「紫様。なぜあのような者を、この幻想郷に入れたのですか?」
何処にも存在しない真っ暗な空間。いわゆる「隙間」と言われる場所に二人の女性が居た。
女性の一人である、狐のような尻尾を持つ女性の疑問にもう一人の、扇子で口元を隠した女性が答えた。
「彼は、この幻想郷に必要だからよ藍」
「そうですか。しかし、紫様が招き入れるほどの者とは、いったいどのような力を持っているのです?」
「今はまだ分からないわ。でもいつか、この幻想郷に何かをもたらしてくれるはずよ」
そう言うとその女性は不敵に笑った。
「準備できたかしら?」
「はい。いつでも出発できますよ」
僕はもう一度装備の確認をする。とはいっても、まともに銃なんか扱えるような状態じゃないけど。
失った左腕を見つめる。はたしてどうなることやら。アリスさん曰く河童の技術士の義手でどうにかなるようだが、やはり心配だ。
「妖怪の山までは遠いから、飛んで行くわよ」
「えっ!?僕は飛べないですよ」
「知ってる。だからあなたを人形達で運びながら飛ぶわ」
アリスさんも飛べたんだ。
もしかしたら、僕も飛べるかも。
「無理よ。あなたは能力の無い人間だから飛べないわ」
そうですよね。どうせ無理だってわかってましたよ。別に悔しくないですよ、ただ涙が止まらないだけです……。
「グズグズしないで早く行くわよ。」
はいはい。行きますよ。
可愛らしい人形達に掴まれ、僕は大空を飛んだ。
この世界で初めての大空はとても……。
「あぁ……死ぬかと思った…」
「まったく…ヒヤヒヤしたわよ」
「いやいや、あんな不安定なのに速度出すほうがおかしいですよ」
「何よ。文句があるなら、帰りは一人で帰りなさいよ」
「すんませんでしたァ!それだけは、勘弁してください」
「わかればよろしい」
とりあえず、妖怪の山のふもとに着きました。途中、命の危険があったけど。流石にあの高さで落下するのだけは、嫌だ。絶対死ねる。ビルで言うと8階くらいはあるんだよ?信じらんない。
「あの家よ」
あれが河童の家かぁ。おぉ!とても……民家だ。もっと作業場みたいなものかと思ってた。
見た感じ、普通の民家だよね。あれ。
あっ、でも川が流れてる。河童の要素が少なからずあるじゃん。
「にとりー!居るー?」
どうやら河童の名前は「にとり」と言うらしい。
「返事が無いわね。留守かしら?」
どうやら留守のようだ。残念、出直すしかないか。
ふと、すぐそばを流れる川の小さな異変に気がつく。誰かに見られているのだ。
気配を探る。そこには目に見えない何かがいた。
「誰だ!」
M93Rを向けながら叫んだ。
「どうしたのよ片倉」
「そこの浅瀬に何かがいます。気をつけて! 」
アリスも戦闘態勢に入る。また妖怪かよ……嫌だなぁ。
一触即発の空気の中、視線を送っていた何者かが正体を現した。
「ターイム!ストップ!攻撃はやめて!」
そこにいたのは、青髪の緑のリュックを背負った小さな少女だった。
「あらにとり、ここにいたのね」
えっ……この人がにとり?河童だよね?頭にお皿ないよ?
「いやー開発したばかりの、ステルス迷彩の実験してたんだよ」
「あら、そうなの。ごめんなさいね」
「いいよ、別に。ところで、そこにいる人間さんは?」
「僕は片倉と言います。ところで、にとりさんは河童ですよね?」
「そうだよ。私はれっきとした河童だよ」
「頭の上にお皿が乗ってないんですが……」
「あぁ皿のことね。皿なんかなくたって、河童は河童だよ。細かいこと気にしてたら負けだよ?」
そうなんですか。河童は皿なんかなくたって大丈夫なんですね。
「ありゃ?あんた、左腕はどうしたんだい?」
「あぁ、先日失いまして……」
「そうかい。そりゃ大変だったねぇ」
「今日はその左腕のことで頼みたいことがあるから来たのよ」
「なるほどなるほど、仕事の依頼なら喜んで引き受けるよ。とりあえず家の中に入ろうか」
にとりの家の中は、見た目とは裏腹にとても作業場感溢れる空間が広がっていた。
「さて、どんな物を作ればいいんだい?」
「彼の左腕、つまり義手作って欲しいのよ」
「義手ね分かった。しかし、アリスが他人のためにそこまでするなんてねぇ……。珍しいなぁ」
「彼が腕を失ったのは私のせいなのよ。彼が私をかばってくれて……」
「へぇ〜」
「な、なによ?」
「べつに、惚れたのかな?とか思ってないよクスクス」
「なっ!?そ、そんなわけないじゃない!」
なにやらあっちでなんか盛り上がってますね。ガールズトークとかいうやつですな。
僕なんかそっちのけで楽しそうだなぁ。それより、早く仕事に取り掛かって欲しいんですけど。
「さてと、そろそろ仕事に取り掛かろうかね」
ようやく仕事を始めるようだ。ガールズトーク長かったなぁ……。
「まずは腕を測ってみようかな」
こうして、僕の義手作りが始まった。
「それじゃ、大体の設計図も決まったことだし、作っていくけど、完成は明日になるから予定だからまた明日来てね」
僕は河童を舐めていた。たった30分程度で外の世界の義手よりも、遥かに高性能な義手の設計図を一人で作ってしまうとは……。河童、侮ることなかれ。
「そうそう、片倉の銃もついでに貸してくれないかな?」
「いいですけど、どうするんですか?」
「それは明日のお楽しみ♪」
「でもこれ結構危険ですよ?」
「あぁ大丈夫。こういうのは扱えるから」
嘘ん、河童スゲェ。何でも出来るじゃん。河童の力を舐めてました。河童、侮ること(ry
「さぁ帰るわよ。それじゃまた明日来るわ、にとり」
「じゃぁね。片倉、アリスのこと宜しくね~」
「ちょっ!にとり、あんたねぇ!」
宜しくねって何をだよ。そしてなぜアリスさんは、にとりさんにお怒りなんですかね。
「帰るわよ!片倉!」
はいはい、帰りますからそんなに引っ張らないでください。というか帰りもあれですよね、あの人形ですよね?でもこの感じだとバランスが、あっ、ちょっ、まって飛ばないで!
「ギャアァァァァァ、イヤァァァァァ!」
その後無事帰宅した。別に落下したとかは断じてない。
「おはよう片倉。怪我は大丈夫?」
「えぇ、魔法でなんとか……あぁ…もう嫌だ……アリスのせいだ」
「うっ……昨日謝ったじゃない、だからいい加減立ち直ってよ」
「はい、立ち直りました。タブン」
「それは良かった、さぁ行くわよ」
「嫌だァァ、死にたくないぃ!」
「もう!早く行くわよ!」
「逝きたくない!嫌だァァァ!」
しかし抵抗虚しく、無理やり連れて行かれました。もっと他の方法を考えるべきだな……。例えば―――思いつかない。
……諦めて空で行くか。
「おっ、来たね」
「義手できたかしら?」
「もちろん出来たよ。さっそく付けてみようか」
そう言うと、にとりは義手を取り出した。えっ?僕はもう立ち直りましたよ。気合で。
「おぉこれは……すごい」
「どんな感じかな?」
付けてみると、まるで自分の腕のような違和感のないフィット感。すごいな河童の技術力。
ところで指とか、思い通りに動くんですがなぜですか?特に何の変哲もない義手なのに。
「なんで思い通りに指が動くんですか?」
「……河童の技術力だよ」
あぁこれは良く分からないタイプですな。まぁいいや、気にしたら負けだよ。うん。
「ちなみにその義手には、魔力や霊力等を義手に纏わせれる機能がついてるよ」
えっ、何その機能。凄いかっこいい。
でも、霊力って何ですか?私聞いたことないよ?
「それと、この銃も返すよ。魔力や霊力とかを撃ち出すことができるようにしておいたから」
oh......男のロマンをにとりは分かっていらっしゃる。
でも、霊力って(ry
「とりあえず、外で試しに使ってみようか」
「そうですね」
とにかくどんな機能か確かめてみることにした。ちょっとワクワクしてきた。
オラ、ワクワクすっぞ!!
僕たち3人は近くの岩場に移動した。
「とりあえず、この岩に向かって、その銃を撃ってみな」
にとりに言われて、岩に向かって銃を撃ってみた。
本来なら聞こえるであろう、火薬の乾いた音は無く、かわりに岩が砕ける音が響いた。
「おぉ、凄いですねこれ」
見てみると、派手な音の割にはたいして威力は無さそうだ。
「それは弾幕ごっこ用に調整してあるから、殺傷力よりも、衝撃力が強いよ」
どうやら、弾幕ごっこ用らしい。
では、弾幕ごっこ以外の時はどのようにして、相手と戦えばいいのだろう?凶暴な妖怪には到底役に立たなさそうだが。
「それじゃ、次は義手だね。ちょっと腕に魔力を纏わせてみて」
グッと左腕に力を込める。すると義手がほのかに光だした。なるほどこれが魔力か。
ちなみにこの魔力は、アリスの魔力だ。どうやら、他人の魔力を借りて使う前提らしい。
「いい感じだね。じゃあそのまま、岩を殴って」
渾身の力で、岩を殴った。その瞬間、凄まじい轟音と共に岩が砕けた。
なるほど。弾幕ごっこ以外では、この力を使えばいい訳だな。すごいな河童の技術力。
「ちょっと、強いかな。まぁこれくらいがいいかもね」
「そうね。妖怪に襲われてもこれなら安心ね」
でもさこれ……人死ねますよね?よくよく考えたら。
だがこれなら、妖怪に襲われてもなんとかなるだろう。よかったよかった。
「最後に片倉にプレゼントだよ。左腕の義手の完成祝いに」
「プレゼント?」
いや、完成祝いもなにも、作ったのあなたですよね?というかプレゼントってなんだ?
するとにとりは、なにやら靴のような物を持ってきた。
「これは何ですか?」
「これはね、魔力を使って高速移動を可能とする靴だよ。ちなみに私の新作。実験台になって?」
どうやら、実験台として僕にこの靴をくれるらしい。
とても貰いたくなかったが、何かの役に立つかもしれないから、とりあえず貰っておくことにしよう。
……何かあったら絶対に文句言ってやる。
「じゃあ、帰るわよ。いろいろとありがとうね、にとり」
「義手とかいろいろありがとうございました」
「うん。まぁ片倉も気をつけてね。もし義手とかが壊れたらいつでも修理に来なよ」
「分かりました」
別れの挨拶も程々に、僕達は、空を飛んで帰った。
ちなみに、帰る途中、落下したことは言うまでもない。
「その靴、使ってみた?」
「えぇ。この靴すごいですよ。ありえないくらいの速度で走れました。まぁ木にぶつかって怪我しましたけど……」
あの後、家に帰って、にとりから貰った靴を使ってみた。
使ってみると、にとりの説明通り魔力で高速移動出来た。とても便利だなぁ。木にぶつかるのは……仕方ないか。
「それはそうと、明日は魔法の実験するから、あなたは明日、人里で暇を潰してきなさい」
「えっ、家に居ちゃ駄目なんですか?」
「魔法の実験は危険よ。あなた、右腕も義手にする覚悟ある?」
大人しく人里に行こう。腕を失うのはもう嫌だ……。
「ところで人里って何処にあるんです?」
「地図に書いておくから、明日それを見ながら行きなさい」
そう言うと、アリスさんは自分の部屋に戻って行った。
あぁ空を飛べたらなぁ。あっ、人形達はお帰りください。もうあれは懲り懲りです。
とにかく、明日は人里に行くから寝ようかな。
人里ってどんな感じなんだろうか。そんなことを考えながら、僕は明日に備えて寝るのであった。
ところで、魔法の実験って何するの?あとで、聞いてみるか……。
―――教えてくれませんでしたとさ。