ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
ついにこのシリアス編に、決着がつきます。
「・・・くそ、どこにいるんだよ・・・」
探し始めて20分ほどしか経っていないというのに、既に心に焦りが見え始めていた。
バカ、落ち着くんだ。まだあいつが行きそうな場所を全部回ったわけじゃないだろうが。
そこをしらみつぶしに探してからだ。
メイドカフェ、アイドルグッズショップ、本屋、ゲームセンター・・・。
ざっとこのあたりだろうか?特にゲーセンは、しゅっちゅうあいつがUFOキャッチャーの景品を自慢げに見せびらかしていたことからも重点的に捜索する必要がある。
あとは、まあ・・・大人っつうか"紳士"以外お断りのお店もあるしな。
・・・そういえば材木座の奴が、その手の薄い本を入手したことを自慢げに語りやがることがあるが、一体どうやってんだ?
まさかあの身なりのせいでノーチェックで入店できたりとかじゃねえだろうな。もしそうなら即座に警察に通報せねばならん。
見た目だけが不審者っぽい俺とは違うのだよ。結論、変態はアホなリア充と同じくらい罪が重い、爆発しろ。
話を戻そう。
高坂がこのところ毎日のようにμ'sの練習に行くと嘘をついて家を抜け出していることが発覚し、俺はアキバの街の捜索を開始した。
妹の高坂雪穂も協力したいと申し出てくれたので、今は二手に分かれて行方を追っている。
―――昔も、おんなじことがあったんです。お姉ちゃんが学校を抜け出して、みんなで探し回ったことが・・・。
捜索を始めたとき、高坂妹が沈痛な面持ちで言ったことが蘇る。
日頃のアホっぷりを演技でやっている、男子の注目を浴びてムカツクと言われ。クラスの女子に嫌がらせを受け、やがて耐えきれなくなったと。
まあ、よくある話だ。
実際に男どもの気を引くために天然を演じる計算高いやつなんていくらでもいる。
だが、大抵その手の女子はトップカーストで誰も手を出せない位置にいるのだが、高坂の場合は違った。
つまり、危害を加えやすかった。おまけに本人は素でアホだから、悪意に晒されて追いつめられるのも早かったというわけだ。
「・・・そりゃ、西木野と会ったあの時もガチ泣きするわけだわな」
高坂は、あいつはアホだが、優しいのだ。
世の中の悪意を知ったうえで、自分も酷い目に遭ったうえで、それでも人を信じている。
だからこそ、やはりあいつはμ'sに必要なのだ。
行動するのが遅すぎた。反省している。
ならばそれを行動で示すしかない。高坂を見つけたら、次は南だ。
多少強引な手を使っても、μ'sは絶対に崩壊させない。それで俺の評価が下がって音ノ木坂で孤立しても、もう構うものか。
走っているうちに覚悟も決まった。今は全力でやり抜くのみだ。
「あれー?もしかして、比企谷くん?」
え。
今、比企谷くんって言ったよね?俺のことだよね?
足を止めて振り向くと、ヒデコ・フミコ・ミカの三人衆がいた。
・・・この人ら、そういやいつも3人で固まってるところしか見たことないな。もしかして漫才トリオだったりするのか?
それともガチで三つ子とか。こんなバラバラな三つ子というのもそれはそれで興味深いけど。
「・・・うす」
「なんか急いでるみたいだけど・・・あ、もしかして、穂乃果探してたりする?」
あ、やっぱり分かります?いや何で分かった?
女子の読心術マジ怖い。
「ああ・・・ちょうど聞こうと思ってた。おたくら、あいつ見かけてないか?」
「それなんだけど・・・10分ぐらい前にセガの前ですれ違ってさ。
声掛けたんだけど無視されちゃって・・・」
「なんかすごく思いつめた表情してて、それ以上はちょっと・・・ね」
ヒデコさんにミカさんが、これまた沈痛な面持で振り返る。
・・・ヤバいな、すぐにでも見つけ出さないと。本当に時間がない。
「・・・それで、そこから高坂がどこに向かってったか分かるか?」
「えっと、確かね・・・・裏道の、パソコンのパーツとか売ってる店がいっぱいあるとこだね。
そっちの方に入ってったよ」
フミコさんが答える。
よし。そこまで分かれば十分だ。
「すまん!恩に着る!」
イケメンにしか許されないグッドサインからのダッシュ。
あ、多分ドン引きされてるわこれ。もうどうにでもなれ。
「頑張れー!」
「負けんなー!愛を取り戻してこーい!」
「男なら当たって砕けろー!」
・・・おい。
別の意味で勘違いしてるぞあの人ら。あと通行人がジロジロ見てるからやめて。
もうほんと、どうにでもなれ。
3人から教えられた通り、ゲーセンのある角から裏道に入る。
ホビーショップやDVDショップを通り過ぎ、さらに入り組んだ細道へ入り―――
「ほらほら、さっさと歩きなよ。な?」
「どうすんよ?カラオケボックス連れてく?ギャハハ」
「う、や、めて・・・」
―――いた。
高坂、その周りを男3人が取り囲む。
どんな状況かは、すぐに分かった。
「―――おい。あんたら、うちのアイドルに何してんだ?」
自然と、信じられないくらいにドスの利いた声が口をついて出ていた。
【side:穂乃果】
比企谷くん。
最後に会った時より髪が伸びてボサボサで、少し不健康そうだけど。
確かに、比企谷くんだった。
なんで・・・。
なんで、こんなところにいるの?
早く、早く逃げて。
「・・・は?お前、誰?」
男の一人が、比企谷くんに声を飛ばす。
恫喝するかのように。
「あんたらが今、ナンパしてる女子のマネージャーやってる者だ」
「は?ナンパって、俺らこの娘とおしゃべりしてただけなんだケド」
「それを世間じゃナンパって言うんだよ」
比企谷くんが冷たいけど、強い口調で言い放つ。
よく分かんないけど、すごい。今まで見たことのない比企谷くんだ。
でも、周りの男たちはそれで怯んでないみたいだった。
「は?お前さ、さっきから何様?」
「は?は?って、あんたら、さっきからバカ丸出しだな。
ちゃんと人の話は聞いておけよ。繰り返すが、俺はそこの女子のマネージャーだ」
「・・・んだとぉ?」
男たちは穂乃果から離れて・・・今度は、比企谷くんを取り囲む。
ああ―――!
どうしよう、誰か、誰か。比企谷くんを、助けて。
「お前さ、わけわかんねぇ嘘とかついてんじゃねえよ。
あの娘がアイドル?お前がマネージャー?んなはずねぇだろ」
「なんだ、あんたらは知らないのか」
「いや、知る知らない以前にアイドルとかあり得ねぇだろっつってんだよ」
比企谷くんは一歩も引かない。
男たちの方もますます殺気立っている。このままじゃ、比企谷くんがひどい目に遭ってしまう。
なのに、穂乃果は。
怖くて、声も出せなくて。何もできなくて―――
「ああ、そうかもな。
そいつは別に、どこにでもいて、そしてアホの子な女子高生だよ。
だが、それでも立派なスクールアイドルだ。
そして、これから大物になる。日本一の、スクールアイドルになる。
俺はそれを見守って、見届ける義務がある。だから、あんたら如きに邪魔はさせん」
―――。
え。
いつの間にか、涙が溢れていた。
いつものちょっと捻くれた、でも実は優しい男の子とは、また違う。
目は腐ってるけど、真っすぐなまなざしで。
かっこよくて、でもやっぱりちょっと捻くれてる比企谷くんが、そこにいた。
「・・・は?」
男たちは、ぽかんとして比企谷くんを見つめてる。
今なら、もしかして。
「まだ理解できないってなら勝手にしろ。・・・高坂、行くぞ」
「あ・・・う、うん―――」
「―――ふざけんじゃねェぞこのキモオタがッッ!!」
その時。
男が比企谷くんの服の袖を掴み、引っ張って思い切りコンクリートの壁に叩きつけた。
比企谷くんは、その場にうずくまったまま、動かない。
あ、あ。
「チッ、この程度で簡単に吹っ飛んでんじゃねーよ。雑魚すぎ~」
「その雑魚相手に暴力行使して、それで満足か?―――底が浅いんだよ、あんたら」
「・・・あ゛ぁ!?」
よかった、生きてた・・・じゃなくて!
無理矢理胸ぐらを掴んで引きずり起こして、壁に押し付けてる。
このままじゃ、また・・・!
「―――やめてよぉぉぉぉ!!」
気づくと、穂乃果は―――男に飛び掛かってた。
思いっきり腰を掴む。どんなに向こうが暴れたって、絶対、放すもんか。
「おい、ちょ、てめぇ、放せコラ!」
「嫌だよ!比企谷くんを、先に放してよ!」
「何やってんだ高坂!早く、お前だけでも逃げろ!」
「見守ってくれるんでしょ!穂乃果が、日本一のスクールアイドルになるの!
見届けてくれるんでしょ!
だから、絶対放さない!比企谷くんだけ、見捨てたりなんかしない!」
泣きじゃくりながら、暴れながら、必死に叫ぶ。
今まで失敗したことや、ことりちゃんが留学してしまうことのショックで、ずっとうじうじしてた。
でも、もう迷わない。
帰ったら、ことりちゃんとも話し合う。そして、もう一回μ'sをやり直すんだ。
穂乃果は、もう逃げたりなんかしないよ。
ふと顔をあげて、男のゲンコツが飛んでくるのが見えた、その時。
後ろから、懐かしい声がしたんだ。
「―――穂乃果っ!!」「穂乃果ちゃん!比企谷くん!!」
【side:八幡】
「―――穂乃果っ!!」
ふと、そんな声が聞こえた。
目を開けた、その瞬間。
園田が俺の近くにいたヤンキーを、華麗な背負い投げでアスファルトへ叩きつけていた。
・・・お前、柔道の心得もあったのね。もうチートすぎんだろ。
園田に分投げられた男は、体格的には彼女とそう変わらない。
同じ体格の人間が戦ったら武道のできる人間が勝つ、常識で考えればだ。それにしたってリアルで実演されたらドン引きものである。
ま、それはさておき。
「・・・う、あ」「や、やべーよ・・・」
まさか女子高生相手に仲間一人叩きのめされるとは思いもよらなかったヤンキー共は、すっかり怖気ついている。
ヤンキーの特性その1、弱きには強く強きには弱い。
・・・いや、いくらなんでもビビりすぎだからね、あんたら?
「これ以上、穂乃果や比企谷くんに手を出すなら、貴方たちも容赦しませんが」
「「ひぃ!」」
園田の宣戦布告に、ヤンキー共はまるで漫画の悪役のごとく蜘蛛の子を散らして逃げていった。
やーい、よわむしーよわむしー。幼稚園の頃、ガキ大将がおねしょして泣いていた光景と被って笑ってしまう。
いやホントあれは人生の中でも最大級の胸がスカッとするシーンだったわ。
さて、ひとまず嵐は去った。後始末に入るとするか。
俺は園田に声を掛ける。
「悪い、助かった。・・・なんでここが分かった?」
「・・・私たちも、穂乃果の家に行こうとしていたんです。
その時雪穂やヒデコから連絡を受けて、それでみんなで探し回って、ここに」
「今頃は、会長さんたちが学校の周り、探してくれてるんじゃないかなあ」
南が補足してくれる。
場所こそ見当違いだったとはいえ、彼女らも動いてくれていたわけか。
なら俺の果たした役割は、ほんとうにちっぽけなものでしかないってことだな。
だが、それでいいと思った。俺みたいなのが感謝される必要はない。
悪意を買わなくて済んだのだから、それで十分なのだ。
高坂の方へと向き直る。園田と南も、それに続いた。
「・・・そっか。みんな、穂乃果のこと、心配してくれてたんだね」
「そんなの・・・当たり前でしょうっ!!」
瞬間、園田が高坂に近寄り――――抱きしめた。
「私も、ことりも、皆・・・心配していたんですよっ!
穂乃果が来ない間も、ずっと、待っていたんですから・・・っ・・・!」
涙が混じる。
抱き合っている園田も、高坂も。それを俺の横で見つめる南も。
皆、涙を流していた。
「ごめん・・・ごめん、ごめんね、海未ちゃん、ことりちゃん!
穂乃果、もう逃げないから!
もう一度っ、頑張って、やり直すからっ!!」
「穂乃果ちゃん・・・私もっ、ごめんねっ!」
南も、2人の中に飛びつく。
「私、留学なんてしない!迷ってたけど、今の私の夢は、違うの!
μ'sのために服を作って、皆が笑顔になるのが、夢なの!
だから私も、みんなのために・・・頑張るよっ!」
3人で、共に謝り、共に泣き、共に支えあう。
なるほど、王道の青春だ。
だが王道の脚本も、役者が二流ならテンプレと酷評されるだけだろう。
最高の役者あってこそ、舞台は輝く。
こいつらなら、おそらく、どこまでも行ける。
そう、信じる気になった。
「あ・・・すみません、比企谷くん怪我はありませんか!?」
「ん、まあ背中が痛いだけで特にはな」
「で、でも、唇に血がついてるよ~?」
マジか。気づけば口の中が切れている。
そういや壁に叩きつけられたときに顔もぶつけてたな・・・蛮族め。
その時、ふと顔を上げると、近くに高坂の顔があった。
・・・いや、君、近いって。離れなさいな、誤解するだろ。
「ひ、比企谷くん・・・」
「・・・なんだ」
一呼吸おいて、届いた言葉は。
「―――さっきのセリフ、すっごく、カッコよかったよ・・・///」
「・・・穂乃果ぁぁぁ?!!」「ほ、のか、ちゃんーーーーー!!??!」
―――おい。
おあとが大変、よろしくないぞ。
よっしゃぁぁぁ!
少々ご都合主義だったかもしれませんが、ついにシリアス編たる第三章、次回で終わりとなります。
つまり1期のおはなしが終わるということ。第四章からは、2期+劇場版編がスタートします。
ご期待ください!
年内には、本編と外伝それぞれ一話投下して終了かな?