傭兵幻想体験記   作:pokotan

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幻想入り 第3話

早朝五時。

まな板と包丁とが奏でる家庭的な音が聞こえ、うっすらと目を覚ました。

 

「朝よ。起きなさい」

 

「おはようございます」

 

アリスって意外に朝が早いんだね。僕はまだ眠いですよ。

窓から差し込む明るい光を浴びながら、だらだらと起き上がった。うーん、体が重い。

 

「朝ご飯はいるかしら?」

 

アリスって、無愛想に見えて実は優しい人なんじゃないかなぁ、と思ってるんだけど。まあ本人に言ったら間違いなく否定されるだろう。

普通知らない男を泊めてご飯までご馳走してくれるんだよ?素っ気なくしてるけど、絶対いい人だわ。

 

「そうですね。ありがたくいただk」

 

ズドォォォォオオン!!と表現するのが正しいだろうか。

とにかく大きな物同士が思いっきりぶつかったような音が辺りに響いた。

その音の大きさは、家が振動するくらいに大きかった。

 

「いったい何の音よ!?」

 

突然大きな音が近くから聞こえたことで、アリスはとても動揺していた。

いったい何事だろう。それよりもお腹すいた。アリスさん、朝ごはんはまだですか?

 

「あなた…こんなことじゃあんまり動じないのね」

 

「ええまあ。慣れてるんで」

 

いやでも結構焦りましたよ。正直今すぐにでも完全武装して何があったか確認したいですし。

 

「と、とりあえず確認してくるわ!」

 

「僕も行きますよ?」

 

「いいわよ。もしかしたら危ないし」

 

「いえいえ。大丈夫です。僕も何があったか確認したいですから」

 

そう言いながら僕は装備一式を身に付ける。バックパックは……持っていこうかな。何かあったら大変だしな。

 

「それじゃ行くわよ」

 

あれほどの音が聞こえるのは何事だろうか。そう思いながら、僕たちは音の聞こえた方向へ向かった。

 

 

 

 

 

「何よこれ……」

 

「これは……なんですかねぇ…」

 

どうやらここがさっきの音の発生した場所らしい。周りの木々が、なぎ倒されている。

おそらくこれは妖怪の仕業だろう。こんなこと、人間ができる訳が無い。ていうか、こんなことできる人間こそ妖怪と呼ぶべきだろう。

果たして、どういう妖怪がこんな事をしでかしたのやら。

 

「凄い状態ですね」

 

「え、ええ」

 

なぎ倒された木々の他にも、ところどころ地面が抉れている。まるで、巨大な何かが暴れたような状態だ。

その時、後ろから殺気を感じて振り向いた。どうやらアリスもその殺気に気づいたようだ。

 

「なにか来るわ……」

 

「そのようですね」

 

もう一度装備の確認をする。あぁバックパック持ってきて正解だったな。

 

ベキッベキッバキッ

 

奥の方から恐ろしい殺気を放ちながら、何かが木々をへし折り近づいて来る。

グワァァァァァア!!恐ろしい叫び声と共に現れたのは、熊の妖怪だった。えっ……熊の妖怪なんかいるの?ここ。

しかし、それほど大きくはない。

これくらいの大きさの妖怪が、木々をこんな状態にしたとは到底考えられないが、まぁいいだろう。

殺意に満ちた鋭い歯をこちらに見せつけながら、その妖怪は僕ら目掛けて突っ込んできた。

どうやら戦闘は避けられらしい……仕方がない。熊の妖怪に向けてAKを撃ちまくる。

 

「凄いわね……その道具。弾幕の速度が速いわ」

 

いやいや、アリスさん。冷静にこのAKの分析する前にこの熊の妖怪を倒すの手伝ってくださいよ。―――あの妖怪、熊のくせに素早い動きでAKの弾をよけていきやがる。凄いな……クマさん…………。

刹那、熊の妖怪は素早く僕の懐に飛び込んで、顔面に蹴りをかましてきた。

 

「熊が蹴りかましてきたぁぁぁ!?」

 

ギリギリAKでガードしたから何とかなった。あれくらったら、絶対やばいよな……。良くて、骨が砕ける。悪くて……死ぬ。

すんでの所でガードしたのは良かったが、AKの銃身が曲がって使い物にならなくなってしまった。これは予想外、どうしたものか。

 

「大丈夫?片倉」

 

「ええ、まぁなんとか」

 

困った。AKがないと火力が心もとない。……ん?でも待てよ。

そういえば、アリスさんは魔法使いだったな。呪文とか唱えて倒してくれないのかな。

 

「な、何よ」

 

「いやぁ、アリスさんって魔法使いでしたよね?」

 

「ええ。そ、そうよ」

 

「呪文使って倒してくださいよ」

 

「無理よ。魔導書が無いから」

 

「嘘でしょ……」

 

「本当よ。魔導書がないと大抵の呪文は唱えられないわ」

 

えぇぇぇ!?まさかの呪文使えないです発言!?それでも一応あなたは魔法使いでしたよね!?

そんなことしてるうちに、またしても熊の妖怪がつっこんできました。

 

「ちくしょう、こうなったら最後の手段だコノヤロー!」

 

こうなれば最後の手段を使おう。

奴が突進してくるのに合わせて、僕も突っ込んでいく。

熊の妖怪は脇腹に蹴りをかましてきた。また蹴りかよ……。熊は蹴るよりも、爪で切り裂くのが普通じゃ無いのか?

僕はその蹴りを紙一重でかわし……無理だった。

ミシミシ、と肋骨から嫌な音がする。これはひびが入ったな。でも奴の動きを捉えた。ここで決める。

レッグホルスターから、M93Rを取り出す。

これが最後の手段【肉を切らせて骨を断つ作戦】だ。骨も断たれそうだけど……。

ズドドン、ズドドン、ズドドン!!

3点バーストで間髪入れず、妖怪の胴体に弾丸を叩き込む。作戦通りだ。ホネイタイ。

胴体に大量の弾丸を叩き込むと、熊の妖怪は絶命した。

何とか勝てたか……よかったよかった。イテテ……。

 

「肋骨やられたようね」

 

「ええ。まぁ死ぬよりかマシですよ」

 

「あなたのその根性にびっくりするわ」

 

お褒めの言葉、ありがとうございます。ですけど、魔法があれば、こんな事にはならなかったんですがね。

心の中で皮肉を言いつつ、アリスの元へと戻ろうとしたその時、彼女の後ろに忍び寄る巨大な熊の妖怪を見つけた。―――なるほど、さっき倒した奴はこの巨大な熊の子供か。

その妖怪は、鋭い爪で彼女を切り裂こうとその腕を振りおろした。このままでは、彼女は殺されてしまうだろう。

僕は無意識のうちに駆け出した。そのまま、彼女の体を横に突き飛ばす。

 

「きゃっ!いきなり何よ!?」

 

アリスは最初、何をされたかよく分からない様子だったがすぐに状況を理解した。

 

「あなた……腕が!?」

 

驚くのも無理はない。

僕の左腕は、無くなっていたからだ。

とてつもない激痛が走る。肉が引き裂かれる程度と思っていたのだが、まさか腕がちぎれるのは予想外だった。流石は森のクマさんだ。

アリスは無事そうだ。

腕をやられたが、僕だってタダで腕をくれてやるわけにはいかない。ちゃんとお返ししてやる。

腕を引き裂かれる直前、あの妖怪の腕にC4を張り付けておいた。

カチッ、起爆ボタンを押す。

轟音と爆風が妖怪を包み込む。その爆風により、結構な距離まで僕の体は吹き飛ばされた。

幸い、無傷だ。何ともない。あるとしたら、無くなった左腕くらいか。

だが、この程度の威力ではあの妖怪を殺すには至らなかったようだ。せいぜい腕を吹き飛ばす程度だ。

 

「これで引き分けだな」

 

とは言ったものの、圧倒的に不利だ。とにかくアリスだけでも逃がさないと。

 

「早く逃げろ!」

 

しかし、彼女は逃げようとしない。こうしてる間にも、あの妖怪は殺そうと近づいている。

あぁ、まずい。彼女に向かって妖怪が爪で切り裂こうと腕を振り上げた。

この距離じゃ助けられない。M93Rは……さっきの爆発の衝撃で遠くに飛んでいってしまった。ナンテコッタイ。

妖怪が、腕を振りおろした。もうダメだ!

腕が振り下ろされる刹那、妖怪の胴体が真っ二つに切られた。―――えっ?

最初、何が起こったのか分からなかった。どうやらあの妖怪も同じ感想のようだ。だが、妖怪はなぜ自分が殺られたのかを理解する前に。

ふと見ると、彼女の周りには小さな何かが浮いていた。

 

「大丈夫、片倉?とりあえず家に戻りましょう」

 

「え、ええ。ところで、さっきの妖怪はどうしたんですか?」

 

「ああ、斬ってやったわ。この子で」

 

そう言ってアリスは、刃物を持った小さな妖精のようなものを見せた。

 

「シャンハーイ」

 

「これは、妖精ですか?」

 

「いいえ違うわ。人形よ」

 

どうやら人形のようだ。しかしこの人形は動いてるんだけど、生きてるのか?

 

「生きてないわ。ただ私が、操ってるだけよ」

 

あっそうですか。てか、今心の中読まれた?まだ声に出してないはずだよな。

 

「とにかく、家に帰ったらその腕の治療しないとね」

 

「あの、肋骨のひびのほうは……?」

 

「気合で治しなさい。いちいち魔法を使うのも面倒だし」

 

ひぇぇ、この人ヒドイや治してくれてもいいでしょ。

心の中でぼやきながら、僕たちは帰宅した。あっヤバイ、血がめっちゃ出てきてる。

 

 

 

 

 

「これで大丈夫よ。どう?」

 

「はい。おかげで痛みも無くなりました。でも……腕は戻らないんですね」

 

「魔法は万能じゃ無いのよ」

 

てっきり治ると思ってたのに、魔法って案外凄くないんだね。ちなみに、肋骨の方は治してもらいました。なんだかんだで、治すんだね。やっぱり優しいや。

 

「腕が無いと困ったなぁどうしたものか」

 

「あなた、この先の生活のあてとか何も無いの?」

 

「ええ。いかんせん、急に幻想郷とやらに来てしまいましたから。これっぽっちもあてはございません」

 

「それもそうね」

 

このままじゃ生活はおろか、生き残ることも出来ない。何処かに安全な場所は無いものか。

まぁその前に、腕のことをどうにかしないとな……。でもどうしろってんだ。もう、どうしようもないぞ。

 

「もしかしたら、腕のことなら何とかなるかもしれないわよ」

 

「えっ!本当ですか!」

 

これは驚いた。失った腕を治せるなんてさすが幻想郷だ。なんでもありだ。

 

「妖怪の山のふもとに技術屋のカッパがいるから、もしかしたら何とかなるわよ」

 

「技術屋のカッパ?」

 

カッパが技術屋ってどういうことだろう。というか技術屋ってことは、もしかして腕のことって……義手?

 

「ええ。義手よ。それしか方法は無いわ」

 

ほら見ろ、また心読まれた。この人、読心術でも会得してるのか?

というか、義手かぁ。てっきり腕が治るのかと思っちゃったや。

 

「とりあえず、明日そのカッパの所へ行こうかしらね」

 

「そうですね」

 

技術屋のカッパかぁ。一体どんな感じ何だろうか。もしかしたら、いかつい感じのおっさんカッパだったりして。それはそれで、面白いな。

そんなことを考えながら、明日に向けて僕は準備をして、寝るのだった。

あれ?さりげなく僕、この家に居候してるみたいだな。


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