ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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まきりんぱな、最後にちょこっとだけになってしまった・・・。すいません。
あとエリーチカがちょっと残念キャラになってる感じも否めませんが、そこは今後巻き返していくので目をつぶっていただけたらと。


第十話 数は力、これは真理である。

先手必勝。一対多。

いつも当てはまるとは限らないが、喧嘩で勝つときの大原則のひとつだ。

 

・・・言っておくが俺が誰かに喧嘩を吹っ掛けたとかそういう訳じゃない。むしろ吹っ掛けられる側だ。

昔からよくいじめに遭ってきたもんだが、大抵いじめてくる奴らはこの原則を守っていた。

そうすることで抵抗力を奪っていく。汚いが、至極合理的ではある。

 

どんなことからでも、人は学べると言う。

ならば俺も、その手法を真似させてもらうとしよう。

 

 

「えっと・・・」

 

月曜日、昼休み。

この日ほど昼休みが待ち遠しい日もないだろう。なんつったってホラ、ブルーマンデーとか言うし。

だが今日は残念ながら、昼飯を食ってポケーッとしている暇はない。生徒会に、スクールアイドルの件で話を付けに行く必要があるのだ。

 

「・・・なんだ?」

 

「あのさ、ホントに比企谷くんから話すの?穂乃果たちじゃなくって大丈夫?」

 

「ああ。というより高坂、お前から話すと何かボロを出しそうで困る」

 

「酷いっ!?」

 

「いや、当たっているでしょう・・・昔から隠し事なんてできた例がありませんし」

 

「いっつも内緒話聞くとうずうずしてたよねー、穂乃果ちゃん♪」

 

やっぱりな。

「これ、絶対ナイショだからね?」とか言っておきながら、自分から言っちゃうタイプ。

そういうやらしい奴に限ってちゃっかりクラスの人気者の座に治まり、逆に律儀に秘密を守る奴は根暗と蔑まれるのだから、全く世の中理不尽である。

・・・ま、高坂は今までの功績に免じて許してやるとするか。こ、今回だけなんだからね?

 

「とにかく向こうが指名するまでは、あと俺から聞くとき以外は、生徒会とのやり取りは任せてくれ」

 

「・・・分かった。比企谷くんを信じるよ」

 

「おうよ」

 

決戦の場はすぐそこだ。

こんな勝負、さっさと終わらせてやる。

 

 

「?・・・貴方たち」

 

「東條副会長からも聞いていると思いますが。スクールアイドルの件で話を」

 

昼下がりの生徒会室。そこに一人佇む生徒会長、絢瀬絵里。

・・・なんかこう書くとすごく卑猥に感じるな。実際絢瀬会長って人妻っぽ・・・なにをしているんだおれは。

いかんいかん、煩悩退散太田胃散。

 

「あれ?副会長さんは?」

 

「・・・今、卒業アルバムのことで写真部に顔を出しに行ってるわ」

 

―――フッ、勝ったな。

勿論その情報はとっくに入手している。写真部員らしいヒデコさんが他の2人と喋っているとき、東條副会長が昼に来るということを言っていたのだ。

あの話し上手がいるとやり込められる可能性が高い。敵を減らせるならそうしておくに限る。

流石黒八幡、汚いぜ。

 

「希のことはいいわ、それより貴方たちの今後のことだけど・・・」

 

「ええ、スクールアイドル―――μ'sはこれからも続けさせてもらいますよ。ノルマは達成しましたからね」

 

会長が目を剥いた。

ちらと後ろを向くと、背後の高坂たちはそれに動じる様子は微塵もない。よし、それでいい。

気迫で負けたら終わりだからな。

 

「・・・その根拠を示してもらいましょうか」

 

「勿論です。・・・高坂、あの写真貸してくれ」

 

「あ、うん」

 

俺はそこで高坂から一枚の写真を受け取る。

同時にズボンのポケットからもう一枚写真を取り出し、会長の机に置いた。

 

「これは・・・」

 

「どちらも、ライブが終わった直後の様子を撮ったやつです。少し数えれば20人いると分かるはずですが」

 

一つは、ヒデコさんの後輩であの時音響を担当していた女子が、ステージ付近から観客席の様子を写したもの。

もう一つは材木座が客席の周囲の様子を撮ったもの。

 

まず最前列に俺、西木野、矢澤、そして小泉と星空、計5名。

その次の列にはヒデコさん、フミコさん、ミカさんの計3名。

さらにその後列には材木座と愉快な仲間たち。計10名。

 

そして最後列には、他ならぬ絢瀬会長、東條副会長の計2名。

全て合わせれば、丁度20名となる。

 

「・・・ちょっと待って。なぜ私と希をカウントしているの」

 

「俺たちはただ20人集めろとしか言われてませんしね。視察に来た生徒会の人間はカウントするなとは言われてない」

 

「なら、貴方のすぐ後ろの列にいる音響担当の子たちは・・・」

 

「同様です。ステージの音響担当者を含めるなとも言われていませんから。

本人たちは後輩に引き継いだそうですし、進行上も全く問題はありませんでしたよ」

 

傍から見ていれば実にしょうもないやり取りだが、こうして1個1個丁寧に反論し、外堀を埋めていくのが肝要なのだ。

そうして相手が気づく頃には、裸になった城の無残な残骸があるのみ。

 

つまり、ゲームセットだ。

 

「・・・プラカードを持っているこの男性陣は?確か1人が貴方の名前を呼んでいたと思うけど」

 

「まさか知り合いだったら客として扱うなと?男はダメだと?音ノ木坂の生徒でなければいけないと?

音ノ木坂は共学化されたんでしょ。それに一般公開なら生徒の父兄が訪れることだって有りうる。

そしてそいつらの中にたまたま俺の顔見知りがいた・・・これだって何ら問題はないはずです。違いますか?」

 

Q.E.D.―――証明終了。実に呆気ない勝負だ。

これ以上反論を続けるというなら、最早屁理屈ですらない私利私欲剥き出しのエゴをぶつけることになる。

私はお前らがアイドルをやること自体そもそも気に食わなかった、とかな。

 

別にアイドルが嫌いなら嫌いで結構。というか目の前の会長の態度を見れば、はっきりそうだと言っているようなもの。

だがそれを剥き出しにして活動を妨害するなら、こちらもそれなりの手段を取る。

教師、そして理事長―――南ことりの母親でもある人物の威光を笠に着れば、大きく出ることも可能だ。

建前上は娘だからと特別扱いしないと言うだろうが、建前は建前。ましてやこのアイドル活動は許可なく勝手に始めたものではない。

生徒会長がそれを潰そうとするなら、理事長とて黙ってはいないだろう。

 

「・・・っ」

 

さあ会長さん、どうするおつもりで?

 

 

「―――エリチ、比企谷くん。もうその辺でやめとき?」

 

 

その時。

突如として閉ざされた空間に風が吹く。

 

東條副会長。

神出鬼没、飄々とした女狐・・・ちょっと言い過ぎたか。

どのみちできるだけ敵に回したくない人物であることに変わりはなく、彼女が来る前にさっさと勝負をつけたかった。

彼女とて生徒会の人間である以上、一応は会長の肩を持つはずだ。

 

そうなれば、形勢逆転。

 

「一応な、ウチも扉の前でキミらのやり取りは聞いとったよ。

なるほど、確かにウチらは生徒会の人間も音響の子も数に入れるなとは言うとらんしなあ」

 

「「「「・・・・」」」」

 

チッ、聞いてやがったのか。それもほぼ最初から。

ならいくらでも向こうには反論の余地がある。今のこの目の前にいる人間は、恐らくそうやりかねない。

 

ここまでか―――

 

「よしっ!ええよ、音ノ木坂学院生徒会は、キミらμ'sの活動を公認します」

 

「・・・はい?」「「「えっ?」」」

 

ちょ・・・マジすか?

どう考えても何か反撃繰り出してくるって雰囲気だったんですが。

 

「希・・・」

 

「エリチ?これ以上何言うても無様なだけやで?人間、けじめが大切や」

 

直球の正論。ストライク。

あっさりとバッターアウト。会長は黙り込む。

 

「そうそう、これで正式に認められたんやし、部室も貸し出さなあかんね。

場所は一階、B棟の多目的室。これでええ?」

 

「や・・・やったー!」

 

「これで、雨の日も練習できるんですね・・・」

 

そういや雨の日はずっと高坂家でボイトレだったな。そして俺は横でただ眺めていただけ。

本を読みながらごろ寝するわけにもいかず、かと言って一緒に歌う訳にもいかない。

何もしない、何もできないのが一番の苦痛とはよく言ったもんだ。・・・言うもんなのか?

まあとにかくいろいろ辛かったんですよ、俺も。

 

ともあれ、高坂達はその決定に喜び、湧き上がっている。

会長としても、ここで決定を覆して水を指すわけにはいかないだろう。

 

終わりだ。

 

「・・・それじゃ、話は以上ですね。これで失礼していいすか」

 

「そうね・・・戻ってくれて結構よ」

 

「ま、あとは頑張りやー」

 

諦めムードに入った会長、能天気な副会長の声を背に、俺たちは去る。

 

ともあれ、勝った。釈然としない点もあるが、勝った。

これで堂々と活動できる訳だ。

 

「やった・・・これで正式にμ'sスタートなんだ・・・!」

 

・・・ん?

 

「比企谷くん・・・本当にありがとねっ!!」

 

「ちょ、おいっ!?」

 

バカ、いきなり抱き着くな!周りから変な目で見られるだろが。

 

「「♪」」

 

南、園田・・・嬉しそうにしてないで止めてくれっつの。

 

 

「ほらー!全員で繰り返しなさーい!・・・さん、ハイ、『にっこにっこにー♪』」

 

「「「に、にっこにっこにー・・・♪」」」

 

「あーもう!声小さすぎって言ってんでしょ!グラウンドの運動部の連中にも聞こえるようにしなさい!

あと比企谷!アンタも一緒にやんのよ!マネージャーだからってサボりは許さないわよ!」

 

「・・・いつマネージャーになったんだよ俺は・・・」

 

「何か言った!?」

 

「・・・別に」

 

放課後。

発声練習とキャラ作りの練習を兼ね、こうして矢澤のキャッチフレーズを連呼させられている3人・・・と俺。

折角部室が手に入ったと言うのに、「大勢の人に聞こえなきゃ意味ないでしょ!」との矢澤の意見により屋上となった。

あと俺前にも言った気がするけど、ステージで歌って踊る訳じゃないからね?何が悲しくてあのツインテ独裁者のフレーズを連呼せにゃいかんのか。

 

おまけにグラウンドの連中にはしっかり聞こえていた。時折下を見ればクスクス笑っている奴らがチラホラ。

これ以上黒歴史増やしてくれやがってどうすんだコラ。

 

「うう・・・やはり恥ずかしいです・・・」

 

「は?この程度で恥ずかしいですって?冗談じゃないわ!

もしバッカみたいって笑うヤツがいたらそいつに唾吐きかけてやんなさい!それがアイドル魂よ!」

 

・・・一見正しいように聞こえるがすごいメチャクチャな根性論だな。

あと唾吐くのはいかんだろ。むしろ魂が穢される。

 

「・・・す、すごい凄まじい練習だにゃ~・・・」「ち、違うよ凛ちゃん、これがアイドル坂を登るための厳しい試練なんだよ・・・!」

 

ほら見ろ、勘違いしてる奴まで・・・。

 

え?

あいつら・・・小泉に、星空。

 

「・・・あれ?そこの子たち、穂乃果達のライブに来てくれたよね?」

 

「あ、はい!1年の小泉花陽っていいます!

今日はその、凛ちゃんと・・・μ'sに入れてもらいたいって思って・・・」

 

「えっ?新メンバー加入ですって?!」

 

「よっしゃー!勿論大歓迎だy「・・・ちょっと待て」へ?」

 

高坂、矢澤、勝手に暴走すんな。

まず2人から話を聞くのが先だろうが。

 

「あ・・・その、理由、なんですけど・・・」

 

「別にそれはいい、大体想像もつくしな。あのライブを見て何かしら思うところがあったからだろ」

 

「・・・はい!」

 

オドオドした態度は急に消え、自信に満ちた表情になる。目にも、情熱が宿っている。

 

これも前に思ったことだが、人のやること成すことに一々理由付けをするのを、俺は好まない。

どうせ単純な悪意か、単純な善意か、どちらかでしかないのだから。

人は単純じゃない、人の内面はそう簡単にわからないなんて言う奴は、一体今までの人生何をしてたんだという話だ。

 

そして少なくとも、今の小泉に悪意というものは感じ取れない。

なら、何の問題があるか。

 

「星空・・・お前はどうだ?アイドルをやりたいと思うか?」

 

「勿論だにゃ!これでも凛、体力には自信あるから!」

 

・・・ふぅ。

ならば、後は判断を委ねよう。

 

高坂も、南も、園田も。・・・あと矢澤も。

こちらを見てニッコリ笑っている。この新人を、歓迎しようとしている。

 

「・・・ようこそっ、μ'sへ!二人とも、これからよろしくねっ!」

 

「「はい(にゃ)!!」」

 

「よぉ~し、それじゃ早速アンタ達も、1000回キャラ作りの練習よっ!

気合入れていくのよ!」

 

・・・おいバカ。

何を千本ノックみたいに言ってんだ。それにそんなに繰り返したら・・・。

 

 

「――――ちょっと!さっきから五月蠅いんだけど!お蔭でピアノの音が全然聞こえないわよっ!」

 

 

・・・やっぱりな。

西木野、マジゴメン。許せ。

 

 

 

 




終わり。
明日はコミケですね。ラブライブは3日目だったっけ。

気合入れていきましょう!(・・・小並感?)

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