傭兵幻想体験記   作:pokotan

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偽りの月と永遠の夜 第10話

永遠亭最深部。

そこには3人の女性の姿があった。

1人は紅白の巫女服を着ており、もう1人は白黒のエプロンのような服を着ている。

そしてもう1人は、青と赤の配色が施された服を着た美しき女性。しかし、その妖艶で美しい姿とは裏腹に彼女の手には大きすぎる弓が握られていた。

一見して木で作られた簡素な大きいだけの弓に見えるが、その弓からはとても恐ろしい程の妖気が溢れているのを霊夢は感じた。

 

「なかなか早かったわね、お二方さん?少々警備が緩かったかしら?」

 

弓を持った女性は不敵に笑う。

対して、霊夢と魔理沙の顔は真剣その物だった。

 

「霊夢……」

 

「ええ。分かってるわよ……」

 

弓もさる事ながらあの女性本人の妖気も凄まじい。

霊夢と魔理沙はこれ程の力は目の当たりにしたことは無かった。

この時既に2人は悟っていた。もしかしたら勝てないかも、と。

だが2人は引き返しはしない。これまでもこんな状況は乗り越えてきたからである。

 

「あらあら、引き返す気は満更ないようね?」

 

「あたりまえよ。あんたをさっさと倒してこの異変を解決させるために私たちは来たんだから」

 

「そう……それなら」

 

「「っ!?」」

 

突如部屋中を支配する圧倒的妖気と威圧。

想像以上の力に驚きながらも、2人は一斉に動き出した。

 

 

 

 

「!?」

 

静けさが支配した屋敷の廊下をゆっくりと歩いていた時、不意にクロが立ち止まった。

いったいどうした?

 

「……こいつは相当やばそうだ」

 

何がやばいんだ?

 

「一瞬だが3つの力を感じた。霊夢と魔理沙と何かの力だな」

 

という事は、2人は既にここの親玉の元まで行っているって事か。

だけど、どうしてそんなに焦ってるんだ?

 

「問題は、その何か、親玉らしき奴の力が2人の力を上回ってるって事だ」

 

つまり……!?

 

「そう。下手すると、いや、下手しなくとも2人は負ける。ここの親玉にな」

 

それなら、なおのこと急がないと!

 

「あぁ、分かってるさ」

 

クロは静かで無人の廊下を一気に駆け出した。

 

 

 

 

「はぁ……退屈ね〜」

 

永遠亭のどこでもない何処かの部屋の中。

そこには1人の姫が退屈そうに足をバタバタさせながら座っていた。

彼女の正体、それはあのおとぎ話の登場人物、かぐや姫。

そんなかぐや姫は、ふと自らの美しい髪をなびかせながら立ち上がった。

 

「そうだ。誰かこのお部屋に招待しちゃえ」

 

永琳から何もするなと言われていた事などすっかり忘れ、彼女は部屋を出た。

向かう先は何処なのか……。

 

 

 

 

まいった。これは予想してなかった。

ここの親玉……名前は永琳って言ったかしら。とにかくその永琳とやらを私は甘く見すぎていた。

 

「もう終わりかしら?」

 

確かに弾幕を何度か当てた。近接攻撃もやった。スペルカードも何度も使った。

相当な体力を消費しているはず……なのに何故?

何故あいつは息一つ切らしてないのだろうか?

チラリと魔理沙を見る。どうやら私と同じく相当疲れてる。

ここまでしているのに、何故あんなにも余裕そうに笑えるのだろうか?

私は沢山の疑問を消化出来ずに焦っていた。

このままでは……負ける。負けてしまう。

その時、永琳が動いた。

手に何かを……スペルカード!?

ここに来て初めてのスペル宣言。まずいわね……。

 

「ターン交代ね」

 

そして、絶望的な時間が幕を開けてしまった。

 

 

 

 

「着いた!!」

 

走り出してから10分。ようやく最深部らしき所にたどり着いた。

てかこの屋敷迷路すぎる。ここに住んでる人って相当記憶力がいいのかも……。

1枚の麩の奥には、禍々しい程の妖気が漏れていた。

 

「おいおい……こりゃ花の妖怪並だぞ」

 

幽香さん並の実力者……。果たして勝てるのかも不安なってきた。

だが退く訳にはいかない。早くこの異変を解決しないと。

勢いよく麩を蹴破る。……!?

そこには信じられない光景。

 

「か、片倉!?」

 

ボロボロな姿の霊夢と奥に気絶しているであろう魔理沙の姿があった。

そして、手に大きな弓を持った女性。この人がここのボスで間違いないだろう。半端じゃない妖気を感じる。

……ここまでボロボロの霊夢は初めて見た。これはつまりあの女性が相当な強さを有していることを表しているに違いない。

 

「なるほど。第二の侵入者はあなたね。初めまして、私は八意永琳」

 

「丁寧な挨拶どーも。だけど今は自己紹介なんてしてる暇はねぇ。単刀直入に聞くが、異変の犯人はお前らだな?」

 

「あなたにはもう分かってるはずでしょ?その通りよ。私たちがこの異変の犯人よ」

 

「何故起こした?理由を聞きたい」

 

「……それについては話す気は無いわ」

 

「そうかい……。それなら仕方ない」

 

軽く目を閉じそしてまた開く。その目は今までにない本気の目だった。

 

「気乗りはしないが、お前をぶっ倒す」

 

「面白いわね。抗ってみなさい、この月の頭脳に!」

 

永琳の言葉が終わる直前、クロは地面を蹴った。

魔力による補正で速度を上げ、更には能力で2倍したクロの動きを見切れる者はここには居なかった。

完全なる疾風迅雷の不意打ち。懐に入られてもなお反応すら出来なかった永琳は、次に繰り出されるクロの左拳を防ぐ事は出来なかった。

ドゴォ!!と鈍い音と共に永琳は吹っ飛ぶ。常人なら死んでもおかしくないだろう。

 

「……ほんの挨拶替わりだ」

 

狂気と恐怖。今のクロにはそれが相応しかった。

いや、これが本来のクロの姿なのかもしれない。

霊夢がふと隣にきた。恐らく加勢するつもりだろう。

 

「私も加勢するわよ」

 

「いや、休んでろ。足でまといだ」

 

「……そう。それなら任せたわよ。正直限界だったし……」

 

やけにあっさりと引き下がったな。まぁそれほどダメージを負っていたのだろう。

視線を戻すと、永琳は立ち上がりこちらを見ていた。

 

「なるほど。あなた……」

 

何かに気づいたかのような面持ちでこちらを見ている。

しかしそんな事はどうでもいい。今は戦いに専念せねば。

さて、次はどう攻めるおつもりで?

 

「決まってるだろ……」

 

ダッ!と勢いよく駆け出し、再び接近戦へと持ち込もうと試みるクロ。

だが、その試みは一筋の光によって中断せざるおえなくなった。

 

「おぉっと危ね」

 

「よく避けたわね。不意をついたと思ったんだけど」

 

ふと見ると、永琳は大きな弓の弦を大きく引いてこちらを射抜こうと構えている。

なるほど。妖気を矢として放っているわけか。道理で弓だけを手に持ってる訳だ。矢筒要らずか……。

パシュン!と弦が勢いよく一筋の妖気の矢を撃ち出す。

少し先へと進んだその矢は、まるで散弾のように突如分裂した。数は……10本!?10倍かよ!

しかも厄介なことに、あちらこちらへと飛んでいった10本の矢はスーパボールよろしく壁や床を反射した。

しかし焦ることは無い。クロならなんとか躱すはず。

 

「チッ……」

 

スパッ。1本の矢が頬を掠めた。……あれ?

すかさず、1枚のカードをクロは宣言する。

 

〈舞闇 ダンシング・ナイト〉

 

真っ黒で小さい菱形の弾幕たちが、渦巻きながら無数の矢を打ち消す。

弾幕はまるで、踊っているかのように全ての矢を鮮やかに打ち消していた。

全ての矢を消した。だが、何かおかしい。とてつもない違和感が僕の心の底から離れない。

 

「……」

 

じっと見つめてくる永琳。その顔は少し笑みを含んでいるようにも見えた。

 

「そろそろ辛いんじゃないかしら?」

 

「何がだ?」

 

「フフ……。あなた自身よ」

 

余裕そうな永琳に再びクロは素早く接近する。

背後を完全にとった。

大きく振り上げられる拳。しかし、その拳は永琳に繰り出されはしなかった。

 

「!?」

 

永琳はいち早く反応し、クロの右腕を掴んでいた。

 

「あら、まだ気付いてないのかしら?あなたさっきより……格段に動きが鈍くなってるわよ?」

 

「チッ……この野郎……」

 

バッ!と腕を振りほどき下がるクロ。

その額には一筋の汗が流れていた。

ま、まさか……。

 

「はぁ……ばれちまったか。結構上手く誤魔化したつもりなんだがな」

 

もしかしてお前……。

 

「そうだ。最初は良かったんだがな。そろそろ辛いんだわこの身体。俺でも症状を抑えるのは難しくなってきてるな」

 

原因は言われなくとも分かりきってる。身体が無理をしすぎたんだ。それ以外考えられない。

 

「私が思うに、早く医者に見せた方がいいと思うわよ。とてつもなく辛そうだもの」

 

「そうだな……それが懸命かもな」

 

おい!?クロ!?

諦めるのか?ここまで来て、ようやく目の前にラスボスがいるというのに……。

レミリアさんやフランちゃん達はどうするんだよ!

 

「だが……」

 

僅かばかりの間目を閉じ、クロは沈黙した。

そして、目をゆっくりと大きく開き、こう続けた。

 

「生憎、諦めが悪い性分でな。お前さんには悪いが、ここからは冗談抜きの本気で行かせてもらうぜ」

 

「ここまできても尚諦めないのね……。分かったわ、私も本気で行こうかしら?」

 

永琳が手元から1枚のカードを取り出す。

見たところによると、切り札らしい。相当ヤバイ代物だと直感する。

となると、だ。こちらもそれ相応のスペルで挑まないとな。

手持ちは……うーむ、やっぱりコイツしかないか。

風刃と雷刃のカードを手に取る。

だがこれだけだと確実に力不足だな。

そうだ、フォーアブカインドがあるか!

 

「止めとく。それはもう使わない」

 

へ?なんで?

 

「他人のスペルカードってのはな、模倣してあるだけに性能が低い。それにコスパも悪いし身体への負担も激しいんだよ」

 

そうなのか……。こりゃ詰みだな。

 

「かくなる上は自爆するしかねーな」

 

いやいやいや、それは本当に止めてくれよ?

一応まだ死ぬ気は無いから。

 

「だがどうするよ?もはや使えるスペルは限られてるんだぞ」

 

……そうだ!いい事思いついたぞ!

クロ、スペルとスペルって合体とか出来るか?

 

「理論的には可能だろ。まぁ物によっては無理な場合もあるかもしれんが。それがどうした?」

 

風刃と雷刃を合体させるんだよ!それにお前の能力を足せば……。

 

「ふむ、成程な。だが何が出来るか分からんぞ。そもそも風刃はお前が主に完成させたスペルカードで雷刃は俺が創ったスペルカード。そこに2倍の能力という物を足す。つまり不安定な物により不安定な物を足すんだぞ?何が出来て何が起こるかは検討もつかん」

 

でもこれしかないんだし、それでいこう!

時間はもう無い。迷ってる暇など無いんだから。

 

「分かった。こりゃ本当に自爆するかもな」

 

その時は笑って自爆しようぜ?

 

「そうだな」

 

あぁそうだそうだ。

霊夢と魔理沙は避難させておこう。

もしかしたら、いや、もしかしなくとも巻き込むからね。安全第一さ。

 

「おい霊夢、魔理沙を連れてこっから離れとけ。死ぬかもしれん」

 

「ちょっとそれどういう意味よ。て言うかさっきからあんた達の会話を聞いてる限りじゃ、あんた病気みたいだけど……なにか隠してるの?」

 

……あ、バレてるわ。そう言えばずっとそこに居たか。

 

「とにかくそれは後で話すから、急いで離れろ」

 

「分かったわよ。絶対に話しなさいよ?あと、それと……」

 

「??」

 

「死なないでよ」

 

「あったり前だ」

 

さてさて、霊夢も避難したし……

目を閉じ、全ての神経をスペルカード創造に集中させる。

風刃、雷刃、そして能力。

複雑に絡み合うこれらを何とかして組み合わせていく。

刹那、頭の中に一筋の光が見えた。

ゆっくりと目を開き、右手に握りしめるカードを確認した。

感じた事の無い圧倒的な力がカードから溢れ出ていた。

そう、成功したのだ。見事、スペルカード同士を合わせる事に成功したのだ。

 

「こいつは……スゲェ……」

 

「なんという圧倒的な力を持ったスペルカード……。あの子、天才かしら?」

 

「さて、そろそろ決着つけようぜ?」

 

「いいわよ。全力で来なさい」

 

「言われなくても全力で行くさ」

 

言葉を言い終えるよりも先に、一気に手に持つカードを天高く上げ、声高らかに宣言する。

作戦なんて知ったこっちゃない。今はこのカードを信じるだけだ。

 

〈始焉 エンド・バイ・スターティング〉

 

眩い光と漆黒のような闇が同時に現れる。

右の方に光が。左の方には闇があった。

二つの対となる物が現れた、ただそれだけ。

ただ、それだけのはずなのに、何故か圧倒的威圧感が場を支配した。

何かが起こる。この場の2人、片倉と永琳は直感した。

その圧倒的威圧を退けるかのごとく、永琳も負けじとスペルカードを唱えた。

 

〈禁薬 蓬莱の薬〉

 

永琳を中心に赤の弾幕が目の前を埋め尽くすように飛ばされた。

尽きることのない正真正銘の弾幕。しかし、これだけでは留まらない。

青白いレーザーの様なものが、部屋中を生き物のように駆け巡り始めた。

当たれば無事では済まさないことを裏付けるかのごとく、壁を天井を易々と破壊していく。

両者共に、最強の技を繰り出していた。

そして、弾幕と弾幕同士がぶつかり合うまさにその時、一つの影が間に突如として現れた。

 

「……あれ?」

 

前触れもなく突如として現れた影の正体は、蓬莱山輝夜であった。


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