人里で情報収集をしていた僕達だったが、まったく異変の情報は集まらなかった。
「だあぁぁぁあ!情報集まらねーなー」
まるで、何処ぞの猪木ボンバイエな叫び声をあげながら歩く魔理沙。とりあえず急に叫ぶのは止めようか。周りの人の目線痛いから。
「あーあー、もう異変なんてどうでもいいぜ」
「いやいや、それ言ったら駄目だろ。それでも異変の解決人か」
「でもよ〜、情報も何もないとなるとよ〜、どうにもならないんだよ〜」
おいおい、やる気出してくれよ。それでも異変の(ry
だが、だれるのも分からなくはない。こうも成果無しだと、やはり気分はだれてしまうものだ。
「とりあえず休憩しないか?」
「おっ、それ賛成だぜ」
近くにあったお茶屋に入り休憩する。甘いもの食べたいなぁ。あっ、このお団子食べよ。
お団子とお茶を注文する。
すると、近くで人の叫び声と怒鳴り声が聞こえた。いったい何事!?
バッ!と立ち上がり道に出てみると、どうやら暴漢が数人暴れていた。―――三人か……。
その暴漢達は、道行く人に暴力を振るっては、お金を巻き上げていくという何とも酷いことをしていた。
「おーおー、今の時代でもあんな奴はいたんだなー」
いやいや、呑気にしてる場合かよ。とりあえず警察を……いや、幻想郷に警察なんているわけないよな。
仕方ない、止めるか。幸い人数は三人と少ない。余裕だ。軍隊仕込みの近接格闘術を見せてやるぜキリッ。
止めにかかろうと、その暴漢達に近づこうとした時、一人の少女が立ちはだかった。その腰と背中には二本の刀。もしや、侍?
「あぁん?何だお前」
暴漢の一人がその少女の胸ぐらを掴む。
「おいおい、止めないか」
僕は咄嗟に止めにかかる。しかしその時、その男は少女によって地面に叩きつけられた。―――あの動きは……古武術か?
投げ飛ばす動作には完全に無駄な動きは無かった。恐らく達人級とはいかなくとも、その動きは洗練されている。多分、剣術のおまけで会得したのだろう。
残りの二人が一斉に少女に飛びかかる。だがその二人組もあっという間に倒される。―――強いな。
暴れる三人の暴漢を倒した少女は、もう用はないと言わんばかりの態度で踵を返す。
だが、最初に倒された暴漢の男がフラフラと立ち上がる。その手には小刀が握られていた。そのまま男は、その少女の背中目掛けて小刀を突き刺そうとする。
はっ!と後ろを振り向いた少女だったがもう遅い。もう対応が間に合わない距離だった。そしてそのまま―――
「うぎゃァ!」
―――ってさせるかよ。何とか間に合った僕は、その男の小刀を持った手首を掴み、そのままその男の手首を無理やり曲げ、小刀を奪い取り捨てる。
そして痛みで怯んだ所にすかさず腕を捻り地面に伏させる。そこにとどめの一撃として、顔面に一発パンチを入れ気絶させる。―――弱いなぁ……。これなら美鈴の方がまだ強いぞ。
すると、先ほど少女に倒された二人の男も立ち上がり、こちらに殴りかかってきた。……しつこいなこいつら。少しお灸を据えてやらないとな。
殴ってきた一人の男の右腕を半身でよけつつ左腕で掴む。そして、右の手の平をその男の顎にあて、足掛けを絡めつつそのまま押す。するとどうだろう。あっさりと地面に倒れたではないか。―――もちろんとどめの一撃は欠かさない。とりあえず腹部に蹴りを入れて気絶させる。
もう一人の男は、どうやら怖くなったのか棒立ちで身動きがとれていないようだ。フッフッフッ……もちろん見逃さないよ〜。
棒立ちになっている男の胸ぐらを掴み、少しこちら側に引く。するとその男は反射で後ろに戻ろうと力みつつ後ろへと下がる。その瞬間、右足を前に出し、足を掛けつつ前へと押し倒す。そして倒れた男の首を締めあげ、意識を落とす。―――ちょっとやりすぎかな?いや、これくらいがちょうどいいだろ。こいつらには。
「よしっ、終わりっと」
周りを見てみると、唐突の事で何が何だか分かっていないようで、周りにいた人々は口をポカンと開けていた。―――あれ?やっぱりやり過ぎた?
しかし、我に帰って状況を理解すると、その人々は暴漢を止めたことによる拍手と賞賛を僕と少女に送った。
「すいません。助けてもらいましたね」
先ほどの少女がお礼を言いに来た。
「いいっていいって。君もなかなか強かったねぇ。古武術?だっけ?」
「はい。我が剣術の師匠に教えてもらいましたが、まだまだ半人前のようです……」
落ち込む少女。あれで半人前か……、確かに詰めは甘いっちゃ甘いが、なかなかの腕前な気がするが。
「それでは失礼します。ちょっと用事があるもので」
「あぁ、うん」
そう言うと足早に去って行った少女。―――てか名前聞いてなかったな。まぁいいや。多分もう会うことは無いだろうしね……多分。
そうそう、お茶屋に戻ろう。
お茶屋に戻ったら、ちょうどお団子とお茶が来ていた。
「おっ、片倉。お疲れさん」
「あぁ、ありがとう。まぁあんなのは朝飯前だけどな」
「まじか。片倉って強いな」
「いや、今回のあいつらは弱かったからな」
さてさて、お楽しみのお団子でも食べましょうかね。
一仕事終えた後の一杯、もといお団子とお茶は美味しかった。
「霊夢ー!来てやったぞー!居るかー!」
お茶屋で休憩したあと、僕と魔理沙は博麗神社に来ていた。あぁ、お賽銭はもちろん入れましたよ。魔理沙は入れなかったけど。
「あぁ?何よ?」
神社の裏手にある襖を開けると、炬燵で温もっている博麗神社の巫女さん、霊夢がいた。―――いいなぁ。僕も入りたいなぁ。
「いや、異変を解決したいんたけどな、さっぱり情報とか無くってな」
「それで?ここに来たわけ?」
「そうだぜ!」
「はぁ……。面倒な奴……」
溜息をつきながらミカンを食べる霊夢。
すると、何かを思い出したようで、魔理沙にこう言った。
「そう言えば、アリスが何か動いてるのは聞いたわね」
「アリスが?何でだ?」
「さぁね。そこまでは知らないわよ。家にでも行って自分で探ってらっしゃい」
「でも、アリスは留守だったって片倉が言ってたぜ」
「知らないわよそんなの。どうせもう帰ってきてるんじゃない?」
「なんで?」
「勘よ」
勘かよ……。適当過ぎやしないですか?
「なるほどな。分かったぜ」
いやいや、納得するのかよ!?
「じゃあ行くとするか」
「頑張ってきなさいよ」
「あれ?霊夢も異変の解決人でしょ。解決しようとしないの?」
「寒いから動きたくないのよね〜」
なんで幻想郷の異変解決人は、こんなにやる気を出さない人ばかりなんだろうか……。こんなので大丈夫か幻想郷。
「おーいアリスー!居るかー?」
ドンドンドン、と扉をノックすると、ガチャッ、と音がしてアリスが出てきた。―――霊夢の勘が当たってる……。凄いな霊夢。
「あら?魔理沙と片倉じゃない。どうしたのよ」
「単刀直入に言うが、お前、今回の異変と何か関係あんのか?」
まさに単刀直入に魔理沙がアリスに質問する。アリスは少し考えた後、こう言った。
「春度を集めてたのよ」
「春度?」
春度と言う聞きなれない単語がアリスの口から出てきた。春度って春となんか関係あるのかな?
「これよ」
見せられたのは、まるで桜の花びらのようなものだった。いや、桜の花びらかもしれない。とにかくそんな感じのものを見せられた。
「これが春度か?」
「えぇ、そうよ。私はこれを集めてたのよ」
あぁ、だから留守だったのか。納得した。
「これを集める事と異変に何の関係が?」
「この春度はね、春を訪れさせるために必要なものなのよ。でも、この異変が始まる少し前から、誰かがこの春度を集めていたの」
「それで、春が来ないというわけか」
「そう。だから私も春を訪れさせるために集めてたんだけど、全然無理だったわ。量がね……」
ふむふむ、つまり春の訪れに必要なこの春度を誰かが集めているというわけか。でも何の為に?さっぱり分からん。
「でもいったい誰がそんなことをしてるんだ?」
「さぁね。分からないわ。でも偶然、集められた春度が何処に行くのかは分かったわ」
「それは何処なんだ?」
「上よ」
「「上?」」
僕と魔理沙は思わず首を傾げる。
「上とはどういうことですかアリスさん」
「冥界って事よ。恐らく集められた春度はあそこに集められているわ」
冥界か……、聞いただけでも幽霊とかを想像しちゃうなぁ。―――ん?幽霊?そういや、師匠は幽霊だったとしたらそこに居るのかな。いや、それはないか。
「冥界か……分かったぜ!ありがとなアリス!」
「行くのはいいけど気をつけなさいよ。冥界の主は恐ろしい力を持ってるって聞いたから」
「大丈夫だぜ!私に勝てない奴なんて居ないんだぜ!……霊夢以外(ボソッ)」
おぉー、最後の言葉がなければ、とても頼もしく見えたんだけどなぁ……。
とにかく目指すは冥界か。いざ行かん!
僕と魔理沙は冥界に向かった。この異変を止めるために。
「只今戻りました幽々子様」
「あら、おかえりなさい妖夢」
「西行妖の様子はどうですか」
「そうね……」
幽々子は、目の前にそびえ立つ巨大な桜の木、西行妖を見つめてこう答える。
「あと少しって感じかしらね」
この西行妖が花を咲かせなくなってどれだけの時が経ったのだろうか。だが、今の幽々子はまったくもって覚えていない。
だが、そんな幽々子には、この西行妖について一つだけ分かる事がある。
「あの西行妖の下には、いったい誰が眠ってるのかしらね。早く花を咲かせて知りたいわ」
一つだけ分かる事、それは、西行妖の下には誰かが眠っているという事である。
「さぁあと少しよ。春度集め頑張ってね妖夢」
「―――はい。お任せ下さい」
妖夢は、また春度集めに戻った。
西行妖の開花は近い。