傭兵幻想体験記   作:pokotan

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終わらぬ冬と来ない春 第3話

冥界は、思ったよりも明るかった。しかし何よりも目に付いたのは、道に沿って植えられた桜が全て満開だったということだ。―――うん、これ絶対異変の犯人いるよね……。

 

「しかし、冥界っていう割には、下の方と何ら変わりねーな。桜も綺麗だし」

 

異変の犯人が居るかもしれないのに、呑気に桜を眺める魔理沙。何と言うか、もう少し緊張感をだな……。

でも桜が綺麗だなぁ……。ここで花見とかしたら楽しいかも。いやいや、そんなことより緊張感を……。

ふと、前方から人の気配を感じた。

 

「んっ?どうした片倉」

 

「いや……、前の方から誰かが来る」

 

カツン……カツン……、前方から誰かが近づいて来る。―――とうとう来たか。異変の犯人が。

僕と魔理沙は身構える。どうやらコチラに近づいて来るのは二人のようだ。

姿を現したのは、師匠と人里に居た少女だった。

 

「……えっ?」

 

「ほう、二人来ていると聞いたが、お主がおるとはな……」

 

「あの方は、人里の……」

 

「どうして、師匠が居るんですか!?」

 

「えっ?何?片倉こいつらと知り合いなのか」

 

「いや、知り合いというか、あの老人は僕の師匠で、あの少女は人里にいた子だ。でもなんでこんな所に……」

 

「そんなことを聞いてどうする。わしとお主は敵どうし、今はそれ以外の何者でもない」

 

「片倉、どうやらお話をする気は無さそうだぜ。行くぞ……」

 

―――戦うしかないのか。

 

「―――片倉」

 

「分かった。魔理沙はあの少女を頼む。僕は……師匠を倒す」

 

「分かったぜ」

 

気乗りはしないが、やるしかないなら仕方ない。師匠には悪いが、全力で倒す。

 

「どうやら、すんなり帰ってくれる様子では無さそうじゃな。妖夢よ、行くぞ」

 

「はい。魂魄妖夢、行きます!」

 

えっ、あの子の師匠って師匠の事なのか!?あと、名前は魂魄妖夢って言うんだ……。

いやいやそんなことより、とにかく師匠を倒す事に集中しよう。

バッ!と僕と魔理沙は各々の相手に向かって駆け出す。

ガキンッ!魔力で形成した刀と師匠の刀が火花を散らしながら金属的な音を奏でる。

 

「お主が相手か。たとえ弟子とはいえども、手加減はせぬぞ」

 

少しくらい手加減して欲しいものだよ、まったく。

とにかく、相手は剣術の達人だ。ここはとりあえず離れて戦おう。

ナイフの弾幕を飛ばしながら後ろへと下がる。だが流石は剣術の達人。飛んできたナイフを弾きながらすぐに距離を詰めてくる。

鋭い師匠の攻撃を何とか凌ぐ。攻撃に転じたい所だが、まったく隙が無い。

そこで僕は一枚のスペルカードを使う。

 

〈光苻 メテオールスパーク〉

 

光線を師匠に向けて放つ。

 

「無駄じゃ。その光線は前にも斬った」

 

光線が真っ二つに斬られ消える。

だが、光線を斬る事に集中していた師匠の裏を取ることは出来た。そしてそのまま後ろから、攻撃しようと拳を繰り出した時、僕の体は地面に叩きつけられていた。あっという間だった。

―――古武術か……。忘れていた。あの少女に古武術を教えたのは師匠だったな。

刹那、僕の顔面に刀が迫る。

あぶねぇ!何とか横へ転がり避ける。

 

「今のは殺す気でやったんじゃがの……流石じゃ、我が愛弟子よ」

 

「愛弟子なら殺す気でやらないで下さい!」

 

そんな狂愛は勘弁してください本気で。

さっと立ち上がり、腰を低く落としCQCの構えに入る。

師匠に向かって強烈な上段蹴り、だが少し身を引く事でかわされる。しかし、蹴った勢いで回し蹴りを繰り出す。その回し蹴りは見事に決まり、師匠の腹部にヒットする。

回し蹴りで怯んだ隙を逃さず、すかさず師匠の右腕を掴み、足を掛けながら投げ飛ばす。

だが、投げ飛ばそうとした時、その力を逆手に取られ逆に投げられてしまう。

 

「武術もなかなか強いではないかお主」

 

「まだまだこれからですよ、師匠」

 

起き上がりつつ素早く足払い。だが避けられる。

胸ぐらを掴み、投げ飛ばそうと試みるも、やはり投げ飛ばされる。

ぐっ……勝てない。剣術でも格闘でも、何をやっても勝てない。

チラリと魔理沙の方を見る。どちらも互角のようだ。

 

「余所見しとる場合かの」

 

拳が顔に向けて振り下ろされる。それを転がり避ける。

地面を見てみると、拳が当たったところに結構深めの窪みが出来ていた。―――おいおい、幽香さん並のパンチじゃねえか。喰らったら死ぬぞあれ。

 

「遅い」

 

ボゴォ!と腹を思いっきり蹴られて吹き飛ぶ。もはや人間離れしていると言っても過言ではない。

いったいどうやったら師匠に勝てるんだ……。

フラフラと立ち上がりながら、勝つ術を考える。だが、考えても考えても思いつかない。

(集中しろ、集中するんだ)

僕は全神経を鋭く尖らせて、師匠に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑や赤の色とりどりの弾幕が飛ぶ。だがその弾幕は、二本の刀によって叩き落とされる。

 

「おい!お前らは春度を集めて何がしたいんだぜ?」

 

「それを教えたら引き下がってくれますか?」

 

「いや、それはないぜ。お前らを退治してこの異変なんかすぐに終わらせてやるぜ!」

 

「そうですか……。ならこちらは、力づくで返り討ちするのみです」

 

どちらもお互いの間合いを意識しながら弾幕を放つ。

しかし、弾幕の威力や量ともに魔理沙の方が上回っており、次第に妖夢は押されていった。

 

「ぐっ……、ならば!」

 

〈獄炎剣 業風閃影陣〉

 

妖夢の持つ二本の刀が炎を纏う。その刀を横へと一薙ぎ。すると炎の旋風と共に赤い火の弾幕が魔理沙目掛けて飛んでいく。

 

「なかなか凄い弾幕だけど、パワーは私の方が上だぜ!」

 

〈魔符 スダーダストレヴァリエ〉

 

星の形をした色鮮やかな弾幕が、妖夢の放った炎の旋風と弾幕を飲み込んでいく。

しかしそれだけには留まらず、星の弾幕は旋風と弾幕を巻き込みながら妖夢の方へと飛んでいく。

 

「っ!?」

 

避ける暇もなく、一気に弾幕の波が妖夢を呑み込んでいく。だが、咄嗟の判断で防御をしたおかげで、なんとか耐えきった。

しかし、防御をしたとはいうものの、相当のダメージを喰らい、妖夢は立ち上がるのも必死の状態になっていた。

 

「私は……負けるわけには…行かない……」

 

残った力を振り絞り、もう一枚のスペルカードを宣言する。

 

〈天神剣 三魂七魄〉

 

巨大な三色の弾幕と七色の色鮮やかな弾幕が辺りを埋め尽くす。弾幕の量は先ほどのスペルカードを、圧倒的に超えていた。

だが、その弾幕を目の前にしても魔理沙は怖気付く事無く、不敵の笑みを浮かべていた。

 

「なかなかのスペルだけど、この勝負、私が貰ったぜ!」

 

〈恋符 マスタースパーク〉

 

大きな光線が眩しい光を放ちながら妖夢の元へと一直線に飛んでいく。

三色の弾幕達がその光線を迎え撃つが、圧倒的パワーの差により、次々と打ち消されていった。

そしてボロボロの妖夢を光線が呑み込んだ。

地面に落ちた帽子を叩きながら、倒れている妖夢の元へと近寄る。―――気絶していた。

 

「悪いな。本気出しすぎたぜ」

 

妖夢を倒した魔理沙は、片倉を助けに行く。

片倉はかなりボロボロだった。魔力で出来た刀を杖のようにして息を切らしている。対してあの老人は、余裕とはいかなくとも、まだまだ余力を残している様子だった。

 

「10分か……。普通の人間としては随分もったではないか。流石じゃの」

 

「はぁ……はぁ……、師匠って、人間ですか……?」

 

「わしは人間ではない」

 

「やっぱり……」

 

「だが、人間でもある」

 

「ん?それじゃ矛盾してるような……」

 

「半人半霊というものじゃ。半分が人で半分が幽霊。わしの一番弟子も同じ感じじゃの」

 

「そうだったんですか。どうりで人間離れしてるわけです」

 

バッ、と駆け出し、老人に斬りかかる片倉。だが、一瞬にして吹き飛ばされる。

慌てて魔理沙が駆け寄ろうとする。

 

「片倉!」

 

「来るなっ!」

 

今まで聞いたこともないような怒声で、思わず立ち止まる。

 

「今はサシで戦わせてくれないか」

 

「……。分かったぜ」

 

「ありがとう」

 

「二人組で戦わなくても良いのか?このままじゃ勝てぬぞ」

 

「えぇ……構わないです」

 

またしても駆け出して斬りかかる。だが、ことごとく塞がれて、カウンターを喰らい、また同じように吹き飛ばされた。

―――勝てない。

この言葉が片倉の脳内を支配する。だが、諦めない。絶対に諦めない。

 

「すまぬが、この戦いも終わりじゃ。楽しかったぞ我が弟子よ」

 

〈幻想永劫斬〉

 

ただの上段斬りにしか見えないが、直感的に喰らったら大変な事になるのが分かる。

だが、そんな斬撃を片倉は避けようともせず、受けようとする。

物凄い衝撃と土煙。それに片倉は飲み込まれた。

 

「片倉!」

 

魔理沙の叫びは、その土煙に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(勝てない。まったく歯がたたない)

 

なんせ相手は剣術と古武術の達人だ。しかも、半人半霊のおまけ付き。

 

(じゃあ、離れて戦えばいいじゃないか)

 

駄目だ。それじゃ決定的な一撃は決められない。

 

(じゃあ、刀で斬ればいいじゃないか)

 

剣術の達人に剣術で挑んでも無理なんだよ。

 

『我が剣術の極意は信じる心にあり』

 

あぁ……、師匠が言ってたなそんなこと。

 

『これが、幻想永劫斬じゃ』

 

あの技か……。多分あれなら師匠に勝てるかもしれないけどなぁ……、使えないもんな。

 

『己の刀を信じてみろ。そうすれば出来る』

 

そうか……。そう言う事か。

あのカードが使えなかったのは、そう言う事だったのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土煙がうっすらと晴れていく。そこに僕は、凛とした姿で立っていた。

 

「ほう……。耐えたか」

 

「片倉……」

 

ホッと安心する魔理沙。

僕は懐からあるスペルカードを取り出す。

そのカードは、ずっと使えなかったスペルカード〈幻想永劫斬〉だった。

カードは、ほんのりと光をおびている気がした。―――なんだろう、今ならこれを使えそうな気がする。

 

「どうやら、会得したようじゃな」

「はい。おかげさまで、ようやく会得しましたよ」

 

「かっかっか、並の人間なら会得は出来ぬのに、よく会得したものじゃ」

 

えっ、そうなの?

 

「さて、無駄話はこれくらいで、そろそろ決着をつけねばならぬな。お主の刀とわしの刀、どちらが勝つか」

 

「望むところです」

 

お互い刀を構える。

そして、一気に斬りかかる。

 

〈幻想永劫斬〉

 

〈一閃 幻想永劫斬〉

 

上段で斬りかかる師匠。それに対して、居合の構えの状態から一気に刀を振り抜く。

ぶつかる刀と刀。そのあまりの凄まじい衝撃で、僕と師匠は後ろに吹き飛ばされた。

 

「片倉!」

 

魔理沙が慌てて駆け寄ってきた。

 

「大丈、ゴホッ!ゴホッ!」

 

あの技結構スタミナの消費が激しいな。余りの辛さに、咳き込んでしまう。

よろよろと師匠の方へと歩いていく。

師匠はボロボロの姿で倒れていた。―――まさか……死んじゃった?

 

「馬鹿者。生きておるわい」

 

あっそうですか。

 

「まさか、最後の最後でお主に負けるとは。流石じゃったぞ。……その技はお主に譲ろう。これからは幻想永劫斬はお主だけの技じゃ」

 

「ありがとうございます師匠。ところでどうして師匠がこの異変に絡んでるんですか?」

 

「わしの名前を覚えておるか?」

 

「桃花剣山ですよね?」

 

「そうじゃ。だが、わしの本当の名は、魂魄妖忌じゃ」

 

そうだったのか。あの名前は偽名だったのか。でもどうして偽名なんか使ったんだろう?

 

「その方が格好いいじゃろ。」

 

そうですか……。僕にはその格好良さが分からないです。

 

「それで、どうしてこの異変に関係してたんですか?」

 

「わしは元々はここの使用人じゃった。だから、今回の異変に手を貸したのじゃよ」

 

「ふぅん。お前らは春度を集めてたようだが、どうしてなんだぜ?」

 

「それは幽々子様が直接お話になるじゃろう」

 

「幽々子?誰だそいつは」

 

「白玉楼の主と言ったところじゃの。幽々子様はこの先の白玉楼におられる」

 

白玉楼……。そこに異変の元凶が居るのか。

僕と魔理沙は、この先にあるという白玉楼に向かって進み出した。


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