ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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しつこいようですが原作改変酷いです。
ご理解・ご了承のほどよろしくお願いします。


第二話 何かを成し遂げるには、計画性より大胆さの方が時として重要である。

秋葉原 某スクールアイドルグッズ専門店

 

「すんませーん、スクールアイドルのこと分かるような本とかって置いてあります?」

 

・・・なんてことを聞いてはいけない。モロにわか丸出しだからである。

いや、にわかなんだけど。どんなスクールアイドルがあるかなんて碌に知らないんだけど。

そもそもぼっちにそんな勇気なんて以下略。

 

20分前、高坂が唐突にLet'sスクールアイドルを宣言。

園田が慌ててリスクだの解決しなければいけない難題だのを説き反対するも、

 

(やるったらやる!穂乃果、もう決めたからねっ!)

 

・・・の一言で封じてしまった。

おまけに南は「ことりがみんなの衣装作るねっ♪」と同調する始末。手に負えん。

そして最後は各自でスクールアイドルについて調べてくる、ということで解散となった。

あれ・・・なんで俺もやることになってるの・・・?なんて野暮なことは聞けない。

同調圧力ってやつだ。園田の反対が封じられた以上、俺がどうこう言っても白い目で見られるだけである。

あ~やっぱり俺、仕事運最悪だわ。

 

「で・・・え~っと・・・あ、『月刊school idol magazine☆~今話題の人気グループベスト20特集号!~』か、これだな」

 

捻りもクソもないタイトルだが、分かりやすい。

どこぞの材木座も見習うべきだ。いつもいつも必殺技やら世界観設定に訳分からん言葉とルビ使いやがって。

型破りな事をするなら型をつくってからやれということだ。

 

 

「・・・ちょっと」

 

 

「ん?」

 

その時、不機嫌そうな声が背後から聞こえ振り向くと、如何にもコスプレっぽい制服のツインテールのチビッ子が一人。

流石アキバ、レイヤーさん大杉ィ!・・・じゃなくて俺邪魔じゃねーか、早く買って出よう。

 

「・・・サーセン、すぐどきますかr「アンタさ、スクールアイドルに興味あんの?」・・・は?」

 

いや、その質問はおかしい。友達とか、サークルの集まりとかでするべきだろう。

間違っても初対面のヤツに聞くことではない。つまり、こいつは宗教勧誘とか邪な目的を持っている可能性大ということだ。

 

「ちょっと用事あるんで、失礼します」

 

「ちょ!?いいから答えなさいよ!」

 

ウぜえ。つか肩掴むな、店内で騒ぐな。

警察呼ぶぞ?あ、俺が被疑者だと勘違いされそうだからダメだな。

 

「・・・あの、なんで俺なんすか」

 

「今はにこが聞いてんのよ。その雑誌手に取ってるってことは、何かしらスクールアイドルに関心あるんでしょ」

 

いきなり名乗っちゃったよこの子。まあ偽名かもしれないが。

上から目線のくせにどこか抜けている。雪ノ下をポンコツにしたらこうなる、ってところだな。

・・・あ、これ死亡フラグかも。雪ノ下の ぜったいれいど!八幡は たおれた!

 

「ま、まあ、あるっちゃあるんじゃないですかね?」

 

「自分のことなのに何で他人事なのよ・・・じゃあもう一つ、"sakura five!"ってグループ知ってる?」

 

「いや知らん」

 

いい加減さっさと切り上げたかったのでつい素が出てしまった。

やべ、逆ギレされてビンタ喰らうパターンか?なにそれツンデレじゃん。デレ成分ゼロだけど。

ゼロなのはカロリーだけでたくさんです。

 

「・・・そう。時間取らせて悪かったわね、もういいわ」

 

そこでツインテールは踵を返し、スタスタと店を出ていく。

え?そんだけ?何しに来たんだお前は。

 

ま、美人局でも痴漢冤罪でも勧誘でもなかったので良しとしよう。

こっちもさっさと買うもの買って、我が家に帰るのだ。誰も待ってないけどね。

 

 

翌日

 

「へぇ~、これが大阪の"やっちゅうねん☆"ってグループなんだ~!」

 

「見りゃ分かるだろ」

 

昼休み、いつもなら静かに屋上で一人飯を食う時だ。

今日はそれが許されず、持ってきた雑誌を高坂たちと見ながらアイドル研究に励む。そして時々パンを齧る。

しっかしホント捻りがないな、このグループ名。ある意味潔いっちゃ潔いけど。

 

「それでもダンスは凄く派手なんだね~、なんか不良っぽいかも♪」

 

「所謂ヒップホップ系なんでしょうか」

 

向こうのおばちゃんとかすげえケバケバしいもんな。関西人ぽさというか独自性はあるのかもしれない。

 

「で?他人のことより、お前らはどうすんだよ。どんなグループにするとか決まったのか?」

 

「あ、はい。まずグループ名ですが―――――μ's、です」

 

石鹸・・・じゃないよな。

てか園田さん、アンタいつの間に乗り気になったんだよ。

 

「・・・確か、ギリシア神話に関係なかったっけか?」

 

「はい。芸術を司る女神たちのことで、ミュージックやミュージアムの語源だとか」

 

・・・なんか材木座の高笑いが聞こえるんだが何故だろう。ヌポォ、とか言ってそうでキモい。

頼むからラノベの新作に使うんじゃねえぞ。

 

まあ、確かに名前だけ見ればカッコイイ、というか体裁は取れているようには見える。一見は。

 

「なあ、一ついいか。確かその女神、9人いなかったっけか?」

 

「・・・はい」

 

「・・・俺を除いたら、お前ら3人だよな?あと6人はどうすんだ?」

 

「はっはっはー、勧誘だよか・ん・ゆ・う!これから他のクラスとか学年の子にどんどん声掛けてくよー!」

 

簡単に言ってくれるな・・・。

そんな物好きがどれほどいるのか。総武にだって数えるぐらいしかいないだろう。

ましてやこの過疎地ならぬ音ノ木坂で・・・。

 

「まあ、そうか。なら頑張ってくれ応援はしてやる」

 

「ちょ、比企谷くんも手伝うんだよ?!言ったよね!?」

 

そんなことはいってねえ。てかこれからもぜったいいわん。

・・・ヤバい、こいつの知的レベルに合わせて平仮名口調になってしまった、てかそんな口調あんのか。

 

「・・・具体的には」

 

「ことり、昨日勧誘ポスター作ってきたの。『メンバー&ファン募集』って♪」

 

その原本を見ると、素人臭さはあるもののそこそこお洒落で可愛いポスターになっている。

・・・しかし何の知名度もないのにいきなりこれはやりすぎじゃないか?

 

「後で先生方から許可を貰って、掲示板に貼るつもりです。あとは・・・その・・・放課後に・・・」

 

「・・・チラシとして配るってことか?」

 

いいいいやだおれはむりだ!はちまんもうかえる!絶対誰も受け取らねーよ。

ソースは俺。一度試しに街頭でティッシュ配るバイトやってみたら総量の1割も消化できなくて散々怒られた。

カネに困ったとしても二度とやりたくないバイトだ。あの黒歴史を再び甦らせようってのかこいつは?

 

「海未ちゃん不安がっちゃ駄目だよ!可愛いんだからあとは声さえ出せばみんなホイホイ釣られてくるよ!」

 

「人様を魚みたいに言うな」

 

ま、実際は普通の人間なんてみんな大抵はバカなんだが。魚の方が賢そうまである。

 

「そ・れ・で♪、比企谷くんも、手伝ってくれるよね~?」

 

・・・グハァッ!

ことりは うわめづかいを つかった!八幡は たおれた!

・・・いや死んでねーよ、俺弱すぎだって。

 

「・・・ビラ配りは勘弁してくれ。先生の許可と学校の掲示板に貼る役目は引き受けるから」

 

「そうですか・・・ではすみません、比企谷くんにお任せします」

 

「海未ちゃんもやるんだよ~?」

 

「わ、分かっています!・・・って穂乃果、抱き着かないで暑苦しい!」

 

ホントだよ。

もうじきに秋になるんだぞ?ここだけ熱帯の島に思える、まさに陸の孤島だな。

 

「・・・お前ら、もう昼休み終わりだぞ?いつまでイチャコラしてんだ」

 

その時、山田先生の怖い声と顔で俺たちは現実へと引き戻されたのだった。

 

 

「うぷっ・・・」

 

碌に昼飯を食っていないのに、込み上がる吐き気。

生徒会室ってなんでこんな圧力があるんだろう。まだ入ってもいないのにね。

 

先ほど勇気を出して職員室へ行き、許可を貰いに行くと、

 

(あ、ポスターとビラ配りだって?それなら生徒会行って許可取ってきて)

 

と、あっさり一蹴、会議だからと追い出された。

・・・俺の勇気を返せえええ!胃薬代で勘弁してやるから、な?

 

ともあれ生徒会室へ向かおうとすると、目的地に近づくたびに何かの圧力を感じる。

一体ここの生徒会ってどうなってんだ。悪魔崇拝者かブードゥーの儀式でもやってんのか?

なにそれオカルトすぎ。

 

そして今、その生徒会のドアの前にいる。冷たく黒いオーラが漂う。

ヤバい。すごく帰りたい。許可取ったことにして帰りたい。

 

 

「―――どなたか、ドアの前にいらっしゃるんですか?用件があるのでしたら、入ってください」

 

 

・・・中から声が。

ああああバレたああああ!!もうダメだいっそ覚悟決めて・・・!

 

「し、失礼しまっす!」

 

何とかドアを静かに開けるまでの理性は残っていたが、それが限界だった。

声は震え、顔も真っ青。まあ一回噛んだぐらいならセーフか。

「~っす」って便利だよな、個人的に敬語じゃないのに敬語に聞こえる言葉遣いナンバー1だし。

 

・・・まあそれは俺の中での話。

目の前の相手はそうは思ってくれないだろう。

 

「貴方・・・昨日転校してきた比企谷くん・・・よね?」

 

「あ、はい」

 

自動的に返事をしてしまう俺の脳みそ、すごい。そしてもう名前を覚えられている俺、最強。

 

・・・んな事はさておき、目の前の机に腰かけた女子をちょっと観察してみる。

金髪碧眼。白い肌。間違いなくハーフ、それもヨーロピアンの血が混じっているんだろう。

昔バカ親父がその手の大人の本を読んでいたのだ。俺だけお年玉を理由なくカットされた腹いせに全部処分してやったが。

 

そしてどこか雰囲気が冷たい。容姿そのものは全く似ていないが、雰囲気はまるで雪ノ下だ。

この冷たいオーラ、彼女が発していたのか。

 

「ふふ~ん、比企谷くん、エリチに惚れちゃったん?」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと希・・・」

 

唐突に右横から声を掛けられたのでそっちを向くと、今度はいかにもな大人のお姉さん風の生徒がいる。

あ・・・これあかんやつや。瞬時に分かる俺の目力半端ねえ。

 

「・・・いえ違います。貴方は?」

 

「ウチ?副会長をやっとる東條希や。それでエリチは生徒会長絢瀬絵里。よろしゅうな」

 

「はあ、どうも」

 

オーラが黒いぞ、天才的だぞ。この人は陽乃さんそっくりだな。

あと関西弁、ちょっと似非臭いぞ。

 

「もしかして、ウチの言葉遣い変やと思っとる?」

 

「・・・率直に言えば、芸人が無理してやってるみたいな」

 

「ウチ、両親は神戸の出身なんやけどウチ自身は東京生まれの東京育ちなんや。だから、標準語と関西弁のちゃんぽんになってしまうんよ」

 

「そう、ですか」

 

はあ。

なんか文化的アイデンティティーが混乱してるみたいな?さぞかし苦労も多かろう、というのは分かった。

 

「別に敬語は要らへんよ?同じ学年なんやし、もっと気さくに接してくれて」

 

「・・・学年は同じでも、立場はお二人の方が上でしょう。だから一応敬語で通さしてもらいます」

 

「可愛くないなぁ~、モテへんよ?」

 

いえ、それ以前にぼっちなんで。

 

「・・・それで?用件を伺いましょうか」

 

あ、エリチさん存在感なかったね。無視してごめんなさい。

 

「えーっと、ポスターを掲示板に貼りたいのと、あとビラ配りの許可を頂きたいと」

 

「そのポスター、ちょっと見せてくれる?」

 

そこで彼女に手渡す。

やべえ、バレンタインのチョコかよ。オラすっげえドキドキすっぞ。

 

「・・・スクールアイドル、μ'sメンバー&ファン募集・・・ねえ、これって」

 

「あ、俺じゃなくてクラスのやつが「それは分かるわ」・・・」

 

ですよね。

 

「ほほぉ、遂に音ノ木坂もスクールアイドル復活、ワクワクするなぁ。エリチもそう思わん?」

 

「・・・あの件のことはやめて。あと私はまだやるつもりは―――」

 

復活とか例の件とか、気になることはあるが黙殺する。

寝た子を起こすな、藪をつつくな。人間界で最も弱いぼっちの鉄則である。

その禁忌を破る者には死を。それぐらい、社会は苦く、冷たい。

 

「それで、許可は頂けますか」

 

「・・・分かったわ。二つとも許可します、ただしじきに下校時刻だから明日からでいいかしら」

 

「構いません」

 

「・・・そう」

 

・・・なぜそんな哀愁漂った感じなんだ?

まあ確かに前途多難、実現できるのか分からないが。それでも、負け戦に臨む兵隊を見るような目で見られるいわれはない。

さっきの"あの件"のことが関係して―――いや、もうやめよう。

 

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

「また来てやー、協力できることがあったらいくらでも頼ってええよ?」

 

「・・・その時は」

 

静かに部屋を出る。

ドアを閉めた後、会長と副会長が途端に何かコソコソ話し出したのが分かったが、内容なんぞどうでもいい。足早に立ち去ることにした。

 

 

俺は、何のために生きてるんだ?

誰しもそう考える。俺もそうだ。

俺は、いつもいつもトラブルに巻き込まれ、トラブルに背負いこまれるために生きてるのか?

 

別に一人で生きたいなんて本気で思っちゃいない。

たまには一人でいる時間も必要だろ?ただそれだけなんだ。

 

でも周りの好奇心―――主に悪意―――は、どうしても俺を放っておいてはくれないらしい。

 

根暗、キモい、ゾンビ、地蔵。

小学生の時、毎日のように言われた罵詈雑言の数々。不快にさせたつもりはないのに向こうはそう思わなかった。そして嫌がらせが始まった。

ミカサでなくても、この世界は残酷だと気づくだろう。

 

そんなことを、通りかかった音楽室から響くベートーヴェンの「悲愴」の調べを聴きつつ思う。

ウチのバカ親父が珍しく好んで聞いた曲。皇帝となり、俗物と化したナポレオンに失望し、そして最後は重い鬱病に苦しんだベートーヴェンのピアノソナタ。

 

まあ、今回は少なくとも悪意から発せられたことではない。

高坂穂乃果と言うアホの子の、熱意と純朴な好奇心からのこと。

どのみちトラブルに巻き込まれたということには違いないが。

 

でも仕方ない。

俺のような凡人に選択肢はない。流されるのはみっともないけれど、自ら委ねるなら、多分いいだろう。

 

 

少なくとも、今回は。

 

 

「あ・・・やっぱり、もう行っちゃったのね」

 

真姫は音楽室を出ると、自分の演奏を聞いてくれた一人の観客を探す。

ふと気付いたら誰かが廊下に立っていて、演奏が終わって顔を上げるとまたいなくなっていた。

 

顔も見えなかった―――男子らしいのは分かったけれど―――その人物に、なぜか親近感が湧く。

同じクラスの人物でないことは分かった。うちのクラスの男子は、それこそ単細胞で芸術性のかけらもない奴ばかり。

ピアノが好き、音楽をやっていると言えば、

 

「へえ・・・可愛いね」「すげえ」「ヤバい」「カワイイ」

 

お前ら、一体どこを見ているんだ。

音楽と可愛い、どこをどう結び付けたらそうなる。口説くなら口説くで、もう少し日本語を勉強しろ。

加えて男子からチヤホヤされていると、クラスの女子からは嫉妬と侮蔑を買う。たまったものではない。

 

「・・・今の人なら、きっと分かってくれるのかしらね」

 

静かに呟くと、真姫は帰り支度をするため再び音楽室へ入っていった。

 

 

 




にこの過去のスクールアイドルグループ名、希の家族構成は捏造。
ついでに「悲愴」とナポレオンとは特に関係性がないこともお断りしておきます。詳しくないんであれですが。

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