傭兵幻想体験記   作:pokotan

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終わらぬ冬と来ない春 第4話

片倉と魔理沙が冥界に居る頃、博麗霊夢は炬燵に入ってみかんを食べていた。

 

「はぁ……。まったくもって寒いわね」

 

「それなら解決しに行けばいいじゃない」

 

空中に突如隙間が開き、紫が現れた。

 

「面倒。てか帰れ」

 

「はぁ……。博麗の巫女としてどうかと思うわよ。ゆかりん悲しい」

 

「嘘つきなさい。てかそのゆかりん止めなさいよ。気持ち悪い」

 

「あら?なかなか冷たいわねぇ。とにかく異変の解決しに行かないと、あの子達死んじゃうわよ」

 

「私の知った事じゃ無いわよ」

 

「白黒の魔法使いはどうでも良いんだけどねぇ……。あの子だけは死なれたら困るのよ。だから、早く解決してきて頂戴」

 

「またあいつの事?」

 

霊夢は軽い怒り口調で紫に言う。だが、紫はそんなことは気にも止めずに笑う。

 

「あんた……」

 

「まぁそういう事だから、宜しくね〜」

 

閉じる隙間と共に紫は消えた。

紫が居なくなり、霊夢だけになった部屋は少しばかり寂しく感じる。

 

「はぁ……」

 

季節外れの雪を眺めながら、深くため息をつく。

 

「面倒くさい奴……」

 

霊夢はそう呟くと、炬燵から出て、外へ出る準備をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい魔理沙、おいてくぞー!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれだぜ……」

 

大きな階段を息を切らしながら登る魔理沙。―――箒で飛べばいいのにね……。まぁ、これはこれで面白い光景だから言わないけど。

てか最近、魔理沙太った?これを上りきれば痩せるかもよ。

ビュン!緑色の弾幕が顔面目掛けて飛んできた。あぶねぇ!

 

「失礼な事を考えるからだぜ」

 

「す、すいません」

 

なぜバレたのか。もしかして顔に出てる?

そんなこんなで、やたらとでかい階段を登りきった。

階段を登りきった先には、巨大な和風の屋敷があった。―――あれが白玉楼か。……む?

バッ!とその場から飛び退く。その次の瞬間、弾幕が元いた地面を抉った。

弾幕が飛んできた方向を見ると、一人の女性が浮いていた。

その女性は口元を扇子で隠しており表情は読み取れないが、おそらく笑っている事が分かる。

 

「ウフフ……。ようこそ、白玉楼へ」

 

「お前が異変の犯人だな!」

 

「そのとおり。私は西行寺幽々子。この異変の犯人よ」

 

とうとう現れたか。先程の師匠や妖夢とは比べ物にならないくらいの妖気が感じ取られる。

 

「お前は春度を集めて何がしたいんだぜ」

 

「西行妖を開花させ、その下に眠る者の封印を解くためよ」

 

「西行妖?」

 

「あの大きな桜の木のことよ」

 

幽々子が指をさした方を見ると、そこには大きな桜の木が生えていた。しかし、その木は開花しておらず、まだ蕾の状態だった。

 

「とにかく、さっさと春度を返せ」

 

「それは困るわ。あと少しであの西行妖は開花するのだから」

 

「そうかい。ならお前を退治して、春度を奪い返すだけだぜ!」

 

そう叫ぶと、先手必勝、緑や紫、赤等の色とりどりの弾幕を飛ばしながら魔理沙は箒に跨って幽々子の方へと突撃していった。―――あれ?僕飛べないけど、どうすれば……。

飛んでくる色鮮やかな弾幕を、紙一重で華麗によけていく幽々子。その姿は、さながら蝶のよう。

負けじと弾幕を飛ばし続ける魔理沙だったが、まったく幽々子にはかすりもしない。―――もう、僕居なくてもよくないですか?これ。

 

「ぐぬぬ……、だったらこれだぜ!」

 

〈天儀 オーレリーズソーラーシステム〉

 

魔理沙の周りに無数の青色の球体が現れ、ぐるぐると周りを回り出す。するとその球体は、幽々子に向かって大量のレーザー弾を放ち出した。

さすがにレーザー弾をよけるのは辛かったようで、幽々子も弾幕を放ち出した。

幽々子の弾幕により、魔理沙のレーザー弾はことごとく打ち消されていった。

レーザー弾の弾幕は無駄だと悟った魔理沙は、次なるスペルカードを宣言した。

 

〈魔空 アステロイドベルト〉

 

星のような形をした弾幕が魔理沙から幽々子に向かって放たれる。その弾幕は、正面と左右の三方向に別れて幽々子に襲いかかる。

迫り来る星型の弾幕を前に幽々子は余裕の表情を崩さず、初めてスペルカードを宣言した。

 

〈亡郷 亡我郷 -宿罪-〉

 

色鮮やかで華麗な弾幕が、魔理沙の放った星の弾幕を打ち消しながら、波のように魔理沙に迫る。その弾幕を箒で飛んでいるとは思えない動きで、紙一重で全てかわしていく。刹那、魔理沙の右方向から、レーザーが薙ぎ払われた。

 

「うわっ!」

 

ギリギリのところでレーザーを回避する。だが、レーザーを避けたとはいえ、まだまだ弾幕が収まる気配はない。

 

「ちょっ、片倉!助けてくれ!」

 

いやいや、飛べないのにどうしろと言うんだよ。―――でも流石にあの状態だとやられるのも時間の問題だな。

 

「早く!」

 

相変わらず箒で素早くよけているものの、次第に弾幕がかすりだした。……ヤバイな。

何か、何か無いのか!?

ふと、肩に掛かっていたある物の存在に気がつく。―――自動狙撃銃PSG-1があるじゃないか。

マガジンをセットし、初弾を装填。6倍率のスコープを覗き、引き金に指をかける。そうそう、安全装置の解除も忘れない。

その時、箒に弾幕が当たり、魔理沙が大きく体勢を崩した。そのせいで、目の前に迫った弾幕に対し、対応が間に合わなくなる。

まずい、ギュッと目をつぶり、来るべき衝撃を待つ魔理沙。だが、その弾幕は、僕の狙撃によって打ち消された。

 

「片倉!」

 

「大丈夫か?魔理沙」

 

最初の一発から間髪入れずに、次々と弾幕を打ち消していく。いやぁ、この銃買ってきて正解だったな。

狙撃による援護により、魔理沙がだんだんと幽々子を押し始めた。だが、まったく幽々子の余裕の表情は崩れない。

その時突然、幽々子がスペルカードを宣言した。

 

「ウフフ、そろそろお開きの時間ね」

 

〈亡郷 亡我郷 -さまよえる魂-〉

 

幽々子を基点に全方向にとんでもない量の弾幕が飛ばされる。流石にあの量はちょっと反則だろ……。

魔理沙も攻撃する余裕がなく、よけるのに必死になっていた。

僕も急いで狙撃で援護するが、いかんせん弾幕の量が多しぎて捌ききれない。そして何より……弾が足りない。

 

「魔理沙!すまん!弾切れだっ!」

 

「んなっ!?まじか!!」

 

援護が無くなり、だんだんと弾幕がかすり出す。

もはやこれまでか。諦めかけたその時。

 

〈夢境 二重大結界〉

 

すべての弾幕が止まった。―――いや、止まったと言うより、結界により打ち消されていた。これは……?

後ろを見てみると、赤と白の巫女服を身にまとった博麗の巫女、霊夢が居た。

 

「フフフ、ようやく来たわね。博麗の巫女」

 

「ったく、面倒くさいわまったく……。あんたを速攻でぶっ倒して、さっさと異変なんか解決してやるから、覚悟しなさいよ」

 

「ウフフ……望むところよ」

 

ビシッ!と幽々子に指をさして格好いいセリフを言う霊夢。うーん、格好いいなぁ……。まさに真打ち登場!みたいな感じで。

その時、霊夢がこちらを向いた。

 

「あら?片倉じゃない。あなたは、なんで戦ってないのかしら?」

 

お前も戦えよ、と言わんばかりの口調。でも、僕にも戦えない理由があるのだ。それは―――

 

「えっ?だって僕飛べないじゃん。飛んでる奴を相手には戦えないですわ〜」

 

「……そうだったわね。とりあえず、片倉はそこでじっとしときなさい」

 

「は〜い。分かりました〜」

 

飛べないなら仕方ない。うん、仕方ない。ここは大人しくじっとしておこうしよう。

 

「魔理沙はちゃんと私の援護しなさいよ」

 

「おう!任せとけ!」

 

「そろそろいいかしら?」

 

「いつでも来なさい。速攻でぶっ倒すから」

 

もう霊夢が喋る言葉が、女の子が喋る言葉じゃ無くなってきてるんだが、これはいかに……。まぁ、普段からだらだらしてるオッサンみたいな感じだし、問題無いか。

ビュン!すごい速度で御札が飛んできて、足元に突き刺さった。……あれ?あの御札って紙で出来た御札ですよね?

 

「次は無いわよ」

 

ニッコリと微笑む霊夢。―――あれ?体の震えが止まらないぞ。あと冷や汗も出てきた……。

 

「それじゃ、まずは私からの攻撃ね―――」

 

幽々子がスペルカードを宣言しようとしたその時。

 

〈神霊 夢想封印 瞬〉

霊夢が二重結界の力により幽々子の目の前に瞬間移動。

あまりの速さに対応が一歩遅れた幽々子に容赦無く回し蹴りを顔面に……うわぁ、容赦ねぇ。てか弾幕じゃなくて蹴りって、幽香さんと同じ事やってるよ霊夢……。

顔面に猛烈な蹴りがジャストミートした幽々子は、思いっきりぶっ飛ばされて、白玉楼の壁に激突した。その光景はさながら、某サイヤ人を題材としたアニメの戦闘シーンのようだった。凄いね。痛そうだけど。

崩れた瓦礫の中から幽々子が出てきた。……無傷だ。あの人やっぱり某サイヤ人……なわけ無いか。

瓦礫の中から這い出てきた幽々子は、表情こそは笑顔だが完璧に怒っていた。―――笑いながら怒る人って始めてみたわぁ……。

 

「ふ、ふふ、なかなか荒いのね、博麗の巫女の戦い方って」

 

「あら?私、最初に言ったじゃない。速攻でぶっ倒すって」

 

「フフフ……、面白いわ博麗の巫女。なら、このスペルカードを攻略してみなさいな!」

 

幽々子の周りに、美しい蝶が集まってくる。その蝶は本物ではなく、半透明の鮮やかな色をしている蝶だった。

幽々子の周りを無数の蝶が舞い踊る光景は、まるで幻想的だった。

 

〈亡舞 生者必滅の理 -死蝶-〉

 

周りを舞い踊っていた無数の蝶が急に全方向へと飛び出す。その光景に目を奪われていると、無数の蝶達の隙間から、半端じゃない量の美しい弾幕達が姿を現した。

 

「綺麗……」

 

魔理沙がポツリと呟く。確かに、ここまで綺麗な弾幕は今までに見たことない。このスペルカードはもはや芸術と言えるであろう。

しかし、今は見とれている暇は無い。刻一刻と弾幕が近づいてくる。―――まぁ、僕は遠くで眺めてるんで関係無いんですけどね。ハハハ。

 

「魔理沙!見とれてないで行くわよ」

 

「ハッ!お、おぅ!」

 

霊夢の一声で我に帰った魔理沙は、一気に動き出した。

霊夢と魔理沙は、あの弾幕と蝶の群れにあろう事か突っ込んでいった。……えっ、あれよける気なの?

 

「スゲェ弾幕だけど、これなら一網打尽だぜ!」

 

〈恋苻 マスタースパーク〉

 

膨大な光を放ちながら、迫り来る弾幕に向かって一直線に光線が飛んでいく。いくばかの弾幕を打ち消し進んでいった光線だったが、濃密な量の弾幕の前には屈した。

 

「あれ?……えっ?」

 

スペルカードが予想以上の効果を発揮せず、慌てて弾幕を回避する魔理沙。しかし、隣の霊夢は涼しそうな顔で、神業のように弾幕をすんでの所でかわす。―――あの人って本当に人間?

その時、大事なことを僕は思い出した。

幽々子のスペルカードは全方向に容赦ない量の弾幕を飛ばす。その弾幕の射程距離はパターンにもよるが、今回はかなり長いようで、500mは飛んでいる。僕が居るのは、幽々子から約300m離れた地点。―――そう。つまり、そう言う事だ。

……こっちまで流れ弾が飛んでくるじゃねえか!

とう!はっ!やっ!あの手この手で飛んできた流れ弾、もとい流れ弾幕を回避または弾き返す。―――ちくしょう、誰だよここでじっとしろって言った奴!

 

「あぁ、鬱陶しいわ」

 

「ウフフ……、相当苦しんでるようね」

 

「ったく。魔理沙!」

 

「うわっとと。どうした霊夢!」

 

「ちょっと私のために道を開けなさい」

 

「任せろだぜ!」

 

〈魔砲 ファイナルスパーク〉

 

魔理沙の手元の道具が力を溜める。そして次の瞬間、耳をつんざくような爆音と共に、5mはゆうに越えるほどの大きすぎる光線が放たれた。

その光線は、向かってくる弾幕をことごとく打ち消していき、遂に濃密な弾幕の壁を貫通した。

 

「今だぜ霊夢!」

 

「ナイスよ魔理沙」

 

迫り来る弾幕の壁に先ほどのスペルカードによりポツリと開けられた隙間。それに向かって、高速で突っ込んでいく霊夢。その速さは、弾幕の壁に空いた隙間が閉じるよりも先に、幽々子の目の前まで到達するほどだった。

余裕の顔から一変、驚愕の顔に変わった幽々子の顔に、霊夢は一枚のスペルカードを突きつける。

 

「終わりよ」

 

〈霊符 夢想封印〉

 

幽々子周りを囲む大きな光の玉。それらは一気に幽々子へと迫る。

 

「フフ……流石ね。博麗の巫女」

 

幽々子が、フッと微笑みその後、眩しい光が辺りを包み込む。光が収まった後、地面に横たわる幽々子の姿があった。その顔は、負けたはずなのに晴れ晴れとしていた。

 

「ほら、負けたんだからさっさと春度返しなさい」

 

「勿論返すわ」

 

ようやく終わったか。緊張感が解けたのか、疲れが一気にどっと来た。帰ったらまずはシャワー浴びたい気分だな。

しかし、異変が解決したというのに魔理沙の顔は険しい。どうしたんだ?

 

「おい!魔理沙どうしたよ、そんな険しい顔なんかして」

 

「か、片倉……あれ、見てくれだぜ」

 

「??」

 

魔理沙の指さした方向を見てみる。指さした先には、開花した西行妖があった。

 

「お〜綺麗だな〜」

 

「そうじゃない!もっとよく見ろって!」

 

ん?どういうこと?

開花した西行妖をよーく見てみる。すると、西行妖の真上に誰かが浮いていた。……あれは、もしや幽々子?

その誰かは、幽々子と同じ人にしか見えなかった。

だが、それだけではない。西行妖は、何故か、動いていた。―――あれ?桜の木って動くっけ?

 

「おいおい魔理沙、あの木……」

 

「あ、あぁ……。動いてるぜ」

 

何か嫌な予感がする。……とりあえず霊夢に報告するか。

霊夢に西行妖の事を言おうとしたその時、僕の体は、木の枝により思いっきりぶっ飛ばされた。

 

「がはっ!」

 

唐突の不意打ちにより反応が出来なかった為、受け身も取れずに無残に地面へと転がった。

何かの異変を察知してか霊夢が振り返る。

 

「んなっ!?何よあれ!」

 

霊夢が見たものそれは、木の枝を触手のように動かしていた西行妖の姿だった。―――何か、気持ち悪いなあ……。うねうねしてさ。

その時、西行妖の木の枝が僕の身体を貫こうと、無残に横たわる僕目掛けて一本の木の枝を動かした。

よけようにも先ほどの衝撃で体が動かない。そしてそのまま、木の枝が体を貫いた。


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