傭兵幻想体験記   作:pokotan

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お花畑へ連れてって

「あ~だるい。ダルス」

 

自室に置いてある見るからに高級そうなベッドに寝転がりながら、滅びの呪文のような言葉を呟いてみる。

だるい、五月病か知らんが非常にだるい。

そう言えば今は五月だな。―――やっぱり五月病だな。

こんな時は美鈴のとこにでも行こうかな、と思ったのだが、美鈴は今はいない事を思い出す。

美鈴がいない理由は確か、有給休暇だったはず。門番居なくて大丈夫なのだろうか紅魔館。

まぁこの紅魔館に訪れる人なんてほとんどいないが。

それじゃあ代わりにパチュリーさんの所には……やっぱり行かないでおこう。多分今頃新しい呪文の実験してるはずだから―――行ったら確実に死ねる。うん。

あぁ、暇だしだるいし、どうにかならないものか。

 

「そんな時は妹様とお遊びになられたら如何かと」

 

「うーん、それは……ってうわっ!?」

 

部屋の中に急にメイド長の咲夜さんが現れた。

突然現れるのはいつもの事で慣れっこだが、部屋のしかも自室で一人きりの時に、突然現れるのにはさすがに驚いた。

 

「あの~咲夜さん?普通に部屋のドアから入ってくれませんか?」

 

「それは失礼致しました。次からは気をつけますね」

 

あぁアカン、完全に気を付けないパターンだわこれ。だって顔が微妙に笑ってるもん。

 

「ところで、お暇でしたら妹様とお遊びになられたらどうですか?」

 

フランちゃんと遊ぶ、か……。嫌だ絶対に嫌だ。

フランちゃんと遊ぶ=弾幕ごっこ(デスマッチ)

の方程式が成り立っちゃってるからなぁ……。

実は前からちょこちょことフランちゃんと美鈴とで遊んではいるのだが、これがとにかくえげつない。

僕は遠くからぼーっと二人の戦いを眺めているが、あれは人がやっていい戦いじゃ無かった。もうグロイグロイ。終わってるときには二人とも毎回血だらけだし……。

まぁという訳で、美鈴が居ないからフランちゃんと遊ぶは今日は無しでいこう。

 

「フランちゃんと遊ぶは今日は止めておきます」

 

「そうですか……。では、ちょっと1つお願いしてもいいですか?」

 

「何でしょう?」

 

お願いとは、珍しい。いったいどんな事を頼まれるのかな?

 

「私と一緒に人里に行きませんか」

 

えっ?

頼まれた内容は、まさかの内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々に来たが、相変わらず人里は活気に溢れていた。

道沿いに並ぶのは、沢山の―――食材。

そう、咲夜さんから頼まれたあのお願いごとの内容は、今日の夕食の買い出しだったのだ。

 

「今日は勢い余って買いすぎてしまいました」

 

「そ、そうですか……」

 

まあ当然だが食材の荷物持ちになる訳で、今は物凄い料の食材を僕は運んでいる。

両手だけでは収まらず、背中のリュックにも食材をパンパンに入れている。―――勢い余りすぎだろ……。

てか咲夜さんって、この量の食材を紅魔館まで運んでたのか?もしそうだったとしたら半端ないぞ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫、です」

 

見るからに大丈夫ではない。重い。

こんな重いのを持って歩き続けたのは何時ぶりだろうか。

あっちの世界の時は、この重さの物を背負うなり抱えるなりして走っていた事を思い出す―――懐かしいなぁ……。

いや、今はノスタルジーに浸ってる場合じゃない。とにかくこの食材を運ばねば。

……やっぱり無理だわ。

半ば死にかけの目で、咲夜さんに助けを求める。男としては格好悪いが、この際恥は捨てて助けてもらおう。

こんな道端でくたばるよりはマシだ。

しかし、咲夜さんは僕、ではなく懐中時計の方を見ていた。

そう言えば、咲夜さんって何時もあの時計を持ってるよな……。何かしらの思い入れでもあるのか?

パタン、と時計を閉じ、ようやく僕の方を見た咲夜さんがある提案をした。

 

「片倉様、今の時刻は昼の12時ジャストです」

 

「は、はぁ……。そうですか」

 

もうお昼なのか。時間は経つのが早いなぁ。

 

「お腹空きませんか?」

 

「空きますけど」

 

空腹よりももっと大変な事があるような気がするんですけど咲夜さん。

そろそろ足と腕とその他諸々が限界を迎えそうなんですよ。

 

「何処か食べに行きましょうか。この近くに私がよく通ってる食事処があるので」

 

うん。行きたいのは行きたい。けど多分無理な気がする。

 

「では行きましょう」

 

スタスタと先に歩いていった咲夜さん。あっ、ちょっ、助けて……。グハッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よろよろと歩き続け、ようやく咲夜さんの言っていた食事処に着いた。

さっきまで持っていたあり得ないくらいの量の食材は、半分くらい咲夜さんに持ってもらっている。

何を食べようかとメニューとにらめっこしている時、ある事に気がつく。

 

「あの~咲夜さん」

 

「どうされましたか」

 

「レミリアさん達の昼食は大丈夫何ですか?」

 

基本的に紅魔館の朝食、昼食、夕飯は咲夜さんが作っている。もちろん今日も例外ではない。

しかし、今日は朝食を終えてからは人里に僕と来ているため、昼食は作れていないはずなのだ。

今頃レミリアさん達、お腹すいてお怒りなのでは、とふと思った。

だが即答で「大丈夫です」と言われた。えっ、マジすか?

 

「もう既に、本日の昼食は作って置いております。ですから、後は妖精メイドに運ばせるだけで大丈夫です」

 

い、いつの間に昼食を作ったんだ……。時間的に無理だと思うのだが。

 

「私の能力を使えば、時間なんて関係ありません」

 

能力を使えば時間なんて関係ない?はて、どういう意味だ。

 

「私の能力、ご存知ありませんでしたか?」

 

「ええ、まぁ」

 

と言うか、能力を持ってること自体考えた事無かった。

 

「私の能力は、時間を操る程度の能力、ですよ」

 

「へぇ~、―――えっ?」

 

時間を操る程度!?いやいや、程度の領域を超えてますよ!?

もしかして、もしかしてなのだが、何時もいきなり現れるのってその能力を使ってたからなのか?

 

「はい、そうです」

 

あー、これで紅魔館唯一の謎が解決したわ。なるほど、能力のお陰か。フムフム。―――あっ……。

つまり、僕が部屋でゴロゴロしている時に、咲夜さんは時を止めて昼食をあらかじめ作っておいたのか。

流石メイド長、格が違ったわ。

にしても時を止めるって本当に便利そうだなぁ……。

 

「その能力って、何かしらの制限とかあるんですか?」

 

「ありません。無制限の使いたい放題です」

 

「そうなんですか」

 

そのようだ。

無制限か……。場合によっては悪い事にも使える力だなこれは―――ん?

ここである疑問が浮かぶ。いや、そんなはずはない。だが、いや、うん、聞いてみるか。

恐る恐ると言った感じで、ある一つの疑問を咲夜さんにぶつけてみる。

 

「一ついいですか?まさか有り得ないとは思いますが、もしかしてですよ?もしかして、その能力を使ってレミリアさんに何かしたりしてませんか?いや、有り得ないとは本当に思いますが……」

 

最近、レミリアさんから何者かの視線を感じる、と相談された事があった。いや、まさかとは思うが……。

この質問に咲夜さんは冷静に「まさか、そんなことは致しませんよ」と言った。

だが否定する直前、少しうろたえたのを僕は見逃さなかった。

 

「本当に?」

 

「はい」

 

「ほんっとうにですか?」

 

「―――はい。本当です」

 

少し言葉を詰まらせながらもきっぱりと否定する。

あぁ、やっぱりな。やはり何かしらのやっていることをを確信する。

恐らく咲夜さんの脳内では、全力で否定したい気持ちと嘘をついてはいけないという忠誠心にも似た正義感がせめぎ合っているのだろう。

 

「……そうですよね。そんな訳ないですよね~」

 

まぁ、だからといって僕がどうこうするような権利はない。だから、この話は無かった事にしよう。うん、そうしよう。

ごめんなさいレミリアさん、多分害はないと思うので頑張って下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身も心も満腹に満たされ、店の前で大きく背伸びをする。

ちなみに食べたのは、ロースカツ定食だ。端っこの脂身が甘くて美味しかった。

さて―――

 

「帰りますか」

 

「そうですね」

 

昼食も済ませ、この大きな"大きな"荷物(本日の晩御飯の食材らしい)を持って帰ろうとしたその時―――

 

「オーーーイ!!」

 

遠くで誰かが叫んでいた。

気のせいだろうか、その声には何故か聞き覚えがある。

まさかとは思いつつ、振り返ってみる。

声の主は魔理沙だった。

 

「おぉ、元気にし、てる……か」

 

急激に体中から冷や汗が出始める。

 

「な、なんで?」

 

まさか、まさかこんな時に一番会いたくなかった人ランキング一位に会ってしまうとは……。

 

「ゆ、幽香さん……」

 

「久しぶりね、片倉」

 

ちなみにどうでもいい事なのだが、幽香さんの登場曲(脳内BGM)は二種類ある。今はターミネーターの音楽が流れている。もう一つの方の曲はダースベイダーの音楽だ。

いや、今はそんなことはどうでもいい。

何故幽香さんが魔理沙の後ろから、スッと現れたのかが気になって仕方がない。

 

「な、なんで魔理沙と幽香さんが一緒に?」

 

「あらぁ?見てわからないかしら?」

 

「わたし達は友達なんだぜ!」

 

そうなのかー。ってそうじゃない!!

 

「片倉様、こちらの方は?」

 

ここで咲夜さんが質問を投げかける。

あ〜そう言えば咲夜さんはこの二人は知らないんだっけ。

 

「えーと、こっちの金髪魔法使いっ子が友達の魔理沙」

 

「魔法使いの霧雨魔理沙だぜ!宜しくだぜ」

 

「そしてこちらの傘を持っている人が、幽香さん」

 

「風見幽香よ、宜しく」

 

「紅魔館に勤めている、十六夜咲夜と申します。以後お見知りおきを」

 

よし、自己紹介も済んだしそろそろ―――

 

「あらぁ?ちょっと待ちなさい」

 

ガシッ!帰ろうとした刹那、物凄い握力で肩を掴まれた。……幽香さんに。

 

「イテテテテ!」

 

「少し私と付き合いなさい?」

 

ギギギ、と錆びたロボットの如くゆっくりと振り向く。

そこには、笑ってはいるものの、明らかに修羅を宿った顔があった。

 

「は、はは、な、何のことですかねぇ……」

 

「うふふ、久しぶりにちょっと遊ばないかしら?ということよ」

 

ちなみにこうしてる今も、幽香さんに掴まれている肩に力がかかっている。

痛い!痛いから!本当に折れるから!

 

「いや、でも、今日はもう帰らないと……。ねぇ、咲夜さん?」

 

人生で一回だけのお願いと言わんばかりの勢いで、アイコンタクトを咲夜さんに送る。

 

「いえ、別に今すぐと言う訳でもないので大丈夫ですよ」

 

ぎゃああぁぁぁぁあ!見捨てられたぁぁぁあ!

 

「そう。出来ることならこの子を今日一日借りたいのだけど、いいかしら?」

 

「はい、構いません。お嬢様には私から伝えておきます」

 

いやぁぁぁぁあ!

 

「そう、ありがとう。それじゃあ行くわよ片倉。魔理沙はついて来るかしら?」

 

「んー、いや止めておくぜ」

 

「分かったわ」

 

「あっ、ちょっとまってくれだぜ」

 

何かを思い出したのか唐突に呼び止める魔理沙。

 

「片倉に頼みがあるんだ」

 

ほぅ、僕に頼み事とはいったい。

咲夜さんといい魔理沙といい、今日はやたらと頼み事される気がする。

 

「頼み事とは?」

 

「前から言いたかった事なんだけど、今度紅魔館にお邪魔してもいいかな、と思ってな」

 

紅魔館にお邪魔したいとは。いったい何故だろう。―――分かった!

多分パチュリーさん目当てだな。うん、そうに違いない。恐らく魔法使い同士で何かしらお話でもしたいんだろうな。

 

「パチュリーさんと話したいのか?」

 

「そうなんだぜ。この前の宴会で結構盛り上がってな。近々会いに行こうかと。本当は宴会の時に言おうと思ってたんだが、なんだか恥ずかしくて言えなかったぜ」

 

なんで、恥ずかしがっちゃうんだよ。

まぁそれはよしとしてだ、それを僕に言われてもなぁ。許可を出すような身分じゃないし。

そうだ、咲夜さんに聞いてみるか。

 

「来ても大丈夫ですか?咲夜さん」

 

「大丈夫だと思います。後でお嬢様に聞いてみますね」

 

まあ咲夜さんの事だから大丈夫だろう。よかったな魔理沙。

 

「それじゃ私は家に帰るぜ。じゃあな〜」

 

ふわりと箒にまたがって空へと飛んでいった魔理沙。

 

「さてと、それじゃ僕たちもそろそろ……」

 

「うふふ、道が違うわよ〜」

 

ガシッ!と幽香さんに頭を鷲掴みされる。

痛い!痛いから!頭が割れてしまうから!

こうなっては仕方ない。もう死を覚悟で諦めて幽香さんの家に行こう。―――さらば、愛しの紅魔館。

 

「それじゃあ咲夜さん、レミリアさんに明日帰ってくるかもしれないと伝えておいてください」

 

まあ下手すると、一生帰ってこない可能性もあるが。

 

「分かりました。では、お気を付けて片倉様」

 

うん。気を付けろと言われなくても気を付けるに決まってますから。じゃないと死にますから。

 

「さぁ行くわよ」

 

「……はい」

 

ズルズルと引きずられるようにして、幽香さんの家へと連れて行かれる僕。

これ傍からみたら絶対に誘拐にしか見えないだろうな。

周りの人からの痛い視線を浴びつつ僕達二人は、ひまわり畑にある家へと向かうのであった。

―――よくよく考えたら、これ誘拐ですわ……。


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