傭兵幻想体験記   作:pokotan

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終わらぬ冬と来ない春 第7話

(食材、買いすぎたかなぁ……)

 

両手に大量の食材を抱えながら後悔する。

ちなみに食材は冥界にあるお店から買ってきた。意外と人里並に賑わっていたのには驚いたが、まさかこんなにも買ってしまうとは。調子に乗らなければよかった……。

やっとのことで白玉楼に戻ってきた僕は、息を切らしていた。―――あの階段はちょっと長すぎないか?

 

「ただいま戻りましたよ~ってうわっ」

 

白玉楼はまだ完璧とはいかないが宴会会場のようになっていた。料理や酒が並んでいないのが少し寂しい。

 

「あら、戻ってきたわね。それなら早速料理を作りましょうか」

 

「料理なら私が作ります」

 

料理当番に立候補したのは、まさかの妖夢だった。怪我の方は大丈夫なのかと心配したが、既に治っていた。―――回復力高いなぁ。羨ましいな……。

お手伝いしようと思ったがいかんせん僕は料理をした事はあまり無い。おそらく足手まとい確定だ……うん、やっぱり料理は食べるに限るよ。

 

「うい~霊夢~、お酒置いといたぞ~」

 

突然、まったく知らない少女姿の妖怪が現れた。なぜ妖怪と判断したのかというと、頭に角が生えていたからだ。まぁ別に妖精とかでもいいけどさ。

 

「ありがとう。後は好きにしてていいわよ」

 

「は~いヒック」

 

どうやら酒に酔っているらしく、フラフラと何処かへ去っていった。いったい誰なんだ、あの妖怪は?てか酒臭い。どんだけ呑んでるんだよ。

 

「あやや、宴会の準備中ですか!」

 

後ろから聞いたことのある声が聞こえた。振り向くとそこには烏天狗、射命丸さんが居た。相変わらず神出鬼没だ。

 

「どうも、射命丸さん」

 

「お久しぶりです片倉さん」

 

あれ?ところでなんで射命丸さんがここに居るんだろうか。

 

「取材の為に来たんですが……忙しそうですね~」

 

あぁなるほど、取材の為か~。流石は新聞記者だ。

 

「ちょっと文にお願いがあるんだけど」

 

「どうしたんです霊夢さん」

 

「来て早々悪いんだけど、この宴会に紅魔館の奴等を呼んで来てくれない?他にもテキトーな奴を呼んでもいいわよ」

 

「えー嫌ですよ。面倒です」

 

「取材を好きなだけしていいわよ。……片倉の」

 

おぉぉぉい!?

 

「分かりました!喜んで行ってきます!」

 

「ちょっ、待っ」

 

呼び止める暇もなく射命丸さんはあっという間に行ってしまった。

 

「霊夢……」

 

なんてことを言ったんだ、と言わんばかりに霊夢を見る。―――射命丸さんの取材は地獄なんだよ?いろんな意味で。

 

「さーて、料理のお手伝いにでも行こうかしら」

 

そそくさと逃げていった霊夢。……畜生めーーー!

……僕も何かお手伝いでもするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから三十分後、宴会会場が見事に出来上がった。まだ料理と酒は並んでないけど。

 

「お兄ちゃーーーーーーん!」

 

ん!?この声は!

振り向くとそこには金髪の幼女……ではなく吸血鬼が手を振って走ってきた。

その奥では、レミリアさんと咲夜さんとパチュリーさんの姿もあった。―――あれ?美鈴は?

 

「ねぇねぇフランちゃん、美鈴はどうしたの?」

 

「美鈴はね!えーと、うーんと」

 

「美鈴はお留守番です」

 

答えが出てこないフランちゃんに変わって咲夜さんが答える。お留守番かぁ……。

 

「そうなんですか」

 

「それよりお兄ちゃん、遊ぼーーー!」

 

はしゃぎながら僕に弾幕を撃ち込もうとしてくるフランちゃん。うんうん、元気な事はいい事だ。―――いや、弾幕は駄目だから!?

 

「いや、今はちょっと……ね?」

 

「えーーー!」

 

あぁまずい、筋肉痛で体痛いから今遊んだら(弾幕ごっこ)確実に死ねる。

 

「フラン、一緒に紅茶飲まないかしら。お菓子もあるわよ」

 

そんな中レミリアさんが助け舟を出してくれた。

 

「わーい!」

 

いやぁ流石はカリスマ吸血鬼レミリアさん。助かりました。ただ、こっちをチラチラ見てドヤ顔はちょっとやめてもらえませんか?すごく反応に困るので。

そういえばパチュリーさんも珍しく外に出てきてるな。あの紫もやし……いや、考えるのはよそう。多分怒られる。

しかし、フランちゃんとレミリアさんは仲がいいよなぁ。まさに仲良し吸血鬼姉妹、いや、幼女姉妹か?

 

「本当、あなた変態よね」

 

うんうん、確かにそう思う。なんだよ幼女姉妹って……って、

 

「あっ、アリスさんじゃないですか」

 

あれ?さっきの考え事バレてる?なんで?

もしかしてアリスは読心術でも会得してるの!?

 

「そんな訳ないでしょうが」

 

ほら見ろ、やっぱり読まれてる。

 

「ところで何でアリスさんがここに居るんですか?」

 

「なんでって、烏天狗が宴会するって言ってたから来たのよ」

 

あぁ、そういえばそうだった。すっかり忘れてた。ところで射命丸さんはまだ帰ってこないな。どこかで道草でも食ってるのか?

 

「おーアリスじゃんか」

 

「魔理沙!あなたどうしたのよその怪我は!?」

 

包帯まみれの魔理沙の姿を見て驚くアリス。確かに、普通の人が見たら驚くよな。だいたい包帯まみれになる人なんて普通は居ないでしょ。―――いや、一人いたな。包帯まみれの奴が。誰かとは言わないけど、てか言いたくない。悲しくなるから。

 

「まぁ、あれだ。色々と大変だったんだぜ」

 

「まったく……。死んだらどうすんのよ」

 

「いや、死んだぜ」

 

「はっ?」

 

「いやだから、死んだんだって。なぁ片倉?」

 

いやいやそこで僕に振るなよ。返答に困るじゃないか。

 

「まぁ、片倉が心肺蘇生したから大丈夫だったけど」

 

「はぁ……」

 

アリスが頭を抑えながら溜息をつく。その溜息はまさに深海二万マイルよりも深い溜息。

 

「あなたのその無鉄砲さは、いつになったら無くなるのかしらね……」

 

「多分これからも無くならないぜ!」

 

笑いながらそう答える魔理沙を見て、もう一度溜息をつく。その溜息はまさに深海(ry

 

「さてと、そろそろ席につこうぜ。宴会が始まるってよ」

 

テーブルに並んだ沢山の料理と酒。何だか楽しい宴会になりそうだ。いや、楽しいに決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『楽しいに決まってる』そんなことを言った一時間前の僕を思いっきりビンタしたい。パンチでも可。

 

「聞いてるのーー?ダーカーラーねーあんたはねー」

 

「はいはい聞いてます、聞いてますから」

 

確かに最初は楽しかったさ。でもこの状況は楽しくねぇよ!

今僕は、酔っ払いに物凄く絡まれている状態だ。別段、酔っ払いは嫌いではない。だが、その酔っ払っている人がまずいのだ。

 

「あんた~いったい、人間なの~~?信じらんない~~~」

 

「僕はれっきとした人間だから霊夢」

 

そう、酔っ払っているのは霊夢なのだ。非常にまずい。怒らせたら何をされるか分からない。普段はただのグータラ親父、だが一度機嫌をそこねれば、すぐさま切れるジャックナイフへと変貌する博麗神社の麗しき巫女さんなのだ。めちゃくちゃ怖い。

というか、霊夢って酒癖悪い人なんだね。初めて知ったよ。出来ることならもっと早くに知りたかったけど……。

 

「だいたい、あんたは~~~」

 

「はいはいそうだね~(棒)」

 

「真面目に聞きなさいよ!」

 

「は、はい……」

 

いかん、早くこの状況から抜け出さなければ。

辺りを見回し、助けを呼ぼうと試みる。

アリスは……駄目だ。魔理沙とパチュリーさんと一緒に、魔法使い談義の真っ最中で気づきもしない。

紅魔館組、特に咲夜さんは……レミリアさんのお世話しながら鼻血出してる……。あれが紅魔館のメイド長だよ?僕は信じたくない。

よし、使いたくは無かったが最終手段だ。

 

「霊夢」

 

「何よ~、あぁ?」

 

ちょっと呼び掛けただけで胸ぐらを掴まれる。あぁ、早くこのジャックナイフから逃げなければ。

 

「トイレ行ってくる」

 

胸ぐらを掴む腕を振りほどき、席を離れる。もちろんダッシュで。

 

「あっ!ちょっと!」

 

なんか後ろから呼ばれているが気にしない。そのまま一気に駆け出し、宴会会場の裏手へと逃げ込み一息つく。

 

(何とか逃げ出せたな。だけどまた戻らないと怒られるよな絶対)

 

息を整えて、とりあえずそこら辺に座り込み、残り一本となってしまっている煙草を取り出す。

まさか戦場から戻ってきてから吸おうとしていたこの一本が、こんなとこで吸う羽目になるとは。

 

(じゃあ吸わなければいいだろ)

 

クロが心の中から喋りかけてきた。あれ?お前、また僕の体を乗っ取る気か?

 

(いや、無理。一度俺がお前の体を使ったら、最低でも三日間は乗っ取る事は出来ない。てか、乗っ取ってないから、借りただけだから)

 

そうですかい。そりゃ失礼しました。

煙草に火をつけて、一服する。……勿体無いなぁ。

 

(なんで吸うんだよ。勿体無いなら吸わなけりゃいいじゃん)

 

吸わずにはいられないんだよ。あんなストレスマッハな状況にいたんだぞ?もう煙草ないと死んじゃうから。主に精神面が。

この世界に煙草売ってあるところないかなぁ。無いよな多分……。あっでも、香霖堂なら売ってあるかも。今度行ってみるか。

はぁ、いつ戻ろうかなぁ。あんまり長く居ると、霊夢が激おこプーチン丸いや、プンプン丸になるぞ。

 

「あら?宴会を楽しんでないようね」

 

目の前から急に女性が現れた。だが、その現れ方は普通の現れ方ではない。空間が切り裂かれて出来た隙間のようなところから、その女性は現れたのだ。

今日の幻想郷は、心休まる時は無いのだろうか。ちょっと一人にして欲しいのだが……。

 

(気をつけろ。あの妖怪、かなりの力を持ってるぞ)

 

でも待てよ、あの人どっかで見たことあるような……。

 

(聞いてるのか?あの妖怪は危険だぞ)

 

うーん……、どこだ、どこで僕はあの人を見たんだ……。

 

(オーーーイ!無視すんなゴルァ!!)

 

うおっ、びっくりした。急に大声出すなよ。

 

(人の話を聞けよまったく……)

 

はいはい、私が悪うございました。

そんなことよりも、あの人本当に誰だっけ。

 

「紅魔館に続いて、この異変も解決しちゃうなんてね。正直驚いたわ」

 

紅魔館に続いて……、あっ!

 

「あなた、あの時お店に居た人ですよね」

 

「うふふ、その通りよ。思い出したかしら?」

 

いやぁ、スッキリした。あの人はあの時店に居た人だよ。まぁ、あんまり会話はしてなかったけど。

それより、あの人って妖怪だったんだ。人里って意外と妖怪多いのかな?幽香さんもよく居るし。人里なのに妖怪ばっかり、これはいかに。

 

「ところでこんな事を聞くのもあれなんですが、なにか僕にようですか?」

 

用が無いのなら一人にして欲しい。精神面を落ち着かせたいのだよ僕は。

 

「うーん、用は特に無いわ。ただ、片倉いや、仁だったかしら?」

 

『仁だったかしら?』と言った途端、僕は急いで立ち上がり戦闘態勢に入った。

 

「お前、何者だ。その名前を知ってる人は居ないはずだぞ」

 

「あらら、どうしてかしらね?」

 

「惚けるな、どうして僕の名前を知ってる」

 

「ふふ、惚けてるのはあなたの方じゃないかしら。いつまで片倉と名乗ってるのかしら。そろそろ本当の名前を言ったらどう?」

 

「本当の名前?何を言ってる、僕の名前は片倉 仁だぞ」

 

「そう……。ちゃんと忘れているようね」

 

最後の方の言葉はよく聞き取れなかったが、とにかく何かを納得したようだ。ひとりでに頷いている。

 

「さて、そろそろお暇しましょうかしら。またお会いできたらいいわね、仁さん」

 

「おい、待て!お前は何者だ、名前は!」

 

「いずれ分かるわ。それじゃあね」

 

「おい!」

 

姿を現した時と同じようにその謎の妖怪は、空間に出来た隙間の中に入り込み姿を消した。

ったく、いったい何なんだ。

煙草を蒸しながら考える。―――いずれ分かるわ、か。本当に何者なんだ、あの妖怪。

その時、不意に人の気配を感じ、そちらの方を向いた。向いた方向の先には、魔理沙がいた。

 

「片倉……」

 

もしかして、あの妖怪とのやり取りを見ていたのか?

 

「ど、どうしたんだ魔理沙」

 

「いやあのな、お礼を言ってなかったから、お礼を言おうと思って」

 

なんだ、違うのか。

 

「お礼?」

 

「そうだぜ、今日私を心肺蘇生だっけ?それで助けてくれたから……」

 

「いや、僕の方がお礼を言うべきだ。あの時、魔理沙が庇ってくれたから今僕が生きていられるんだよ。いりがとうな魔理沙」

 

「あ、あぁ。どう致しましてだぜ」

 

何かやたらと魔理沙の歯切れが悪いな。どうしたんだ?顔も何だか赤い気がするし、もしかして酔っ払ってる?

 

「それともう一つ、片倉に言いたいことがあったんだぜ」

 

「ん?」

 

「ま、前々から思ってたんだけどな、私実は片倉の事が……」

 

何だか魔理沙の顔がさっきよりも赤いぞ。やっぱり酔っ払っているんじゃないのか?……ん?何だか大事な事を忘れてる気が……。

…………あ、思い出した。

 

「あーーーーー!」

 

「!?」

 

「やべぇ、霊夢の事忘れてた!早く戻らないと殺さられる……。すまん、魔理沙!先に戻るわ」

 

「あっ、ちょっと……」

 

魔理沙が呼び止めようとしたが、既に片倉には聞こえなかった。

 

「……、また言えなかったぜ」

 

哀しみを含んだ呟きは、桜の花びらと共に空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一時間くらい宴会は続き、無事何事もなくお開きとなった。霊夢は大丈夫だったかって?あぁ、急いで戻ったら眠っておられたでござる。命拾いしたわぁ……。

そんなこんなで今は紅魔館組と一緒に帰宅している。もちろん飛べないから、フランちゃんに掴まれながら飛んでもらってますよ。……なんだか恥ずかしい気持ちになってきた。こんな年にもなって、ねぇ?

そろそろ本気で空を飛べる道具をにとりに造ってもらおう、そうしよう。

 

「着いたよお兄ちゃん」

 

「ありがとうフランちゃん。重くなかった?」

 

「うん!全然平気だよ!」

 

うん、やっぱり吸血鬼は力が強いね凄いな。僕も空くらいは飛べるようになりたいなぁ。

にとりに頼んでみるか。空を飛べる道具を造って下さい、って。

そんなことを考えながら部屋に戻った僕は、すぐさま深い眠りにつくのであった。


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