傭兵幻想体験記   作:pokotan

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幻想入り 第4話

「紫様。なぜあのような者を、この幻想郷に入れたのですか?」

 

何処にも存在しない真っ暗な空間。いわゆる「隙間」と言われる場所に二人の女性が居た。

女性の一人である、狐のような尻尾を持つ女性の疑問にもう一人の、扇子で口元を隠した女性が答えた。

 

「彼は、この幻想郷に必要だからよ藍」

 

「そうですか。しかし、紫様が招き入れるほどの者とは、いったいどのような力を持っているのです?」

 

「今はまだ分からないわ。でもいつか、この幻想郷に何かをもたらしてくれるはずよ」

 

そう言うとその女性は不敵に笑った。

 

 

 

 

 

「準備できたかしら?」

 

「はい。いつでも出発できますよ」

 

僕はもう一度装備の確認をする。とはいっても、まともに銃なんか扱えるような状態じゃないけど。

失った左腕を見つめる。はたしてどうなることやら。アリスさん曰く河童の技術士の義手でどうにかなるようだが、やはり心配だ。

 

「妖怪の山までは遠いから、飛んで行くわよ」

 

「えっ!?僕は飛べないですよ」

 

「知ってる。だからあなたを人形達で運びながら飛ぶわ」

 

アリスさんも飛べたんだ。

もしかしたら、僕も飛べるかも。

 

「無理よ。あなたは能力の無い人間だから飛べないわ」

 

そうですよね。どうせ無理だってわかってましたよ。別に悔しくないですよ、ただ涙が止まらないだけです……。

 

「グズグズしないで早く行くわよ。」

 

はいはい。行きますよ。

可愛らしい人形達に掴まれ、僕は大空を飛んだ。

この世界で初めての大空はとても……。

 

 

 

 

 

「あぁ……死ぬかと思った…」

 

「まったく…ヒヤヒヤしたわよ」

 

「いやいや、あんな不安定なのに速度出すほうがおかしいですよ」

 

「何よ。文句があるなら、帰りは一人で帰りなさいよ」

 

「すんませんでしたァ!それだけは、勘弁してください」

 

「わかればよろしい」

 

とりあえず、妖怪の山のふもとに着きました。途中、命の危険があったけど。流石にあの高さで落下するのだけは、嫌だ。絶対死ねる。ビルで言うと8階くらいはあるんだよ?信じらんない。

 

「あの家よ」

 

あれが河童の家かぁ。おぉ!とても……民家だ。もっと作業場みたいなものかと思ってた。

見た感じ、普通の民家だよね。あれ。

あっ、でも川が流れてる。河童の要素が少なからずあるじゃん。

 

「にとりー!居るー?」

 

どうやら河童の名前は「にとり」と言うらしい。

 

「返事が無いわね。留守かしら?」

 

どうやら留守のようだ。残念、出直すしかないか。

ふと、すぐそばを流れる川の小さな異変に気がつく。誰かに見られているのだ。

気配を探る。そこには目に見えない何かがいた。

 

「誰だ!」

 

M93Rを向けながら叫んだ。

 

「どうしたのよ片倉」

 

「そこの浅瀬に何かがいます。気をつけて! 」

 

アリスも戦闘態勢に入る。また妖怪かよ……嫌だなぁ。

一触即発の空気の中、視線を送っていた何者かが正体を現した。

 

「ターイム!ストップ!攻撃はやめて!」

 

そこにいたのは、青髪の緑のリュックを背負った小さな少女だった。

 

「あらにとり、ここにいたのね」

 

えっ……この人がにとり?河童だよね?頭にお皿ないよ?

 

「いやー開発したばかりの、ステルス迷彩の実験してたんだよ」

 

「あら、そうなの。ごめんなさいね」

 

「いいよ、別に。ところで、そこにいる人間さんは?」

 

「僕は片倉と言います。ところで、にとりさんは河童ですよね?」

 

「そうだよ。私はれっきとした河童だよ」

 

「頭の上にお皿が乗ってないんですが……」

 

「あぁ皿のことね。皿なんかなくたって、河童は河童だよ。細かいこと気にしてたら負けだよ?」

 

そうなんですか。河童は皿なんかなくたって大丈夫なんですね。

 

「ありゃ?あんた、左腕はどうしたんだい?」

 

「あぁ、先日失いまして……」

 

「そうかい。そりゃ大変だったねぇ」

 

「今日はその左腕のことで頼みたいことがあるから来たのよ」

 

「なるほどなるほど、仕事の依頼なら喜んで引き受けるよ。とりあえず家の中に入ろうか」

 

 

 

 

 

にとりの家の中は、見た目とは裏腹にとても作業場感溢れる空間が広がっていた。

 

「さて、どんな物を作ればいいんだい?」

 

「彼の左腕、つまり義手作って欲しいのよ」

 

「義手ね分かった。しかし、アリスが他人のためにそこまでするなんてねぇ……。珍しいなぁ」

 

「彼が腕を失ったのは私のせいなのよ。彼が私をかばってくれて……」

 

「へぇ〜」

 

「な、なによ?」

 

「べつに、惚れたのかな?とか思ってないよクスクス」

 

「なっ!?そ、そんなわけないじゃない!」

 

なにやらあっちでなんか盛り上がってますね。ガールズトークとかいうやつですな。

僕なんかそっちのけで楽しそうだなぁ。それより、早く仕事に取り掛かって欲しいんですけど。

 

「さてと、そろそろ仕事に取り掛かろうかね」

 

ようやく仕事を始めるようだ。ガールズトーク長かったなぁ……。

 

「まずは腕を測ってみようかな」

 

こうして、僕の義手作りが始まった。

 

 

 

 

 

「それじゃ、大体の設計図も決まったことだし、作っていくけど、完成は明日になるから予定だからまた明日来てね」

 

僕は河童を舐めていた。たった30分程度で外の世界の義手よりも、遥かに高性能な義手の設計図を一人で作ってしまうとは……。河童、侮ることなかれ。

 

「そうそう、片倉の銃もついでに貸してくれないかな?」

 

「いいですけど、どうするんですか?」

 

「それは明日のお楽しみ♪」

 

「でもこれ結構危険ですよ?」

 

「あぁ大丈夫。こういうのは扱えるから」

 

嘘ん、河童スゲェ。何でも出来るじゃん。河童の力を舐めてました。河童、侮ること(ry

 

「さぁ帰るわよ。それじゃまた明日来るわ、にとり」

 

「じゃぁね。片倉、アリスのこと宜しくね~」

 

「ちょっ!にとり、あんたねぇ!」

 

宜しくねって何をだよ。そしてなぜアリスさんは、にとりさんにお怒りなんですかね。

 

「帰るわよ!片倉!」

 

はいはい、帰りますからそんなに引っ張らないでください。というか帰りもあれですよね、あの人形ですよね?でもこの感じだとバランスが、あっ、ちょっ、まって飛ばないで!

 

「ギャアァァァァァ、イヤァァァァァ!」

 

その後無事帰宅した。別に落下したとかは断じてない。

 

 

 

 

 

「おはよう片倉。怪我は大丈夫?」

 

「えぇ、魔法でなんとか……あぁ…もう嫌だ……アリスのせいだ」

 

「うっ……昨日謝ったじゃない、だからいい加減立ち直ってよ」

 

「はい、立ち直りました。タブン」

 

「それは良かった、さぁ行くわよ」

 

「嫌だァァ、死にたくないぃ!」

 

「もう!早く行くわよ!」

 

「逝きたくない!嫌だァァァ!」

 

しかし抵抗虚しく、無理やり連れて行かれました。もっと他の方法を考えるべきだな……。例えば―――思いつかない。

……諦めて空で行くか。

 

 

 

 

 

「おっ、来たね」

 

「義手できたかしら?」

 

「もちろん出来たよ。さっそく付けてみようか」

 

そう言うと、にとりは義手を取り出した。えっ?僕はもう立ち直りましたよ。気合で。

 

「おぉこれは……すごい」

 

「どんな感じかな?」

 

付けてみると、まるで自分の腕のような違和感のないフィット感。すごいな河童の技術力。

ところで指とか、思い通りに動くんですがなぜですか?特に何の変哲もない義手なのに。

 

「なんで思い通りに指が動くんですか?」

 

「……河童の技術力だよ」

 

あぁこれは良く分からないタイプですな。まぁいいや、気にしたら負けだよ。うん。

 

「ちなみにその義手には、魔力や霊力等を義手に纏わせれる機能がついてるよ」

 

えっ、何その機能。凄いかっこいい。

でも、霊力って何ですか?私聞いたことないよ?

 

「それと、この銃も返すよ。魔力や霊力とかを撃ち出すことができるようにしておいたから」

 

oh......男のロマンをにとりは分かっていらっしゃる。

でも、霊力って(ry

 

「とりあえず、外で試しに使ってみようか」

 

「そうですね」

 

とにかくどんな機能か確かめてみることにした。ちょっとワクワクしてきた。

オラ、ワクワクすっぞ!!

 

 

 

 

 

僕たち3人は近くの岩場に移動した。

 

「とりあえず、この岩に向かって、その銃を撃ってみな」

 

にとりに言われて、岩に向かって銃を撃ってみた。

本来なら聞こえるであろう、火薬の乾いた音は無く、かわりに岩が砕ける音が響いた。

 

「おぉ、凄いですねこれ」

 

見てみると、派手な音の割にはたいして威力は無さそうだ。

 

「それは弾幕ごっこ用に調整してあるから、殺傷力よりも、衝撃力が強いよ」

 

どうやら、弾幕ごっこ用らしい。

では、弾幕ごっこ以外の時はどのようにして、相手と戦えばいいのだろう?凶暴な妖怪には到底役に立たなさそうだが。

 

「それじゃ、次は義手だね。ちょっと腕に魔力を纏わせてみて」

 

グッと左腕に力を込める。すると義手がほのかに光だした。なるほどこれが魔力か。

ちなみにこの魔力は、アリスの魔力だ。どうやら、他人の魔力を借りて使う前提らしい。

 

「いい感じだね。じゃあそのまま、岩を殴って」

 

渾身の力で、岩を殴った。その瞬間、凄まじい轟音と共に岩が砕けた。

なるほど。弾幕ごっこ以外では、この力を使えばいい訳だな。すごいな河童の技術力。

 

「ちょっと、強いかな。まぁこれくらいがいいかもね」

 

「そうね。妖怪に襲われてもこれなら安心ね」

 

でもさこれ……人死ねますよね?よくよく考えたら。

だがこれなら、妖怪に襲われてもなんとかなるだろう。よかったよかった。

 

「最後に片倉にプレゼントだよ。左腕の義手の完成祝いに」

 

「プレゼント?」

 

いや、完成祝いもなにも、作ったのあなたですよね?というかプレゼントってなんだ?

するとにとりは、なにやら靴のような物を持ってきた。

 

「これは何ですか?」

 

「これはね、魔力を使って高速移動を可能とする靴だよ。ちなみに私の新作。実験台になって?」

 

どうやら、実験台として僕にこの靴をくれるらしい。

とても貰いたくなかったが、何かの役に立つかもしれないから、とりあえず貰っておくことにしよう。

……何かあったら絶対に文句言ってやる。

 

「じゃあ、帰るわよ。いろいろとありがとうね、にとり」

 

「義手とかいろいろありがとうございました」

 

「うん。まぁ片倉も気をつけてね。もし義手とかが壊れたらいつでも修理に来なよ」

 

「分かりました」

 

別れの挨拶も程々に、僕達は、空を飛んで帰った。

ちなみに、帰る途中、落下したことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「その靴、使ってみた?」

 

「えぇ。この靴すごいですよ。ありえないくらいの速度で走れました。まぁ木にぶつかって怪我しましたけど……」

 

あの後、家に帰って、にとりから貰った靴を使ってみた。

使ってみると、にとりの説明通り魔力で高速移動出来た。とても便利だなぁ。木にぶつかるのは……仕方ないか。

 

「それはそうと、明日は魔法の実験するから、あなたは明日、人里で暇を潰してきなさい」

 

「えっ、家に居ちゃ駄目なんですか?」

 

「魔法の実験は危険よ。あなた、右腕も義手にする覚悟ある?」

 

大人しく人里に行こう。腕を失うのはもう嫌だ……。

 

「ところで人里って何処にあるんです?」

 

「地図に書いておくから、明日それを見ながら行きなさい」

 

そう言うと、アリスさんは自分の部屋に戻って行った。

あぁ空を飛べたらなぁ。あっ、人形達はお帰りください。もうあれは懲り懲りです。

とにかく、明日は人里に行くから寝ようかな。

人里ってどんな感じなんだろうか。そんなことを考えながら、僕は明日に備えて寝るのであった。

ところで、魔法の実験って何するの?あとで、聞いてみるか……。

―――教えてくれませんでしたとさ。


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