〜人里への道〜
朝にも関わらず、僕はものすごい速度で人里に続く道を駆け抜けていた。
アリスさんに手渡された地図を見ながら。
しかし、この靴は凄いね。ボルトもびっくりの速さで走れるよ。おっとこの道は右だ。
本当は歩いてゆっくり行きたかった。
だけど、道中黒い服を着た妖怪らしき女の子が
襲ってきたので、こうして走っている。
だって、
「あなたは食べていい人間?」
とか見知らぬ女の子に言われて襲われたら、そりゃ逃げますって。戦う気力なんて、これっぽっちも起きなかったです。
そんなことを考えていたら、人里に到着した。
〜人里〜
人里に着いた。雰囲気としては、江戸時代の町並みと言ったほうがいいだろう。
道行く人々は僕のことを物珍しそうに見ている。
それもそのはず、人々が来ている服は着物、僕が着ているのは戦闘服。
目立つのも当たり前だ。別にどうでもいいが。
とりあえず、この人里をまわってみるとしよう。
「おっ!そこの兄ちゃん、よってかない?」
人里をまわっていると、気前の良さそうな親父に声をかけられた。どうやら、お茶屋のようだ。せっかくだから寄ってみることにした。
「それじゃあ、お団子一つとお茶をください。」
「あいよ!毎度あり!」
しかし、これからどうしようか。一通り回ったけど特に何もすることがない。あっ、このお団子美味しい。
その時、一人の女性が店の中に入ってきた。
「おっ!いらっしゃい幽香さん。」
その女性は、周りの人々が着ている着物ではなく、花柄のワンピースを着ていた。
「お茶を頂戴。」
「あいよ!毎度あり!」
そろそろどこかへ行こうかと思っていた時、その女性が話しかけてきた。
「こんにちは。」
「どうも、こんにちは。」
「あなた、外から来た人間よね。」
「えぇ。やっぱりわかりますか?」
「当たり前よ。あなた目立ってるもの。」
やっぱり目立っていたようだ。おかげで、外来人ということもバレた。
しかし、この人は何と言うか、周りとはなんか違う雰囲気を持っている。まるで、人ではないような……
いや、それはないか。ここは人里だ。多分気のせいだろう。
「とりあえず、自己紹介しましょうか。私は風見幽香、宜しくね。」
「僕は、片倉と言います。こちらこそ宜しく。」
どうやら、彼女の名前は、風見幽香と言うようだ。
ふと、彼女が僕の左腕の義手を見つめていた。
「その腕はどうしたのかしら?」
「これは、ここに来て間もない頃に、妖怪にやられまして……」
「あなた、よく生きてこれたわね。」
「まぁ、アリスさんの家に泊まらせて貰ってましたから。」
「あの魔法使いにね……なるほど、あなた面白いわクスクス」
どうやら、アリスさんのことは知っているようだ。
というかこの話のどこが面白いんだろう?
この人は何を考えているのかさっぱり分からない。
「あなた、この後は暇かしら?」
「えぇ、この後どうしようか悩んでいたところです。」
「それなら、私の家でお茶しないかしら?」
なんと、家に招待してくれるらしい。どうせ暇だし、いただこうかな。
「それでは、いただきます。」
「それじゃあ、私の家に行こうかしらね。」
ところで、この人の家って何処にあるんだろう?
そんなことを考えながら、彼女の家に向かった。
〜風見幽香の家〜
今、僕は幽香さんの家で紅茶を飲んでいる。
家の窓からは、広大な向日葵が広がっている。
その他にも、外の庭には、沢山の綺麗な花が植えてあった。
「綺麗な花たちですね。好きなんですか?」
「えぇ。毎日私が世話しているのよ。」
どうやら、この規模を一人で世話しているようだ。
どうやってるのだろうか。さっぱり見当がつかない。
「さて突然だけど片倉、私と戦いなさい。」
えっ、なんですって?戦えって言ったかな?聞き間違いかな?
突然、戦えと言われても、意味がわからない。
「言い方が悪かったわね。別にあなたを怪我させたいとかじゃなくて、あなたの力を確かめたいのよ。」
「全力でお断りさせていただきます。」
高速で土下座をしながらお断りした。プライド?そんなもん捨ててるわ、とっくの昔に。
「あら、見た目の割に結構度胸が無いのね。」
グサッ、心に何か刺さった。
「どうせ、女性にも勝てない実力しかないのよね、きっと。」
グサッグサッ、二本目の追加入りました。
まだだ、こんなことじゃ僕はめげないぞ!
「あーあ、期待はずれよ、あなた。」
グサッグサッグサッ、心が折れました。
ここまで言われると、戦うしかない。
「分かりました、そこまで言うのなら受けてたちます。ただし手加減はしません。僕を本気にさせた事を後悔させてあげますよ。」
「うふふ、いいわよ。本気でかかってきなさい。」
僕らは外に出た。
義手を使っての実戦はこれが初めてだな。全力で倒してみせる。
「先行はそっちに譲るわ。」
ご丁寧に先行を譲ってくれるようだ。
「それはどうも。それじゃいきますよ!」
僕は靴に魔力を纏わせ大きく蹴り出した。
靴の力により、目にも止まらぬ速さで駆け出すことが出来た。河童の技術万々歳。
彼女の顔面を右腕で殴ろうと振りかぶる。まずは挨拶替わりに右腕だ。義手のパンチはこのあとだ。
速すぎて捉えられないのか、彼女はガードをするどころか、動こうとする素振りも見せない。
なんだ、結構弱いじゃん。
しかし、僕の繰り出した右腕の拳は、彼女の顔面に当たることは無かった。
そこに彼女の姿が無いからだ。消えた?いや、違う。
「んなっ!?飛んだ!?」
彼女は、真上に飛んだのだ。高さにして5m程度。
空を飛ぶことが出来るということは、人ではないのか。
「人間にしては速い動きだわ。能力かしら?」
「この靴の力です。」
靴に魔力を纏わせ次は真上に飛ぶ。
本当にこの靴便利だな。河童の(ry
「でも、まだまだね。」
飛ぶ瞬間、僕は彼女の傘に殴られ地面に叩きつけられた。
背中を叩きつけられたせいで、息が苦しい。
しかし、傘だけでこの威力とは……
僕は、呼吸を整えながらよろよろと立ち上がる。
「ほら、早くかかってきなさい。」
依然として彼女は涼しい顔をしながら、挑発してくる。
僕はもう一度、彼女に向かって駆け出す。
次は左だ。義手に魔力を纏わせ、拳を突き出す。
大きな岩さえも砕くパンチを、彼女は堂々と体で受け止めた。
死んでもおかしくない威力だった。
だが、彼女は死ななかった。ましてや、傷を負うこともなかった。
僕は確信する。こいつは人間じゃない、妖怪だ。しかも、妖怪の中でも強い部類の妖怪だと。
「今の拳は効いたわ。さすがね。」
嘘をつけ、僕は心の中で悪態をつく。
最高の威力を誇る、義手での拳が効かないとなると、勝ち目はほとんどないといってもいいだろう。
こうなれば策は一つ、弾幕で牽制しつつ逃げるのが得策。
M93Rを構える。牽制が目的ならば狙いは正確じゃなくていい。とにかく逃げることが大事だ。
トリガーを引く。M93Rから、弾幕が大量に発射された。
「弾幕も扱えるのね。面白いわ。」
彼女も対抗して弾幕を放った。僕が放った弾幕の倍の量を。
逃げることが最優先だ。しかし、逃げられない。
いや、逃げられないんじゃない。逃げる余裕がないのだ。
彼女から放たれる弾幕のほとんどが、僕を狙っている。
その弾幕を打ち落とすのに僕は精一杯だ。
彼女の弾幕の一つが僕の体に当たった。その弾幕の威力は、体を吹き飛ばすほど強烈だった。
あまりの苦痛にもがいた。だが、今すぐにでも起き上がらなくてはならない。
そう思い、起き上がったとき、勝負は決した。
僕の目の前で彼女が傘の先端を突き出していた。
「私の勝ちね。」
ニヤリ、と満足したように笑っていた。
「あなた、一体何者なんです?人間じゃないのは確かだ。」
「そうよ。私は妖怪。周りからは、花の妖怪と言われてるわ。」
やっぱりか、こんな妖怪に勝てる訳が無い。
彼女は、傘を引っ込めるとこう言った。
「あなたは、強くなれる素質があるわ。」
強くなれる素質がある、彼女はそういった。
「だから、私があなたを鍛えてあげるわ。」
「何故です?僕のような普通の人間を鍛えるんですか?」
「簡単よ。強くなったあなたと戦いたいからよ。」
やばいよこの人、見た目とは裏腹に危ない人だよ。もうただの戦闘狂だよ。
断ろう。全力で断ろう。
「あなたは私に勝負で負けてるのよ?拒否権はないわ。」
うぐっ……痛いところを突かれた。何も反論できない。
「分かりました。従います。」
「素直でよろしい。それじゃあ早速だけど、あなたの義手について聞きたいことがあるわ。」
義手について聞きたいことがあるようだ。
「あなた、その義手はどういう力があるのかしら?」
「この義手は魔力や霊力をまとわせることができます。」
「本当かしら?」
「ええ。これを作ったにとりさんが言ってましたけど。」
「そうなの。でも、その義手はただ単に魔力や霊力を纏わせるだけじゃないのよ。」
どういうことなのだろう。
この義手は魔力とかを纏わせるだけじゃないのか。
「その義手はね、魔力や霊力を自在に操ることをできるものよ。」
「でも、にとりさんは魔力や霊力を纏わせるだけだと言いましたが……」
「それはあくまで、普通の人間でも出来ることよ。でも、あなたには普通の人間よりも魔力や霊力を扱う才能があるわ。」
驚いた。僕には、魔力や霊力を扱う才能があるようだ。
でも、一体どうしてそんなことが分かるのだろうか?
「どうしてそんなことが分かるんですか?」
「長いこと生きてると、そういうことが分かるようになるのよ。」
長いこと生きてると、と言ったがどの位彼女は生きてるのだろうか。
妖怪は長生きするのだろう。だとしたら幽香さんは、ばB……
あっ今、睨まれた。スゲエ怖い。
「でも、あなたはまだその才能を開花させてはいないわ。」
「では、どうすれば?」
「簡単よ。魔力や霊力の扱いに慣れればいいのよ。」
魔力や霊力を扱うのに慣れればいいようだが、そんなことしたことないからよく分からない。
「とりあえず、その義手の魔力を操って、武器を作ってみなさい。」
とにかく言われた通りにやってみるとしよう。
義手に魔力を纏わせる。そのまま、頭の中にイメージした武器を作る。
ちなみに、イメージした武器は刀だ。日本人が使うならこの武器でしょ!
しかし、長いことイメージしているが、いっこうに出来る気配がない。
「できないわね。」
「そうですね。でももう少しでできるかも……」
ついに魔力で武器を作ることが出来た。
できたのは、日本人の魂である刀
ではなく、小さいナイフだった。
あれぇ?おかしいなぁ、こんなナイフじゃなくて、刀をイメージしたのに。
「まだまだね。とりあえず、イメージ通りになるまで練習しなさい。もし、晩ご飯までに出来なかったら、ないと思いなさい。」
ええぇぇ、この人鬼畜すぎるでしょ!?
でも逆らえないのが現状。うん、諦めよう。
それから、ずっと練習していたが結局、晩ご飯は抜きでした。