傭兵幻想体験記   作:pokotan

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白玉楼の半人半霊

「~♪~♪」

 

つい先日、にとりから貰ったブレスレットで僕は今、優雅な空の旅を楽しんでいる。

 

「違う~違う~そうじゃ無い~♪」

 

空を飛ぶってこんなに楽しいもんなんですね。もうテンション上がりまくりで、鼻歌どころか普通に歌っちゃいましたよ。

ちなみに曲名は―――忘れた。

 

「……♪……♪」

 

おや?下の方からなんか歌が聞こえてきたぞ。

下を見ると、森の中にちょこんと1つ、何かの建物だろうか屋根が見えた。さっきの歌はここからのようだ。

気になって降りてみると、いい匂いが漂ってきた。―――蒲焼きの匂いだな。いい匂いだ。

どうやらさっきの屋根は建物ではなく移動式の屋台だったようだ。中からジュウジュウと美味しそうな音が聞こえる。

 

「ヤツメ~ヤツメ~焼きますヤツメ~」

 

蒲焼きを焼く音と共になんだか良く分からない歌が聞こえてくる。

とりあえず、中に入ってみよう。暖簾をくぐってみる。

 

「いらっしゃい!おっ、人間さんかぁ……。何食べる?まぁ、あるのはヤツメの蒲焼きだけどね」

 

どうやらこの人がさっきのヤツメの歌を歌っていた張本人のようだ。ヤツメを焼いてるからヤツメの歌を歌ったのかな?

メニュー、と言ってもどうやらこの店にはヤツメウナギの蒲焼きぐらいしか無いようだ。あとは、お酒とキャベツくらいか。白飯は……無いのか。

 

「いやぁ、後少し寒くなってきたら、おでんを作るんだけどね」

 

ふむ、今は無いがおでんもあるのか。美味しそうだ。

 

「とりあえず、一本下さい」

 

「かしこまり~」

 

あぁ、この蒲焼きを焼く音をBGMに酒をチョコチョコ呑むのも悪くないなぁ。でも、今日はちょっと用事があるから止めとこう。今度来たら酒を呑もう。

 

「へいお待ち」

 

きたきた……なるほどそう来ましたか。味付けをあえて濃ゆくし、酒を進ませるタイプの焼き方か―――酒呑みたいなぁ。

とりあえず一口……うん、濃ゆいけど、全然ありだ。美味い。焼き加減も絶妙で、身がとてもいい感じだ。うーむ、白飯が食べたくなってくるなぁ。

美味しすぎてあっという間に食べてしまった。もっと食べたい。でも時間が時間だから、あとはお持ち帰りにしておくか。

 

「すいません、これを5本お持ち帰りで」

 

「かしこまり~、はいはいどうぞ~」

 

パックに詰められたヤツメウナギの蒲焼き5本を右手に持つ。―――また今度この店に来よう。

ブレスレットの格納機能でヤツメウナギの蒲焼き5本を粒子に還元、そのままブレスレットに取り込んだ。

いやぁ、やっぱりこの機能便利だな。……よし、そろそろ行こうかな。

 

(何処に行くんだ?)

 

おっ、出てきたなクロ。

 

(てかさ、いい加減その名前どうにかしろよ。なんだかペットみたいじゃないか)

 

そうそう、クロの名前考えてきたよ。

 

(マジで!?どんなの!)

 

「ブライク」とかどう?古英語では黒って言う意味なんだけど。

 

(……クロのほうがいいです)

 

なんでや!?一応徹夜して考えたんだよ?レミリアさんに聞いてみたら凄く評判良かったのに?

 

(他の奴はどうだった?)

 

―――みんななんか苦笑いしてた……。

 

(だろうな)

 

だろうなってなんだよ!泣くぞ、今すぐにでも僕泣くぞ!?

 

(ところでブレスレットの方の名前は決まったのか?)

 

あぁこれね。これも一応考えてきたよ。

 

(ほう……、言ってみなさい)

 

え、嫌だよ。どうせまた馬鹿にするに決まってる。

 

(しないから、ほら早く言えよ)

 

「ブラウフェーダ」、ドイツ語で確か青い羽って言う意味だった気がする。

 

(……まぁ、悪くはないかな?)

 

何で疑問系なんだよ。余計に傷つくわ!―――もういい、早く目的地に行こう。

 

(んで、何処に行くんだ?)

 

あぁそれはね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の大きな階段を見上げる。―――でかいなぁ……。

僕は今、冥界にある白玉楼の大階段のふもとに居る。なぜ白玉楼に来たのかと言うと、この前の宴会の時に幽々子さんに―――

 

『今度暇な時に白玉楼に来ない?色々ご馳走しちゃうわよ?』

 

なんてこと言われたからだ。あの宴会で意外と話が弾んじゃってねぇ……。なかなかいい人ですよ幽々子さんは。“幽々子さんは”

 

(何でそこだけ強調したんだよ)

 

色々とあるんだよ世の中にはね。

階段を登った先に、傍らに幽霊みたいなのを連れて庭の掃除をしている少女が居た。―――げぇっ。

 

(どうした?関羽でも来たか?ドラの音はまだか)

 

ちげえよ。誰が三国時代の豪傑だ。

その少女は僕を見つけるやいなや、睨みつけてそそくさと何処かへと立ち去ってしまった。

 

(一体お前何したんだ?)

 

ナニモシテナイ……。

 

(じゃあどうしてあんな睨みつけたあと、そそくさとどっか行ったんだ?)

 

それはこっちが聞きたいよ。

白玉楼の異変以来からとにかくこんな感じなのである。何であんなに毛嫌いしてるんだろう。なにかしたっけ?

 

「あら、来てくれたのかしら?」

 

今までの行いを振り返っていると、後ろから声をかけられた。

 

「どうも、幽々子さん」

 

「そんなかしこまらなくてもいいのよ~。ほら早く中に入って一緒にヤツメウナギ食べましょう」

 

そうですね。早くヤツメウナギを―――なぜ僕がヤツメウナギの蒲焼きを持っているのがバレた!?

 

「うふふ、私食べ物には凄く敏感なのよ」

 

そうですか……。見た目は凄くおしとやかな感じなのに、中身は意外と食いしん坊なんだなぁ。

 

「ほら早く食べましょう!」

 

返事する暇を与えずに、背中を押され無理やり中へと押し込まれていく。食いしん坊恐るべし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?あの子がどうしたのかしら」

 

「いやなんだか僕、嫌われてるみたいで……」

 

客をもてなす為の部屋なのだろうか、少し広めの和式の部屋で幽々子さんとゆっくりお茶を飲みながら会話をしている。

ヤツメウナギの蒲焼き?あぁ、あれなら幽々子さんが全部ペロリとたいらげたよ。もう呆れるどころか笑っちゃったね、うん……。

 

「そうなの……。そう言えば最近あの子、妙に気がたってるわね」

 

「あらら……」

 

「どうしたの?って聞いても何でもないって言われちゃうし、困ったわ」

 

はぁ、と深いため息をつく。やはり幽々子さんもあの子のことが気になっているようだ。

 

「どうしましょうか」

 

「どうするもこうするも、こればかりは本人に聞かないとねぇ……」

 

するとその時ふすまが開き、先程から話していた問題のあの子、妖夢が現れた。―――はて?なぜ僕を睨むのだろうか。怖いなぁ。

 

「幽々子さま、庭の掃除が終わりました」

 

「は~い、ご苦労様」

 

こうやって会話している今でも、あの子は僕に対して凄い殺気を放っている。まるで鋭い剣先を喉に押し当てられているようだ。

 

「妖夢……」

 

「なんでしょうか」

 

見かねた幽々子さんが口を開いた。

 

「客人にそんな態度をとれと私は教えたかしら?」

 

「ッ~~~~~!!」

 

その場の空気が一気に凍りついた。実際はなんの事はない言葉だが、何故だかその言葉にとてつもない何かを感じた。強いて言うなら、死を感じる様な感じだ。とにかく恐ろしかった。

 

「一体どうしたのよ妖夢?あなたらしくないわ」

 

冷徹な顔から一変、いつもの穏やかな顔へと戻った。だが相変わらず空気は凍ったままだ。

 

「………………」

 

そのまま黙りこくって俯く。しかし、何かを決意したようで急に顔をあげ、喋った。

 

「私は、あの男が嫌いなのです」

 

オゥ……単刀直入に言ったなぁ……。まあ、薄々気づいてはいたけどさ。でもこう、面と向かって言われると結構ショックなものだ。

 

「どうして?片倉さんはいい人じゃない」

 

「性格が嫌いという事ではありません。私はあの男が師匠を超えたという事が気に食わないのです」

 

ん?どうしてそこで師匠が出てくるんだ?

 

「そうなの……」

 

「はい」

 

しかし困った。これじゃこのままずっと未来永劫、僕はあの子に嫌われたまんまなのかな?

まさに『嫌われ未来永劫斬』的な?

 

(……面白くねー)

 

うるせぇ、自分でもそう思ってるよこの野郎。

 

「それなら妖夢、今から片倉さんと戦いなさい」

 

「勝負ですか」

 

「えぇそうよ。あなたが勝ったら嫌いなままでいなさい。でもあなたが片倉さんに負けたなら、その時は片倉さんとこれから仲良くしなさい。これなら問題ないわ」

 

ふむふむなるほど―――っておい!?問題しかないわ!

何故そこで戦う事になるんだ?幽々子さんも幽々子さんでこっちを見て「ナイス提案だわ!」みたいな事を表現したドヤ顔するの止めましょうか。

顔面殴りますよ?殴りませんけど。

流石にこの提案は却下だろう。

 

「……分かりました」

 

おいーーー!?嘘ぉ、承諾しちゃった!?

 

「片倉さんもいいわよね、ね?」

 

ニッコリと笑いつつも威圧的に迫ってくる。クソぉ、これが警察の取り調べだったなら誰でもケロリと吐いちまうぞ。

だが僕は認めないぞ!絶対に!

 

「い い わ よ ね ?」

 

「……はい、喜んで……」

 

無理だ。逆らえっこないさ。逆らったら最後、多分生きてここからは出られない、そんな気がした。

 

「それじゃ二人とも表に出ましょうか」

 

「はい」

 

「はい……」

 

いったい僕はこの後どうなってしまうんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルールは簡単、相手をとにかく倒せばOKよ。あっ、スペルカードは極力無し」

 

何そのルール、物凄く適当な気がするんだけど。

 

「ん?何か文句あるかしら?」

 

「ありません!断じてありません!」

 

なんだか幽々子さんが幽香さんに見えてきた。―――もしかしたら幽香さんと知り合いかもな。うん、ありえそうな気がしてきた。

 

「それじゃ、始め」

 

バッ、とお互い後ろに下がりまずは間合いを取る。

さてさて、戦略の基本といえばなんだ?

 

(気合だ!)

 

それは流石に違うだろ。まずは相手と自分の戦力を確かめることさ。

相手の戦力、つまりあの子の手持ちの武器は刀、しかも二刀流のおまけ付き。

対して僕の戦力は、……手持ちの武器無し。泣けてくるねぇ。

 

(銃はどうした)

 

あぁ、銃なら紅魔館に置いてきたよ。だってこんな展開になるなんて想像すらしてなかったんだもん。仕方ないよね。

だが武器はなくとも、僕には鎧とブラウフェーダがあるから何とかなるはず。

よし、次は作戦を立てよう。

 

(どんな作戦を立てるつもりだ)

 

そうだなぁ、この場合だとまずは相手の力量を測る事が先だな。例えば攻撃方法や速度とか。ある程度分かってきたらその後は―――

 

(その後は?)

 

―――気合だ!

 

(やっぱり気合じゃねぇか!)

 

仕方ないだろ、こんな装備でまともに作戦組めると思うか?無理だろ。

考え事は程々にとりあえずこちらから仕掛けにかかる。さてどう出るか。

まずは挨拶がわりに一発派手にぶん殴ろう。と思って近付いた瞬間、刀が目の前に迫っていた。

危ない!某マトリックスみたいに体を後ろに仰け反らせて無理やり避ける。甘かった、やっぱり刀相手に素手は無謀すぎた。

 

「その程度ですか?ならば次はこちらから行きます!」

 

次はあちらの攻撃のようだ。ドンと来い!……いや、やっぱり来ないで下さい。

脳天目掛けて振り下ろされる刀を何とか義手の左腕で凌ぐ。だが二本目の刀が、がら空きの脇腹を狙って来た。仕方ない、あれを使おう。

鎧を展開、ギリギリの所で鎧が刀をガードする。

鎧が出現した事で、相手は後ろに下がり鎧の様子を見ることにしたようだ。―――意外と慎重に攻めてくるタイプだな。

 

(ブラウフェーダは使わないのか?今なら遠距離からバシバシいけるぞ)

 

いや、まだブラウフェーダを使うわけにはいかない。あれは隠し玉としてとっておくつもりだ。

様子見にも飽きたのか知らないが、また妖夢が距離を詰めて攻撃を仕掛けてきた。おそらく少ししか無い鎧の隙間を狙って攻撃してくるだろう。あの子ならありえる。なんて言ったって、あの子も師匠の弟子なのだから刀の扱いは達人級だ。さっきそれを身を持って知ったよ。

ならばこちらとしても、正々堂々正面で出迎えるわけにはいかない。てかしたくない、死ぬもん。

刀が振り降ろされる刹那、右足に魔力を纏わせる。

 

(おりょりょ?お前、魔力を義手以外でも纏わせたり出来るようになったのか?)

 

あぁ、何か白玉楼の異変以来から急に出来るようになっちゃった。

魔力を纏わせた右足でそのまま地面に大きく踏み込む。

すると地面に流し込まれた魔力は地面の形を変形させ、そして目の前に隆起した。まるで土の壁だ。

刀をガードされ、片倉の姿を一瞬見失った妖夢は少し動揺する。その瞬間が命取りだった。

後ろをとった僕はいつもお世話になっているあの刀を呼び出す。

 

「いでよ、風刃!……あれ?」

 

だが、いつまで待っても風刃が出てこない。

 

「ちょ、ちょっとタイム!」

 

あれぇ?なんで出てこないの?魔力ならまだ残ってるのに。

ちょっと!どうなってるのクロ!

 

(あ~~~、これは多分)

 

多分?

 

(風刃の所有権の問題だな)

 

所有権の問題ぃぃぃ!?

 

(うん、所有権の問題。風刃は元はといえば俺の物だから、多分あの西行妖の時に使って以来そこから俺のになっちゃったんだと思う)

 

どうにかならないのか?風刃の機動力強化無しはきついんだが……。

 

(無理。ドンマイ)

 

……無理ゲーにしか見えなくなってきた。

 

(ファイト♪)

 

はぁ……、諦めて他の作戦を考えよう。風刃無しとなると……うーむ……。

 

「そろそろいいですか?」

 

「ん?あっ、ごめんごめん、もういいよ」

 

そう言えばタイムしてたんだっけか。

うっかりしてたなぁ、と自己反省している暇もなく襲いかかって来た。ヒエェ、慈悲も無い人だ―――でも律儀に待ってくれたから慈悲は少しくらいあるか。

とりあえず後ろに下がり作戦を改めて組み直す。どうしたものか。

はっきりいうと負ける気しかしない。避けるのは避けているのだが、このままだといずれは負ける。

せめて、風刃さえあればなぁ……。あの子の速い攻撃にも対応出来るんだが。

 

(だったら逆に動きを止めたらどうだ?)

 

おっ?その考えは無かったな。でもどうやって止める?

 

(それはお前が考える事だろ)

 

そうですか……。うーん、何かいい作戦は無いものか……あっ!

ふと僕は前にアリスが言っていた事を思い出した。あれは確か……魔力と妖力とかの違いについて聞いた時だったな。

 

『いい?妖力はその妖怪のオーラみたいなモノよ。まぁ、私は詳しくは知らないけど』

 

『それじゃあ魔力はどうなんですかアリス先生』

 

『アリス先生……。え、えーと、魔力はオーラに近いけど全然違うわ。妖力には出来ない事が出来るのが魔力よ』

 

『例えば?』

 

『そうね……。妖力では魔法は使えないけど、魔力なら使えるわ。これは魔力が魔法の元素に変化するからよ。何故ならカクカクシカジカ―――』

 

『―――詳しくは良く分からないけど、とにかく変化するのは分かったよ。ところで他のものにも変化するの?』

 

『するわよ。形状変化の為の衝撃力にも変わるし、物質を硬くしたり柔らかくしたりする事も可能よ。あと、磁石みたいに引っ付けたり反発させたりも出来るわ』

 

『魔法ってかなり便利ですねぇ……』

 

『そうよ。あなたも少しは扱いに慣れれば簡単に出来るはずよ』

 

―――これだ。これならいける!

 

(おっ!何か思いついたか?)

 

あぁ、完璧な作戦が今頭の中で組み上がったよ。ありがとうアリス。君のおかげで勝てそうな気がしてきたよ。

それじゃあ行きますか!

 

「ブラウフェーダ!」

 

鎧が変形し四本の青色の羽が出現する。

 

(おいおい、防御力が落ちてるぞ。それじゃあの刀は防げないぞ?)

 

ああ大丈夫。防げなくても構わないさ。だって今からあの子の攻撃は“全部当たらなくなるから”ね。

 

「まだ隠し玉を持っていましたか……」

 

「この隠し玉は危険だよ?」

 

「だとしても、私が叩き斬るだけです」

 

「ならほら、掛かって来なよ」

 

「言われるまでもありません!」

 

よしよし、上手く釣れたぞ。

羽をあの子に向けて飛ばす、しかし狙いがそれて見当違いな場所に突き刺さった。

 

「どうやらそれの扱いに慣れてないようですね!」

 

一気に距離を詰めて刀で斬りかかる。

だが突然、謎の白い煙が辺りを立ち込めて、彼女は斬りかかる動作を中断させた。

 

「この煙は!?」

 

「スモークグレネードってやつだよ」

 

「後ろか!」

 

スモークグレネードの煙で視界を遮り後ろをとったが、声で居場所を悟られてしまう。

完全に僕の居場所を把握した彼女は一気に僕の懐へと詰め寄り、二本の刀で斬りかかろうとした。が、そこに斬ろうとした対象の姿は無かった。

 

「何処だ!」

 

「ここだよ~」

 

僕はあの子の後ろで余裕の表情で笑っていた。

若干の苛立ちを覚えつつ斬りかかろうとしてくる。刹那、僕は唐突にあの子の足元を指さした。

 

「足下を見てみなよ」

 

「足元……?」

 

見ると先程の狙いのそれた羽が彼女を囲うように律儀に正方形を描いて突き刺さっていた。

 

「!?」

 

ハメられた、そう思った時にはもう遅かった。

羽から地面へと魔力を注ぎ込み、土の壁が隆起する。

先程、僕がやった技と同じ原理だが今回のは違う。四隅からの隆起だ。

隆起した地面はあの子を一気に閉じ込めた。―――よし、完璧だ。

 

「冷静さを欠いた状態じゃ無かったら、こんな罠には掛からなかったはずだね」

 

「……そうですね」

 

完全に閉じ込められているというのに、あの子にはどこか余裕が感じられる。

 

「ふ、ふふふ」

 

「……?」

 

「私をこんな土ごときで閉じ込めたと思っているのですか?甘い、甘いですよ!」

 

ドコォン!凄まじい音と共に土の壁が吹き飛ばされる。―――やっぱり閉じ込める事は無理だったか……。

吹き飛ばされた土であの子は土が服に付いたりと、とても汚れていた。だが、お構いなしにあの子は隙だらけの僕に斬りかかる。

 

「その首貰ったぁ!」

 

おいおい、そのセリフは色々とまずいような気がするぞ……。別に斎藤一の事を言ってる訳じゃ無いけどさ。

完全に隙だらけの僕は、あの子の渾身の一撃を喰らった。はずだったのだが、その一撃は見事に外れた。

渾身の一撃を外した事に動揺する妖夢。しかし流石は剣術の達人、身体は自然と次の攻撃を繰り出していた。

頭、首、胴体、腕、足、と言った全身の部位に休む間もなく二本の刀が襲い掛かる。だが、その攻撃全ても一度も僕には当たらない。

 

「油断?これは余裕と言うもんだ」

 

一度は言ってみたかったこのセリフ。別に断じて誠シシオを意識した訳じゃ無いぞ。断じて無いぞ。

それはそうと、僕は刀を頑張って避けている訳じゃない。ただ、刀が勝手に僕の身体に反発しているだけだ。

 

「この調子だと、妖夢の攻撃は当たらないわね。なかなかずる賢いことするわねあなた」

 

どうやら幽々子さんにはこの仕掛けが解っているようだ。

対してあの子の方はまだ解っていないらしい。未だに攻撃をしてきているが、全くかすりもしない。

そろそろ終わらせようかな。なんだか可哀想になってきた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

「なんで当たらないんだ!って顔してるね」

 

「……」

 

「なんで君の攻撃が当たらないか教えてあげるよ。魔力って言うのはね便利なもので、色んな物に纏わせたり出来るんだ。例えばこの地面にも纏わせたり出来る。しかし、その他にも魔力にはもっと凄い特性があるんだ。何か解るかい?」

 

「さぁ……?」

 

「磁石だよ。魔力は磁石にもなるんだよ。魔力は魔力同士で反発したり、逆に引き寄せたり出来るんだ」

 

「それがどうしたんですか」

 

「そこで最初の話に戻るんだけど、その磁石の性質を持たせた魔力は、地面の土に纏わせることだって簡単に出来るんだよね。すると、その土が付着した物は他の魔力を纏った物に反発したりする。あれ?そう言えば君、服とか刀が土まみれだね?」

 

「……まさか」

 

「うん、そのまさかだよ」

 

「私の攻撃が当たらなかった理由はこの磁石の性質とやらでしたか……」

 

「そうだよ。でも、もう一つ大事な事を忘れてるよ」

 

「??」

 

「磁石は反発もすれば、“引き寄せたりする事も出来る”」

 

「!?」

 

何かを察知した妖夢は後ろに下がろうとする。だが、足が何かに固定されて動かない。

ちらりと見てみると、土や石の塊がしっかりと足を地面へと固定していた。振り払おうとしてもまったくとれる気配がない。

せめてもの反抗で刀を投げようとするも、両方の腕さえも固定された。

そして妖夢は完全に身じろぎ一つも出来なくなった。

 

「決着はついたわね」

 

幽々子がこの戦いを終わらせる一言を放った。

 

「この勝負、片倉の勝ちよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今までの御無礼、大変失礼致しました」

 

丁寧に丁寧を重ねた謝罪をする妖夢。

 

「いやいや、良いんだよ」

 

これで「許さないぞ!」とか言う奴は人間じゃないな。だとしたらそいつは悪魔か花の妖怪か鬼だ。おっと、花の妖怪は余計だったかな。

 

「私はまだまだ半人前、やはり師匠を超える力には足 元にも到底及びませんでした」

 

何かあの勝負以来から凄い態度が変わってるんだけど。まぁ、悪くはないか。むしろこっちの方が良いに決まってる。

 

「うんうん、仲直りできて良かったわ~」

 

何だかんだで幽々子さんの提案であの子と仲直りできた。本当は穏便な方法で仲直り出来たら良かったんだけどな……。

 

「これで心置きなく妖夢にご飯を作らせることが出来るわ。さあ妖夢、ご飯作って~」

 

―――もしかして仲直りできて嬉しかったのって、それが理由とか言わないよな。

 

「あの子ならここにはもう居ませんよ」

 

「えっ?」

 

なんか「ちょっと修行して来ます!」って言って表に飛び出していったんだが……。てか気づいてないのかよ、それでもあの子の主ですかあなたは。

 

「さてと、それじゃあ僕はそろそろ帰りますね」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

「へっ?」

 

「あなた、料理出来る?」

 

「えぇ、まあそれなりに」

 

と言っても出来るのはカレーとか卵焼きとか、簡単な料理しか出来ないが。

でもどうして―――あっ……。

 

「嫌です」

 

「まだ何も言ってないじゃない!」

 

「いやどうせ、お腹がすいたから料理作って~、とか言うんでしょ?」

 

「うん、そうよ」

 

やっぱりかーーーー!だと思ったよ!

 

「面倒なんで、お断りしま……」

 

「もしも作ってくれなかったら、このまま私とエンカウントバトルが始まるわよ」

 

「……は?」

 

「エンカウントバトル始まるわよ」

 

何だそれは!?ご飯作るの拒否したらバトルって、あんたは何処の花の妖怪だ!

―――仕方ない、いのちだいじに、バトルするくらいなら適当に料理作った方が懸命だな。トホホ……。

 

「分かりましたよ、今から何か作るんで待ってて下さい」

 

「ありがとう~」

 

はぁ……。なんでこんな事になったんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来ましたよー」

 

「待ってました!」

 

子供みたいにはしゃぐなよ……。

ちなみに作ったのは卵焼きだ。簡単に作れるから楽でいいよね、卵焼き。

 

「頂きます」

 

もぐもぐ……。もぐもぐ……。

 

「あなた、料理上手なのね」

 

「そうですか?」

 

それはただあなたがお腹空いてるだけのような気がするんですが。最高の調味料は空腹だ、って言うしね。

と言うかそろそろ帰りたいのだが。

 

「決めたわ」

 

「??」

 

「今日からあなたを白玉楼専属料理人にするわ」

 

……え?

 

「えええぇぇぇぇぇぇええ!?」

 

「あら?そんなに驚くことかしら~?」

 

「いやだって、僕はこれでも一応紅魔館の使用人ですし、それはちょっと困るというか何と言うか……」

 

実際のところは使用人かどうかも怪しい立場なのだが、ここはとりあえずそういう事にしておこう、そうしよう。

 

「あらそうなの?まぁ別に、住み込みで料理作れ!とかじゃなくて、こっちでたまに料理を作りに来ればいいだけだから安心して頂戴な」

 

「んー、まあそういう事なら別に構わないです……」

 

でもいちいち此処に来て料理するのって案外面倒な気がするなぁ……。

 

「それじゃあまた来週、此処に料理作りに来てね」

 

「はい!?」

 

「嫌なら別にいいわよ。ただしその時は分かるわよね?」

 

ニッコリと笑うその顔の裏には凄まじいほどの殺意と悪意が見える。

 

「……分かりました」

 

こうして僕は白玉楼の専属料理人となったのであった。


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