終わらぬ冬と来ない春 第1話
「寒い……寒すぎる」
「風邪を引きますよお嬢様」
「うー……」
咲夜に手渡された毛布にくるまり、紅魔館の主ことレミリアは寒さに文句をたれていた。
「なんでこんなに冬が長いのよ!馬鹿じゃないの!早く春になってポカポカとした気分で私は毎日を過ごしたいのに……」
そこでレミリアはある名案を思いつく。
「そうよ!咲夜、片倉を呼んできなさい」
「承知しました」
「ねー美鈴」
「どうしたんですか?」
「その格好で寒くないの?」
「うーん、どうでしょう……。寒いと言われれば寒いです」
「凄いな美鈴。僕なんか厚着しないと耐えれないよ」
そんな薄着で風邪は引かないのだろうか。まぁナイフに刺されても平気なんだから大丈夫だよな。
その時、咲夜さんが目の前に急に現れた。
「うぉっ!咲夜さん」
「げっ!寝てないですよ咲夜さん!昨日は寝ちゃいましたけど、今日はまだ寝てないですよ!」
あぁ馬鹿な美鈴。そんなことを言ったら……。
サクッ。案の定、美鈴の頭にナイフが刺さった。
「ぎゃあァァァァァ!目が目があァァァァァ!」
いやいや、お前はどこの大佐だよ。てか刺さってるのは目じゃなくて頭だから。―――いや、どっちにしても危険には変わりないか。
「ぐっ……、最近パッドを変えたからって、そんなのはあんまり……」
サクッ。ナイフの追加入りまーす。今度は的確に目を狙っている。
てか咲夜さんってパッドしてるの?
ザクッ。目の前にナイフが現れて地面に刺さる。―――今の話題は聞かなかったことにしとこう。僕はまだ死にたくない。
「それより片倉様、お嬢様がお呼びです。すぐに来てください」
「は、はい……。分かりました」
地面にうずくまる美鈴に心の中で敬礼して、レミリアさんの元へと向かった。―――美鈴大丈夫かな。まぁ大丈夫だろ多分……。
「お嬢様、片倉様を連れてまいりました」
「どうしたんですかレミリアさん」
「来たか片倉」
レミリアさんの姿は何と言うか、カリスマの欠片も無かった。―――布団にくるまってるんだが……これはいかに。
「片倉よ。最近おかしいと思わないか?」
「はて?おかしいとは?」
いったい何がおかしいのだろうか。
まぁ確かに寒いけどさ別に寒さが問題ではないだろ。僕は暖かい部屋で、ぬくぬくと寛ぐの結構好きだし。
「最近、春が来ないのよ!おかしいわよね?ね?」
バンバンとテーブルを叩くレミリアさん。ちょっ、コーヒーこぼれるって。
「ま、まぁ確かに、おかしいといえばおかしいですが……」
「そうでしょう」
「でもそんなに気にならないですよね?」
「はぁ……?」
あれぇ?もしかして自ら望まずに地雷を踏んだかな?いやでも、寒さとか厚着しとけばそんなに気にはならないでしょ。
「なんであんたもそんなに呑気なのよ!」
またしてもテーブルを叩く。あぁ……コーヒーこぼれちゃったよ。あっ、布巾ありがとう咲夜さん。
「あなたといい、パチェや咲夜といい、どうしてそう呑気なのよ!私は春がいいのよ!」
いや、そんなこと言われても……。
すると「クシュン!」と急にレミリアさんがくしゃみをした。―――咲夜さんが鼻から鼻血を出してるのは多分気のせいだろう。
「……何よ」
「いや別に。ただ、可愛らしいくしゃみだなぁと」
「は、はぁ!?」
あぁ、またしても望まずして地雷を踏んでしまった……。
顔を真っ赤にして怒り出すレミリアさん。なんていうか残念ながら怖くない。本当に残念ながら……。
「うー……、こんなことになったのも全部片倉のせいよ!この寒さを何とかしなさい!」
「えー……、僕は関係ない……」
「う、うるさい!とにかくこれは異変よ!異変!だから早くこの異変を解決してきなさい!じゃないと、グングニル投げるわよ」
そう言ってグングニルを投げてくるレミリアさん。―――ちょっ、危な!てかもう投げてるから!
「分かりましたから、とにかく投げるのやめて下さい!」
「分かったなら早く行きなさい」
「はいはい、分かりました」
まったく。あのカリスマは何処へやら。―――ちょっ、グングニル納めて!謝るから!
何か幽香さんと同じ感じな気が……。いや、気にしないでおこう。
これ以上グングニルを投げられたらたまらないので、そそくさと紅魔館から出ていく。
正門で、ミイラみたいな人が居たけど気にしない気にしない。どうせすぐ治るだろうし。
うーん……解決しろって言われてもなぁ……どうすりゃいいのか。
そうだ!困ったときはアリスの家に行こう。そうしよう。
「アリスー!」
ドンドンドン、とドアをノックするが反応がない。―――また居留守か?
もう一度ノックしようとした時、家の裏手の方から何かがやって来た。―――アリスの人形だ。名前は……なんだっけ?
「シャンハーイ!」
ん、何だって?上海?それは中国の都市の名前。
「シャンハーイ!シャンハーイ!」
うーん……シャンハイだけじゃ分からないのだが。てかこの人形ってシャンハイしか喋らないのか?
するとその人形は会話で伝えることは無理だと諦めたようで、次はコミュニケーションで伝えようとしてきた。
ふむふむ、両手で大きくクロス……バツってことか。それで、何かモノマネしてるけどこれは……アリスか?
アリスでバツ……はっ!まさか!
「アリスが死んだ?」
「シャンハーイ!」
ベシッ!と顔面を殴られる。人形の割には結構重いパンチだな。
死んだじゃないとなると……留守か?現に家から反応ないし。
「アリスは留守なの?」
「シャンハーイ」
両手で大きくマル。どうやら正解のようだ。……まじかぁ。アリス居ないのかぁ。
仕方ない出直すか。
「じゃあね人形ちゃん」
「シャンハーイ」
シャンハイしか喋らないけど、あの人形欲しくなってきたな。いや、アリスに怒られそうだしやめとこう。
次はどこ行こうかな……。久々に香霖堂でも行くか。
久々に香霖堂に来た。扉を開けるとカウンターに居たのは魔理沙。えっなんで?
「おー片倉じゃんか!」
「なんで魔理沙が居るんだよ」
「えっ?別にいいだろ」
いやいや、居るのは別に構わないんだ。だけど何故魔理沙がカウンターに居るのかが僕には分からないんだ。お前、ここで働いてるのか?
「いらっしゃい」
店の奥から、あの店主がやって来た。
「おー香霖。ご飯できたのか?」
「出来たよ。まさかと思うが、食べる気かい?」
「当たり前だぜ!」
「はぁ……。じゃあ食べてきなよ。僕はこの人の相手しないといけないようだし」
食べてきなよ、と言われた瞬間、魔理沙が素早い動きで店の奥の方へと行った。―――まさか、ご飯目当てで来てたのか?なんて奴だ。まぁ、今に始まったことじゃないが。
「そうそう、君に見せたいものがあるんだよ」
「何ですか?」
カウンターの後ろの棚から、店主が何やら持ってきた。
「これだよ。君なら何か分かるはずだ」
出てきたのは、自動狙撃銃PSG-1だった。これまた凄いのが出てきたな。
「どうだい?」
「なかなかいい状態ですね。バレルの状態もいいし、傷もあまりない。これいくらですか?」
この世界で果たして使う日があるのかは分からないが、欲しいから買っておく。もちろん弾薬も忘れずに。
「そうだね……1000円でいいよ」
1000円!?安っ!?向こうの世界だとかなりの値段するのに……。
「それじゃまた来ておくれよ」
買ったばかりのPSG-1を肩に掛け店を出る。
買い物ですっかり忘れていたが、この異変を何とかしないとな。とりあえず……どこ行けばいいんだ?
店の前で悩んでいたら魔理沙がやって来た。
「あれ?魔理沙、ご飯食べてたんじゃないの?」
「あぁ。もう食べ終わったぜ」
「食べるの早いな。早食い選手権のチャンピオンかよ……」
「まあーな。それよりもお前、店の前で何悩んでんだ?」
「あぁ……、レミリアさんにこの春が来ない異変を解決しろと言われたんだけど、どうすればいいのか分からなくてね〜」
「へぇ、そりゃ大変だな。異変解決は私と霊夢に任せりゃいいのによ」
「えっ?魔理沙と霊夢って異変解決する人なの?」
「そうだぜ。でも紅魔館の異変の時はお前が解決しちゃったけどな」
あっ、あの紅魔館の異変って、元々は魔理沙達が解決する予定だったんだ。―――えっ?じゃあ僕がわざわざ解決しなくてもよかったじゃん。幽香さん……謀ったなァァァァ!
「ぐおぉぉぉぉぉ……」
「どうした片倉、頭なんか抱えて!頭痛いのか!?」
「いや、ただ昔の己の愚かさを呪ってるだけだ……」
「???」
「まぁとりあえず、あれだ。これから魔理沙はどうするんだ?この異変を解決するのか?」
もし解決しに行くなら、僕もついて行こう。ほら、あれだよ、一人よりも二人、三人寄ればなんとやらだ。
「ん―そうだなぁ……。とりあえず情報収集からするとするか」
「なるほど。どこで情報収集するんだ?」
「アリスの家に行くか。アリスならなんか知ってそうだし」
「あ〜、アリスなら留守だよ」
「えっ?そうなのか?」
「うん」
てかアリスって何処に居るんだろうね。
「じゃあ人里にでも行くか」
「そうだね。もちろん歩きだよな?」
もうあの箒はゴメンだ。次乗ったら確実に死ぬ自信がある。
「え〜嫌だぜ。歩くのめんどいぜ〜」
「食ったあとに運動しないと太るぞ」
「……。よしっ!歩こうか片倉!」
案外単純だな!?やっぱり体重気にするあたり乙女だな〜。ちなみに年齢っていくつなんだろう?
バシュン、あぶねぇ!鼻先数センチ先で、弾幕が飛んできた。
「ごめんなさい許してください」
「まったく。乙女に年齢を聞くなんて、失礼だぜ」
へいへい、分かってますよ。
気を取直して、僕と魔理沙は情報収集の為に人里へと向かった。