ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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コミケ終わりましたね。
皆さん、ラブライブ関連のお宝はどれほど手に入ったでしょうか。

・・・そろそろエリチ加入、合宿編に進みたいなあ。


第十三話 泣いても笑っても、乙女とは怖い生き物である。

ご飯の席では、基本暗い話はタブーである。

いや、そもそも話しながら食うこと自体間違ってるんだけどね?ファミレスでドリンクだけ頼んで、喧しく喋りながら長時間グダグダ居座る奴らの多いことよ。

で、店員からやんわり注意されると逆ギレして僕たちあたしたち客なんですけどぉ?だ。救えない。

ならお前らもドリンク代分働け。同じ気分を味わってみろ。

そこまでしてそれでもお客様は神様ですと、胸張って言えるなら許してやってもいい。二度と来店はお断りさせていただくが。

 

・・・おっと、話が逸れた。

今さっきまで東條副会長から、矢澤の過去話について聞かされていたのだ。それもとびっきり最悪の鬱話を。

 

過去にスクールアイドルをやっていて、見事挫折して、失意のどん底にあったかつての矢澤のことを。

 

「・・・で?俺にそんなこと言ってどうしたいんです?何かあったらあいつを支えてやれと?

今のあいつは上手くやってると思うし、俺如きが助ける必要なんてないと思うんですが」

 

「今は、やね」

 

いくらなんでも心配が過ぎる。

また失敗したら、またぽっきり折れてしまうと?そんなやわには見えない。

 

確かに材木座ばりにウザいと感じるときもある。だが裏を返せばそれほど熱心に俺たちに協力してくれているという事だ。

その原動力が自身の後ろ暗い過去にあるとか、そんなことは知る必要などない。むしろ邪魔な情報だ。

 

「それに、俺が助けるより女子同士で助け合えばいいでしょう。その方がずっと効果的だ」

 

「・・・そうかもしれんな。でも、ウチには、そんな資格ないんや」

 

「なぜ」

 

「にこっちがスクールアイドルを始めたとき、当時の会長にそれを後押しするよう頼んだんがウチとエリチ。

正式に認められた時は一緒に喜んで、応援するねなんて言って。

・・・でも、いざにこっちが挫折して、苦しんでるとき、ウチらは何もせんで、ただ見てただけ。・・・だから」

 

・・・はぁ。

 

 

「だから、何なんです?」

 

 

もういい加減にしていただきたい。

おたくは俺と飯を食いたいのか、それとも与太話を聞かせたいのか、一体どっちなんだ。

 

「だから慰めてほしいんですか?同情してほしいんですか?許してもらいたいんですか?

なら俺じゃなく矢澤に言うべきことでしょ。何度も繰り返しますが、俺にはどうにもできませんよ。

・・・それに」

 

一呼吸おいて、続ける。

 

「もし今言ったことを言い訳にしてやっぱり足抜けしようなんて、俺も矢澤も、他の連中も許しませんから。

最後まで、付き合って下さい」

 

かつてファーストライブの時、矢澤に言われた台詞そのままに言い放つ。

 

人間だから迷うのは仕方ない。だがそれを人に見せつけ、同情を引こうとする心根は気に食わない。

俺の嫌いな人種のひとつ、それはリアルで悲劇のヒロイン振る奴である。男にせよ女にせよ。

理由は単純、気色悪いからだ。人に媚びて甘ったれるその姿が。

さらにズバリ言うなら、それはメンヘラと言います。すぐ病院に行って頭の検査を受けましょう。・・・まあ、皮肉はさておき。

 

「・・・ふぅ。随分はっきり言うね、キミ」

 

「はっきり言って欲しかったんじゃないですか?だからそうしたまでです」

 

俺に進路相談を持ち掛けてきたときの西木野と同じ。

この東條希という人物も、誰かに背中を押してもらいたかったのだ。そのやり方は真逆で、乱暴なものになったが。

さぞや俺のような人間にこうまで好き勝手言われてムカついているだろう。ビンタ喰らって「出てって!」なんて―――

 

「うむっ!やっぱりキミは、ウチが見込んだ通りの男やな!」

 

・・・はい?

 

「・・・いや、大丈夫ですか?普通ブチ切れるんじゃないんですか?」

 

「何言うとるん、キミに比べたらウチの方が何倍もムカつくで。

本当に助けてあげるべきときにそうしないで、後になって同級生の男子相手にウダウダ愚痴言って・・・あー、みっともない!

いや、ホンマすっきりしたわ。目も覚めた」

 

・・・・。

 

さっきまでしんみりしてたのに、急にヘラヘラと・・・。

おい、もしかして。

 

「あんた、俺を試そうとしてました?」

 

「ん?何言うとるん?ウチ、よう分からん☆」

 

・・・図星。

 

やはり東條希は、小悪魔・・・いや、魔王だった。

 

 

3日後 音ノ木坂アイドル研究部部室

 

「ことりちゃん海未ちゃん見て見て!穂乃果たちが踊ってるよ~!」

 

「私たちが踊っているところを撮影したんですから当たり前でしょう・・・」

 

金曜日の放課後。誰もが待ってるゴールデンタイム。

つまり、いよっっしゃぁぁぁぁぁ週末だぜぇぇぇ!・・・ってことだ。

あー、今日まで長かった。1週間が1年に感じるまである。

 

さておき、昼休みのほぼ全てを使い潰し、下校時刻ギリギリまで活動して作り上げたμ's最初のPV。

それを今SIFにアップしたところだ。なんつーか、この一仕事成し遂げた達成感がパナい。

いや、パナいというかヤバい、か。また一つ社畜フラグが立っちまったわ。

 

「画質や音の乱れは・・・特になさそうやね」

 

「そうね、デビュー曲のにしては中々高品質よ。・・・あとは、さっさと反応が来ることを待つのみね」

 

「さっさとって・・・せいぜい今日の夜あたりに来ればいい方じゃないのか」

 

「そうでもないわ、SIFのホーム画面見たでしょ?

新しくデビューしたグループの楽曲を優先的に表示してくれるコーナーがあんのよ。・・・ほら、ここ」

 

矢澤がPC画面をスクロールすると、画面の下に先ほどアップしたばかりのPVがもう表示されている。

その真上にはA-RIZEなど人気グループの楽曲が並ぶ。その再生数たるや、どれもこれも数百万。

・・・恐れ多いと言うか何と言うか・・・いいいいやビビってるわけじゃねーし?

 

「え・・・もう再生数21回!?す、凄いにゃ~・・・」

 

「え、まだ上げてから5分も経ってないのに!」

 

「驚いた?これがSIFのカラクリ、そして新人たちへの配慮を忘れないSIFの懐の深さなのよ!」

 

いや矢澤、お前がドヤるところじゃないから。

オタクには他人の知らない知識をひけらかしたがる奴がよくいるが、こいつもその一人らしい。

要は寒いしみっともないからやめなされということだ。後で思い返して悶えることになるぞ。

 

「お、早速コメント来てるわよ。『校門前、制服、敢えてシンプルさを狙った演出が逆に好印象。初々しさを感じられる』ですって」

 

「『ミルキーゴールドの髪の子がぽわぽわしてそうでカワイイ!』・・・これ、ことりちゃんのことやんな」

 

「えっ!?・・・こ、ことり恥ずかしいよぉ・・・♪」

 

うわー照れてるところもあざとい。ことりさんマジパネェッス。

 

しかしこうも早く反応が来るとは思わなかった。以前調べてみたが、SIFは日本では今やSNS・動画サイトとしても3番目の規模を確立しているらしい。

加えてサイトにアクセスしたらいきなりホーム画面で見れるのなら、ミーハーさんでもポチっと見ていくだろう。

普通ならやらせを疑うところだが、当事者全員がここに居る以上それは考えにくいしな。

 

出だしは、まずまず順調。

 

その時、自身のスマホでサイトを見ていた西木野が唐突に顔をしかめる。

 

「・・・ちょっと待って。褒めてるコメントばっかりじゃないわ、『今時制服は地味すぎる。出だしからこれでは厳しいのでは』って・・・」

 

「え?!・・・う、うーん・・・」

 

ま、やっぱり厳しいコメだって付くわな。

その指摘に、高坂が一転してしょげ出す。ホント喜怒哀楽の差が激しいなコイツは・・・。

 

「流石に気にしすぎだろ、まだたった一件だけだぞ」

 

「そうよ!第一次の曲を上げるときにはもっと派手にドカーンってやればいーんだから」

 

・・・あんまり派手すぎんのも考え物だが。

慰めるにしてももうちょい言葉を考えようや。すぐ高坂が調子に乗るぞ。

 

 

「比企谷くん、まったねー!」

 

「ん、それじゃな」

 

「みんな帰りは気を付けてよ?特にアンタ、不審者と勘違いされないようにしなさいよね」

 

「・・・うっせ」

 

夕方、下校時刻を過ぎたので解散。

今日は誰とも一緒に帰ることはなく・・・べ、別に寂しくなんてなんだからっ!・・・久々に一人で帰宅することになった。

 

あれから順調に再生回数を伸ばし、1時間で100回を超えた。矢澤曰く明日には1000回近くは堅いとのこと。

それは流石に出来すぎだが、ともあれ評判はそれなりに上々なのは間違いないだろう。

ネット界でのデビューは上手くいきそうだ。あとは、次の新曲のことである。

継続は力なりとはよく言ったものだが、ネット上で知名度を上げるには更新が鈍ってはいけない。

実際問題スクールアイドルは星の数ほどあり、学校によっては2グループ以上あるところもあるという。

すぐに曲を発表できなければ、瞬く間に過去の人となり、忘れ去られていく。スタートダッシュは成功したのだから、それをどうにか次に繋げなくては。

 

まあ、俺が曲を作る訳でも歌う訳でもない。ましてやリーダーでもない。

あくまで補佐である。そこをはき違えて偉そうに指図などできない。

あいつらが動き出してからが俺の仕事なのだ。それまではじっと見守るしかない。

・・・ストーカーっぽいとか言うなよ?

 

さて、今日の飯は残り物で軽く済ませるとして、今日は久しぶりにアキバの本屋でも寄っていくか。

このところ忙しかったし、休息も必要だ。

 

 

「・・・お姉ちゃん!今日の御夕飯は何なの?」

 

「そうね、今日はピロシキを作ってくれるそうよ。さ、早く帰りましょ」

 

「やったー、ピロシキだー!」

 

 

・・・げ。

絢瀬会長に・・・妹か?いかん、ここを離れよう。

ほ、ほら俺って不審者だって誤解されやすいし・・・。自分で認めてる時点でアレなんだが。

 

「?・・・比企谷くん・・・どうしたの、急にこそこそ逃げ出して」

 

「い、いえべちゅになんでも・・・」

 

やべえ、見つかった。おまけに噛んだ、神田だけに。

名役者八幡の一人漫才でござい!・・・いやおもろくねーわこれ。

実際笑えない。不審者の嫌疑をかけられそうだという時点で笑えない。

嗚呼・・・短い生涯だったな。小町よ骨は拾っておいてくれ、お兄ちゃん一生のお願いだから。

 

「・・・やっぱり私・・・怖い?」

 

「へ?」

 

「・・・ほ、ほら私・・・いっつも怖い表情してるって言われる、から・・・」

 

あ、涙目になってる。顔赤くなってる。

やだこの人可愛い。ちょっとポンコツだけど。

 

「お、おねえちゃん・・・」

 

・・・ヤバい。

妹まで泣きそうじゃねーか、こんなの通りがかりの人に見られたら俺がぶっ飛ばされるまである。

さっさと場所を変えなくては。

 

 

「・・・落ち着きました?」

 

「・・・ええ、ごめんなさいね。廊下を通るたびによく避けられるんだけど、未だにショックなのよね・・・」

 

神田大明神、夕日を眺めながら2人でマッカン。

別にデートではない。単に俺に逃げられそうになって傷心の絢瀬会長を慰めているだけである。勿論お代は俺もち。

うん、八幡嘘つかない。

 

しかしまあ・・・俺の小学生時代を思い出すな。

廊下通るたびに避けられるなんて、「比企谷菌だー逃げろー」なんて囃し立てられた記憶がよみがえる。

その馬鹿の内一人ははしゃぎ過ぎた挙句、走って教室から飛び出して雨でぬかるんだ花壇にダイブ、全身泥まみれになったんだが。ざまあ。

 

「あの・・・お兄さん、私からも飲み物買ってきました・・・」

 

「いや別に、そんな気を遣わなくても・・・は?」

 

おい、なんで『缶入り味噌汁』なんだ。

いやありがたいけど。夕食のおかずにできるからいいけど。でも外で飲みたいか、味噌汁って?

 

「・・・亜里沙、これは飲み物じゃないわ」

 

「え!?・・・イ、Извините...(ごめんなさい・・・)」

 

いや、なぜにロシア語?

あと怯えながら言うの止めてください、誰かに見られたら即警察沙汰です。

 

「別にいいすよ、夕食の足しにしますから」

 

「よ、良かった・・・」

 

ホッとしてる・・・うわぁ。

小動物みたいで犯罪臭がすごい。俺やっぱあの場で帰るべきだったわ、振り切ってでも。

 

「・・・私の親類がロシア人なんだけど、それで亜里沙は小学生の時まで向こうで暮らしていたの。

それでまだ色々と日本の文化に慣れていない面もあって・・・。だから、驚かれたらごめんなさい」

 

やはりクォーターだったか。

正直留学以外で子供を外国で過ごさせる意味はよく理解できないが、まあそれは他所様の教育方針。口出しはできない。

 

「はぁ・・・取り敢えず2人とも落ち着かれたみたいですし、俺は失礼しますよ」

 

「あ、ちょっと待って。貴方たちの活動について色々聞きたいことがあるの」

 

チッ、そうなるか。

俺はどうも女難の相を持っているらしい。女に関わると必ずこちらの時間を消費させられるという点では絶対そうだ。

てかおたくら、飯の時間はよかったのか?どこぞの童謡じゃないが、でんぐりかえってバイバイしたいところである。

 

「副会長に聞いてみたらどうです?今、あの人俺らに協力してるんで」

 

「それは知ってるわ・・・昨日も、ウチもμ'sに入ったから、私にも入ってって持ち掛けてきたのよ。

でも・・・」

 

「はい・・・はい?」

 

 

―――え。

 

おれは めのまえがまっくらになった。

 

 

「ちょ、ちょっと!?比企谷くん?!」

 

 

 

 




「センターは誰だ?」のおはなしをすっ飛ばしたことに今さら気づいた。
あと「ワンダーゾーン」の扱いどうしようかな・・・。

クロス作品を書くと、どうしても双方の原作の設定(時期とか)にズレが出るんですよね。
そこが頭の痛いところです。

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