ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
というよりはやっぱりいちゃいちゃ回なのか?もう作者にもわからん。
海に遊びに行く。
こう聞くと何の問題もないように感じる。が、それも年代によって見方は変わってくる。
例えば、小学生の子供ならきっと友達と仲良く海水浴に行くのだろうと解釈できる。
だが高校生とか、それよりさらに上のいい歳した若い連中となると話は別だ。こいつらが大人しく海水浴や砂場遊びに興じるはずがない。
大抵可愛い女子大生たちを引っ掛けてお持ち帰りするとか、そういういかがわしい目的で海辺に繰り出すのだ。
結論、海に行くリア充は片っ端から逮捕しろ。明らかに淫行条例違反だろ。
そんな鬱屈した気持もあって、千葉県民の一人でありながら俺はほとんど九十九里浜に行ったことがない。
せいぜいお盆休みに暇を持て余した親父と俺の引きこもり化を憂いた小町によって無理矢理連れ出されて渋々と、というのが大昔に2、3回ほど。
人はクソ多いわ喧しいわ、太陽はかんかん照りでクソ暑いわで、帰ってきたときはゲロ吐きそうなくらいにクタクタになっていた。
そして案の定、次の日からは夏バテで本当に寝込んでしまったという訳だ。・・・引きこもりはダメだから外に連れ出すって、むしろ逆効果じゃねえか。
そもそもゲーム機でゴルフやテニスができる時代、真夏日に外に繰り出すというのが間違っていたのである。
・・・まあ、そんな屁理屈は置いておくとしよう。
俺はやはり、怖かったのだと思う。
うかつに帰郷して、誰か知っている奴らに会ったらどうするか。
そこで気まずいムードになり、トラウマが蘇ったりはしないだろうか、と。
「・・・・」
現に総武快速線に揺られて千葉に向かう今も、高坂達はほぼ全員舟を漕いでいるというのに俺ときたらこれだ。
一時も睡魔に襲われることがない。逆に目が冴えて寝付くことができない。
前の合宿の時のように置いてけぼりにされる危険はなくなるけれども。
その時、隣に座っていた西木野が突然、俺の顔を覗き込んでくる。・・・なんだ、起きてたなら言えよ。
「・・・眠れないの?」
「まあな」
「昨日ぐっすり寝たから、っていうならいいけど・・・。市販のだけど、一応睡眠薬あるわよ?」
「別にいい、どうせ効く頃には到着するだろ」
言ったあとからしまったと思った。
嘘でもしっかり寝たから問題ないと言っておくべきだったか。正直は美徳というのも必ずしも当てはまらない。
「・・・その、やっぱり。八幡は、千葉に帰るのが嫌だったりするの?」
「・・・・」
一瞬、返答に窮する。
・・・そりゃ、髪の毛いじりながらたどたどしく、名前を呼び捨ての上で聞かれたらそうなるだろ。何それ恋人呼び?
名前の件はどうしても本人が譲らないので認めたが。でもやっぱ恥ずかしいわ、呼ばれるたびにしゃっくりが出そうなまである。
それはともかく、はい嫌でしたと答えるほど俺も野暮で無神経ではない。
だったらなんで合宿に賛成したんだと聞き返され、また気まずくなるのは必至だからだ。
「こっちからもひとつ聞かせてくれ。―――俺が転校してきたとき、お前はどう思った?」
「・・・転校生が来るのって新学期が始まってすぐだと思ってたから、10月になってっていうのはちょっと意外だったけど。
でもそれは家の事情だってあるし、取り立てて変じゃないでしょ?」
やはりそうか。
こいつでも"ちょっと"は"意外"に思うのか。
いや、むしろそれが当たり前なのだ、別段何もおかしくはない。
そもそも俺の場合、今は東京で一人暮らしをしている。それも自分から親元を離れて。
しかも高校生の身で。
家庭自体は両親共働き。経済的にちょっと・・・という訳でもなく、まあ世間一般からすれば普通の家庭だ。
親の転勤とか、そういうもっともらしい理由で転校したならまだしも、これでは何か訳ありで音ノ木坂に来たと思われても仕方ない。
そして実際、俺は訳ありなのだ。
「・・・転校の理由を、聞きたいか?」
「・・・・」
沈黙。
多分否定したのかもしれない。だが懺悔というか、それでも言っておきたかった。
「まあその、元いた学校で色々あってな。それも、大半の原因は俺にあるんだが―――」
「―――何、言ってるのよ。そんなのあり得ない」
「は?」
「元女子高で、最近共学化したところに男子を受け入れるのよ。
いくら生徒が減ってるからって、本当に問題児だとしたらそんな人間が入学できると思う?
理事長も直接会ったんでしょ。その時点で何か怪しいところがあると思われたら入学許可も取り消されるはずよ」
「俺がサイコパスで、理事長や教師を騙くらかして転校後に何かやらかす可能性だってあるぞ」
「違う。私も、他のμ'sのみんなも。本当は貴方が優しいって、分かってる」
・・・・。
どうやら純粋に、そう思ってくれているらしい。
だが、俺がμ'sのために動いたことを指してそう言っているならそれは違う。
それは自分のためでもある。決して、聖人君子などではないのだ。
「・・・それは、ありがたいんだが。
それでも、俺自身のせいで転校することになったのは事実だ」
「・・・仮に、そうだとしても。
何か目的があって、敢えてそうしたんじゃないの」
それは、その通りだ。取った手段は最低で、挙句最後は失敗したが。
「・・・なんで俺をそこまで庇える?」
「さっきも言ったでしょ。本当の貴方は、優しいって分かってるから。
―――私は、いいえ、私たちは、八幡を信じてる。大切な、μ'sの一員として」
最後はこっちの手を握り、目を見つめながら。
西木野は強く静かに言った。
恥ずかしいとかそんな感情はもうない。いや、その時は何も考えられなくなっていた。
その言葉を、俺は素直に受け取ってしまっていいのだろうか。
結局、少しの間があって、ようやく絞り出せたのは。
「・・・すまん」
「いいの。余計な事考えるくらいなら、向こうに着いた時のために少しでも休んでおきなさい。
・・・穂乃果みたく」
そこで西木野が指さす方向に首を向ける。
南と園田の間に挟まって幸せそうに寝る高坂。まさしく平和そのものと言っていい。
「えへへ・・・めろんぱんがこんなにいっぱい・・・zzz」
・・・いや、平和過ぎるのも考え物だが。それにしても相変わらず睡眠学習ならぬ睡眠飲食か。
もうホント暴飲暴食の度に注意する園田に同情するわ。高坂のおかんよりおかんしてるまであるし。
「賢母として頑張ったで賞」を進呈してもいいレベル。
「・・・やれやれだな」
「まだ時間はあるんだからいいじゃない。ほら、八幡も」
「お、おう」
そこで言われるがままに目を瞑る。
10分くらい経っただろうか、そこで少しづつ意識が落ちていく。
・・・最後まで西木野の手の感触を感じていたのは、この際気にしないでおこう。
千葉駅から別の電車に乗り換え、目的地に着くとまた乗り換え。
最後の電車はそう長くないので楽だが、またそこからバスに乗らねばならない。
本数も少ないのできびきび移動しなければすぐ乗り損ねてしまう。流石に高校生の旅でタクシーは贅沢すぎるからな。
悲しいが田舎を旅するというのはこういうことだ。多少の不便は自らの努力でどうにかするしかない。
「暇すぎてなんかお腹すくにゃ~・・・」
「穂乃果もだよー・・・ほむまんはもう飽きたよー」
「うう・・・今だったらコンビニの身切り品おにぎりが大ごちそうに感じられそうです・・・」
子供かお前ら。いや実際そうだけどね?
出発が割と早かっただけに昼飯を食べずにここまで来てしまったが、この分だと千葉駅周辺のモールとかで済ませてしまった方が賢明だったか。
俺がかつての顔見知りに遭遇する危険を犯したとしても。
千葉駅から遠ざかるごとに、目的地へ近づくごとに、車窓から見える風景は少しずつ寂れていく。
それに比例して乗客数も少しずつ減っていく。まあこの時期にわざわざ海に行くやつなんてそうそういるまい。
これから女子と合宿だというのに、ここまでもの悲しい気分になるのはきっとこの景色のせいでもあるのだろう。
電車の旅は楽しいとか、あれ絶対詐欺だわ。今ならはっきりわかる。
「観光地の近くなのに、こんなに静かなんて・・・驚いたわ。
おばあさまの住んでいた街は、鉄道駅のバザールにも沢山人がいて賑わっていたのに・・・」
どうやらお隣の絢瀬会長も同じ感想を持ったらしい。この場合の驚いたというのは、イコール期待外れ、要はつまんねってことだ。
そりゃ都会人の知る"田舎"なんつーのは、人情がー自然がーと美化されすぎるきらいがあるものな。ああいうテレビ番組のデマに踊らされてはいけない。
ただただ寂しく、氷のように冷たい空気。それこそが正しい実像だと思う。
「!・・・ごめんなさい比企谷くん、今のは別に悪気はなかったの」
「別にいいすよ、正しい評価ですし。今は海開きの季節じゃないってこともあるでしょうけど」
「・・・結構アンタって、シビアっていうか地元愛ないのね」
矢澤が少し呆れた表情で俺を見る。
いやそりゃそうだろ、田舎を田舎と言われて怒るのは余程の田舎っぺだ。ただし千葉市とマッカンを悪く言うやつ、テメーは殺す。
「愛とは受け入れることって言うだろ、要はそういうことだ」
「・・・なーんか分かるようで分かんないわ・・・つうかアンタって割とキザ?」
違うわ。断言するがそんな痛いヤツでは絶対にない。
俺は自分のことは客観的に見ることができるんです!貴方とは違うんです!
・・・って、キレたらダメじゃねえか。もっとクールになれよ俺。
「いちいち地元の悪口言われてカッカしてたらアカンよー、ってことやろ。
つまりはキリストさんいうところの、寛容と慈愛の精神やね」
「・・・希、アンタ神社の巫女よね?神職よね?」
「ウチの神さん、多神教やもんなー」
つまりはいい加減だってことですね分かります。まあ、信仰なぞ好きにやってくれ。
一旦会話を中断してまた窓の外を見る。やはり代わり映えのない、畑と家が見えるのみ。
欠伸が出るほど退屈な光景。ぼちぼち着く、それまでの辛抱だ。
ふと、同じように外を見る副会長が、どこか遠い目をしているのに気づく。
「―――でもな。何でもかんでも受け入れて我慢する必要はないと思うんよ。
そないなことばっかりしとったら、人間、いつか爆発してまうからなぁ」
「・・・何を言いたいんです?」
「日頃からもっと自分をさらけ出してみぃや、ってこと。
ホントの君は、ひねくれ者なんかじゃないんやから・・・な?」
・・・・。
それは。
まるであの陽乃さんみたいに、今の俺の"顔"もある種の仮面だってことなのだろうか。
この捻くれた、いじけた今の顔は。陽乃さんのそれは狡猾で恐ろしいが、では俺のはどうなのだろう。
単に醜いか?間抜けか?阿呆なのか?
「・・・・」
「ま、今は深刻に考えんと、ゆっくり慣らしていけばええよ。人生いろいろや」
「
気長にいけばいいと思うわ、急くことなんてないんだから」
副会長と会長が、ニッコリと微笑みかける。
すると、
「ああもう!何辛気臭い雰囲気醸しちゃってんのよ!
ホラ!マネージャーはしっかり前見て歩いてりゃいいの!ビシッとする!」
また背中を叩かれ・・・いや、蹴飛ばされた。
頼むから手加減てもんを覚えてくれませんかね、このツインテールは。ヘルニアにでもなったらどうしてくれる。
まあ、暗い気分も吹っ飛んだので今は感謝しておこう、素直にな。
「・・・こりゃ、愛の鞭のご教授ありがとうございますよっと」
「なっ・・・何急にかしこまっ、素直になっちゃってんのよ!?
この変態!」
「もうすぐ駅着くぞ、はしゃいでないで支度しとけよ?
「あーーー・・・もうっ!よくもにこの調子をこうまで狂わせてくれたわねっ!
あとでたっぷりしごいてやるんだから!」
へいへい、荷物持ちでもなんでもやりますよっと。
「うう~、もう立ーてーなーいーよー・・・海未ちゃ~ん、穂乃果のことおんぶしてぇ~」
「もうっ!そんなのできるわけないでしょう、自分で立って歩きなさい!」
「穂乃果ちゃん、ちゃんと起きないとことりのおやつにしちゃうぞ♪」
・・・それ、意味ないじゃん。
全く、高坂も相変わらずだな・・・。俺が説教臭いキャラになるってマジ末期だぞ。
「おい、肩支えてやるからちゃんと立て」
「ひゃうっ!?ひっ比企谷くん!?
・・・ううっ、海未ちゃんとは大違いだよぉ~、比企谷くんは天使だよぉ~」
「・・・穂~乃~果~・・・?」
「ひいいいいっ!?やっぱり鬼だよっ!ほら、にこちゃんみたく笑顔えがお、にっこにっこ・・・!」
「いい加減にしなさーーーーーい!!!」
さて、俺が本当に素直になれるのは、いつなのだろうか。
終わり。
シリアスなのかギャグなのかイチャラブなのか収拾がつかなくなってきたぞ・・・。
一つ反省しなければならないのはりんぱなが出番を張る回の少なさ。
特に花陽でそれが顕著だなー、と。「新しいわたし」と「なんとかしなきゃ!」以外にも、どうにかして活躍させてあげたいものです。
あとここからはどうでもいい小ネタについて。
<バザール(市場)
もしかしてエリチのばっちゃはカフカースとか、中央アジアに近いとこに住んでたりするのかな?まあ、僕も詳しくは知らないですが。
バザールの語源はペルシャ語なので、当然中東とかイスラーム圏にこうした市場はあります。日本で有名なのはイスタンブルのグランバザールくらいか・・・
なんでこんな設定を入れたかというと、アニメやラノベで外人ヒロインが出てきたとき、単にどこそこの国の出身っていうだけでなくもっと細かい設定を入れてもいいんじゃないかなーと思うようになったからです。
特にアメリカなんか人種のるつぼでしょう。テキサスだったらいかにもな男勝りのカウガールとか、サンフランシスコ(シリコンバレー)なら電脳オタクとか・・・。
これだってステレオタイプすぎるかもしれませんがね。ロシアも国土広いし割と多民族だし、もっといろんな属性がほしいなと思うんです。
まあとにかく、ハラショーだけ言わしときゃロシア人だろという安直な設定は好きになれないので、キャラ崩壊が行き過ぎない程度にこういう小ネタをぶっこんでいきたいです。
どうぞよろしく。