傭兵幻想体験記   作:pokotan

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花と命は散りゆくもの

人には時として大きな難題にぶち当たる時がある。

それが、いつ何処で訪れるのかは予測出来ない。

だがしかし僕は思う。その時というのは―――

 

「うふふ、ひざしぶりにワクワクするわ」

 

―――まさに今なんじゃないかと。

軽い準備運動のつもりなのか、はたまた威嚇なのか、それともワクワクし過ぎてテンションが高ぶっているのか、幽香さんは近くの木を殴ってへし折った。拳でだよ?ありえねー……。

もうこの時点で勝負が見えたのはきっと僕の弱気な気持ちのせいではないはず。もし、隣に魔理沙や咲夜さんが居たら、「ドンマイ、死なない程度で頑張れ」と声をかけただろう。

いや、勝負の行方どころかその後の己の末路も見えてきたぞ。もちろん死ぬという末路なのだが……。

 

「あの〜、ちょっと作戦タイムとっても良いですか?」

 

「―――いいわ。ただし、そんなに長くは待たないわよ」

 

よっしゃあ!なんとかなる気が……しない。

と、とにかくだ、無計画で戦うよりは作戦を立てて戦った方が有利になるはずだ。

よし、そうと決まれば脳内作戦会議を開こうぞ。者共、存分に考えるのだ!

正面からの堂々とした戦闘―――却下。力の差が違いすぎて死ぬ。

スピードで攪乱しながらの戦闘―――却下。あの人の動体視力はいかれてるから死ぬ。

背後からの奇襲戦法―――却下。あの人の背後を取ることは、ゴルゴの背後を取ることと同じ。故に死ぬ。

いっそのこと逃げる―――却下。逃げれるのならとっくの昔に逃げとるわい。

だあああぁァァァァ!駄目だ!作戦なんてこれっぽっちも役に立たないじゃんか!

もう駄目だ、おしまいだ……。

誰か、誰かなんとかしてくれる奴は居ないのか!

 

(ふぁーあ……よく寝たわー。おっ、おはよう。なんだか大変な事になっちゃってるな)

 

……居た。こんなところ(僕の心の中)になんとかしてくれそうな奴が居た。

そうだ!クロの力をもってすれば、皆殺しから半殺し程度にはなるはずだ!間違いない。

ねぇねぇクロ、一つ頼みがあるんだけど。

 

(嫌だ、断じて嫌だぞ)

 

まだ何も言ってねぇじゃんか!泣くぞ?今すぐにでも泣いちゃうぞ?

 

(冗談だ冗談。それで頼みたい事とは?)

 

いやぁ、僕の代わりに幽香さんと戦ってくれない?

 

(やだ)

 

即答で断られたぁぁぁあ!?

何故だ、何故拒むのだ!?

 

(だって勝てる訳ないもん。あのひしひしと伝わる妖気で分かる。というか今すぐにでも逃げる事をオススメするぞ)

 

いや、多分逃げても捕まる。てか絶対に捕まる。

 

(だろうな。ハハハ)

 

コイツ……、他人事みたいに……。

仕方ない。これは玉砕覚悟で頑張ろう。トホホ……。

遺書を書いておけば良かったかなぁ?

そんな事を考えながら、意を決し幽香さんと合間見える。

 

「作戦会議は終わったかしら?」

 

「ええ、とりあえずは」

 

「で、作戦は立てたの?もちろん立てたわよね」

 

「いいえ。全く持って作戦が決まりませんでした」

 

キッパリと作戦が無いことを堂々と告げる。この潔さは、もはや清々しさを感じる程だ。

 

「うふ、ふふふ……。やっぱりあなた、面白いわ」

 

こちらとしては、まったくもって面白く無いのですよ幽香殿。

 

「私相手に策も無しに立ち向かうなんて、そんな人間幻想郷にはいないわよ普通」

 

いや、好きで策も無しに立ち向かおうとしてはいないんですが……。まあどうでもいっか。

あ〜あ、クロが代わってくれたらなぁ〜!

 

(そう言うなって。代わりに少しお手伝いしてやるから)

 

そうですかい。ありがとうございますクロ様。

はぁ……、そろそろ真面目にやるか。何時までもイジイジしてはいられないしな。

 

「準備はいいかしら?」

 

「いつでもどうぞ、と言いたいですが正直な所戦いたくないです」

 

「それはだめよ。さぁ、観念してかかってきなさい」

 

ぐぬぬ……、ここまできたら行くぞ。

日本男児の意地をみせちゃるけんね〜!

 

「それじゃあいきます!」

 

避ける事が出来ない果てしない激闘の予感に僕は、力強く拳を握り締めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「本気の力の5割程度で約10分。結構もった方ね」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「なかなかの成長ぶりね。褒めてあげるわ」

 

「はぁ……ど、どうも……」

 

魔力で形成した刀を棒のように地面に着け肩で息をする僕とは対照的に、優雅に傘を振り回し余裕の笑みを見せる幽香さん。―――やっぱりこの人バケモンだ。

全身が、擦り傷と切り傷でボロボロだがなんとか持ちこたえている。死んでないからまだ大丈夫。

 

「さて、休憩は終わりよ」

 

ブンッ!顔面めがけて傘と思わしき物体が襲いかかる。それをなんとか躱す。

躱されて地面に衝突した傘は地面に大きな穴を残した。

もはやあれは傘ではないだろう。そう思わずにはいられない光景だ。

 

「くそっ!これなら―――」

 

地面が穿たれた事で生まれたお手ごろサイズの土の塊複数を魔力の力、磁石の性質の応用で連結。

そして出来た土の鎖を幽香さんに巻き付け地面に釘付けにする。

この技は土壇場で思いついた割には結構使えるな。技名はそのまま、ストーンバインドと言ったところかな。

しかし土の鎖は幽香さんをほんの数秒拘束しておく程度が限界出たようで、見事にバラバラに断ち切られた。

 

「戦いの中で新しい技を考えつくなんて、なかなかやるわね」

 

「お褒めの言葉ありがとうございます。まあ、幽香さん相手には全然力不足でしたけどね」

 

「それもそうね。さぁまだ戦いはこれからよ!」

 

嗚呼……まだ終わらないのかこの戦いは。早く終わって欲しいものだ。

渋々、全身に力を込めた刹那、とてつもない肺の痛みと咳が僕を襲った。

 

「ゲホッゲホッ!ゴホッ!ガハッゴホッ!」

 

幽香さんに殴られたのか?いや、そんなはずはない。

しかし、まったくもって咳が止まる気配がない。むしろ酷くなっていく一方だ。

 

「ゲホッ!ゴハッ!ガハッ!」

 

流石に何か様子がおかしいと思ったのか、幽香さんが急いで駆け寄ってきた。

 

「ちょっと、片倉。大丈夫?」

 

幽香さんに背中をさすられ、なんとか咳が治まった。

 

「え、えぇ……」

 

大丈夫ですよと幽香さんに言おうとした時、口を覆っていた手にとんでもないものが付いていたのを見つけた。

 

「こ、これは……」

 

「あなた……」

 

血だ。手に血が付いていた。

何故?どこから?口からだよな……。てことは吐血した?咳き込んだごときで?

今の咳と肺の痛みといい、この吐血といい、流石に少しパニックを引き起こしそうになった。

 

「あ、あぁ……!」

 

「落ち着きなさい片倉。とりあえず私の家に戻るわよ」

 

幽香さんに手を取られながら家へと急いで戻る。

握れたその手は、力強くそして暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カップに注がれた紅茶をグビッと飲み、「ふぅ……」と深く溜息をつく。落ち着くなぁ……。

 

「落ち着いたかしら?」

 

「はい……」

 

「それじゃあ、さっきの出来事について話しましょうか」

 

「そうですね……」

 

さっきの出来事、あの咳と吐血、これだけで己の身に何かしら宜しくない事が起こっているのは、嫌でも分かった。

 

「あなたも気づいてるようね。そう。恐らくあなたの体は今、芳しくない状態よ」

 

「やっぱりそう思いますか?」

 

「当然よ。あんな尋常じゃない咳き込み方、健康な人がする咳ではないわ」

 

「僕の体、どうしたんですかね……」

 

「簡単に言うとあれね、病魔と捉えるのが妥当じゃないかしら。何か心当たりある?」

 

病魔、肺の痛み、咳き込み、これだけ来たら大体察しはつく。肺癌だろう恐らく。

昔からタバコを吸ってたのが原因かな……。

 

「私としては早く医者に見せるべきだと思うわよ」

 

「いや、この世界の医者じゃ治せない病気です。これは」

 

「そう……」

 

あっちの世界でもここまで来たら治すのはかなり難しいだろう。それほどのものを、この世界の医学力で治すなんてほぼほぼ不可能だ。

 

「とにかく、この事を周りにどう伝えるかが問題ね」

 

周りに伝える、か……。

もう僕の命はそんなに長くないって言ったら皆悲しむだろうな。

 

「言わない事にしておきます。皆を不安にさせたくはないので」

 

「そう。まあ、あなたがそれでいいのなら私は何も言わないわ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「いつかは言わなくちゃいけない日が来ることは、しっかりと胸に刻んでおく事よ。いい?」

 

「はい。覚悟を決めたらいつか皆に話します」

 

そのいつかはいつの日になるのやら。少なくともまだ先の話だと信じたい。

 

「僕はあとどれくらい生きられるんでしょうかね……」

 

「さあ?私はそういう事は良く分からないわ。でも恐らく私としてはあと一年くらいだと推測するわ。あくまでも私の直感だけど」

 

一年、か……。まあ妥当なところだろう。

 

「はぁ……」

 

紅茶を一口飲み、幽香さんが深い溜息をつく。

 

「なんだかすっかり冷めちゃったわねぇ。せっかく楽しめる雰囲気だったのに」

 

「す、すいません」

 

「まったくよ。―――そう言えば、あなた紅魔館で働いてたわよね?」

 

「はい、そうですが何か?」

 

「いいこと思いついたわ」

 

はて?なんだろう、幽香さんのいい事が全然良くないことな気がしてままならない。

なんだろう、こう足元からぞわぞわとした何かを感じる。

 

「私を紅魔館に連れていきなさい」

 

……え?

紅魔館に連れてけと言われるなんて、考えてもなかったぞ。しかしまた、どうして紅魔館に?

紅魔館には面白いものなんて、美鈴の串刺しくらいしか思い当たらない。

大体、吸血鬼が居るって言われて、人里の人もあまり近寄りたがらない場所にどうしてわざわざ……。あそこにいる人はみんな鬼か悪魔の化身……ってもしや!

 

「駄目です。絶っっっ対に駄目です!」

 

「なんでよ。別にいいじゃない」

 

「どうせ紅魔館の人と戦おうかなと考えてるでしょ。幽香さん」

 

「うふふ、バレちゃったわ」

 

やっぱり……。そうとなると絶対に行かせるわけにはいかない。

幽香さんが紅魔館に来たら最後、レミリアさんやフランちゃんによる血にまみれた弾幕ごっこ(仮)が勃発するきがする。というか、もうその光景しか見えない。

よぉし、ここは何がなんでも止めて―――

 

「連れて行かないと、分かるわよね?」

 

瞬きする暇もなく、喉元に幽香さんの手刀が数ミリのところで止まっていた。―――速すぎだろ……。これが幽香さんの本気か?やべぇ……。

 

「は、はい……」

 

ガタガタと震えながら、二つ返事で承諾する。というか承諾しないと死ぬ。絶対。

さっき、何がなんでも止めてみせる、とか言わなかったかって?気のせいさ。

 

「ありがとう」

 

ニコッと笑顔で喉元の手刀をようやくどかす幽香さん。あーー、窒息死するかと思ったわぁ……。

 

「それじゃあ明日、紅魔館に行くことにするわ。宜しくね片倉」

 

はぁ……、どうしていつも争いばかりの日々になるのだろうか。

深い深い溜息をつきながら、渋々「はい」と答えてしまう僕なのであった。


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