「でやぁぁぁぁぁ!」
迫り来る攻撃の嵐を難なく掻い潜り、隙あらば枝をへし折っていく。
だが、どんなに折っても枝が触手のように生えてくる。―――気持ち悪っ!
一方、霊夢の方は前線から下がり、今は魔理沙の隣にいる。何故下がっているのかというと、さっき僕……ではなくクロが、
『おい!そこの巫女!えーーと名前は……、そう!霊夢だ霊夢。お前は下がってろ!邪魔だから』
なんて言い出すもんだから、怒った霊夢が「勝手にしなさいよ!」とか言って下がっていったのだ。
ちなみに、この後の霊夢の怒りはクロじゃなくて僕が受けるんですよね、これは……。とほほ……。
そんなこんなで、今は絶賛大ピンチなわけなのだが、これが意外、クロはめちゃくちゃ強かった。もはや自分の体とは思えないくらい、俊敏な動きで戦ってる。凄いねクロ。
(どーよ。もっと褒めてもいいんやで?)
……今の発言で何か褒める気失せましたわー。
(うわっ!ひどい!泣きそう!)
はいはい、今はそんな事よりも戦いに集中してください。
(へいへい、了解でーす)
何か腹立つなぁこいつ。こんな奴が僕の心に居たとか、ちょっとショック。
西行妖から少し離れた木の陰で、霊夢と魔理沙は片倉の戦いを眺めていた。
「なぁ……霊夢」
「何よ」
「なんでそんなにむすくれてるんだ?」
「むすくれて無いわよ!」
「はいはい、そうですか。それよりもどう思う?」
「何が?」
「片倉のことだ」
霊夢はちらりと魔理沙を見たあと、片倉と西行妖の方を向き直し、魔理沙の問いに答えた。
「そうね……。明らかに別人ね」
「やっぱりか。私もそう思ったぜ」
「見た感じ、何かに乗っ取られた感じがするわ。勘だけど。あんたはどう?何か変わった所はない?」
「そうだな……。あの瞬間から、片倉の持つ魔力が倍に膨れあがった気がするぜ。あと何よりも、あいつの身体を纏ってる魔力で出来た鎧が、黒く染まってるな」
「そう……。いったい何をしたのかしら、片倉は」
霊夢の言葉に、魔理沙は首をふって答える。
「さあな。だが、何かしらの事があったのは確実だな、あれは」
そう言って、二人は片倉の体に起こった出来事について考えるのであった。
あれから10分は経っただろうか。
さっきから枝を折りまくっているのだが、一向に減らない。てか、さっきよりも増えた気がする。
(ったく、しつこい木だな)
だんだんとクロに疲労が見え始めた。
「お手伝いするわよ」
するとそこに幽々子が助けに入ろうとする。
やった!援軍が来たぞ!
「うるせぇ!引っ込んでろ!」
さっきの疲労感を感じさせない素早い動きで、クロが幽々子の足を掴み、後ろの方へと吹っ飛ばす。その姿はさながらハンマー投げのよう。―――いやいやいやいや。
テメェ何やってんだーーー!せっかくあの人が助けようとしてくれたのに、ハンマー投げする奴がいるかよ馬鹿っ!
(うるせぇ!馬鹿っていった方が馬鹿なんだぞ!大体あいつが居ても邪魔なだけなんだよ!)
お前だからって……、ハンマー投げは無いだろ〜ハンマー投げは。
あぁほら見ろ、あの人気絶してんぞ。この後怒られるのは僕なんだぞ?
(……ドンマイ☆)
この野郎……。いずれ仕返ししてやるからな……。
だが、今はそんな喧嘩をしてる場合ではない。西行妖を何とかしないと……。どうやってあの西行妖の上に居る、幽々子の亡霊?を封印すればいいんだ。全く近付けないぞ。
「仕方ねえ、あれ出すか。風刃!」
左手に、緑色の輝きを放つ刀を創り出す。だが、風刃の力では、西行妖は斬れないはずでは……。
(大丈夫だって。俺に任せとけ)
気のせいか、風刃の輝きがいつも僕が使う風刃の輝きよりも倍に輝いている。
(風刃ってのは元々俺のだからな。これなら斬れるぜ……多分)
今、多分って言ったよね?絶対言ったよね?うわぁ……凄い不安になってきた。
バッ、と一気に駆け出し枝を斬る。―――おっ、意外といい感触じゃないか?これなら斬れる……かも……って。
(おりょ?……全然斬れませんでしたー☆)
駄目じゃねぇかよ!もう諦めて霊夢呼び戻せよ!
(まぁまぁ落ち着け)
いやいや、落ち着いていられるかよ。風刃でも駄目なんだぜ?もう打つ手なしだよ。
(一つお前に教えて無かった事があった)
ん?教えて無いこと?はて、それは何だろう。
このごに及んで、「勝てませーん」とかほざいたら、容赦なくはっ倒すからな。
(そんな事は言わねーよ)
じゃあなんだよ。
(実は俺、能力持ってるんだドヤァ)
自身満々に大胆カミングアウトされてもですね……。
で、その能力とは?てか僕も使えるの、その能力。
(いや、お前には使えないな。それで、能力の名前だが、俺の能力は《全ての物を倍にする能力》だキリッ)
自身満々に能力の名前を言われてもですね……。
全ての物を倍か……。ちょっと詳しく教えてくれ。
(詳しく教えてやろう。その名の通りだ)
……、詳しくないから。全然詳しくないから!
なんだよ、その名の通りだって!全ての物って何だよ、倍ってどういう事だよ。
(全ての物って言っても限度はあるが、大体は何でも倍にできるぞ。そしてこの倍って意味は、その通りの意味の倍だ)
その通りの意味の倍って事は、つまり2倍であってるのか?
(そうだ)
……て事は、色んなものを2倍しちゃう能力ということか。―――凄いのか凄くないのかさっぱり分からん。
あっ、て事はさ、僕の身体能力とかも倍になってる?
(なってるぞ。だから、俺の時はこんなに強いんだよ)
ふむふむ。なら魔力は?
(もちろん倍になってるぞ)
―――凄い気がしてきた。
でさ、この能力がどうしたの?自慢したかっただけか?
(つまりだな、この能力で風刃を超えた物を創るんだよ)
なるほど!その考えはいいな。
一旦風刃を消して、新たな物を創るために集中する。
右腕を横に広げ、次第に青色の様な色をした武器を形成していく。
〈閃槍 雷刃〉
「いでよ、雷刃!」
その叫びと共に、右手に電気を纏った青色の槍が出現した。―――バチバチしてるなぁ。手が痺れそうだ。
刹那、西行妖が攻撃してきた。だが、枝は雷刃の放った雷によって焼き切られた。
焼き切られた後を見ると、焦げていた。……たった一瞬?強すぎだろ。
バリバリと枝を焼き切っていく。だが、まったく枝は減らない。
しかし、クロは焦らず一枚のスペルカードを宣言した。
〈雷電 ライトニング・ボルト〉
「いけえぇぇぇぇえ!」
雷刃が次第に巨大化していく。そしてそのまま、槍投げの要領で雷刃を思いっきり西行妖にぶん投げた。―――レミリアさんのグングニルみたいだなぁ。
流石に西行妖の方も、この攻撃はヤバイことに気がついたのか、おびただしい数の枝で雷刃を迎え撃つ。
だが、無意味だった。
どんなに枝が来ようとも、雷刃を止めることは出来ない。ましてや触れようとすれば、雷刃から放たれる雷により全て焼き切られていった。
西行妖に雷刃がぶつかった時には、あんなにあった枝も今はかなり減っていた。だがそれでも脅威には変わりない。未だに近付けそうな感じではなかった。
しかし、クロは勝利を確信していた。
(次がトドメだな。あの西行妖の上に居る奴を封印してやるぜ)
どうやって?まだ近付けないぞあれじゃ。
(任せとけって)
「おーい!霊夢、ちょっと来てくれ!」
なんとクロは、霊夢を呼び戻した。あぁそうか、封印といったら霊夢だもんな。なんだっけ、夢想封印だったっけ?
霊夢は「何よ」と若干お怒り気味でやってきた。
「俺が合図したら、あの西行妖の上に居る奴を封印してくれ」
「それだけ?分かったわ」
あれ?霊夢にはそれだけしか言わないのか?
(うん)
大丈夫か?霊夢の力を借りなくて。
その時、クロがスペルカードを宣言した。
〈他符 フォーオブアカインド〉
そのスペルカードは、フランちゃんのスペルカードだった。―――お前いつの間にそんなものを創った……。
(いやぁ、オリジナルを創るより、他人のスペルカードを創った方が簡単じゃん?)
こいつ……。
分身を出現させたのはいいのだが、問題は解決していない。どうやったらあの枝を回避しきって、あの幽霊みたいな幽々子を封印するかだ。……封印は霊夢がするんだけどね。多分。
てかさ、霊夢だけでいけるんじゃないの?
(いや、無理だな。あの巫女でもかなりきついだろうな)
そうなんだ。あの霊夢でもやっぱりきついのかー。
それはそうと、分身なんか出してどうすんのさ。もう魔力も残り少ないぞ?
(大丈夫、任せろ)
「霊夢!……身構えとけよ」
「言われなくとも、構えてるわよ」
「オーケー了解。―――じゃあ、いくぞ」
三人の分身+僕(クロ)の四人が一気にスペルカードを宣言する。
〈光符 メテオールスパーク×4〉
四人の手元から光線が放たれる。その四つの光線は合わさり、巨大な流星のようになり、枝を消滅させていった。
ポッカリと西行妖の上に居る奴の所まで空間が出来る。
「今だ!」
「分かってるわよ」
枝が空間を塞ぐより早く、霊夢が西行妖を操っている本体に札を突きつけスペルカードを宣言した。
〈霊符 夢想封印〉
目の前が眩く光目を閉じる。しかし、それは一瞬。目を開けるとそこには、ただの大きな木が佇んでいた。
どうやら封印に成功したらしい。ということはつまり……、
「やっと終わったーーー!」
(てなわけで、お前の体返すわ。お疲れちゃーん)
フッ、と意識が飛んだかと思ったら次の瞬間、自分の体が返ってきた。―――!?
全身を急激な筋肉痛が苛む。もはや立ち上がる事すら出来ずその場に大の字で倒れ込む。―――何事だ!?めっちゃ痛いぞ……。ついでに魔力も空っぽだ。
(あぁそうそう、俺がお前の体を使ったら代償として一時の間、体が筋肉痛に苛まれるから気をつけろよ)
あの野郎……。大事なことはもっと早く言えよ。
(慣れると痛くなくなるから大丈夫だって)
いやいや、そういう問題じゃないから。
何もできずただ単に寝転がっていると、そこに霊夢が近付いてきた。
「あぁ、霊夢。お疲……れ?」
霊夢の顔を見る。するとその顔は完全に血管が浮き出まくっていて、怒ってますオーラ全開だった。
「片倉、あんた私に邪魔って言ってくれたわよね?」
ニッコリと微笑む博麗の巫女さん(鬼神にしか見えない)
「いや……あれはですね、僕では無いというか……僕というか……」
「問答無用!」
寝転がっている無抵抗の人間に針を投げつける巫女さんがそこにいた。―――イギャァァァァ!三十六計逃げるに敷かず!
さっきまでの筋肉痛は何処へやら、急いで起き上がり走って逃げる。その時後ろを見ながら走っていたせいで、何かにぶつかり尻餅をついてしまった。
「イテテ……何だ?」
立ち上がりながら見てみると、居たのは霊夢に劣らずとも勝らない位に血管が浮き出ていた幽々子だった。
「あらあら?どうしたのかしら?ウフフ……」
あぁ、終わった。短い人生だったなぁ。
最後に見た光景は、大量の蝶に囲まれて御札と針を投げつけられた事だった。
「次したら容赦しないわよ」
もはや容赦もクソも無いけどさ。
「分かった?」
「は、はい!」
結局あの後、僕は正座をさせられながら、あの二人(主に霊夢)にこってり一時間お説教された。
「さてと、これでようやく異変も解決したわね」
いや待って霊夢、これでようやくって最後の僕のあれも異変ですか?それはおかしくないですか?僕は悪くないのに?
「おう、そうだな。なら早速あれの準備するか?」
「あれって何?」
「宴会よ」
「宴会?」
「そうよ、宴会よ。この幻想郷には、異変を解決したら宴会を開くっていうのがしきたりがあるのよ」
へぇ〜そうなんだ〜。
「ちなみに、紅魔館の時はお前が解決しちまったせいで、宴会は無かったけどな」
へぇ〜そ、そうなんだ〜(汗)
「宴会なら白玉楼で行いましょうか。ちょうど桜も綺麗ですし」
「そうね。それがいいわ」
「それなら早速準備するか!」
この3人のやりとりをぼうっと見ていたら、いつの間にか宴会の場所が決まっていた。……手馴れてるなぁ。
「片倉、あんたは食材買ってきて」
「えーーー」
「あぁ?」
「はい、喜んで!」
いやぁ、パシられるのって楽しいなぁ(泣)
涙を流しながら食材を買いに行く僕であった。