ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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思いついたら即執筆ッ!
感想早速ありがとうございます。インターンまでにはも少し更新したい。


第一章:新たな人生は、新たな街と共に。
第一話 やっぱり比企谷八幡は救世主にはなれない。


「ここが、男子更衣室になります。男の先生方も時々利用されるけれど、あまり怖がらないでね。

それと右手に来客用のトイレがあるから、そこを使ってください」

 

「・・・はあ」

 

そりゃ元女子高だから生徒用の男子トイレなんてまだないのは分かっていたが。

2年の教室は3階、ここは1階だぞ?間に合わなくなったらどうしろと言うんだ。

・・・と思ったらエレベーターがあるらしく、万が一の時はそれを使っていいとか。助かるっちゃ助かるが、どこかポイントズレてないか?

 

ともあれ、登校してすぐ音ノ木坂学院の南理事長の元へ向かい、簡単に挨拶を済ませた後、俺は彼女の案内の元校内を見学していた。

この前の手続きで来た時は碌に見てなかったしな。

それにしても理事長自ら案内とは至れり尽くせりし過ぎではと思っていたが、学校内を周っていくとそのぐらいのサービスをしなければならない理由も分かる。

 

どこに行っても、空き教室だらけなのだ。

 

一時期は各学年6クラスあったという音ノ木坂。それが今や3年生で3クラス、2年生で2クラス、1年生で1クラスと悲惨なほどの過疎っぷりだ。

授業中であることを考慮しても余りに静かすぎる。もう幽霊や不審者がいても誰も気にしないまである。

・・・不審者はお前だろとか言うな。

 

その時、南さんが急にこちらに振り向く。

その笑顔はどこか達観しているというか、寂しげというか。

 

「・・・比企谷くんが考えていることは、分かります。こんな人のいない学校、つまらなそうだし不気味に見えるわよね」

 

「・・・いや、そこまでは思ってないですよ。不思議とは思いますけど。

あと人の少ない方が個人的には楽です」

 

にゃんぱすーなド田舎どころか、この学校は東京、しかもアキバの目と鼻の先にある。

加えて事前にネットなどで音ノ木坂について調べたときも、総武高よりワンランク劣るとはいえ偏差値も進学実績も悪くないし過去に不祥事をやらかしたということもない。

大体伝統校なら都民であればそれなりの知名度を得ているはずだし、ますます生徒が集まらない理由が分からない。

 

・・・いや、分からなかったと言うべきか。現場を直に見るまでは。

 

「生徒が減ったのはね、ライバルに顧客を奪われたから。・・・UTX学園ってご存知かしら」

 

「ああ・・・アキバの中心にありましたね、会社かってぐらいでかい学校が」

 

「そう。十年前にUTXが開校して、充実した設備と難関校にも劣らない受験指導で生徒を集めていった。

加えて・・・一年前、A-RIZEがあの学校から、スクールアイドルとしてデビューしたの」

 

スクールアイドル。

俺も名前しか知らないが、あくまで学生として活動するアマチュアアイドルのことなんだそうだ。

そしてそのA-RIZEというのがUTX学園の看板スクールアイドルにして、今やプロにも劣らぬ人気ぶりを獲得しているという。

 

正直UTX学園にしてもA-RIZEとやらにしても、如何にもschoollifeをtogetherしたい!・・・みたいなリア充のためのものとしか思えなかった。

まあアイドルやろうがそれは個人の自由なんだが、それを前面に押し出すところがどこか鼻持ちならない。

 

「私が3年前に理事長に就任したときも、かなり危機的な状態ではあったのだけれど・・・。

それがA-RIZEが来て、完全に止めを刺されたというところかしらね」

 

「そんなものに釣られていく奴の正気を疑いますよ」

 

「・・・そうは言っても、学校も営利事業ですから。音ノ木坂は市場のニーズに追いつけていない、そこは率直に認めるしかないわ」

 

そして、認めたうえでどうするか。

どうにかしようとはしたのだろうし、そしてどうにもならなかったのも容易に想像できた。

 

この学校の良いところであり悪いところは、"普通である"この一点に尽きる。

設備も進学実績も、何から何まで有り触れていて、言ってしまえば替えが効く。インパクトに欠ける。

その点では確かにUTXの方が圧倒的強者ではあった。私立だから資金力もあるのだろうし、さぞやPRもうまくやっているんだろう。

 

「それで、その場凌ぎに共学化したって訳ですか?」

 

「悔しいけれど、概ねその通りです。・・・でもこの決定に対して、評判はいいとは言えなかった。

保護者会でもOBからも、なぜ伝統をかなぐり捨てたのか、とね」

 

それは当然だろう。

唯一残った"女子高"というブランドまで捨てたら、本当にこの学校には何も残らなくなってしまう。

加えてギャルゲーじゃあるまいし、女子高に入学したがるような猛者なんぞ現実にはそういない。事実、俺を除く男子生徒は1年生に5人だけ。

・・・戸塚だったら女装して潜入したりもできるんだろうがなあ。嗚呼僕の天使戸塚よ。

 

「・・・まあ、聞いたところでどうしようもないですけど。取り敢えず色々と説明ありがとうございます」

 

「ふふ、どういたしまして。それにどうしようもないということはないんじゃないかしら」

 

「は?」

 

「平塚先生から貴方のことは色々伺わせてもらっています。総武高校では人を助けるための部活で活動していたそうね」

 

「・・・助けるとはまた違うんじゃないですかね。飢えた人間に魚の釣り方を教えるみたいなものですし。

人によっては残酷に見えるんじゃないですか」

 

「立派な人助けよ、それも。きっと前の学校でも、貴方に救われた人がたくさんいる筈よ」

 

転入前に俺がやったことは、"立つ鳥跡を濁す"だがな。結果皆が不幸になって、俺は逃げ去った。

見てくれも性格もみにくいアヒルのこな俺にはピッタリな所業だろう。

 

だから、頼むからここでも奉仕部みたいなことをやれなんて言わないでくれよ。

 

「もしかしたら貴方は、音ノ木坂の希望の星かもしれない。期待しているわ」

 

「死兆星かもしれませんよ」

 

皮肉を言うと、南さんは馬鹿言わないのと言って微笑み、また案内を再開した。

もっとも、行先は大体予想が着く。案内が始まって30分、粗方校内は回ったはず。

 

となると、俺の新しいクラスだ。

 

 

「えー、本日転校してきました比企谷といいます。できるだけご迷惑を掛けないようひっそりと暮らしていく所存で・・・」

 

パコン。

 

「お前、本社から左遷されてきたオッサンか?もうちっと覇気のある挨拶にしようや」

 

・・・いや、誰にも迷惑を掛けませんっていい言葉じゃない?あと出席簿で頭叩くな。

 

という訳で、俺の素晴らしい自己紹介は担任の山田先生のツッコミにより台無しになった。

案の定クスクス笑ってる奴何人かいるし。どうしてくれんの?

 

「まーしょうがない、今本人も言った通りこいつは比企谷八幡。千葉の総武高校からの転校生だ。

ウチは人数が少ない分、みんな仲良くしてやれ。あ、比企谷、女子へのセクハラは絶対厳禁だぞ」

 

しねえよ。

 

「席は後ろから三番目・・・高坂と南の真ん中だな。

ところでお前、教科書は揃えたか?」

 

「いえ、明日までかかるかと」

 

「ならしゃーない、隣の高坂からぶんどれ。居眠りの常習犯だから気にしなくていいぞ」

 

「ちょっと先生?!穂乃果いつも寝てるわけじゃ・・・」

 

「前の英語の授業、机から崩れ落ちたらしいな」

 

爆笑。

・・・ってか朝のあいつらか。真後ろにも千早さんカッコカリいるし、黄金の三角地帯だな。

いや魔の三角地帯か、なにそれ嬉しくねーよ。

 

「んじゃ、さっさと席付け。今日の保健体育は、第二次性徴についての続きからいくぞー」

 

・・・うわぁ。

よりによって性教育かよ・・・。

 

 

さて、放課後である。

幸い休み時間も昼食中も、えげつない質問攻めに遭うことなく、穏やかに過ごすことができた。

それならば俺がやることは一つ!よりみちせずにおうちへかえりまs・・・

 

「比企谷く~~ん!!」

 

・・・うるせえええええ!!真横で叫ぶな。

春香さんカッコカリ改め高坂穂乃果、まさに嵐を呼ぶ野生児である。

おまけにのび太が舌を巻くくらいの居眠り小僧。午前中はずっと寝ていてその度お叱りを受けていた。

だから休み時間は寝ておけとあれほど・・・言ってねえわ。

 

「・・・あー高坂さん、何k「用?あるよ!」・・・」

 

先読みすんな。

由比ヶ浜といいこいつといい、このテンションの高さはどこから来てるんだ。魔法石でも埋め込んでるのか?

 

「掃除か?委員会か?それとも居残りか?」

 

「ううん、そうじゃなくって、一緒に帰ろうかなって♪それとよかったら、穂乃果ちゃんの家でお茶しない?」

 

素晴らしき猫撫で声のあずささん、もとい南ことりが続ける。

・・・流石女子高、男子に対してアレルギーがないとは本当だったか。

だが俺クラスになると美人局を疑うまであるぞ。これ以上誤解させるのは止めて頂きたい。

 

「比企谷さんは引っ越しされたばかりなんですよね?なら、この辺りの地理にも詳しくないのではありませんか」

 

「・・・まあ、秋葉原は夏コミ行くとき通ったくらいですし」

 

「なら折角ですし、帰り道ついでにご案内しましょう」

 

秀才型大和撫子、千早もとい園田海未がもっともらしい理由を述べ、帰りのお供へ誘ってくる。

こいつら本当に男への警戒心がないのか。むしろ蔑みの目で見られる方がありがたいとすら思える。

いや、俺、マゾじゃないからね?

 

「その、俺・・・」

 

「今行こうよ!すぐ行こうよ!ほらほらっ!」

 

腕を引っ張るなぁぁぁ!!

ボニファティウス教皇並に憤死させる気か?このままアヴィニョンのド田舎に幽閉されちゃうのん?

 

今日の世界史で習った知識が脳裏に蘇ると同時に、俺は教室の外へと引っ張り出されていた。

 

 

「ほら!神田大明神から見る夕焼けって、すっごく綺麗なんだよー」

 

「ついでにほむまんも美味しい♪」

 

「ことり・・・また太りますよ、ダイエット中なんでしょう?」

 

花より団子、ではなく夕焼けと饅頭、そして神社。

三つの組み合わせは確かに悪くない。あまり読んではいないが、三丁目の夕日にもこんなシーンがあったんじゃないかと思う。

・・・これでもう少し静かなら、人生とは何か思いを馳せていたかもしれないが。

 

「比企谷くん、今一人暮らしなんだよね?大変じゃない?」

 

「確かにぼろアパートだが、掃除すりゃそれなりだしな、一応そこそこ自炊もできるし。そっちこそ和菓子屋の手伝い大変じゃないのか」

 

「んー、やらないとお小遣い貰えないし、それに小学校の頃からやってるしで、そうでもないよ」

 

「なら何故未だに寝坊と居眠りが治らないんですか・・・」

 

慣れ、か。

自営業者の子供なんて案外そんなものかもしれない。乱暴者のジャイアンだって八百屋じゃ営業スマイルだろうしな。

 

ともあれ、創業ウン十年の「穂むら」お勧めの逸品は、確かに乙な一品であった。

閑古鳥の鳴く音ノ木坂と違い、結構繁盛しているのも頷ける。

ついでに高坂の母親らしい店主さんもいい人だしおまけしてくれたし。うちの母ちゃんも見習ってほしい。

 

「・・・そう言えば、比企谷くんって・・・。お母さん、ううん、理事長に会ったんだよね」

 

「あー・・・成る程、苗字が同じだな。ああ、会ったぞ」

 

「なら、音ノ木坂が廃校になるかもしれないって聞いた?」

 

「そこまでストレートには言ってないが、経営が思わしくないってのはな」

 

流石、世間は狭い。加えて親子間の以心伝心、情報なんぞ筒抜けだ。

 

「あのね、これから一ヶ月したら、創立記念日と同時に一般向けに学校公開をするの」

 

「オープンハイスクールか?」

 

「いえ、オープンハイスクールは6月にあります。それとは別に音ノ木坂独自に学校公開をしているんです」

 

園田が補足してくれる。

それにしても、同じイベントを2回もか。そこまでサービスしなければならないほど、やはり学校は追い込まれているのだ。

 

「それでね、もし来てくれる人が少なかったりすると・・・来年からは、新入生の募集をやめちゃうかもしれないの」

 

「・・・つまり、3年後には学校がなくなるかもしれないってことか」

 

「かも、ではなくほぼ確実に、でしょうね。下手をすれば私たちが卒業するよりも早く」

 

「う、海未ちゃん!言い過ぎだって!」

 

見れば、南が小さく肩を震わせている。

自分が通い、尚且つ身内が経営者である母校がなくなってしまうことのショックは、確かに相当辛いであろうことは想像に難くない。

 

だが泣いて喚いて、それで解決するのは赤ん坊の時までだ。

急に東大合格者が100人出て超進学校として名を馳せるなんてことはあり得ないし、親切な老紳士がポンと大金を寄付してくれるなんてこともない。

頭を捻って、自力で解決するしかないのだ。もっともそれができないから困っている訳だが。

 

・・・なんか、菓子食って綺麗な夕焼け見に来てたのに、いつの間にか話が重くなってるな。

 

「それで、策でもあるのか?俺は転校してきたばかりだし、力にはなれないぞ」

 

「ふっふっふ~・・・実はね、穂乃果すっごい名案思いついちゃったんだー」

 

はあ。

どうせビリギャルよろしく難関大に挑戦するとかだろ?

無理無理かた陸奥り。火遊び厳禁、安易なチャレンジも厳禁よ。

 

 

「それはね―――ズバリ、スクールアイドルなんだよっ!」

 

 

「「・・・はい?」」「・・・♪」

 

俺と園田が同時に凍り付くのと対称的に、南は救いのヒーローを見る目で高坂を見つめていた。

 

 

同時刻 音ノ木坂学院生徒会室

 

「はぁ・・・」

 

絵里は椅子に深く腰掛けると、深くため息をつく。

みっともないと分かってはいても、常に威厳を保った生徒会長でいることはできない。

加えて、この廃校寸前の学校で生徒会役員をやるということはかなりの重圧。

"地獄への道は善意で敷き詰められている"。その諺を思い出し、内申点アップと唆されて易々と生徒会に入ったわが身を呪う日々。

 

「エリチ、また学校公開のことで悩んどるね」

 

「・・・それはそうでしょう。ただ学校を見せてハイおしまいじゃ、誰も来たがらないわ」

 

「UTX学園なら別かもしれんけど。ほんま、貧乏は辛いなぁ」

 

副会長、いわば参謀たる希もため息をつく。もっとも表情から、幾分か落ち着いているようには見えた。

 

それは、希が問題への解決策を持っていること。そこから彼女の自信に繋がっているのだ。

 

「・・・な、この前の提案、も一度考え直す気あらへん?」

 

「スクールアイドルのこと・・・?嫌よ、神聖な場で文化祭の出し物以下のことをするなんて」

 

「なら、座して死を待つか。このままUTXに、生徒も伝統も、真の誇りも一切合財浚われて、惨めに潰れて消えていくんか?音ノ木坂は」

 

「止めてよ・・・!そんな任侠映画みたいに」

 

「ウチが言いたいんは、大きなことを成すために小さな恥は甘んじて受け入れようっちゅうこと。

・・・いや、そもそもエリチが思っとるほど、スクールアイドルなんて恥ずかしゅうないで」

 

「どこが」

 

「バレエを演じるのと、歌とダンスを披露するのも同じ事や。皆を楽しませる、笑顔にさせることにおいては、な」

 

絵里は押し黙った。

 

流石に友人だけあって、希も言葉を選ぶべき時はきちんと選んでいる。

かつて絵里が執念を燃やして取り組んだバレエを、アイドルの歌や踊りと同じと言った。

それは絵里の思うように下劣ということではなく、同じくらい尊いものなのだと。

 

「それに、もう時間はないで。人生、ここぞというときの決断が大事やって言うやろ」

 

「・・・希。貴方、時々すごく卑怯よね」

 

「女の子はみんな、そういう生き物なんや」

 

そこで絵里も初めて笑う。

壁に掛けられた日めくりカレンダーを見つめ、そっと呟いた。

 

 

「今日来たあの転校生くんだったら、一体どうするかしらね」

 

 

 




「救世主は一人だけ。何人もいたら意味がない」

僕の好きなノベルゲームの名言。
これをひっくるめて、言ってみたい。

「解決策は一つだけ。幾つもあったら意味がない(甘えを生じさせる)」

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