傭兵幻想体験記   作:pokotan

40 / 47
偽りの月と永遠の夜 第9話

「……気絶したのかしら?」

 

ぐったりと倒れている姿をじっと見ながら鈴仙は思う。

ようやくこの面倒な人間を倒した!私は勝ったのよ、鈴仙!

心の中で歓喜した矢先、すぐさま鈴仙の顔は青ざめた。

ものすごく顔が真っ青。もうこの世の終わりを悟ったみたいに真っ青……は言い過ぎか。

何故こんなにも真っ青なのか。それは―――

 

「ん〜!なんか体がだりいな……」

 

ムクッと何事も無かったかのように起き上がった僕(クロ)の姿を見た鈴仙は目の当たりにしたからだ。

最初何が起こったのか分からず、ボーッと放心状態で見ていた鈴仙だったが、すぐにハッ!と我に帰った。

 

「は……?え、えっ!?」

 

「なんだよ、うるせぇなぁ」

 

「あ、あなた……さっきまで狂気で……あれ!?」

 

ひどく狼狽するのも無理はないだろう。

何故なら、彼女の能力を受けておいて、こんなに平然としている者は今までに1人として居なかった。

 

「あぁ、能力ねぇ。はいはい。そんなものもあったな」

 

「はいはいって、そんなに軽く受け流すほどのものじゃ無かったはずなんだけど!?」

 

「狂気の瞳だっけ?あんなもの俺には効かん。ドンマイ」

 

「あなた、何だか性格変わった?それに鎧みたいなのも色が真っ黒になってるし……。というか能力が効かないって冗談でしょ!?」

 

「いや、本当だぞ。ほら、この通り、全然平気」

 

ニッコリと笑いながら手を広げて、全く異常が無いことを示す。

ついでにぴょんぴょんとその場で跳ねてみたり。

 

「で、でも、さっきまであんなに……」

 

「あれは演技だ。うん、演技」

 

こ、こいつ、いけしゃあしゃあと嘘をつきやがった……。

演技なわけ無いだろ。あんなに苦しそうにしてだろうに。

それがもし演技だったとしたら、相当凄いぞ、てか役者になれるレベルだから。

 

「んなっ!?演技!?」

 

まてまて、そこのウサギよ。何故普通に信じる。

一般市民にあんな演技は常識的に無理だろうに。

 

「だとしても、まだ私は負けてないわ!!能力が効かなくたって―――」

 

「あのさ、一言言っていいか?」

 

「なに?」

 

「能力無しじゃ、お前は一生俺には勝てねえよ?いいの?」

 

「!?」

 

その一言で彼女は固まった。まるでそれは氷の如くカチンコチンに固まった。

お、お前、そこまでストレートに言うか?せめてもう少しオブラートにしてだな……。

ともあれ、表情、身体共にフリーズした鈴仙は次第にワナワナと体を震わせ、そして……怒った。はい、お怒りになられました。

「カッチーン!一生勝てない?冗談じゃないわよ。人間如きには遅れはとらないんだから!」

 

「ははは、カッチーンって自分で言ってるよコイツ」

 

オイオイ、そんなに挑発したら……。

 

〈幻朧月睨 ルナティックレッドアイズ〉

 

案の定、鈴仙は怒りながらスペルカードを宣言した。

 

「覚悟しなさい!私が持ちうる中でも最強のスペルカードよ!」

 

どうやら『最強』のスペルカードの付録付き。

要らない特典に僕は涙が出てくるよ。まぁ、実際このスペルカードを受けるのは僕じゃ無いけど。

目の前に放射状の弾幕が放たれる。その速度は恐ろしく速く、そして的確にこちらを狙っている。

それだけではなく、その後方にも大量の弾幕が所狭しと並び、次々に飛んで来ようとしていた。

見ているだけで狂いそうだ。流石は狂気の力と言ったところか。

 

「ほぉ〜!これは……やばいかも」

 

「今更泣いたって遅いわ。私自身、このスペルカードを制御しきれないから、どうなっても知らないわよ」

 

「まじかよ。こりゃ参った。想像以上だ」

 

えっ!?クロでもお手上げ!?

だとしたら、このままだと……死?

嫌だ、それだけはゴメンだ。

明日の朝刊に僕の死んだ記事が載るのはとっても嫌だ。

「まるでミンチのようでした」

「踏み潰された何かに見えました」

「破裂したペ〇シの缶みたいでした」

こんな事書かれてたまるか。絶対にお断りだ。

どうにかならないのか!?

 

「しゃーなしだ。すまんな、少しお前の体に無理させるわ」

 

そう言うと、スッと取り出した1枚のカード。

そのスペルカードをクロは宣言する。

見たことないカード。まさか新スペルか!

 

〈闇符 アビスブレード〉

 

カードが眩く光ったと思ったら、次の瞬間にはクロの右手には風刃の形に酷似した、漆黒の刃が握られていた。

刹那、横一閃に刃が空間を切り裂いた。

すると刃の先から禍々しい闇のような煙が目の前に現れ、迫り来る鈴仙の弾幕を飲み込んだ。

少しの間の両者の沈黙。鈴仙は何が起こるのか分からないらしい。

僕もさっぱり分からないのだが……。

いったいこのスペルカードは何なんだ?攻撃出来てないけど?

 

「攻撃するのがスペルカードの役割だと思ったら大間違いだぜお前さん」

 

ニヤリと突然クロが笑った。それに続いて連動するかの如く目の前の闇は一気に爆発した。

爆発後の視界はまっさらだった。弾幕が何一つとして見当たらない。消えたのだ。ま、まさか、嘘だろ……。

 

「な、何よ今の」

 

「さっきのスペルは、実は俺の中の『最強』のスペルカードだったのさ」

 

「さ、最強ですって?今の爆発した煙が?」

 

「そうだ。最強だ。だってこのスペル、あらゆる弾幕を打ち消す専用スペルだからな」

 

「は、はあ!?」

 

なんだと!?まてまて、そんなスペルカードあったらもはや最強じゃん。無敵じゃん。

あらゆる弾幕を打ち消す?何それ。必殺技以上の必殺技だぞ。

つまり、あの刃を片手に幻想郷を支配する日が来たわけですねクロ先生!凄いじゃん!

 

「だが、制約があってだな……。……1日1回限定だ。あと魔力がごっそり持ってかれちまう。それと、絶対に相手には爆発でのダメージは与えられない」

 

……わお。幻想郷支配は無理みたいです。お疲れ様でした。

だがしかし、そのスペルカード使いどこが肝心だけど強すぎる。魔力の事は聞かなかったことにしとこう……うん。

 

「てなわけで、恨みはないがとどめ刺すぞ」

 

「へっ?」

 

突然クロが鈴仙の背後に回り込む。

唖然としていた鈴仙は勿論反応出来るわけもなく。そのまま見事に首筋に手刀を喰らった。イタソ……。

プツリと糸の切れた操り人形の如く倒れ込んだ鈴仙。

倒れ際に「覚えておきなさいよあなた……」と聞こえたのは気のせいだと信じたい。

 

「これにて、あっ、1件落……」

 

いや終ってないから。まだまだ先があるから。

 

「んだよ、勘定奉行のモノマネくらいさせろやい」

 

駄目だ。さっ、ほら先に行く!

 

「まて、その前にあいつはどーすんのよ」

 

んっ?あっ……。

よろよろとした動きでこちらに付いてきた妖夢。

先程までの狂気のせいで身体はおろか精神にも結構な負荷がかかっているようだ。

 

「おいおい無理すんな。死ぬぞ」

 

「だ、大丈夫……です。半人半霊はこの程度では……し、死にません……から」

 

とは言うものの、見ているこっちが辛くなりそうな状態だ。

仕方ない。少し強引にでも言う事を聞かせておこう。妖夢は頑固な性格だから。

クロ、頼んだ。

 

「えっ!?俺かよ!?ったく……。あ〜妖夢、ちょっと休憩した方がいいと俺は思うぞ」

 

「だ、大丈夫です」

 

「……はぁ。分からないか?今のままだとお前さんお荷物だ。それならまだいいんだ。お荷物程度なら俺がどうにかする事が出来る。だけどな、そのまま無理して死なれてもこっちが困るんだよ。分かるな?」

 

「……そ、その通りですが……」

 

「もしお前さんが死んだら幽々子はどうするよ。悲しむぞ。だからさほら、休んどけって。充分に回復したら付いてきていいからさ」

 

「分かりました……。では、休ませて貰います」

 

おぉ、見事に言いくるめたな。カッコイイじゃん?

 

「止めろ。恥ずかしくてこっちが死にそうだ。ところで身体は返さなくてもいいのか?」

 

返さなくていい。だって返ってきてもどうせ筋肉痛地獄が待ってるだろうし。今はそれは避けたいかな〜って。

 

「分かった。それじゃ行くか」

 

よく考えたら、まだここ玄関なんだよな……。うへぇ……きつそうだな。まぁ、僕は関係ないんですけどね!

緊張感漂う屋敷の中にとうとう踏み入った僕とクロ。

先はまだまだ長そうだ。




かなり遅くなりました……かな?
今は凄く忙しい時期に入っちゃってるので恐らくこれからも更新は遅いです。
安心して下さい。多分、失踪はしません。多分ね多分。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。