傭兵幻想体験記   作:pokotan

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閑話 其の二
お値段以上の発明品


「くっくっくっ、ついに、ついに完成した!」

 

とある山の中にある、とある作業場でとある河童妖怪が不気味に笑っていた。

 

「なに気持ち悪い笑い方してるのよ。怖いわよ」

 

そんな妖怪を見た烏天狗は、不気味に笑う妖怪を変な奴を見るような目で見ていた。

 

「ついに出来たのよ!」

 

「だから、何ができたのよ」

 

「これよ、これ!」

 

失敗作の山を掻き分け、白銀のブレスレットを引っ張り出し、烏天狗に見せつける。

一見するとそれはただのアクセサリー。そんなものを見せられた烏天狗は首をかしげた。

 

「何よこれ?」

 

「ふっふっふっ、これは私が造ってきた物の中でも、一番の最高傑作よ!」

 

「ふーん、そこまで自慢するからには、もちろん凄いのよね?」

 

「当たり前じゃない。ただ、男だけしか使えないのよね~」

 

「なんで男専用にしちゃったのよ」

 

「だって、片倉専用だもん」

 

「あ〜……、ところでそれの名前は?」

 

「吾輩は猫である、だよ」

 

「名前はまだ無いのね」

 

「うん、そう言う事。という訳で文、早急に片倉を連れて来て!無理矢理でいいから!」

 

「何で私が行かないと行けないのよ」

 

「いいじゃんいいじゃん。お願いだよ~、親友の頼みだと思ってさ」

 

「……分かった。貸一つよ」

 

「はーい」

 

そう言うと、烏天狗はあっという間に空へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハックション!」

 

急に寒気がしたなぁ……。誰か僕の事噂してる?

 

「もしかして風邪ひいたんですか?」

 

「いや、大丈夫大丈夫」

 

でも、もしかしたら風邪引いてるかも。このところよく咳き込むし。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

やっぱり風邪かもな。あぁ、この幻想郷には病院という建物がないのが辛いな。

 

「それでさっきの話の続きなんですけど、咲夜さんったら腹いせに私に向かってナイフを投げるんですよ?」

 

この前の宴会でお留守番をさせられたのが癪に触ったのか、今日はもっぱら美鈴の愚痴を聞く羽目になっている。

あぁ、誰でもいいから来ないかなぁ。すごい暇。……ん?

何か空からこっちに近づいて来るんだけど、何だあれ?

よく見るとそれは、黒い……いや、烏天狗だった。

シュタッ、と着地する烏天狗もとい射命丸さん。珍しいな、紅魔館に射命丸さんが来るなんて。いや、これが初めてか?まぁ、どうでもいいや。

 

「ムムッ!何者。もしや、侵入者!?」

 

違うと思うぞ、美鈴。

 

「これは失礼しました。私は射命丸文、片倉さんに用があって来ました」

 

「僕に用ですか?」

 

「はい、突然ですがにとりの作業場に来てもらいます」

 

ほう、にとりの作業場か。これはまた珍しい。もしかして新しい道具でも出来たのかな。

 

「待って下さい」

 

そこにストップをかけたのは、ある時は居眠り、ある時はナイフまみれのハリネズミ、我らが紅魔館の門番、美鈴だった。

 

「急に片倉さんが連れて行かれたら、咲夜さんやお嬢様に怒られちゃいます。……主に私が」

 

その最後の『主に私が』って言うのやめて!聞いてるこっちが虚しくなっちゃうから。

でも確かに、急に連れ出されるのも困るはずだよな~、普通に考えたら。

 

「それなら問題ありませんよ」

 

目の前に突然、頼れるメイド長こと咲夜さんが現れた。この突然の登場も紅魔館に住み出してから最初こそは驚いていたものの、今はすっかり慣れた。というか、これがいつもの光景になってる。―――慣れって怖いね。悪魔の言葉だよ。

 

「大丈夫なんですか?」

 

「はい、先程お嬢様から了解を得ましたので」

 

ほぉ、流石はレミリアさんだ。この出来事もちゃんと予見していたのか。運命を操るのは伊達じゃないね。

 

「というわけなんで片倉さん、行きましょう!」

 

「あ、はい分かりました」

 

「行ってらっしゃい片倉さーん」

 

「ところで美鈴、さっき私のことについて愚痴をこぼしていましたね。ちょっとその事について、深く話し合いましょうか」

 

チャキッ、と両手にナイフを持って咲夜さんが美鈴に近寄る。美鈴の顔は真っ青だ。

 

「は、ハハ……」

 

ご愁傷様です美鈴。

 

「美鈴がハリネズミになる前にさっさと行きましょう、射命丸さん」

 

「分かりました。ちゃんと掴まって下さいよ」

 

「ま、待ってぇ片倉さぁん!見捨てないでぇー!」

 

うん、巻き込まれたくないから嫌だ。幸運を祈るよ美鈴。君はいい奴だった。

美鈴の悲痛の叫びは、空へと飛んでいった僕に聞こえる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にとりー、連れてきたよ」

 

「待ってました!」

 

にとりの作業場に入るなり、堂々とした出で立ちでにとりが仁王立ちで待ち構えていた。

 

「僕になんか用があるって聞いたんですが……」

 

「うん、あるよ。おおいにあるよ。てなわけで、はい!これ着けて」

 

と言われて渡されたのは、白銀に輝く普通のブレスレットだった。―――ナニコレ?

 

「早く着けて!早く早く」

 

まぁそう焦りなさんな、にとりさんやい。焦りは禁物じゃぞ?

言われるがままに右手首にそのブレスレットを着けてみる。……これだけ?

 

「いいねぇ〜」

 

いや、何が良いのかさっぱりわからないんですが。

 

「これ、なんですか?」

 

とにかく、何がなんだが分からないから質問してみる。

 

「これはね、着けると空が飛べるようになるという画期的なブレスレットなんだよ!」

 

へぇ〜……え?

 

「な、なんだってー!?」

 

来ました、遂に来ました。このわたくし片倉、幻想郷に迷い込んで早数ヶ月、ようやく空を飛べるようになりました!

やったー!もう何も言えねえ!―――いかんいかん、とりあえず落ち着け僕。

 

(落ち着け、餅つけ、なんつってテヘッ)

 

うるせぇ、心の中の住人は黙ってろ。

 

(へいへーい)

 

「どうやったら空を飛べるんですか」

 

「まずは鎧を展開してみ?」

 

軽いドヤ顔に腹を立てつつ、言われたとおり鎧を展開する。

うむ、いつ見ても頑丈そうで綺麗な鎧だなぁ。

 

「展開したなら次は、その右手首にはめてるブレスレットのボタンを押してみて」

 

ボタンボタンっと、おっこれか。ポチッとな。

 

「うぉっ!」

 

ボタンを押した途端、鎧が変形した。背中に四つの羽みたいなのが着いている。形としては、某ガンダムのフィンファンネルみたいな形に近い。

羽が着いた代わりに心なしか鎧の防御力が失われている。というか、鎧じゃなくなってる。どっちかって言うと、鎧よりも防弾チョッキみたいだ。

 

「うん!我ながら完璧だよ」

 

あちらの河童さんは納得していらっしゃる。―――まさにお値段以上ニトリとはこのことか……いや、違うか。

 

「まさか、にとりさん発明のそのブレスレットの機能はそれだけだと思ってない?」

 

えっ?このブレスレットには、まだ何かあるの?

 

「ちっちっち甘いな片倉は。とりあえずこれ持って」

 

にとりに手渡されたのは、そこらへんに落ちていた工具。

 

「こんなもの持たせてどうしたんですか?」

 

「この工具が消えるようなイメージしてみて」

 

工具が消えるようなイメージ?なんじゃそりゃ。

まぁ、にとりが言うのなら何かあるのだろう。とりあえずイメージしてみるか。

消える……消える……消える……。……難しいな。

あとちょっとでいけそうな気がするんだけどなぁ、うーーーん。

イメージすること1分、不意に工具が手の中から消えた。

 

「あれ……?」

 

「お〜出来た出来た」

 

「へっ?どういうこと?」

 

「次はさっき消した工具を出してみて。勿論イメージしてね」

 

消した次は出せか……。ぐぐぐ……。

さっき工具を消した時と同様、不意に工具の感触が手に戻ってきた。―――いったいどうなってるの?

 

「そろそろ説明してください」

 

「これが二つ目の機能だよ」

 

「と言いますと?」

 

「実はこのブレスレット、物質を最大三つまで粒子に還元して格納する事が出来るんだよ。まぁ、あんまり大きいのは流石に格納出来ないけどね」

 

「いやいや、それでも充分凄いですから」

 

粒子に還元する技術までも、河童は持っていたのか……。もしあっちの世界へにとりが行ったら、世界の軍事バランスが大変な事になるかもね。うん、絶対になるな。

 

「最後に三つ目の機能を紹介するよ」

 

おいおい、まだあったのかよ。

 

「ちょっと外出ようか。じゃないと大変な事になるから」

 

外に出ないと大変な事になるの!?何か凄く不安になってきた。爆発とかしないよな……いや、にとりに限ってそれは有り得ないか。

 

「そこにある岩の前に行って」

 

にとりに言われたとおり、少し大きめの岩の前まで移動する。1つ気になることがあるんだが……。

 

「どうして二人とも僕から離れてるんですか?」

 

「あいや、だって近づいたら危険だもん」

 

「えっ?なんでですか」

 

「いいから、とにかく言う通りにしてよ」

 

「は、はぁ……」

 

「それじゃ片倉、形態変化(モードチェンジ)って言ってみて」

 

「形態変化」

 

すると、背中に着いていた四つの羽が取れて、僕の周りをぐるぐると回るように動き出した。

 

「お~凄い」

 

「じゃあそのままあの岩をぶっ壊してみて」

 

「どうやって?」

 

「決まってるじゃん、その羽を飛ばすんだよ」

 

どうやって飛ばせばいいんだよ……。うーーーん……飛べ!

シュンシュンッ!と四つの羽が岩に向かって飛んでいき、見事にバラバラにぶっ壊した。―――は?

 

「ブラボー!実にブラボー!」

 

嬉しいのか知らないが、にとりが拍手しながら訳わからないこと言ってる。てか、この機能強くないですか?下手したら本気のパンチ並いや、それ以上に強いよ?

 

「でも気をつけてね、そのモードは機動力がかなり落ちちゃうから。それが嫌なら、一つや二つだけで飛ばす事も出来るよ」

 

「そんなことも出来るんですか。凄いですねこれ」

 

「そうだ!この際だからちょっと飛んでみて!ちなみに飛ぶ時に魔力を消費しながら飛ぶんだけど、そんなに消費しないように造ったから」

 

「分かりました」

 

モードを通常の状態に戻して、意識を集中させる。

よし、飛んでみるか……、どうやって飛ぶの?―――飛べ!

ふわりと体が宙に浮いた。おぉ、案外簡単じゃないか。

 

「片倉さーん、ここまで飛んでみてくださーい」

 

上を見上げると、いつの間にか射命丸さんが居た。よっしゃ、いっちょ飛んでみますか。

一気に上方に加速して射命丸さんが居る所へと向かう。

 

「後少しでつきま、ブベッ!?」

 

何を血迷ったか誤って体を反転、そのまま近くの木に思いっきりぶつかった。

 

「イテテテテ……」

 

鎧があったから無事ですんだが、生身だったら間違いなく死んでた。

 

「あらら……」

 

「これは練習が必要だね」

 

「そうですね、イテテ……」

 

「大丈夫かい?かなり勢いよくぶつかって行ったけど」

 

「なんとか大丈夫です」

 

ぶつかった所をさすりながら答える。帰ったら冷やしておこう。

 

「それじゃあ僕はそろそろ紅魔館に帰りますね。多分もうじきすると、夕飯が出来ると思うので」

 

「そっか分かった。気をつけてね」

 

「またさっきみたいに激突しないでくださいよ片倉さん」

 

「しませんよ。それじゃ!」

 

羽を展開して空へと飛ぶ。―――このブレスレットの名前なんだろう。

 

「最後に一ついいですか?」

 

「ん?」

 

「このブレスレットの名前は何ですか?」

 

「吾輩は猫である、だよ」

 

「長い名前ですね」

 

「いや、そうじゃ無い……」

 

「え?違うんですか?」

 

「いや、違うと言うか、そうでないと言うか……。ま、まぁ、とにかく名前は片倉が勝手に決めていいよ。そのブレスレットは片倉の物なんだし」

 

「は、はぁ……。分かりました。それでは」

 

なんかよく分からないが、とりあえず今度名前を決めておくか。そう言えば、未だにクロの名前を考えてなかったなぁ。

 

(そうだぞ、考えてくれよ)

 

まぁ、今はめんどいしまた今度な。

 

(えーーー!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片倉が紅魔館へと戻っていった後、二人は作業場で寛ぎながら雑談していた。話題はもっぱら片倉のこと。

 

「いやぁ、しかし片倉には分からなかったかぁ」

 

「普通、吾輩は猫である、ときたら、名前はまだ無い、ってなるはずよねぇ」

 

「だよね~」

 

にとりが呑気に笑っていると、唐突に文が深刻そうな顔をした。

 

「どうしたんだい文、この世の終わりみたいな顔をして」

 

「あ、あ……あ」

 

にとりの質問に文は口をパクパクと動すだけで答えない。どうしたのかと不思議に思ったその時、急に文は大声で叫んだ。

 

「取材するの忘れてたーーーーー!」

 

ガタタッ、にとりがずっこける。

 

「なんだそんなことか。心配して損したよ」

 

「そんなことじゃないです!大事なことです!」

 

「はいはい、そうですか」

 

「こうしては居られない、早く片倉さんの所に行って取材しなければ。フフフ、最新アイテムの先取り独占取材、楽しみですねぇ」

 

「ちょっと待て」

 

今にも外へと飛び出そうとする文の首根っこを掴み、それを阻止したにとり。

 

「ちょっ、何するんですか!」

 

「あんたこれから山の警備でしょうが」

 

「そんなもの知りません!スクープの方が大事です!」

 

「はいはい、お仕事に行きましょうね~」

 

「ちょ、いや、イヤァァァァア!」

 

ズルズルと引きずられ、山の方へと連れて行かれる文。しかし、彼女に出来たのはただひたすらごねて足をばたつかせるだけであった。


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