ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
ちょっと視点変更が多いです。あと八幡の出番が(ry
【side:希】
「ふふん・・・流石比企谷くん、憔悴した女の子にさり気なく飲み物とはやるなぁ・・・。
案外女たらしの才があると見たで」
夕刻、いつも通り希は神田大明神にて巫女のバイトをしていた。
ただ、手に持っている大きな双眼鏡と華麗な巫女服とは、どう考えても釣り合っていない。しかも今彼女がしゃがみこんでいるのは、神殿の物陰。
辛うじて彼女の可憐な容姿が、ぎりぎりのところで不審者扱いを避けていた。
「ま、陰ながら恋愛の成就を見守るんも、神に仕える人間の端くれの務め・・・。
エリチ、勇気だしや」
・・・どこか勘違いしつつも、希は影からじっと見張り―――。
いや、見守り続ける。
【side:八幡】
「ね、ねぇ・・・大丈夫なの?」
「・・・大丈夫っす、ちょっと意識飛んでただけなんで」
「全然大丈夫じゃないわよねそれ?!」
いやーだって、いつの間に東條副会長がμ's入ってたなんて知らなかったんでー。
・・・俺だって悪夢だと思いたい。高坂達ですらそんな許可出してなかったぞ。
ちょっと撮影協力で出入りした程度で入部オーケーなんて、緩いなんてそんなちゃちなもんじゃ断じてねえ。
あー、でもきっと既成事実できちゃってあの人もメンバーとして受け入れられちゃうんだろうなー。現実は非常である。
「まあ副会長が勝手にメンバー入りしたのはいいとして・・・俺らの活動について聞きたいんですよね?」
「え!?勝手にって、全然よくないじゃない!」
その激しいツッコミ止めろや。話が進まん。
俺だって納得してねーよ、でもどうせ俺には覆しようがないんだから諦めてんだよ分かれよ。
「・・・ファーストライブの件はご存知でしょうから置いておきます。その時に披露した曲のPVを制作して、SIFにアップロードしたとこです。
あとは矢澤、それに1年の星空凛、小泉花陽、西木野真姫が新メンバーに入りました」
「School Idol Festa・・・スクールアイドル専門のSNSね」
「ええ。それについてもまあ評判は上々です。以上、そんなところですかね」
質問・・・もうある訳がないよな。
これ以上ないくらい、簡潔かつ丁寧に説明した。あとはその、俺たちの戦いはこれからだ!だし。
これからどうするか?あ、その質問は前にもされました、以上終わり。
「そう・・・」
「もう聞くことがないんでしたら、これで失礼しますが」
「・・・もう一つだけ。貴方、μ'sがこれからも上手くやっていけると思う?」
また、随分と意地の悪い質問だ。
そこまでアイドルが嫌か。行く末が不安か。かつての矢澤のように、俺たちが失敗するのを見るのが怖いか。
なら。
「―――そんなに俺らが失敗して惨めな姿を晒すのを見たくないなら、目を瞑って耳を塞いでればいいじゃないですか。
いずれにせよこの前許可は下りたんだし、こっちは自由にやらせてもらいますよ」
「!違う、私は・・・」
「ま、俺にとってはどうでもいいんですがね。・・・それじゃ、失礼します」
この人は、本当に何度茶番劇を繰り返せば気が済むのか。
大人しく会長の椅子にふんぞり返っていてくれればいいのに、中途半端な善意で行動しようとするから皆が不幸になるのだ。
いい加減、引っ込んでいてくれ。
「・・・ま、待ってください!」
「はい?」
すると今度は、会長の妹が呼び止める。
ははあ、姉貴に冷たい態度を取ったのが許せないってか?大した姉妹愛よ。
「あの・・・実は私も、さっきμ'sのPV、見ました。
・・・そ、その、凄く感動しました!私も、応援してますから!」
・・・・。
「・・・亜里沙」
「・・・どうも。俺からもあいつらに伝えておくんで」
「は、はい!これからも頑張ってください!」
励まされたというのに、何故か微妙な空気になったのは何故だろう。
ともあれ、こうなった時の対処法は一つ。とっとと退散することである。
一応会長に軽く会釈して、神田大明神を去ることにした。
【side:絵里】
「・・・・」
「・・・お、お姉ちゃん・・・ごめんね」
「別に、気にしてないわ・・・早く帰りましょう」
嫌なら見るな。聞くな。
比企谷八幡のその台詞は、絵里の心を見事に打ち抜いていた。
そう、絵里は怖かった。
かつてにこの率いるスクールアイドルが、ラブライブ初戦で敗退してまもなく、あっけなく崩壊した時。
生徒会として応援するねなどと言っておきながら、いざにこが困っているときに何一つ手を貸せず。
ようやく声を掛けられたときには、もう手遅れだった。
―――もう、遅いわ。それに、別に気にしてないし。にこが未熟だったから、甘かったからいけないのよ・・・!
あの光景は、今でも目に焼き付いている。
にこに変わって、その場面に高坂穂乃果やμ'sの他のメンバーが映っていたとしたら。
耐えられない。恐怖心に。自分の不甲斐なさに。
目を瞑ったって、耳を塞いだって、耐えられるものだろうか。
否、きっと心が押しつぶされてしまうだろう。
「・・・私は、どうすればいいの・・・?」
「―――どうやら袋小路に入ってしもたようやね。何ならおみくじで占ったろか、エリチ?」
「・・・希!?」
「ふふっ、一部始終は見とったよ。
それにしても比企谷くん、せっかくええ所やったんにあすこで逃げてしまうとはな~・・・ちょっとガッカリやわ」
巫女服を着込んだ友人が、いつも通りの意味ありげな笑顔でそこに立っている。
「昨日の話、だけど。私はやっぱりできないわ・・・μ'sに入る資格はない」
「まだにこっちのこと、エリチは気にしとるん?」
その問いに、絵里は答えられない。
沈黙は肯定。それを察した希は、静かに語り掛ける。諭すように。
「・・・ウチが見る限り、もうにこっちは昔のことは気にしとらん。ウチらだけだったんよ、昔のことにこだわってたんは」
「それが何になるの?私は今まで、彼女たちのスクールアイドルの活動を否定してきたのよ?!
今さら許して、私も入れて、そんなこと言える訳が―――!!」
「―――言わなあかん」
「!」
希の表情から、笑みは消えている。
その時は決まって、表情の裏に鋼の意志を宿している。そうなったら、いくら自分でもどうすることもできない。
「言わなあかん。言わなあかんよ、エリチ。エリチもあの子らも、音ノ木坂救いたいっちゅう思いはおんなじや。
それなら妥協できるはずやで。ここで下らん意地張ってたら、両者共倒れや」
「・・・・」
そう、友人の言うことは正しい。
でも、自分にそんな勇気は出せなかった。
いつも意地を張って、自分を立派に、強く見せようとして生きてきたから。
肩が強張る。
その肩を、ぽんと希が叩く。
「ウチ、前も言うたよね?
エリチの大好きなバレエも、アイドルの歌と踊りも、どっちもみんなを明るく笑顔にさせてくれる。おんなじもんなんやよ。
だから、エリチ、お願いや。
ウチと一緒に、μ's、入ろ?」
「の、ぞみ・・・あ、ぁぁぁぁ・・・」
いつの間にか、涙が溢れている。
妹が傍にいるのに。姉としてみっともないと思いながらも、それを抑えることができない。
「明日、ウチも一緒に謝ったげるから、な?
も一度、最初からやり直すんや」
「・・・う・・・うん・・・」
希に抱きしめられながら、絵里はひたすらむせび泣く。
その傍ら、亜里沙は黙って見守っている。
秋の夕暮れが、静かな神社を優しく照らしていた。
【side:???】
「ふぅ~・・・今日もめぼしい新人ちゃんはいないかぁ・・・」
夜。
秋葉原の中心部にあるマンモス校、その学生寮のプレイルーム。
その一角で、彼女はひたすらにパソコンをじっと眺めている。
「・・・まだSIFを見ているのか?いい加減練習するか、休むか決めた方がいい」
「そ~だよ~、それに下ばっかり見てたらいつか転んじゃうよ~」
「ちょっと・・・流石に貴方に言われたくないわよ。
それにね、新人の娘の歌からインスピレーションが湧いてくることだってあるの・・・おっ?」
急にまた食い入るようにパソコンの画面を眺めはじめた彼女を、仲間2人は怪訝な表情で見つめる。
・・・また始まったか。ロングヘアでありながらどこか男性的な少女は、そう思ってため息をついた。
「で?何か面白そうなのは見つかったのか」
「これよ・・・このμ'sって娘!敢えて制服で挑んでくる初々しさに大胆さ!
これは確実に伸びるわよ」
「そ・・・そうなの~・・・?」
2人もつられるように、μ'sとやらのデビュー曲PVを眺める。
プロフィールを見ると、今日初めて曲を出したばかりのようだ。
余程手馴れた人間が作ったのか、PVそのものは画・音ともに品質はいい。
ただ肝心の中の人物はというと・・・まあ歌は及第点としても、踊りがまだダメだ。
これから伸びていくにしても、かなり時間が掛かりそうだ。その間に別な実力あるグループがどんどんデビューしては、やがて追い抜かされるだろう。
結論から言って、敵にも値しない。
「・・・どうやら、2人ともこの娘達を侮ってるようね」
「当たり前だ。いくらスクールアイドルといっても、最近はここまでレベルの低い連中はそういないぞ」
「ダンスがちょっとカクカクしてて、ロボットさんみたい~」
「そう・・・なら、この再生数をご覧なさい」
「「・・・は?」」
2人の頭が、凍り付く。
間違いなく、そのPVは今日アップロードされたものだ。
なのに・・・既に1000回を突破している。
「まさか・・・やらせか、サクラじゃないだろうな?」
「失礼ね。この娘達には、スピリチュアルというか、何か運命的なものを感じるの・・・!
きっとそれに共感した人たちが続々集まっているのね」
それでも尚、未だ納得のいかない仲間達。
それに業を煮やした彼女は指を突き付け、高らかに宣言する。
「いい!英玲奈、あんじゅ!
ライバルには敬意を払って接するべき・・・μ'sは、いつか絶対に私たちA-RISEと肩を並べる存在になるわよ!
だから、明日からも気合入れていきなさい!」
彼女―――綺羅ツバサの宣言は、外にまで、皆が寝静まった夜の学生寮にも響いていた。
後日、彼女らが寮長からお叱りを受けたのは言うまでもない。
ツバサさんのキャラがハルヒっぽい件。
・・・劇場版でしか把握してないからキャラブレブレになると思います。マジゴメン。
今日にでも2期のDVD借りてくるか・・・。
ちょっと今回はご都合主義が多すぎたかな?
早いとこミナリンスキー回、何より合宿回に進みたいものです。