傭兵幻想体験記   作:pokotan

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道場破りのフラワーマスターin紅魔館

最近、というか前から思っていたのだが、僕は幽香さんの本気の戦いを見た事が無い。まぁ、見たい気はあまりしないのだが……。

しかし仮に、仮にだ、本気で幽香さんが戦ったらどうなるのか、そのところは気になるところだ。

だが今日、もしかしたら幽香さんの本気が見れるかもしれないチャンスが訪れたのだ。

 

「ここが紅魔館ねぇ……。なかなか大きいじゃない」

 

そう、この紅魔館の住人達なら、幽香さんの本気というのを引き出せるかもしれないのだ!……やっぱり引き出して欲しくないな。下手したら、巻き込まれそうだもん。

という訳で、幽香さんには出来るだけ自粛を促す注意を言ったのだが、当の本人は「心配しなくとも、程々にやるわ」と言ってあまり聞いてくれない。―――程々にやるんじゃくて、やってほしくないのですよ幽香さん……。

正門には相変わらずの光景がそこにあった。美鈴が居眠りをしているのだ。

 

「おーい美鈴ー!」

 

「むにゃむにゃ、だ、ダメですよ。私もう食べられません……むにゃむにゃ」

 

お前はいったいどんな夢を見てるんだ……。

それより、早く起きないとまずいと思うのだが。

刹那、サクッと美鈴の眉間にナイフがジャストミートした。

 

「ふにゃああぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

頭を抑えながら地面にのたうち回る我らが紅魔館の番人。何と言うかコミカルな光景に見えてきたのは僕だけだろうか。

 

「まったく。今日はお客様が来るとお嬢様が言っておられたでしょ美鈴」

 

「あれ、そうでしたっけ?アハハー」

 

突如現れた咲夜さんに笑って返事する美鈴。まぁ当然のことながら、咲夜さんの怒りを買うわけで、そのままナイフで刺された。

 

「うぐおぉぉぉぉぉお!!」

 

「片倉様お帰りなさいませ」

 

「あっ、はい」

 

「そして隣に居られる方、幽香様ですね?」

 

「えぇ。昨日少し自己紹介したわね」

 

ナイフで血だらけの人に目もくれず、淡々と話を進めていく僕等。

なんだろう、美鈴が可哀想に思えてきた。―――後で治療してあげよう。いや、どうせすぐ治るか。タフが取り柄の人だから美鈴は。

 

「ところで、本日は紅魔館にどういったご用件で?」

 

「ちょっと暇だから戦いに来ただけよ」

 

ちょっ!?単刀直入にそんなことを言ったらマズイでしょ幽香さん!?

 

「なるほど……。やはりお嬢様の言っていた事は当たっているようですね」

 

「レミリアさんが?何か言ってたんですか?」

 

「はい。今日、強い力を持った何者かが、この紅魔館に戦いをしに訪れると」

 

わぁお。流石は運命を操るお方、こんな事になる運命を既に予測していたんですか……。

というか普通そんな運命が見えたら、もっと対策とかとるのが基本じゃないの?現に門番は使い物にならないわけだし。

 

「じゃあここで私を追い返すのかしら?それは困るわねぇ。私、今とっても退屈してるのよ?」

 

やばいやばいやばい、幽香さんの目が笑ってない。戦闘モードの目をしてる……。

少しでも対応を誤れば、即殺されるパターンだぞこれ……。

 

「むしろ逆です。この紅魔館に貴方を招待させて頂く、とお嬢様が仰られておりました」

 

……へっ?招待するの?

これまた意外や意外、そそくさと追い返すのではなく、あえて紅魔館に招待するとは……。

 

「あらそうなの?ありがたいお誘いねフフッ」

 

どうやら争いは避けられそうだ。ホッと安堵の溜息をつく。が、しかし―――

 

「ですがその前に、貴方が本当に実力者かどうかを、この私が試させて頂きます」

 

―――あれ?

チャキッと何処から取り出したのかやら、たくさんのナイフを構え、戦闘態勢に入る咲夜さん。

まてまて、今の流れからすると普通はそんな話題にはならないはずでは……。

ね、ねぇ幽香さん?

 

「いいわよ。肩慣らしにはうってつけね。かかって来なさい」

 

駄目だ……。この人やる気満々だよ……。この戦闘狂め!

こうなってしまったら最後、どうあがいても止められないだろうと思い、諦めて傍観に徹することにした。

まぁ、あのお二方の事だから大丈夫でしょう。多分……。

 

「なんだか大変な事になってますねぇ」

 

うんうんそうだねって、美鈴回復すんの速っ!?

 

「まぁそれが私の取り柄ですから」

 

そういやそうだったね。

てかさ呑気に見てないで止めようよ!?今まさに殺し合いが始まるかもしれないんだよ!?

 

「そんなに心配しなくても、咲夜さんはかなり強いんですよ。なんて言ったって私を瞬殺する程なんですからね!」

 

美鈴を瞬殺!?それなら安心―――な訳あるか!むしろ被害が悪化するのが目に見えるわ!

やばい、ここにいたら巻き込まれるのも時間の問題かも……。

そう思い、五メートル程度後ろに下がる。別に臆病と言われても構わない。だって死にたくないもん。

 

「そんなに下がらなくても大丈夫ですよ片倉さん」

 

「いやいや、大丈夫じゃないから。絶対危険だからそこ」

 

「そんな訳ないですって〜」

 

どんな事を言われても、僕は前には出ないからな!絶対出ないからな!!

一方その頃、咲夜さんと幽香さんは睨み合いを続けていた。

お互いに探り合いをしているのだろう。両者の眼差しは、真剣そのものだ。怖い……。

先に行動を起こしたのは咲夜さんだった。

右手にナイフを三本持つと、素早く一閃。目にも止まらぬ早さで、幽香さん目掛けてナイフを投げた。

三本一気に投げるとは大した技量だ。流石はメイド長、格がちがう。

しかし、幽香さんはこの攻撃を、躱す素振りを見せず堂々と受けにかかった。

傍からみたら躱す事が出来なかっただけに見えるだろうがそれは違う。

幽香さんにはこの行動は、相当の実力と度胸に裏打ちされた強者の余裕という行為なのだ。

目の前まで迫ってきた三本のナイフをあろう事か全て即座に打ち払った。一本目は傘で、二本目は振った傘の風圧で、三本目に至っては空いている右手で掴んでいる。しかも素手で。

この荒業に流石の咲夜さんも少し驚いていた。

ちなみに僕も驚いていた。というか呆れていた。なぜなら、

 

「な、ナイフがあぁぁぁあ!」

 

幽香さんによってはじき飛ばされたナイフが、二本とも美鈴の胴体に突き刺さる瞬間を目の当たりにしたからだ。

ほら言わんこっちゃない、やれやれと首を振る。―――ちなみに気のせいかもしれないが、幽香さんがこっちを見てニヤニヤしていた気がする。もしかして狙ってた?ま、まっさか〜ハハハ……。

 

「流石のお手前ですね。ですがこれからですよ」

 

「いいわねぇ、そそられるわ。さぁどんどん来なさい」

 

アカン、幽香さんがだんだんとおかしい方向に走ってる気がする。まぁ止めることはもはや不可能だが。

 

「イテテ……、やっぱりナイフは痛いですね」

 

当たり前の事を言いながら、美鈴が僕の居るところへと避難してきた。

 

「魔力のナイフなら痛くないかもよ?」

 

ブゥン、と魔力でナイフを形成して美鈴に投げようとする。

 

「ハハハ、土下座するんで勘弁してください」

 

余裕の無い瞳で断る美鈴。よっぽどナイフが嫌いなんだなぁ。嫌いになるほど刺されてるってことか……。

死んだ魚の目をした美鈴はとりあえず放っておく事にして、再びあの二人の戦いを見る。

どうやら咲夜さんが近接勝負に持ち込んだようで、幽香さんがあの傘と思わしき何かを振り回しながら戦っている。

首を狙うと見せかけての胴体狙いのフェイント攻撃。ついでのナイフ投擲。その攻撃に対して傘でガードする。

何と言うか、ついていけません。はい。

速いし、重そうな一撃だし、投擲上手いし、目つき怖いし……。やっぱりあの二人は化物だよ絶対。

 

「―――接近戦はやはり不利ですか……。流石は幻想郷の中でも指折りの実力者とも言われているお方」

 

「あら?そう言うあなただって、私のスピードについてこれてるじゃない。人間とは思えないわ」

 

えっ!?咲夜さんって人間なの!?

 

「そうですよ。咲夜さんは元々人間ですよ。まぁ身体能力は化物ですがね」

 

嘘ぉ!?そんなの初耳だよ!聞いてないよ!

時を止めて尚且つナイフの扱いは達人級、果たしてこれを人と呼んでいいものなのか少し悩ましい……。

 

「あっ、咲夜さんとうとう勝負に出るっぽいですよ!」

 

視線を移すと、咲夜さんの手元には一枚のカード、つまりスペルカードを使う気のようだ。

 

〈奇術 幻惑ミスディレクション〉

 

何処からともなく現れた大量のナイフが、幽香さんに目掛けてデタラメな軌道を描き飛んでいく。

デタラメに飛び、壁や地面に当たったナイフは、どういう原理か反射して余計に訳わからない軌道で飛んでいく。

おいおい、あんなのどうしようもないぞ。どうにかするとしたら対抗してスペルカードを使うぐらいしか……。

しかし幽香さんは笑顔を崩すことなくその場で仁王立ち状態で居る。―――えっ?まさかスペルカード無しで攻略する気?

とうとうナイフの弾幕が幽香さんの目の前に迫った。いったいどうする気なのか。固唾をのんで見守る。

そして僕は、とてつもない光景を目にした。

幽香さんは真正面から来たナイフを持ち前の傘で一気にはじき飛ばしだした。それだけならまだしも、死角、つまり後ろから反射で飛んできたナイフをまさかの左腕を犠牲に、刺して対応していくという、なんとも脳筋荒業手段をしたのだ。

流石にこんな事されたら見ているこっちもたまったもんじゃない。痛々しそうな感じで見る。

 

「うわぁ……。あの人馬鹿なんですかね?わざわざ望んで刺されに行ってるようなものでしょ」

 

うん、僕もそう思う。でも残念ながらあの人は馬鹿なだけじゃなくて、頭の中が戦いの事でいっぱいな戦闘狂なんだ。

ようやくスペルカードが終わった頃には、幽香さんの左腕はハリネズミ状態、血まみれだった。―――キャアァァァァア!良い子は見ちゃダメぇぇぇえ!

 

「なぜわざわざ左腕を犠牲に?」

 

「こんなの怪我のうちにも入らないわ」

 

そういった瞬間、沢山あった刺し傷が一瞬にして治った。

忘れていた。あの人の回復力は美鈴を遥かに上回る程あったことを。

 

「ほらね?」

 

そう言って、治った左腕を見せる幽香さん。しかし、血だらけなのがホラー過ぎてめっちゃ怖い。

 

「……降参です。スペルカードをこのような形で破られるとは、力の差が歴然ですね」

 

常人では考えがつかない方法で、あのスペルカードを攻略された咲夜さんは降参した。というか今の内に降参しておかないと、もっと大変な事が起きる気がしたんじゃないか、と僕は思う。

 

「そう……。まあまあ楽しめたわ」

 

これだけの事をしといてまあまあって……。

と、とにかくだ、なんとかこの戦いも無事に終わって良かった良かった。―――精神は無事では済まないようなものを見たけどね……。

 

「さぁ、あらためて紅魔館へと参りましょう」

 

「あぁ……、次は誰と戦えるのかしらね」

 

幽香さんのこの一言で、僕の精神状況はより一層悪化した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、失礼致します。例の方を連れて参りました」

 

「おぉ、待っていたぞ」

 

重々しくそしてでかい扉を開けた先には、大きなテーブルと沢山の椅子が並ぶ部屋、いわゆる大広間にちょこんと一人の吸血鬼が居た。

 

「私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットだ」

 

「風見幽香よ。まあ言わなくても分かるでしょうけどね」

 

「フッ、それもそうだな。とにかくまずは客人を丁重にもてなさねばな。どうぞ座ってくれ」

 

ウーーーム、今日のレミリアさんは絶好調のようだ。カリスマが溢れてる。

各々が席に着いたところで、妖精メイド達が紅茶を運んできて、カップに注いでいく。ちなみにレミリアさんの紅茶を注ぐのは、もちろんのことだが咲夜さんだ。

ここの紅茶は幽香さん家の紅茶とはまた少し味が違うなぁ。香りもこっちの方が高級感がある。

別に幽香さん家の紅茶が安物とか思ってませんよ?だからお願いですから、殺意を向けるの止めてください幽香さん。

 

「さてと、そろそろここに来た目的を果たそうかしら」

 

「まぁ慌てる事はない風見幽香。その事について話がしたい」

 

「何かしら?今更戦うのは止めないわよ」

 

いや、止めましょうよ。落ち着いて紅茶飲みましょうよ。

 

「いやいや、戦うのは戦うさ。ただ、私ではないが」

 

「ふぅん、じゃあ誰と私は戦えるのかしら?」

 

「私の妹の、フランと戦ってもらう」

 

……へっ?フランちゃん?

 

「フラン!来てくれ」

 

えっ?という事は、幽香さんとフランちゃん戦うの?ヤバくないですか、それ。

 

「お兄ちゃあぁぁぁぁぁあん!」

 

んん?ドドドドド!っと足音が段々と近付いてくる。―――なんか嫌な予感がしてきた。

バンッ!と大広間の扉が勢いよく開けられる、もとい扉を思いっきり蹴破り一人の吸血鬼が入ってきた。

 

「久しぶり!!!」

 

ドゴスッ!フランちゃんの頭部が僕のお腹(完全に鳩尾狙い)にジャストミートした。

 

「へばぶっ!?」

 

そして勢いそのままに、壁へと叩きつけられた。

 

「ぐ、ぐはっ……」

 

こ、これさ……人、普通に死ぬよ……?

僕の場合、魔力を寸前に纏わせたから、ほんの少し威力を軽減させる事が出来たんですけどね。普通の人だったら、逝ってるよ?

 

「あっ!人里のフラワーマスターだ!」

 

「風見幽香よ。久しぶりね、可愛い吸血鬼さん?」

 

「ほぅ……、既に知り合いとは」

 

死にかけの僕を無視して、普通に会話し出したみんな。

何だか、美鈴の気持ちが理解出来た……気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台は変わって紅魔館の広い庭園。正門付近はボロボロの状態だったから、ここにみんな移動したのだ。

 

「フラン。思いっきり暴れてきなさい」

 

「はーい、お姉さま!」

 

「それなら私も久々に本気だそうかしら」

 

「それだけは止めてください。ここら辺一帯が更地になりそうなんで」

 

まぁあくまで憶測なのだが。でもあながち間違っていなかったのだろうか。「分かったわ」と幽香さんは言った。―――良かったァ!あらかじめ注意しといて良かったァ!!

 

「それじゃあ、始め!」

 

美鈴のスタートによる合図で、フランちゃんVS幽香さんの弾幕ごっこ(デスマッチ)が始まった。

外の天気は幸いなのか生憎なのか曇りだ。晴れて欲しかった……。

ちなみに僕は三十メートル後ろに下がって傍観している。安全第一だよ安全第一。

美鈴は先ほどのナイフで教訓を得たようで、僕の隣で見ている。賢くなったね美鈴。やったね。

レミリアさんはと言うと、さらに後ろの四十メートル付近で、椅子に座って観戦している。―――ボソッと、流れ弾が怖いから私は後ろに行く、と聞こえたのは今でも幻聴であったと僕は信じていたい。

咲夜さんは無論当たり前だがレミリアの隣にいる。ただし、鼻にティッシュを詰めて。―――強がってるけど、本当は怖がりのお嬢様可愛い!と聞こえたのも幻聴だと僕は信じていたい。

合図と共に双方一気に詰め寄り、早速お得意の接近戦闘を始めた。―――弾幕ごっこなのに弾幕一つ出ないのは如何なものか……。

幽香さんの武器は傘。対してフランちゃんの武器はと言うと、ご存知の通り炎の大剣『レーヴァテイン』だ。

一振りで辺りを焼き尽くすほどの威力を持つ大剣を、幽香さんは顔色変えずに躱したり受け流したりしている。凄い熱そう……。てかここまで熱気が伝わってる。

 

「アハハッ!楽しいなぁ!」

 

「うふふ、これからもっと面白くなるわよ!」

 

……こちらとしては、これ以上楽しくなられるのはとても困るのですが。

まぁそんなことをあの二人に言おうものなら、即座に殺られるんで言いませんがね。ハハハ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが始まって十分は経っただろうか。未だにあの二人は弾幕一つすら飛ばさずに格闘戦を楽しんでしている。

しかもこれが凶悪な事に、フランちゃんがスペルカードで分身した為に、四人のフランちゃん相手に幽香さんが戦っているという状態だ。

流石の幽香さんもこのジェットストリームアタックには耐えきれまい。―――あれ?あの技は三人組の技だったっけ?まぁどうでもいいか。

この修羅場とも言える状況で幽香さんは……笑ってる。

どうしてそんな状況で笑えるのか不思議でならない。あの人の頭の中はどうなってるのだろうか。

 

「アハハ!タノシイナ!」

 

そしてフランちゃんに至っては、狂って笑い出す始末。もうあの二人をどうにかするなんて、神でも何でも不可能な気がする。

 

「なかなか楽しんでいるなフランのやつ」

 

「そうですね。妹様も久しぶりの弾幕ごっこで、はしゃいでおられるのですよきっと」

 

狂って笑っている光景を『楽しんでるな〜』と思えるあなた方の気持ちが僕には分かりません。止めないんですか?

あと咲夜さん、あれは弾幕ごっこじゃなくて、殺し合いですよ誰がどう見ても。

とここで、フランちゃんがようやく大量の弾幕を飛ばし始めた。これに対抗し、幽香さんも緑色一色の弾幕の絨毯攻撃で対抗する。

ちょくちょく飛んでくる流れ玉をなんとか躱しつつ、二人の戦いを見守る僕ら二人。レミリアさんは後ろで愉快に笑っていた。

 

「ハハハ、頑張ってよけているな」

 

誰のせいです、この戦いを仕向けたのは!

あぁ!後ろに下がろう。痛い目にはあいたくない。

 

「下がるのか?」

 

「えぇまぁ……あっ」

 

「どうした?」

 

「そこ危ないですよ」

 

「なんだと?」

 

刹那、飛んできた赤色の弾幕がレミリアさんの顔面にヒットした。その姿はまるで昔の漫画のようだ。―――赤色の弾幕だから、フランちゃんのだな多分。

 

「痛ァァァァァァア!?もう!何よ何よ何なのよ!」

 

しかしさすがは吸血鬼。あの威力の弾幕をくらっても平気のようだ。

 

「フランのバカ!バカ、バカ、バカアァァァア!」

 

「はぅ……、お嬢様……」

 

……訂正します。精神的には大ダメージのようです。

あと咲夜さん、鼻血止めましょうか。血だまり出来てますよ、出血多量で死にますよ?

何はともあれ、あの戦いがこれ以上ヒートアップしたら大変だぞ。特に幽香さんが心配だ。スペルカードを使ったらたまったもんじゃない。

 

〈花符 幻想郷の開花〉

 

黄色と緑の色をした弾幕が煌びやかせながらフランちゃん目掛けて飛んでいく。その弾幕はまるで向日葵のようで美しく華やかだった。

だが、その光景に目を奪われていると痛い目に遭うのは確実。何故なら地面に衝突した弾幕は、人の頭の大きさ台の穴を穿ったからだ。

一つの弾幕の威力がこれなのだ。まともにくらえば、いくら吸血鬼といえどただでは済まされない。

その事を悟ったフランちゃんは、分身全員総出で弾き返したり逆に弾幕を放って相殺しだした。

まぁ当たり前なのだが、弾かれた弾幕がこっちに飛んで来るわけで……

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁあ!」

 

「おっとっと、危ない危ない」

 

「咲夜ァァァァァァア!助けてぇぇ!!」

 

「お任せ下さいお嬢様……ブフッ」

 

ちなみに言わなくても分かると思うが、美鈴、僕、レミリアさん、咲夜さんの順番だ。

美鈴は見事に弾幕に襲われた。まぁ持ち前のタフさで復活するから大丈夫だろう。

僕は前々からこの事は予見していたので、何とか避けられた。

問題はこの二人組だ。レミリアさんは咲夜さんの後ろで怯えている。―――はて?いつものカリスマは何処へ?

咲夜さんは、弾幕を全てナイフで相殺しているものの、鼻血の量がエライことになっている。―――あっ、きつそう。恐らく貧血ですね〜。でも幸せそうな顔をしている辺り、まだ大丈夫だろう。

何とか飛んでくる流れ玉を躱しつつ、二人の方を見る。すると、幽香さんが一瞬消えた。かと思ったら、いつの間にかフランちゃんの後ろに移動していた。―――どんだけ移動速度速いんだよ……。僕全然見えなかったぞ……。

スペルカードに気を取られていたフランちゃんの隙を突いた幽香さんは、思いっきりフランちゃんを殴った。が、しかし、逆に幽香さんの方が殴られた。

 

「っ!?」

 

「オソイヨ、アハハ!」

 

突然殴られ体制を崩した幽香さんに、フランちゃんが、追い討ちを掛ける。レーヴァテインで斬りかかったのだ。

流石にその攻撃はバッチリ決まらなかったものの、幽香さんの左腕に深い火傷を負わせることは成功したようだ。軽く顔を歪めている。

 

「チッ、読まれてたわけね」

 

どうやら不意を突く攻撃は読まれていたようで、おかげで返り討ちにあったらしい。

やはり、フランちゃんも強いなぁ……。

しかし、これが不味かった。そう、幽香さんが……

 

「やってくれたわね……。来なさいよ、吸血鬼。フラワーマスターの本気を見せてやるわ」

 

本気を出し始めた!?やばい!ここ一面が焦土と化すぞ!?

だが、時すでに遅し。幽香さんが莫大な妖力を開放した。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「ちょっ!危なっ!」

 

「咲夜ァァァア!いやぁぁぁあ!」

 

「お嬢様!ブフッ、パンツが……」

 

風圧と衝撃で吹き飛ばされていく僕ら四人組。

美鈴は土まみれでぐったりと気絶中。僕に至っては、咄嗟に出した魔法鎧が粉々に。……死ぬかと思った。

レミリアさんは、半泣き。咲夜さんは、貧血ですね。地面に倒れている。しかし、顔は幸せ(ry

幽香さんを中心に、大きな穴が地面に出来ている。―――あなたは何処の戦闘民族ですか?こんな事、普通は出来ませんよ?

しかしあれほどの衝撃でも、フランちゃんは相変わらず狂って笑っている。が、油断は一切していない。

 

〈禁忌 クランベリートラップ〉

 

周囲に漂う固定弾幕と、幽香さんを狙う追尾弾幕が一気に展開された。それも、大量に。

固定弾幕のせいで回避が困難な状態。故に幽香さんはスペルカードを取り出した。傘を正面に構えたポーズで。

んっ、あの構えどっかで……。ハッ!?まさか!?

 

「まずい!みんな退避してください!」

 

「「「えっ?」」」

 

何故急に退避しろと言われたのか分からず、首をかしげる皆。あぁ、間に合わない……。

 

〈元祖 マスタースパーク〉

 

何もかもを飲み込み破壊し尽くさんとする勢いで、とてつもなく大きな光線が傘の先端からフランちゃん目掛けて飛ばされる。

光線はただ目標に向かって飛ぶだけでは飽き足らず、衝撃波を辺りにまき散らしながら飛んでいく。そのせいで、僕らはさらに吹き飛ばされていった。―――もう、めちゃくちゃ過ぎるでしょこれ……。

フランちゃんは光線に飲み込まれる寸前で何とかレーヴァテインを使い拮抗していたが、あまりの力に一瞬で飲み込まれた。

だがそこに最悪な展開というのが待っていた。

フランちゃんの背後にあったのは、まさかの紅魔館。

……そう、あの膨大な大きさの光線が紅魔館を見事に半壊させたのだ。これには、みんな唖然としていた。

うわぁ……えげつない光景だぁ……。

 

「ふぅ……。吸血鬼には少々派手すぎたかしら?」

 

派手も何もやりすぎです……。コブラですかあなたは。

この日僕は思い知った。「フラワーマスター」にはこれ以降戦わせてはいけない事を。

半壊の館を前に僕らは立ち尽くしかないのであった。―――あれ?今日の寝床どうしよ?


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