんだってお前のことなんて相手にしていな…」

「無理だ」

 

「おま…」

「無理だ」

 

「ええい!遮るな!」

 

なんなんだコイツは?!どんどん食い気味に僕の台詞を邪魔してくる!

 

「話がそれだけならもういい?今いいところなんだけど」

 

「まだだ!」

 

「まだあるのか?」

 

何故僕の方がやれやれみたいな顔をされなきゃならんのだ?!

 

「第一、貴様は出会って早々に告白をしたそうじゃないか?そんな貴様に柴崎さんの本当の良さが理解出来ているはずがないのだ!」

 

「出来てるよ」

 

「ほう…その言葉が本当なら今ここで柴崎さんのどこが好きか語ってもらおう」

 

「分かった。まず…」

 

※ここから先は前々回話した柴崎という概念云々の話が続きますので割愛させて頂きます。

気になる方は「相棒の恋」を参照してください。

 

「……………!」

 

コイツ…出来る…!

 

「そういうあんたこそ柴崎のどこが好きなの?」

 

「ふん、良いだろう。特と聞かせてやろう。僕の敬愛を!!」

 

※大変申し訳ありませんがこれまた同じようなことを言っているのでまたも割愛させて頂きます。

 

「やるな」

 

「貴様もな」

 

こうして僕たちの間に何か不思議な絆が生じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ど、どうしよう~…

 

「………………」

 

会話が無いのも気まずいけど、それ以上に…

 

「あん?」

 

怖いよぉ~!ちょっと見ただけで睨まれるなんて…

 

なんでよりによって藤巻先輩なの~…?

 

目付きも喋り方も怖すぎて苦手なのに…

 

それに…初めて全員で集まった時にひさ子先輩を殴ろうとしたことも忘れてない。忘れられない。

 

あの時柴崎くんが止めてくれなかったら、ひさ子先輩がどうなってたか考えるのも怖い。

 

それと、すごくムカついちゃう。

 

しおりんに胸を揉まれた時よりよっぽど腹が立つ。

 

だから一番苦手。

 

「おい」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

こ、声が裏がえちゃった…しかも噛んじゃったし…もう嫌…

 

「…そんな怯えんなよ。なんもしねえっつーの」

 

「…え?」

 

「不思議そうにされても困るっつーの。なんもしてこない奴にはなんもしねえ。ったく、たりぃ…」

 

本当に嫌気が差してるみたいに首を鳴らしながら顔をしかめている。

 

本当かな…?でも、だとしたら…

 

「ひ、ひさ子先輩には…殴ろうと、しました…よね…?」

 

「…あ゛あ゛?」

 

「ひっ!」

 

「…いや、悪い…てめえの言う通りだ。どうもアイツの名前が出るとな…」

 

一瞬これまでになく威圧的になった態度もすぐに消えて無くなる。

 

今度は…辛そう?

 

「後悔…してるんですか?」

 

「後悔?あー…さあな。俺はアイツにも悪いとこがあったと思うぜ」

 

「た、例えば…?」

 

「アイツは分かってて挑発してきたんだよ。俺があんなこと言われりゃキレることを」

 

つまり殴らせようとしたってこと…?

 

そんなことあるのかな?

 

…私じゃ無理。どんなに必死になってても殴られるのは怖いよ。

 

「だから謝らねえ」

 

「……………ふふ」

 

「ああ?んだよ?」

 

「あ、いえ、すみません」

 

「別に謝ってほしいわけじゃねえんだけど」

 

「そ、そうですよね」

 

「ああ、で、なんだよ?」

 

「いえ、ただ…」

 

私から謝って欲しいだなんて一言も言っていないのに謝らないって言っていた。

 

それは多分本当は謝らなきゃいけないって分かってるし、これは私の勝手な思い込みだけど、本当は謝りたいって思ってるんじゃないかな…って思ってしまった。

 

「ただ?」

 

藤巻さんは悪ぶってるだけで、本当はそんなに悪い人じゃないんじゃないかな?

 

一言で言うなら…そう。

 

「なんちゃってヤンキーだなぁって」

 

「あ゛あ゛ん゛?!!」

 

「ひいっ!!すみませんすみません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にゅっふっふー。

 

呼ばれてないのにじゃじゃじゃじゃーん!待たせたね皆の衆!

 

いや、ここは某傭兵さんに習おうかな?

 

待たせたな(激渋ボイス)

 

にゅふ、にゅふふふ。

 

なんでこんなにあたしがハイテンションなのか知りたいかね?知りたいよね?んー、しょうがないにゃあ。と・く・べ・つだぞ?もう。

 

何を隠そう今回のシャッフル企画を提案したのはこのしおりんなのだよ!

 

ゆりっぺパイセンは何かとあたしたちをくっつけようとしてるから懐柔するのに手こずらずに済んだのさ!

 

これもみゆきちの恋路のためなんです~よよよ~って言ったらとりあえずその臭い芝居をやめて跪きなさいって言われてその通りにしたらすぐに企画を通してくれたぜ!

 

え?めちゃくちゃ手こずってるやんって?ノンノン、ゆりっぺパイセンならそのまま放置が基本スペックだよ?

 

この話のどこまでが本当でどこまでが嘘かは自分で考えてね。しおりお姉さんとの約束だぞ☆

 

とにかく、ゆりっぺパイセンのお力を借り、見事あたしと大山先輩のペアを作ることに成功したというわけさ。

 

こうなればあたしのやることはただ1つ…

 

みゆきち…あとはあたしに任せな。

 

みゆきちの初恋は大成功間違いなしだぜ?

 

「のぶ代先輩」

 

「ん?なに?」

 

え?普通に反応してるけどいいの?舐められちゃいますよ後輩に。

 

「先輩みゆきちのことどう思います?」

 

「ぶはぁっ!」

 

おおう…ここまで分かりやすい反応の人中々いねえぜ…

 

「可愛いと思いません?」

 

「お…思います…」

 

わーお顔真っ赤~♪

 

ん~愛い奴よのぉ。

 

「ですよねぇ~みゆきち可愛いっすよねぇ~嫁にしたいっすよねぇ~」

 

「え、ええっと…嫁にしたいとかは分からないけど…」

 

なんだなんだ往生際の悪い奴め!

 

好きなんやろ~みゆきちのこと好いとるんやろ~?

 

まああたしの読みではまだ大山先輩は自覚してないと見てるんだけどね。

 

「けどなんです?けど…襲いたい、的な?」

 

「ち、違うよ!そんな危ないこと考えないよ!僕はもっと清らかな交際がしたいタイプだよ!って僕の恋愛願望とかどうでもいいよ!」

 

ほほーう…こりゃ益々みゆきちと相性バッチグーですなぁ。ノリツッコミまで披露してくれるなんて中々いないよこのご時世。

 

「ていうかどうしたのいきなりこんな質問?」

 

ん、ちょっと早い気もするけどまあいいよね。

 

「実はみゆきち今恋しちゃってるんですよ」

 

「……え?」

 

おうおうなんていう絶望的な顔してんだい?相手はあなた様でございますですよ?

 

だがしかぁし!ここでそれを暴露しては面白くな…げふんげふん、本当の愛は試せない!

 

今日ではっきり自覚してもらって、真の愛を掴んでもらうためにもここは心を鬼にして挑むよあたしゃ!

 

「相手は…すみませんちょっと言えないんですけどね。ただ年上で頼りがいのある人とだけ言っておきます」

 

大山先輩の性格的に頼れるとか言っておけばまず間違いなく自分のことは対象から外すはず…

 

「そ、そっか…やっぱり頼れる人がいいよね…」

 

計画通り…!

 

「せ、関根さん…?」

 

「はい?」

 

「今すごく怖い顔してたけど…」

 

「気にしないでください、定期的にゲス顔になるんで」

 

「き、気を付けた方がいいよ…女の子だしね」

 

いけないいけない。新世界の神になるところだった。

 

あたしは神になるんじゃなくキューピットになるんだから!

 

二人の恋の…ね。

 

「今度はにやけてるよ…?」

 

「乙女の嗜みです。そんなことよりみゆきちのことですよ!」

 

「そ、そうだったね。それでそれを僕にどうしろと?」

 

「みゆきちこれが初恋でどうにも告白をする勇気が持てないみたいなんですよねぇ~。なので、大山先輩!後生ですからみゆきちの背中を押してやってくだせぇ!」

 

「ええ?!僕?!」

 

「はい!この通りお頼み、お頼み申す~」

 

なぁ~んちゃって☆

 

これぞしおりん的トラップカード『ここで気づかなきゃ漢じゃねえ!』だぜ。

 

効果は相手に嫌でも自分の気持ちに気づかせる。だよ!

 

さあ、気づきなさいビッグマウンテン!あなたの心にあるその感情に!

 

そして叫ぶのです『みゆきちはわしのもんじゃぁぁぁぁ!』と!!

 

「……分かったよ」

 

「そうですその調子ですいけいけ~!……え?」

 

「僕も入江さんの告白の応援するよ」

 

「え…あ…ほ、本当ですかぁ~?嬉しい~!」

 

我ながらなんて棒読みだよ…ちっ、膝が震えてやがるぜ…恐怖でな!!

 

ど、どうしましょう…大山先輩の性格を考慮してなかったでごさるぅ~!

 

小生一生の不覚…!

 

ど、どうしよう、本当にマジで冗談抜きにどうしよう…

 

ゆ、ゆりっぺパイセン~!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ」

 

半泣きになりながら隠しカメラの向こう側にいるあたしたちに助けを求める関根さんの姿を確認して額を抑える。

 

頭が痛いわね…

 

「やはり関根さんの作戦に乗るのは間違いだったのでは?」

 

「結果的にね…」

 

まさかあんなに自信満々で『あたしに任せてください!こういうことは百戦錬磨っす!』とか言っておいてこんな愚策を披露してくるだなんて思わないでしょう、普通。

 

わざわざくじを仕組んで振り分けてあげたのに完全に裏目じゃないの…!

 

「しかもなんか他の組も良い感じになってるのはなんでなのよ?!」

 

「もしかすると本来相性がいい組み合わせなのかもしれませんね」

 

こちらでは、と意味深に呟く。

 

まあ意味深も何もない。言葉の通りなのだけれど。

 

本当にこっちでは、というだけの話だ。

 

向こうでは考えもしなかった組み合わせ。そもそも向こうでならうまくいくかも分からない組み合わせ。

 

こちらだからこそ、今だからこそ起きるこの雰囲気。

 

それは彼ら彼女らが向こうの彼ら彼女らとは同じであり、しかし確実に違う人物であることを示している。

 

それでも…

 

「それでも拘るのですよね?」

 

…ふん、見透かしたようなこと言っちゃって。

 

「当たり前じゃない。じゃないと集めた意味がないわ」

 

集めたというには運に頼りすぎているが、しかし最終的にここまで持ってきたのはあたしだという自負がある。

 

「とにかく今すぐこの作戦は終了よ。皆に伝えてきてちょうだい」

 

「了解しました」

 

「あと、遊佐さん」

 

「はい?」

 

「あたしはあなたの想いも無下にする気はないからね」

 

「……分かっていますよ」

 

「そ、じゃあ行ってきて」

 

「了解しました」

 

パタンと優しく扉が閉まる音が耳に残る。

 

さて…とりあえず関根さんにはきついお灸を据えなきゃねぇ…?

 

 

 

 




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