傭兵幻想体験記   作:pokotan

34 / 47
偽りの月と永遠の夜 第3話

夜の時間帯であるせいか、人里には人の姿は全く無かった。あるとしたら見張りの姿くらいか。

まぁ、その見張りの人も若干、というかがっつり寝てたけど。

なんだろう、何処ぞの門番を思い出したのは気のせいかな。

 

「上白沢慧音って人、何処に居るか分かる妖夢?」

 

「いや、私に聞かれても……」

 

「ですよね〜」

 

うん、だと思ったよ。

 

「ですが夜は人里の見回りをしている事は知ってます」

 

「知ってるじゃん!?」

 

「今頃は、そうですね……竹林の近くに居ると思います」

 

「何でそんなに詳しいのかい?」

 

「あくまでも話を聞いただけです。信頼するにはあまり値しないと思いましたが、何も情報がないよりはマシだと思いまして」

 

「さいですか、それは有難い」

 

とにかく、妖夢の言うその竹林の近くに行ってみようじゃないの。

でも待てよ。竹林って何処にあるんだ……?

だ、誰か地図下さい。

 

「竹林はこっちですよ。早く行きましょう」

 

「あっ、はい」

 

これは大人しく妖夢に従った方がいいだろう。そう思った僕は、妖夢の後について行って竹林へと向かった。

てか、妖夢って結構人里の事詳しいのね。僕、びっくりしちゃったよ。

 

 

 

 

竹林と堂々と書かれていた看板を通り過ぎ、人里の南門の近くまで来た。

ここまで来るとあるのは民家ではなく、物置小屋や貧相な小屋くらいだ。やったね片倉ちゃん、人里についての知識が増えたよ!

 

「おい馬鹿やめろ!」

 

「はい??」

 

「いや、気にしないで……」

 

「そうですか。それよりも、竹林の入口に着きましたよ」

 

いや、言われなくとも分かるから。看板に書いてあったから堂々と。

 

「さてと、何処に居るかな〜」

 

正直人探しは苦手なんだよなぁ……んっ?

 

「妖夢!!」

 

「はい?」

 

突然の僕の怒号に少し驚く妖夢。

しかし、すぐさまなぜ僕が怒号を飛ばしたのか、その意図を知ることとなった。

僕と妖夢の目の前に、巨大な火の鳥が迫ってきていた。

 

 

 

 

紅魔館では倒れたレミリアとフランのお世話の為に、咲夜は頑張っていた。

 

「お嬢様、気分はよろしいですか?」

 

「さくや……」

 

きつそうに身体を起こそうとする主人を、慌てて止める咲夜。

 

「あまり無理をされては……」

 

「いや、大丈夫。それより片倉は何処?」

 

「片倉様なら、お嬢様達を助けるために異変の解決へ行かれました」

 

「……しまったわ。まずいわね」

 

苦虫を潰したような表情をするレミリア。

 

「どうされたのですか?」

 

「いや、ちょっと片倉の事で一つ気がかりな事があるのよ」

 

「気がかりな事?」

 

「ええ、もしかしたらこのまま行くと、片倉は死ぬかもしれないわ」

 

「片倉様が死ぬのですか!?」

 

「まだ死ぬとは決まってないわ。未来というのは不確定なものだからなんとも言えないけど、可能性が高いわ」

 

「そんな……」

 

心配そうな顔をする咲夜にレミリアはフッと微笑んだ。

 

「まぁ、そんなに心配しなくても、片倉ならきっと大丈夫よ。意外とタフな男だし」

 

「そうですね……」

 

「それじゃあ私はまた寝るわ」

 

「はい」

 

また眠りについたレミリアを見ながら、咲夜は片倉の無事を祈るのであった。

 

 

 

 

「チョッ、何だよあれぇぇえ!?」

 

迫り来る大きな火で創られた鳥、火の鳥を見て驚く僕。

 

「ここは私に任せてください」

 

「すまん、頼んだ!」

 

そそくさとその場から離れて妖夢に後を任せる。格好悪い?ハハッ、今に始まったことじゃないさ。

妖夢は背中に携えてある二本の刀のうちの一本を抜いて、中段で構える。

刹那、燃え盛る火の鳥が縦方向に真っ二つに一刀両断され、霧のように蒸発して消えた。

 

「なんだったんだ?妖怪の攻撃か?」

 

「いえ、どうやら違うようですよ」

 

まだ霧の余韻が残る中、竹林の奥の方から誰かが近づいてきた。

その誰かは、どうやら女のようだ。

来ている服は……モンペ……かな?よくは知らん。

髪の色は透き通るような銀髪。

しかし、その目や表情はキリリとしており、とても力強い印象を抱かせた。

 

「こんな時にほっつき歩いてるから、どこの妖怪かと思って攻撃したんだが、人間かよ」

 

「何者ですかあなた?」

 

「お前らこそ誰だよ。あんな攻撃を軽々しく打ち消した人間なんて、そこらには居ねえぞ」

 

「これは失礼、僕は片倉と言います。そしてこっちは妖夢。ところで、さっきの攻撃はあなたが?」

 

「あぁそうだ。私がやった。ちなみに私は藤原妹紅だ。妹紅でいいぞ」

 

「では妹紅さん、何故そのような事をしたのですか?」

 

チャキッ、と右手に握られた刀をちらつかせつつ、威圧的な感じで問う妖夢。―――怖いんですけど……。特に目が。

 

「何故?妖怪かなって思っただけだよ。ところでお前ら、こんな時にこんな所で何してるんだ?早く帰った方がいいぞ」

 

「いや、僕たちは今、上白沢慧音っていう人を探してまして……」

 

「慧音?なんで慧音を探してるんだ?」

 

「今起こってる月の異変について聞きたくて……」

 

「なるほどな」

 

どうやら妹紅と言う人は、その上白沢慧音って人を知っているようだ。

よしよし、これでまた一歩異変解決に近づいたぞ。

 

「そんなら尚更こっから立ち去ってくれ」

 

「ふぇ?ど、どうして?」

 

「今、慧音はとっても忙しいんだよ。大事な仕事の真っ最中だ。だからとっとと帰りな」

 

「少しだけ!少しだけでいいですから!!」

 

「駄目なものは駄目だ!早く帰れ!」

 

「お願いします妹紅さん!どうしても聞きたいんです!」

 

「だあぁぁぁぁあ!あんまりしつこいなら、力づくでも帰らせるぞ!」

 

「構いませんよ、そんなことで引き下がる気は到底ないので」

 

そうだ、レミリアさんやフランちゃんの為にも、こんな所で諦めるわけにはいかないのだ。

 

「ったく、面倒くさい奴だな。ほらよっ!」

 

妹紅が手を横に一閃する。途端に妹紅の背後から先程の火の鳥が2体現れ、僕らに向かって突撃してきた。

 

「片倉さん、右はお任せします」

 

「分かった」

 

腰に着けているホルスターから、FN57ハンドガンを抜いて構え、迫り来る火の鳥に向けて撃ちこむ。

FN57から放たれた5.7mmの小口径高速弾が火の鳥の右翼を穿つ。

右翼を失いバランスを崩した火の鳥、その隙を逃さず続けざまに3発撃ちこむ。

右翼に引き続き左翼も失い最終的には頭さえも失った火の鳥は、音もなくパッと霧になり蒸発した。

妖夢の方も当たり前だが倒した様だ。

 

「どうやら腕はそこそこあるようだ、な、って……え?」

 

「あっ……」

 

戦場で毎日のように戦って、尚且つこの世界で嫌と言うほど強い人達にしごかれていたせいで、戦闘モードに頭が切り替わると味方以外で動くモノは全て敵だと認識してしまう。僕の身体はそう出来ている。てか、出来てしまった。

火の鳥を倒してすっかり戦闘モードになった僕は、次なる手を打とうと動こうとした妹紅を、反射的に撃ってしまった。

つまり、あれだ……殺っちゃったゼ☆

 

「ギャアアァァァア!やっちまったぁぁァあ!」

 

「ちょっ、何をしてるんですか片倉さん!せっかくの手がかりを……」

 

「いやこれはだね、条件反射というか、不可抗力というか」

 

「はぁ……、まったく……」

 

「テヘッ☆」

 

「斬りますよ?」

 

「すいません調子乗りました反省します」

 

「しかしどうするんですか?このままだと私達、人殺しですよ?」

 

「だ、大丈夫だ。この場合は証拠を隠滅してしまえばバレない……多分」

 

いいか妖夢。人殺しで一番大変なのは死体の処理だ。

簡単に言うと、水の詰まった60kgの袋を運ぶんだ、これはきついよな?

そこで考えつくのが解体だ。小分けにして運べば誰でも簡単に運べる。

だけどそこには大きな問題がある。腐敗だ。人体で腐りやすい部位はどこか分かるか?骨なんだよ骨。

そうは思わないだろ?だからみんな焦っちまうんだ。

だけど安心してくれ、ここで登場するのが冷蔵庫だ。この冷蔵庫を使うことによってだな、腐敗を……

 

「あーーー、痛かった」

 

「片倉さん、片倉さん」

 

「妖夢、幻想郷には冷蔵庫無いよな?」

 

「何言ってるんですか。それよりあれ」

 

「んっ、あれ?」

 

妖夢の目線をたどってみると、そこには信じられない光景が。

 

「さっきの攻撃はなんだったんだ?」

 

「な、な、い、生きてるぅぅう!?」

 

「あぁ?生きてて悪いか?」

 

先程、眉間を撃ち抜かれ死んだはずの妹紅が生きていた。しかも元気そうだ。

 

「な、なんで?確実に死んでた筈なのに?」

 

「あぁ、生き返ったのさ。いい忘れてたが私は死なないからな」

 

「そうすか……。よかった……」

 

「なんで安心してるんですか」

 

「いや、だって人殺しの罪も無くなったから―――」

 

「逆に考えると、あの妹紅と言う人はどんな攻撃も効かないってことになるんですよ?」

 

「……何それチートじゃん」

 

「ほら、私は死なないんだから、諦めてとっとと帰ってくれ」

 

「それはお断りします」

 

「そ、そうかい……。意外と頑固だなお前さん」

 

しかし、どうしたものか。

死なない身体なんてそんなのありかよ。勝てるわけないじゃん。

いや待てよ。死なないだけで、痛みとかは感じてるよな?現にさっき「痛かったー」とか言ってたし。

それなら弱点の一つくらいあるんじゃないのか?例えば……

 

「はい!妹紅さんに一つ質問!」

 

「ああ、何だ?慧音の居場所は教えねえからな」

 

「あ、それも聞きたかったんですが、それより妹紅さん、疲労は溜まりますか?」

 

「あぁ、溜まるぞ。だって人間だもの」

 

誰のフレーズだよ誰の。てか、そんなことはどうでもいい。

 

「生き返っても、その疲労は残りますか?」

 

「あー……残るな。何故か疲れはとれなくてなぁ……って、あ―――」

 

よし来た。これなら何とかいける。

 

「成程。疲れきるまで、何度でも殺ればいいんですね」

 

「そう言う事。妖夢」

 

「しまったぁぁあ!ついうっかり喋っちまったァ!」

 

「それじゃあ」

 

「いきますか!」

 

「……こうなったら、無理矢理でも追い返す!」

 

「妹紅!!」

 

これからだ!って瞬間、誰かの怒鳴り声のような声で三人ともピタッと止まった。

妹紅はどうやらこの声の主が誰か分かったようで、若干冷や汗をかいている。

 

「ど、どうしたんだ、け、慧音……」

 

「「慧音!?」」

 

「お前は、あれ程人里の近くでは妖術を使うなと言ったのに」

 

「いや、これはその……」

 

「言い訳無用!」

 

ゴスっ!と妹紅の額に慧音と言う人が、プロレスラーがするような思い切りのいい頭突きをかました。

頭突きされた妹紅は、痛さのあまり地面をのたうち回っている。

 

「さて、そこの二人はどなたかな」

 

「あの……あなたが上白沢慧音さんですか?」

 

「人に名前を尋ねるよりまず先に自分から名乗るのが筋ではないか?」

 

鋭い視線に物怖じしつつ、「失礼しました!」と背筋を伸ばし自己紹介する。

 

「僕は、片倉と言います。隣は白玉楼の妖夢です」

 

「うむ、私は君の言った通り、上白沢慧音だ。しかし何故、私の名を?」

 

「あなたに尋ねたいことがあって、この人里に来たのです」

 

「ふむ成程。しかしどうしてここに妹紅が?」

 

「慧音が忙しいのに、こいつらが会わせろってしつこいから、追い返そうとして……」

 

ここで、痛みから立ち直り復活した妹紅が代弁する。

流石は死なない身体。不死鳥の様な復活っぷりだ。

 

「そうか……」

 

「あの少しだけでもいいので、お話を聞いてください!大変な事が起こってるんです!」

 

「だーかーらーな、慧音は忙しいんだよ!」

 

「分かった。話を聞いてみよう」

 

「え?お、おい慧音……」

 

「ありがとうございます!!」

 

「大丈夫だ妹紅。仕事はとっくに終わらせている。何も問題はないさ」

 

「そ、そうなのか……」

 

いやぁ、よかった。これでどうにか異変の元凶に近付けるぞ。

 

「それでは早速ですが、一つお尋ねして宜しいですか?」

 

「ああ、構わないぞ。私にわかる範囲でならなんでも答えるぞ」

 

「今回の異変、ご存知ですよね?」

 

「ああ、存じているぞ」

 

「単刀直入に、犯人が誰か分かりますか?」

 

いや流石にこれは単刀直入過ぎたか?

 

「分かるぞ」

 

おっと、まさかの回答。

ふと、慧音は竹林の奥の方を指さし、僕の目を見た。

 

「この奥の竹林の先、迷いの竹林の中にある永林亭に居る者達が、今回の月の騒動の元凶だ」

 

「迷いの竹林……」

 

「えっ?なに妖夢、知ってるの?」

 

「ええ。噂では迷い込むと二度とは出られない、人里の者は近づかない場所だそうで」

 

成程、まさに迷いの竹林ってわけだ。―――凄く行きたくない。

 

「お前に覚悟はあるか?」

 

慧音の瞳は僕の目の奥の覚悟を覗いていた。

僕はその眼差しに対し、強い意思で答えた。

 

「死にたくは無いんですけど、行かなくちゃならないんで行きます」

 

「そうか……。それなら、気をつけて行けよ」

 

「はい。気をつけます」

 

「また今度、話せる機会があれば話そう。君は結構興味深い」

 

「そうですか。それならまた今度お会いしに伺いますね」

 

「うむ。楽しみだ」

 

「それでは失礼します。それじゃあ行きますか妖夢」

 

「はい、片倉さん」

 

別れの挨拶も程々に、足早に竹林の先、迷いの竹林へと向かった僕達。

迷いの竹林かぁ、どんな感じなんだろうか……。

そんなことを呑気に考えつつ、若干走って進むのであった。

 

 

 

 

「行ったか……」

 

迷いの竹林に向かった片倉達を見て、慧音はボソッと呟いた。

その言い方は、懐かしき人物に会った時の嬉しさの混じった言い方に似ていた。

 

「仁、逞しくなったな」

 

「ん?慧音、なんか言ったか?」

 

「いや、何も言ってないさ」

 

「そうか」

 

竹林の闇に、片倉が消えるまで慧音はずっと片倉達を見続けているのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。