「なあ霊夢、これどう思う?」
「どうって言われてもね……。まあ、ここが異変の元凶で間違いはないわね」
「だよな」
茂みに身を潜める二つの影、その影は魔理沙と霊夢だった。二人は永遠亭の入口付近の茂観察する。
永遠亭には沢山の武装した兎妖怪達がいた。別にそれ自体はこの二人にとってはなんの障害にもならないのだが、ある物がこの二人をとても苦戦させていた。
「しかし―――なんでこの屋敷はこんなにも罠が多いのよ……」
「同感だぜ」
後ろを振り向くと、幾多の罠の残骸がたくさんあった。これらの罠一つ一つを二人は壊して進んでいたのだ。
罠の種類は様々で、術式で発動するタイプのものから古典的な罠までよりどりみどりである。
「特にあの落とし穴は焦ったぜ。正直、死を覚悟したくらいだぞ」
「あんたが警戒せずにガンガン先に進むからでしょ。もう少し警戒しなさいよ」
「へいへい、心得ときますよーだ。それよりも、こっから先はどうするんだ?あの数は少々厄介だぜ?」
「……だとしても正面突破しかなさそうね。周りは罠だらけだろうし、下手に回り込むと罠にかかりそうだし、それが一番良さそうかも」
「了解」
懐から大量の札を取り出す霊夢。魔理沙もミニ八卦炉を取り出す。
「準備はいい?」
「いつでもいいぜ」
「それじゃあ……」
「夢想封印!」
「マスタースパーク!」
放たれる巨大な弾幕と光線。
その二つは共に交わりそのまま兎妖怪達を吹き飛ばし、とんでもない爆音を竹林中に轟かせるのであった。
「じゃーんけーんポン!」
グーとパー。
物に例えるなら、新聞紙と石ころ。
いつも思うのだが、なぜ新聞紙と石ころだと新聞紙が勝ったと言うのだろうか。もしかしたら石ころが勝つかもしれないだろうに。
そうだ人に例えよう。
人に例えるなら、包容力のある女性と頭の硬いおっさん。……パーが勝つ。誰が何と言おうが勝つ。
なるほど、これからジャンケンの例えは物より人がいいのかもしれない。分かり易い。……まぁ例えるものにもよるけど。
ちなみにチョキは―――思いつかん。
「よしっ」
「くっ、まさかこんな……」
グッと小さなガッツポーズを決める妖夢と苦虫をかみつぶしたかのような険しい表情を見せる鈴仙。
パーで勝った人がグーで喜ぶのこれはいかに。
今更だが、彼女の名前は鈴仙と言うらしい。by.兎妖怪のてゐ情報。
「さあ、ラストゲームですよ〜」
今の二人の状況は2対2の同点。どちらかが勝てば勝敗は決まる。
なんだかテキトーに始めた割には白熱してるぞ。いいねジャンケン。これからは弾幕ごっこよりもジャンケンで勝敗を決めた方が平和でいいかも。
ふと、隣にいるてゐを見ると、とても落ち着かない様子だった。
「どうかしたの?」
「い、いや、なんでもないよ」
ふーむ、なんでもなかったか。どう見ても何か訳ありな態度だが、まあいい。
それより、このジャンケンの決着をつけようか。
「それじゃあ両者構えて」
その合図と共に妖夢と鈴仙はじっとお互いを睨み合う。
バチバチと二人の間で火花が散るのが僕には見えた。
見よ!東方は紅く萌えている!……なんか色々と間違えてる気がする。
「じゃーんけーん―――」
ズドオォォォォオン!!
「!?」
ポンッ!と口に出そうとした刹那、とんでもない爆音が辺りに轟いた。誰だよ!近所迷惑だぞ!いや、ジャンケン迷惑だぞ!
この場の全員が何事かと辺りを見回す。
「な、なんだ今の音……」
「さあ?分かりません。が、何かしらとんでもない事が起こったのは確実でしょう」
いったい何が起こったんだ?
もしかして、何処かの河童がトンデモ爆弾造って誤って起爆させちゃった?まさか〜ハハハ……。
その時、鈴仙が何か呟いた。
「今の音の方角……もしかして永遠亭の。……大変だわ!?」
ある事に気がついたらしく、冷や汗をかき出した鈴仙は急に音のした方角へと走り出した。
こらこら、鈴仙君。何処へ行こうと言うのかね。
「あっ!ちょっと!」
「すいません、急用ができたので失礼します!そこに居る嘘つき兎は煮るなり焼くなり好きにしてください!それでは!」
いや、煮るなり焼くなりって……。
それだけを言い残すと、彼女はあっと言う間に走り去っていってしまった。
残された僕と妖夢とてゐ。すると次はてゐが動いた。
「それじゃあ、あの女が居なくなったんで私もそろそろ失礼……」
「おっと待った!」
「げっ!?」
てゐは逃げた!
が、すぐに回り込まれてしまった!
泥棒よろしくソロ〜っと逃げようとしたてゐに先回りして目の前に立つ。
てゐの顔は酷く焦っていた。汗が滴り落ちるのも見える。
「何処に行くのかなぁ?」
「え、えっと……そのっ……あの〜」
ニコニコ顔でジリジリと詰め寄る。だがあちらにはニコニコよりも恐ろしい修羅のような何かが見えている事でしょう。
「ちょっと……その……」
「ん〜?聞こえないな〜?」
威圧をかけるがそれでも真実を言おうとはしない。
ほらほら、諦めて吐いちゃえば楽になれるよ〜?
仕方ない……。少し強引に聞き出そうかな。
「ちょっとごめんね〜」
「えっ、ちょっっ、まっ!?」
いつも持ち歩くバッグの中から麻の縄を取り出す。
そして手馴れた手つきでてゐの両腕を縛る。あまりにも素早く縛ったおかげで、てゐは逃げる暇もなかった。
これから何をする気だ?フッフッフッ……それは今から分かるさ。
「さあて、観念して吐きなさーい。君が嘘をついてるのは既にバレバレだよ?」
「い、いやだ……」
「そう言うと思った。だから……」
「な、何を!?」
ワキワキと手を動かしながらてゐにより近付く。
今の状況を一言で表すならまさしく、乱暴する気でしょ!薄い本みたいに!だ。
さぁ、いっくよーーーー!
「きゃ、きゃあぁぁぁぁぁああ!!」
爆音の次は悲鳴が辺りに響き渡った。
「はい、というわけでその永遠亭とやらまで道案内宜しくね〜」
「は、はい……」
ションボリとしながら歩くてゐの後に続いて歩く僕と妖夢。心なしかてゐの自慢のうさ耳も若干ションボリしている。
もしかして、耳はその時の気分に反映して変わるのかな?だとしたら面白いな。
「もしわざと遠回りしたりしたら、その時は分かるよね?」
「は、はい……」
ニンマリとスマイル。それにションボリとスマイルで返される。
さっきからてゐの身に何が起こったか気になるかって?
いいでしょう、教えてあげましょう。
簡単さ、こちょこちょをしたのさ。
あっ、もしかして拷問的な事を想像した?しないんだよなぁ。
流石にそこまでやっちゃったら色々とまずそうだからね。仕方ないね。
「あとどれくらいかかりますか?」
「そろそろだよ」
ひたすら歩いて10分、遠くに大きな日本屋敷が見えてきた。あれが永遠亭か〜。でかいなぁ。
外見は白玉楼のように大きな和風屋敷。しかし、周りの竹林と相まってかこっちの方が白玉楼よりも和の趣がある……気がする。
正直建物の感じなんてどうでもよくないですか?住めればそれでいいじゃん。なんてこと考えるのは僕だけじゃないはず。
でもそんなこと言っちゃったら色んな人から怒られそうな気がしてままならない。特にレミリアさんから。
レミリアさん……大丈夫かな。早く助けないと!
「はい、到着だよ」
「大きなお屋敷ですね……。私の所よりも少し大きいかも……」
「そうなの!?」
そうか〜、ここの方が少し大きいのか。
ってそんなことに感心してる場合じゃなくてだな……ん?
入口玄関……らしき所で僕達はとてつもなく光景を目にする事になった。
玄関らしきというのも、どうやら何者かによって玄関は吹き飛ばされていた。つまりあれだ、うん、入口は大きな穴が空いてるって状態。
もしや、さっきの大きな爆発音はここからか?うわぁ、ここの家の人かわいそう。修理大変だな絶対。
「うわぁ……これはひどい」
「誰がやったんだろう?」
まったく、人の家に穴を開けるとは何処ぞのフラワーマスターですか?
そう言えば、ここの壊れ方ってなんだか幽香さんが紅魔館を壊した時の感じと似てるな。
もしかして……いや、それはないよな、多分。
「あれ?あの兎妖怪が居ない」
「へっ?」
辺りを見回すが、先ほどまで居たてゐの姿はもうどこにもなかった。
おそらく玄関の大きな穴を見ていた時にササッと逃げ出したのだろう。
何と言う逃げ足の速さ。おそるべし兎妖怪。
「どうしましょう……。探しますか?」
「いや、どのみちここらで解放する予定だったからいいよ。それよりも早く先に行こうか」
「そうですね、そうしましょう」
さぁさぁ、あんな兎妖怪なんて忘れて先に行きましょうかね。
「ちょっと待って下さい……。前方から人が来ます」
「えっ?マジ?」
「マジです」
まだ心の準備が出来てないんですけど。
こんな状況で登場する奴なんて、どう考えても中ボス級の強さに決まってる。
いざとなったら逃げよう。土下座したあとに速攻で逃げよう。
すっかり弱気になってしまった僕の前に現れたのは、まさかの人物だった。
「あれ?あなた達、さっきの……」
「「あっ……」」
現れたのは、ブレザーを着たうさ耳の少女。鈴仙だった。
「何しに来たの。早く引き返しなさい。ここはあなたたちが来ていい所じゃないのよ?」
「えっ、なんでですか?」
「いいから早く引き返しなさい!」
「えーいいじゃないかー。みんなでジャンケン大会した仲じゃないか」
「もう!しつこいわね!」
しつこくてすいませんね。それが取り柄なもんで。
「一つ!一つだけ聞いていいかな?」
「……何?」
「ここは永遠亭の入口で、この異変をその永遠亭が起こした、で間違いないかな?」
「……」
沈黙……が答えか。
なるほど、それはイエスとして捉えても良いってことかな。
「これが最後の警告よ。早急にこの場から立ち去りなさい」
「お断りします。ここが異変の原因ならば、僕は引き下がるわけにはいかない」
「……そう。それなら仕方ないわね。死んでも文句は言わないで頂戴よ」
一瞬にして彼女の周りの空気が変わった。これは間違いなく戦闘モードに入ってるな。
弾幕ごっこか……嫌だな。かと言ってジャンケンで解決はもう無理そうだ。
仕方ない。やるか!
身体に魔法鎧を纏い、鈴仙と対峙する。
彼女は手で鉄砲の形を作ってこちらに向けてきた。
何あれ?某アニメの真似事か?もしかして弾丸とか飛ばす気とかか?いや、ね。まさか……。
刹那、僕の右肩は目に見えない何かに撃ち抜かれた。
「死んでも文句は言わないで頂戴よ」
衝撃で倒れる間際、僕の脳裏には先ほどの彼女の言葉が蘇っていたのだった。