傭兵幻想体験記   作:pokotan

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禍福はあざなえる縄のごとし

いや〜帰ってきました、紅魔館!

久しぶりの紅魔館に少し僕は安堵した。なんというか、我が家に帰ってきた感じ?まぁ、本当の自分の家では無いのだが……。

 

「う〜ん……むにゃむにゃ……」

 

「ん?」

 

正門では相変わらずの光景がそこにあった。

我らが紅魔館の居眠り門番、紅美鈴だ。

恐らくそのまま眠り続けていれば、間違いなく咲夜さんにナイフで刺されるだろう。

そこで親切な僕は、優しく美鈴を……ナイフで刺した。

 

「イッタァァァィ!?ね、寝てないですよ咲夜さん!だ、断じて寝ては……ってあれ?」

 

「居眠りは駄目だよ美鈴……ってどうした?」

 

「か、片倉さん!?生きてたんですね!?」

 

「う、うん。きゅ、急にどうした?」

 

いつもとは違う反応に戸惑ってしまう。

まぁそれも仕方がないか。一応1週間位は音沙汰無しで行方不明みたいなもんだったし。

 

「お嬢様が待ってます。急いで行ってあげてください」

 

どうやらここの主の可愛い吸血鬼様がお待ちのようだ。

それはいけない、すぐに行かなければ。別にロリコンとかそんなのでは無い。断じて無い。

 

「分かった。そういえば僕が居ない間、何か変わった事あった?」

 

「そうですね……特にはないです。あえて言うなら妹様が少し引きこもりがちになってますね……」

 

「フランちゃんが引きこもりがちに……。今度遊ばないといけないな〜」

 

「そんなことよりも早くお嬢様の元へ。1番心配されてたんですよ?」

 

「えっ、そうなの?ちょっと意外……。分かった、それじゃすぐにレミリアさんの所に行くよ」

 

「あっ、それと!」

 

「ん?」

 

急な呼び止めにビックリしつつ振り向く。

すると美鈴がとても真剣な顔でこう言った。

 

「私が居眠りしてたのは内緒にしてください」

 

「了解」

 

手を合わせ命乞いをするかの様な美鈴の必至な姿にちょっと笑ってしまった。

仕方ない、今回ばかりは見逃してあげよう。

そう思いながら、僕は足早にレミリアさんの元へと向かった。

 

 

 

 

コンコン、とある赤い豪華な装飾が施された扉をノックする。

この部屋はレミリアさんの部屋だ。赤を基調としてる辺りがなんとも吸血鬼っぽさを醸し出している。

 

「誰かしら?」

 

部屋の中から声が聞こえた。どうやら起きているらしい。

ゴホゴホと軽く喉の調子を整える。

 

「あ〜……片倉です。ただいま戻りました」

 

「片倉!早く入りなさい」

 

部屋に入ると椅子に座った小さな吸血鬼が居た。その顔は思わずこちらがにやけそうになるような可愛らしい笑顔をしている。

良かった、どうやら御機嫌が良いらしい。

流石に無いとは思ってはいたけど、会った瞬間怒られやしないかと少し冷や冷やしてました。早く帰ってこいよテメェ!みたいな感じで。

一応こんな見た目でも吸血鬼。怒りの弾幕を喰らおうものなら人間なんてすぐにでもあの世にポンッだ。幻想郷って怖いね、周りはどこもかしこも化物ばかりですよホント……。

 

「無事で良かった。少し心配してたのよ?」

 

「あはは……すいません。色々あったもので」

 

「そう。まぁ、詳しくは聞かないわ。あなたが戻ってきただけで私は満足よ」

 

「そうですか。……ところでさっき美鈴から聞いたんですけど、フランちゃんが少し引きこもりがちになっているとかなんとか」

 

「ええ。遊ぶ相手が居なくて寂しいらしいの。でもあなたが帰ってきたから、また外に出てくると思うわ。フランの事よろしく頼むわよ」

 

正直フランちゃんの相手をするのは命の危険が伴う可能性が高いから余り気乗りはしない。先程も言った通り、吸血鬼の弾幕を人間が喰ら(ry

まぁどこぞの月の姫よりかは純粋無垢で遊んでくれる幾分マシだと思う。

あっちの遊びはなんというか……弄ぶの方だから精神が持たない。

 

「でも今日のところは自室に戻ってゆっくりとしなさい。フランと遊ぶのは明日でも遅くないわ」

 

「そうさせてもらいます」

 

レミリアさんとの会話を終え、部屋を出た僕は久しぶりの自室へと戻った。

何も変わらない自室。だが妙に懐かしい。

暫く居なかったはずなのに塵一つ見当たらない。恐らくメイドさんが掃除をしてくれていたのだろう。

とりあえず着替えようと上着を脱ごうとした時、不意に後ろから気配を感じた。

 

「だ、だれ!?」

 

服を脱ごうと油断していたせいで声が裏返ってしまった。

すぐさま振り向くとそこには紅魔館のメイド長が居た。まぁそうだろうとは思っていましたよ。べ、別にビビってはいない。

 

「咲夜さん、せめてノックしてから入ってください」

 

「それは失礼しました。久しぶりにお会いしましたので少し悪戯をしようかと思いまして」

 

「少しどころかかなりの悪戯ですけどね。あ〜びっくりした」

 

「それは失礼しました」

 

そう言いながらも、全く悪びれもせず軽く微笑む咲夜さん。

普段ならばこんな事はあまりしないし笑うこともないが、いったいどうしたのだろうか。今日は何かいい事でもあったのか?

 

「それはそうと、食事はお済みですか?もしまだお済みになられていなかったのなら、簡単な食事くらいはお作りしますけど……」

 

「あぁ大丈夫大丈夫。今はお腹が空いてないから」

 

「そうですか。かしこまりました」

 

「そうそう、一つ聞いてもいいかな?」

 

「何でしょう?」

 

「さっきこの部屋に来る時思ったんだけど、メイドさん増えてない?なんか見慣れない妖精さんが多いんだけど……」

 

「はい。新規にメイドを雇いました。なにやらお嬢様が近々何かしら大きな事をしようとお考えのようで、人手が欲しいらしく新たに雇ったわけです」

 

「へぇ〜。いったい何するんだろうレミリアさん」

 

「さあ?私にも教えてくださらなかったですね」

 

「そうですか……」

 

「では私からも一つ良いですか?」

 

「んっ?いいよいいよ、なんでも聞いて」

 

「紅魔館に来た時に美鈴は居眠りしていませんでしたか?」

 

あぁ〜……、やっぱり聞かれるよねそりゃあ。

だが流石に今回は美鈴の為にも嘘を言っておかないと……。

 

「い、いや……寝てなかったね〜」

 

「本当ですか?」

 

表面上では穏やかにしているものの、今の彼女の心の奥には間違いなくナイフのように鋭い何かがある。

だが僕はそんな殺気では臆す事はしない。ここは意地でも美鈴との約束を果たす。

 

「う、うん。本当ホントウ……」

 

「……分かりました。まあ今回だけは片倉様に免じて許してあげましょう」

 

どうやら嘘は完全に見抜かれていたようだ。

いやぁ……やっぱりメイド長は凄いなぁ。こんな嘘なんか易々と見抜くんだもん。尊敬しちゃうね。

 

「では失礼します。何かありましたらお申し付け下さい。それと……」

 

「んっ?」

 

「もう少し上手に嘘をつかないといけませんよ?」

 

そう言い残し音もなく消えた咲夜さん。恐らく入ってきた時と同様、時間を止めて移動したのだろう。相変わらず凄い能力だ。

というか僕ってそんなに嘘が下手くそなのだろうか?

 

 

 

 

「うーむ……」

 

ベッドに寝転がりながら僕は悩んでいた。

呪いをかけたのは一体誰なのか。また、何時どこで呪いをかけられたのか。

さっきから僕の頭の中はその事でいっぱいだった。

だが、考えれば考える程謎が深まるばかりで……。

 

「だあぁぁぁぁあ!!」

 

威勢の良いボンバイエな声をあげ、勢いよくベッドを起き上がる。

うだうだとこんな所で考え事をしても意味は無い。

よし、まずは動こう。こんな時にだからこそ動こう。

まずは情報を集める事からだな。情報……というとやっぱりあの人しか思いつかないな。

そう、幻想郷の自称人気新聞記者である射命丸さんだ。

そうとなれば早速行くか。

外出する為の準備をパパッと整え、いざ扉を開いたその時……

 

「……!?」

 

いつもの見慣れた赤い絨毯の廊下の代わりに、何故かお花畑が広がっていた。

白や赤といった美しい花々がそよ風に吹かれ揺れている。

その光景はまさに幻想的であった。

はて?ここは何処なのだろうか。もしや天国なのではないのだろうか……。

とりあえず入ってきたであろう、紅魔館の赤い扉を確認しようと振り返ってみる。

だがそこには扉はなく、無限に続く美しい花畑しか無かった。

その時ふと、隣から何かの気配を察した。

気配のした方を見てみる。そこには1人の女性が立っていた。

その女性は微笑む口元を手に持っている扇子で隠しながら、こちらに語りかけてきた。

 

「ウフフ、ご機嫌いかがかしら?」

 

「あなた……あの時の……」

 

僕はあの女性を知っている。あの人は白玉楼の宴会の時に会った謎の女性だ。

この人はここに来てまだ誰にも明かしていない僕の「仁」という名前を知っていた。警戒せずにはいられない。

しかし、こちらが敵意を露わにしているにも関わらず、あの女性は変わらず笑顔のままだった。

 

「そんなに身構ないで頂戴。私はあなたに直接話がしたいだけなの」

 

「話?」

 

「そう。あなたには重大な事を言わなくちゃいけないの」

 

「というか一つ聞きたい。ここは何処なんだ?」

 

「ここは私が作った異次元な空間よ。幻想郷でも外の世界でもないわ。ちなみにここに居るのはあなたと私の2人だけよ」

 

どうやらこの人はよっぽど僕と話がしたいらしい。

逃げる事は恐らく不可能だろう。わざわざ異次元空間を作るくらいだ。簡単に脱出出来るはずが無い。

仕方なく僕はこの女性の話を聞くことにした。

 

「あなたにはこれから重要な決断をしてもらうわ」

 

「決断……」

 

重要な決断。その内容は僕の予想を超えた衝撃の内容だった。

 

「この幻想郷から出て行ってもらいます」

「……!?な、なんで……」

 

「あなたは本来外の世界から来た人間。この幻想郷にとって外の世界の影響を受けるのはあまりにも好ましくない。だから、この世界の管理人としてあなたをこの幻想郷から追放する事に決定したのよ」

 

「そ、そんな事言われても……」

 

「もちろん断ることも出来るわよ?」

 

ここに来て間もない僕ならば間違いなく喜んで外の世界に帰ろうとするだろう。実際、一時期は帰ろうと必死になっていた時もあったし。

だけど今は違う。僕はまだこの世界に居たい。いや、居なければならない。

この呪いが解けるまでは絶対にこの世界から離れるわけにはいかない。

だが本当にそれで良いのか?

生まれ育った本当の世界を捨ててまで、この世界に居ていいのか?

僕が世界中を巡っていた目的を棄ててもいいのか?

分からない。考えれば考える程分からなくなっていく。

 

「…………」

 

「決断出来ないようね」

 

「もしも断ったら……?」

 

「その時は私が力づくであなたの存在をこの世界から消すことになるわね。出来るならそれだけは避けたいのだけど」

 

「……」

 

「1週間だけ待ってあげるわ。1週間後、またあなたに会いに来るからその時に決めて頂戴。ただ、一つだけ言っておくわ」

 

「なんだ?」

 

「あなたが信じた道を進みなさい。それこそがあなたに出来る最良の未来への決断よ」

 

そう言うと女性は何処から現れたか分からない謎の隙間へと入っていき、そのまま消えた。

それと同時に世界が次第に白くなっていく。どうやらこの空間が崩壊しているようだ。

 

「はっ!?」

 

気が付いたら僕は自室でぼうっと突っ立っていた。

 

「……この世界から出ていけか」

 

あの女性から言われた言葉が胸につっかえる。

妙にスッキリしない気分のまま僕は部屋を出て門まで向かった。

 

「あっ、片倉さんどうしたんですか?」

 

「んっ?あぁ……少し用事が出来たから山の方まで行ってくるよ」

 

「ええ!?また居なくなるんですか?」

 

「大丈夫。夜までには帰ってくるから」

 

「そうですか。ところで片倉さん、なにかありました?さっきから元気があんまり無いですけど……」

 

「ん?そ、そんな事は無いよ!ただ……」

 

「?」

 

「もし僕が幻想郷から居なくなったら紅魔館の皆はどう思うんだろうかなって……」

 

その瞬間、いつも温厚で優しい美鈴が珍しく厳しめの口調で声を出した。

 

「それはもちろん皆寂しいに決まってるじゃないですか!お嬢様とかすっごく悲しむと思いますよ!私だって寂しいし、咲夜さんだって普段は冷静ですけど絶対に悲しい顔すると思います」

 

「そうかなぁ……?」

 

「そうですよ!だから片倉さん、絶対に幻想郷からいなくならないで下さいね!」

 

美鈴の話を聞いて僕は少し心が軽くなった。

そうだ、この世界にも僕を大事に思っている人がいるじゃないか!

 

「うん……そうだね。ありがとう美鈴、それじゃ行ってくるよ」

 

「はい!道中はくれぐれも気をつけてくださいよ〜」

 

美鈴に手をふって見送られながら僕は森の中へと足を進める。

とりあえず射命丸さんの居そうな所……にとりの工房に行くとしよう。そこしかあの人の居そうな場所知らないし……。

しかし、この時の僕はまだ知らなかった。この体に纏わり付く呪いの本当の正体を……。


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