傭兵幻想体験記   作:pokotan

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偽りの月と永遠の夜 第5話

「てゐー!何処に居るのー!」

 

永遠亭付近の道で鈴仙は行方不明の兎妖怪を探していた。

 

「はっ!―――まさかあの子いつもの散歩道の方に!?……まったく、今日は遠くまで行くなって言ったのに!」

 

てゐと呼ばれる兎妖怪の居場所に検討がついた鈴仙は、急いでその場所へと向かった。

 

 

 

 

「ねえ、妖夢」

 

「どうかしましたか片倉さん?」

 

異変の元凶が居ると思われる場所へと続く道を少し急ぎ目に歩いていた僕は、さっきからとっても気になっていた事を妖夢にぶつけてみた。

 

「さっきからさ……つけられてるんだよね」

 

そう、あの壊れた結界をくぐった辺りから誰かにつけられているのだ。巧妙に隠れてはいるのだが、時折気配が漏れている。隠れるのは得意だが追跡は苦手なのだろう。

 

「えっ!?本当ですか?」

 

「あぁ、気づいてなかったんだ」

 

「はい。まったくもって。よく片倉さん気がつきましたね」

 

「まぁ外の世界では当たり前の事だったから、身体が勝手に……ね?」

 

「へえー外の世界とやらは危険がいっぱいな所なんですね」

 

「いや、違うんだけど。本当は安全……でもないか」

 

日本やらなんやらみたいに治安の良い国は安全なんだけどねぇ……。赤道付近の国々は紛争とかで治安悪いんだよな。傭兵してると紛争地域によく派遣されるされる。

 

「それで、どうしますか?」

 

「んっ?何が?紛争地域に行きたいの?」

 

「いや、違います。というか紛争地域って何ですか?」

 

「気にしないでくれ。こっちの話だ」

 

「そうですか……。それで、その例の追跡者の事なんですが」

 

「うーん……このまま放っておくのも危険かもしれないし、正体を暴こうか」

 

「どうやって?」

 

「それは僕に任せて。すぐに暴くから」

 

左手の義手をカシャカシャと動かし調子を確認する。うん、大丈夫そうだ。

特に問題は無いことを確認した僕は、義手に魔力を纏わせて思いっきり地面を叩いた。

ボゴォ!と地面に少し大きめの穴が開いたと同時に、先程義手に纏わせた魔力は僕を中心とし半径10メートル程広がってそのまま消失した。

 

「何をしたんです?急に地面を叩きましたが……」

 

「これはね、ちょっとしたレーダーみたいなものだよ」

 

「レーダー?」

 

「うん、レーダー。簡単に言うと相手の位置を把握する事かな」

 

魔力とはいかなるものにも変えることが出来る。とは言っても限度というのは存在するが。

前に使った磁力やら衝撃波やら、魔力はそういう性質に変わる。このレーダーもその性質を利用した技の一つだ。

魔力は地面と空気を衝撃波として伝わり、周りの地形に沿って進んでいく。これにより、周りの詳しい構造や隠れた敵の位置などが分かるというわけだ。まさにレーダー、便利だね。

しかし残念な事に欠点もある。魔力の消費量が多い事と衝撃波により相手にバレるという点だ。後者は仕方が無いとして、魔力の消費量はもう少し改善したいところだ。

この技、何と言う名前にしよう……。アースクエイクとか駄目かな?意味が若干ずれてる気もするが、この名前でいこう。直訳だと地震だけど気にしないぞ。僕はまったく気にしないぞ。

 

「それで、そのレーダーとやらで追跡者の位置分かったんですか?」

 

「うん。凄く分かりにくかったけど、分かった」

 

「……なんだか微妙な技ですね」

 

止めてよ!これでも昨日徹夜して考えた技なんだからね!

結局の所、衝撃波がどのような動きをしたのかは自分の感覚のみで察知するしかないのだから、確かに微妙なところでもある。意外とこの技凄く難しい。

まあ、なんだかんだで追跡者の位置は詳しくわかったから問題は無いだろう、うん。

 

「で、何処に居るんですか?」

 

「それはね……」

 

右手に魔力を集中させ、小さめのナイフをいくつか形成する。

そして、2時の方向ある茂みに向け、シュッ!となんの躊躇も無く投げた。投げる瞬間「えっ?」と聞こえたのは幻聴だろう。

サクサクッ!投げたナイフが竹や地面に刺さる。「ギャー!」と聞こえたのも恐らく幻聴だろう。

 

「次は外さないよ。当てられたくないなら、3秒数えるうちに出て来た方がいい」

 

……、何の反応も無いがそこに居るのはわかっている。もう気配がバレバレだ。おまけに隠れている茂みが揺れている。

 

「3……2……1……」

 

「ストーップ!ストーーーップ!!」

 

追加のナイフを投げようと腕を大きく横に振りかぶった瞬間、勢い良く小さな少女が現れた。……って兎の耳がついてる!?

背丈はにとりくらいで如何にも幼女なのだが、一番気になるのは頭から生えている耳、兎の耳であった。

どうやら妖夢も少女の耳が気になっているようで、不思議そうな顔をしていた。

 

「いったい君は何者かな?さっきから僕達をつけていたようだけど」

 

「私は因幡、因幡てゐ。兎妖怪だよ」

 

「兎妖怪……。じゃあその頭についてる耳はやっぱり……」

 

「もちろん兎の耳だよ!混じりっけなしの純正物さ!」

 

いや、耳に混じりっけなしとかあるのか?

いかんいかん、そんなどうでもいい事は置いといて、肝心の事を聞かないと。

 

「ところで君はどうして僕達の跡をつけてたのかな?」

 

「そ、それは―――」

 

「あーーーーー!!てゐ、あんたねえ!!!」

 

「!?」

 

突如、大きな声をあげながら、見知らぬ少女が茂みの中から勢い良く現れた。

その少女を見た時、僕と妖夢は一目で兎妖怪であると判断した。何故か?それは、頭にあの兎の耳混じりっけなしの純正物の耳が付いていたからだ。

だが、それよりももっと気になることが一つ、なんでこの子はブレザーを着てるんだ?学生なのかな?

 

「た、助けてください!実はこの人から追われてて、逃げていたんです!」

 

「えっ?どういうこと?」

 

「んなっ!?あんた何言ってんのよ!!」

 

ササッと僕の背中に隠れたてゐは、目の前の少女に怯えていた。

その様子を見た少女は、てゐを引っ張りだそうと近づいて掴みかかろうとした。が、すぐに妖夢に妨害されてしまった。

 

「ちょっ!?なんで邪魔するのよ!」

 

「あの子の言うことは事実ですか?」

 

「そんなわけないじゃない。大体、あなた達は分からないでしょうけど、あいつは相当の嘘つきよ!信じない方がいいわ」

 

「そうなのかい?」

 

「違うよ!私は嘘なんか言わないもん!」

 

うーむ困った……。どっちを信用していいものか。

でも状況証拠だけで判断すると、あの少女はさっきこの子を引っ張りだそうとしたからなぁ。難しいなぁ……。

 

「てゐ、あなたいつまで猫を被るつもり?早くこっちに来なさい!今、永遠亭が大変なのは分かってるでしょ?」

 

「永遠亭?」

 

「ゴホン……。とにかく、早くこっちに来なさい」

 

「や、やめてよ!離してよ!」

 

嫌がるてゐの腕を掴み、無理やり連れていこうとする少女。恐らく、何かしらの関係者なのだろうが、傍からみたらただの誘拐にしか見えない。

そんな光景を見た正義感あふるる妖夢は、黙って見過ごすわけがなかった。

 

「待ちなさい!この子が嫌がってるじゃないですか!!」

 

「だーかーらー、こいつは嘘つき兎なのよ?私は追っかけて誘拐をしようとしてるんじゃなくて、ただサボってたから連れ戻しに来ただけなの!変な勘違いはよしてくれる?」

 

「だとしても、このような状況見過ごすわけにはいきません」

 

「ふーん、じゃあどうするの?」

 

「あなたに勝負を申込みます」

 

おいおい、なんだこの展開は。

一人の兎ちゃんを巡ったバトルが始まろうとしているぞ。いいのかこれで?いや、駄目だろ。

無駄な争いは良くないだろ、常識的に考えて。……しまった、この世界に常識は無かった。

だとしても、ここは穏便に話を進めないと……!

スラリと抜かれた2本の刀。鋭く鍛え上げられたその刀を妖夢は両手に持ち、身構える。

対して少女の方は、手を銃みたいな形にして身構えていた。―――何だありゃ?小学生の真似事か?それとも某幽〇白書のあれか?

双方とも睨み合う一触即発の状態。

刹那、俺は勇気を持って二人の間に立った。

 

「はいストーーーーッップ!!」

 

「「!?」」

 

「無駄な争いは良くない。ここは一つ、穏便な方法で解決しましょうかお二人さん」

 

「例えば何よ」

 

「じゃんけんだ!!」

 

「えー……」

 

予想外の言葉に、てゐはやや拍子抜けした声を出した。

 

「……いいわよ」

 

「分かりました。片倉さんがそう仰るのなら」

 

「よしよし、計画通り」

 

まあ計画なんてこれっぽっちも無かったんですけどね!

それでも、血まみれ待ったなしの戦いが始まるよりかは、断然こっちの方がいいに決まってる。

 

「それじゃあルールは、5回勝負でいきましょう。因みに決着がつくまで、てゐちゃんは僕が確保しておくんでそこはご了承を」

 

どさくさに紛れて連れて行かれたら困るからね。仕方ないね。

 

「はいはい、てゐちゃんこっちに来てねー。はーーーい」

 

何だろう、むしろ自分の方が危ない誘拐犯の気がしてままならない。……涙が出てきた。

 

「それじゃあ、第一回戦始め!!」

 

夜の竹林に、何処ぞの某アイドルグループのじゃんけん選抜よろしく、熱いじゃんけん5本勝負の火花が切って落とされたのであった。

あれ?そういえば、僕達ここになにをしに来たんだっけ?


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