傭兵幻想体験記   作:pokotan

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終わらぬ冬と来ない春 第5話

ザシュッ、と枝が突き刺さる音、飛び散る鮮血。

 

「ぐ…ぁ……」

 

だが、貫かれたのは僕ではなく、魔理沙だった。

僕を庇ったせいで、肩が貫かれている。

ボタボタと、地面に血が滴り落ちたその瞬間、魔理沙が壁へと叩きつけられた。

何とか立ち上がり、魔理沙の元へと駆け寄る。駆け寄ってみたものの、魔理沙はピクリとも動かない。

 

「おい!魔理沙!」

 

急いで状態を確認する。―――息をしていない。

胸に耳を当ててみるが、心臓の鼓動は感じられない。恐らく、先ほどの衝撃でショックを受けて心肺停止になったのだろう。見たところ骨も折れている。……まずいぞ。このままじゃ……。

急いで心肺蘇生を行おうとした時、枝がすぐ側に突き刺さった。

ちくしょう!邪魔すんなよ!そう叫ぼうとした時、霊夢が西行妖の前に立ちはだかった。

霊夢に向かう無数の枝の攻撃、しかしその攻撃は結界によって止められていた。

 

「片倉!早く魔理沙をなんとかしなさい!」

 

「わ、分かった」

 

急いで心肺蘇生を始める。

何度も何度も心臓マッサージをするが、心臓が動かない。

死ぬな!心の中で強く叫びながら蘇生を続ける。

 

「魔理沙あぁぁ!」

 

諦めかけたその時。

 

「はぁ!ゲホッゲホッ!」

 

魔理沙が息を吹き返した。―――ふぅ……よかった……。冷や汗がどっと出たよ。

 

「大丈夫か魔理沙?」

 

「あ、あぁ。だ、大丈夫、だぜ」

 

本人は大丈夫だと言っているが、肩に刺し傷を受け、骨も軽く二箇所は折れている重症だ。とにかく安全な場所に避難させよう。

魔理沙を担ぎ、急いで西行妖からかなり離れた木陰へと運ぶ。

 

「ここなら大丈夫だ」

 

「助かるぜ……」

 

とりあえず肩の出血を止めるために、バックパックから包帯とガーゼを取り出し、止血しておく。

骨折箇所は、固定したかったが、あいにく固定するための物がなかったので、そのままにしておく事にした。

 

「これで何とかなるはずだ。絶対に動くなよ」

 

そう言うと、僕は霊夢と西行妖の元へと戻ろうとする。

 

「ま、まさか戻る気か?」

 

「ああ。霊夢がまだ戦ってるしな」

 

「そうか。気をつけろよ」

 

「ああ、分かった」

 

僕は西行妖へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢の結界はもう破られる寸前だった。

僕も急いで加勢に入る。その時、幽々子が指を指した。

 

「西行妖の真上にいる子を見て見なさい」

 

さっきも見たが、西行妖の真上に浮いている人物、あれはどう見ても幽々子にしか見えなかった。

 

「あれは……、あなたですよね」

 

「えぇ。昔の私ね。どっからどうみても」

 

「昔の私?」

 

「ようやく思い出したのよ。あの西行妖の下には私の死体が封印されてる事をね」

 

死体が封印されてた?はて、どういう事なの?ちょっと詳しく聞かせてもらいたいところだが、今は呑気にお話をしている場合ではない。

 

「そんなのどうでもいいわ。とにかくあの木を何とかしないと、まずい事になるわよ」

 

霊夢の言う通り、あの西行妖を止めないと、この場にいる全員が死ぬ事になるだろう。

だが、どうすれば……。

 

「そうね。多分だけど、西行妖の上にいる昔の私を封印したら、収まるはずよ」

 

どうやら幽々子曰く、あの西行妖上にいる、昔の幽々子をもう一度封印すればいいらしい……多分。

 

「封印すれば戻るのよね?」

 

「確証は無いわ。でも、やってみる価値はあるはずよ」

 

「……わかったわ。片倉、行くわよ」

 

「え〜、まじすか……」

 

いやいや、行きたくないから。あの触手みたいな木の枝が無数に乱舞してる場所に突撃とか自殺行為だから。

一応これでも、僕は普通の人間ですよ?

 

「あぁ?」

 

あぁー!神社の巫女さんからヤクザのような声がー!巫女としてその声はどうかと思いますよ霊夢さん。

 

「冗談です。喜んで行かせてもらいます!」

 

これはもう仕方ないよね。うん、仕方ない。怖いもん、霊夢さんの目が。

あぁ、だからそんなに睨まないで!失神しちゃうから怖すぎて。

 

「宜しい。さぁ、行くわよ!」

 

ここまで来たら腹を括ろう。

結界がとうとう破れた。それに伴い、大量の枝がムチのように暴れだし、周りのもの全てを破壊しだす。

何とかして近づこうとするものの、枝が多くて全く近づけない。……無理じゃね?これ。

とりあえず、地道に枝を一本一本ずつ切り倒して近づく作戦でいこう。

風刃を構え、近づいてきた枝を一本を斬る。しかし、枝は斬れない。ましてや、そんなに切り込みも入っていない。……硬すぎるだろこの枝!?

 

「ちょっ、霊夢!これ斬れない!」

 

「はぁ?枝が斬れない?嘘つかないでよ!」

 

「いや、本当だって。マジで斬れないから!」

 

まったく枝が斬れない僕とは違い、霊夢の方は迫り来る枝をバシバシと弾幕で粉砕していく。

試しにもう一回斬ってみるが、やはり斬れない。―――何でだよ!?

 

「なんで斬れないんだ!」

 

「単純に力不足なのよ」

 

……、それだ。力不足だ。

霊夢さん、僕はやっぱり後ろに引っ込んで、見学しておきますね。

 

「違うわよ。単にその刀が力不足だって事よ」

 

風刃が力不足?でもこれ、僕のスペルカードの中でもかなりの高性能スペルカードだよ?ちなみに一番強いのは、幻想永劫斬。

おぉそうだ、幻想永劫斬ならあの枝斬れるかも。……体力の消費が激しいけど。

その時、一本の枝が目の前に。よけることは無理だろう。

 

「ええい、ままよ!」

 

〈一閃 幻想永劫斬〉

 

居合斬りで枝を斬る。しかし、少し大きめな切り込みが入るだけで、完全に斬る事は出来なかった。―――嘘でしょ……。硬すぎるにも程があるだろ。

そこでなんとなく、枝に向かって〈ハイドラショック〉を喰らわせてみる。すると、切り込みの所から綺麗にポキッと折れた。

やった!折れたぞ!だが……体力がかなり削られた。

正直、この枝一本折るだけでどれだけの体力が必要なのか分かったもんじゃない。てか分かりたくない。

 

「ほら、何休んでるの。まだまだ枝が飛んでくるわよ」

 

「ハァ……、ハァ……。まじかよ……」

 

霊夢はいいよね。スイスイよけて、弾幕当てる簡単なお仕事だから。羨ましいよ。

そんなことを考えていたら、不意にきた枝に当たり吹き飛ばされた。―――魔力鎧を展開して正解だった。じゃないと今のは死んでたな。

即座に起き上がり、先ほど僕を吹き飛ばしてくれた忌々しい枝に向かって、幻想永劫斬とハイドラショックを喰らわせ、へし折る。

その後も、周りの枝を見つけては、折る、折る、ひたすらへし折る。

しかし、体力お構いなしにひたすらそんな事をしていると、必ずつけが回って来るようで、体力切れで体が動かなくなった。

力なく地面に大の字に倒れる。動かないといけないことは分かっているが、いかんせん体が本当に動かない。

匍匐前進で急いで戦線離脱しようとしたが、枝に捕まってしまった。―――あぁ、やばい。

霊夢に助けを頼もうとしたが、霊夢に僕を助けるほどの余裕が無さそうだった。恐らく、あの霊夢でも体力の限界というものがあるのだろう。

 

「ちょっ、片倉!早く抜け出しなさい!」

 

「いやー無理だ。もう抜け出す程の体力は残ってない」

 

「嘘でしょ!」

 

いやいや、本当ですぜ霊夢さん。

ガッ、と枝が首に絡みつき締めあげようとする。意外と器用なんだな。

 

「片倉!」

 

霊夢が助けに入ろうとするものの、他の枝達に阻まれる。

意識が遠のいてきた。息ができない。辛い。苦しい。

そんな感情が一気に押し寄せてくる。

あぁ、こんな所では死ぬのか。せめて最後は格好いい死に方で死にたかったなぁ。

そして、僕は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うーーーん…」

 

目を覚ました。辺りを見回すとそこは暗闇。―――確か、僕はあの時……。あぁそうか、死んだのか僕。

でも天国ってこんなに暗いっけ?となるとここは地獄?

 

『どっちでもねーよ』

 

「ん?」

 

ふと、後ろから誰かの声が聞こえた。

 

「誰だ!」

 

すぐさま戦闘態勢に入る。

 

「姿を現せ!」

 

『おいおい、そんな警戒することはないだろ』

 

声の主が姿を表した。その姿は……え?

 

「……僕?」

 

その姿はまさに僕自身。―――ちょっと意味がわからない。頭が混乱してるんだが。

 

『そうだ。俺はお前だ。そして、お前は俺だ』

 

「どういうこと……?てか、ここはどこ?」

 

『まだわからないか?ここはお前の精神の中だよ。簡単に言えば、心の中みたいな感じだな』

 

「心の中?どうしてそんなとこに僕はいるんだ。僕はあの時死んだはずだろ」

 

そうだ。僕はあの時に首を絞められて死んだはずだ。

 

『いやいや、まだ死んでないぞ』

 

「死んでない?」

 

『ああ、まだお前は死んでない。死ぬ一歩手前でお前をここに呼び込んだ。なかなか苦労したぜまったく』

 

「ここに呼び込んだ?お前いったい……」

 

『だーかーらー、俺はお前の心の中に居る奴なんだよ』

 

「何故僕の心の中に居るんだ?」

 

『俺がここに居るのは他でもない、お前が二重人格だからだ。まぁ、その様子だと自覚は無いらしいがな』

 

「僕が、二重人格……?」

 

『ちなみに俺はお前の心の黒い部分の人格。まぁさしずめ、お前の影みたいなもんだ』

 

二重人格、そして僕の心の影……。理解し難い事ばかりで頭がますます混乱してきた。

 

「いつからお前は生み出されたんだ?」

 

『幼少期……いや、お前が産まれた時に俺も生まれたな。まぁお前には自覚がないから分からんか。だが、一度だけお前に干渉した時があったぞ。心当たりはないか?ヒントは紅魔館の異変の時だ』

 

紅魔館の異変の時?うーん……あっ!もしかしてあの時か。

僕がレミリアさんとの戦いの時に風刃を生み出した時か!

 

『そうだ、お前が風刃を生み出す時に俺が力を貸したのさ。だからあの時、お前の力を大きく上回るあのスペルカードが出来たって訳だ。感謝しろよ』

 

「そうだったのか……。ところで、僕はこの空間からいつになったら出られるんだ?」

 

『出られる事は出られるぞ。だけどな、分かってるとは思うが、お前死ぬぞ?』

 

うぐっ……確かにそうだ。

 

「じゃあどうするんだよ。このままずっとここに居るのか?」

 

『まぁ落ち着け。焦ってちゃ冷静な判断なんか出来やしないぞ』

 

そうだ。あいつの言う通りだ。

落ち着け……餅つけ……。いや、それはおかしいだろ。なんだよ餅つけって。

 

『落ち着くの早いな』

 

「そうか?それより、これからどうすればいいんだ?このままじゃ、らちがあかないぞ」

 

『そこでだ、俺に1つ提案がある』

 

「提案?」

 

『お前の体を俺に貸せ。そうしたら、あの木を何とか出来るぞ』

 

「本当か?」

 

『本当だって。信じてくれよ』

 

「……分かった」

 

まぁ、このまま何もしないよりはマシかな。もしも駄目だったら……諦めて天国なり地獄なり行こう。

 

『それじゃ、少しの間お前の体を借りるぜ』

 

真っ暗闇の空間が急に明るくなり、次の瞬間、現実の世界へと意識が戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だらんと力なくぶら下がる片倉。その姿を見た霊夢と魔理沙は、片倉は死んだと思った。

だが、死んだと思ったその時、片倉は自分の首を絞める枝を右腕の手刀で切り捨てた。

 

「素手で……切った。嘘でしょ……」

 

霊夢が驚くのも無理はない。

枝を一本切るだけでもあんなに苦労したはずが、たったの手刀一振りで切り落とすのだから。

無論、魔理沙も驚いている。だが、霊夢が驚いた理由と同じ理由で驚いた訳ではない。魔理沙が驚いたその理由は―――

 

(あいつ、魔力を右腕に纏わせて切ったよな。まさか、義手を使わずとも魔力を操れるようになったのか!?)

 

枝の拘束から開放され、地面に着地した片倉は伸び伸びと腕を上に伸ばした。

 

「あ〜、初めての外の空気は最高だな〜」

 

(伸び伸びしてる場合じゃないだろ!)

 

ほら見ろ。急にそんな事を言い出すもんだから、霊夢と魔理沙が変な目で見てるじゃないか。

あっ、ちなみに体はあいつに貸してるんで、僕はこうして心の中で会話することしか出来ないよ。

そういえば、あいつの名前って何だろう。あいつだけってのも可哀想だよな。

 

(俺の名前か?そうだな……、お前が勝手に決めていいぞ)

 

勝手に決めていいのかよ……。それじゃあ、黒の人格だから……クロとかどうだろうか。

 

(犬の名前みたいじゃねえかよ。もっと他にましな名前は無いのか)

 

そんなこと言われてもですね、僕にはネーミングセンスの欠片はこれっぽっちも無いんですよ。

というかそんなに余裕かましてて大丈夫なのか?

刹那、西行妖が攻撃をしてきた。

ちょっ、危ない!よけてーーー!

しかし、いっこうに避ける素振りを見せないクロ。―――今度ましな名前を考えるか……。

もう駄目だと思ったその時、寸前で枝を片腕でだけで止めた。そしてそのまま、握りつぶした。……えっ?握力強すぎない?

 

「よっしゃ、暴れるぜーーー、止めてみな!」

 

おいおい、お前は何処のキョウリュウジャーだよ。

 

(えっ?じゃあ、100m世界チャンピオン?)

 

いや、それはスパイダーマッだから……。てかそんなことはどうでもいいから、早くあの西行妖を何とかしてくれ。

 

(へいへい了解)

 

果たして、僕のもう一つの人格はあの西行妖を止めることは出来るのか。


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