傭兵幻想体験記   作:pokotan

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幻想入り編
幻想入り 第1話


「はぁ……はぁ……疲れた」

 

やぁ僕は片倉。絶賛迷子中の傭兵さ!

そんなことより、この森広くないですか?2時間以上は歩いてるのに木しかないぞ。

 

「もうダメだ…………休憩しよう……」

 

足が動かない。まるで棒のようだ。―――とりあえず水を飲もう……。

とは言っても水は貴重だからあまり飲みたくない。

しかし飲まないと、このまま干からびる自信があるから飲むことにしよう、そうしよう。

この先のことを考えて、クビグビとは飲まず控えめに水を飲み、喉の渇きを潤した僕はこれからの事を模索しだした。

 

「これからどうしようかな。水もあんまり無いし、とりあえずは水が補給出来れば……」

 

そう考えていたらありました。前方に大きな湖がありました。

足の疲れなんて忘れ、急いで湖の元へと駆け寄る。

よく見ると、水がとても澄んでいる。とてもラッキーなのだが、そのラッキーはここまでだったらしい。

なんとその湖は凍っていた。これじゃ、水が水筒に汲めない。

いっそ叩き割ってやろうかと悩んでいたら、ふと前方に人の気配を感じた。

とっさに物陰に隠れそのまま簡単に装備のチェックをし、じっと警戒した。

もしかしたら、あの時の敵兵!?いや、でもこんな訳わからないところに居るのか?

だが、そんな不安はすぐに打ち消された。前方から来たのは、人ではなかった。

何故かと言うと、氷の羽を生やしたのが年端もいかない可愛らしい女の子、俗に言う妖精だったからだ。

 

「っ!なんだ……あれは……」

 

驚いた。普通に考えて、こんな森の中に少女がいるはずかない。ましてやその子は空を飛んでいる。

生まれてこのかた妖精なんかを信じたことは無かった。そんなものは存在しないと考えていたからだ。

だけど、目の前にいる少女は、どう見ても妖精としか言いようがない。

いったいこの森はなんなんだ?もしかしたら本当に僕は死んでしまって、この世ではない何処かへと来てしまったのか?

……しかし、少し肌寒いな。さっきまでは暑かったはずなんだが。

とりあえずあの少女に近づいてみるか。比較的、大丈夫だろう。と言うか、そう信じるしか無い。

 

「あの〜ちょっといいかな?」

 

「あーー!外から来たニンゲンだ!」

 

「外?ここは何処か教えてくれないかい?」

 

「ここが何処かわからないの?それなら、教えてあげるわ!ここは幻想郷よ!あたい達みたいな妖怪や妖精とかが住んでるところよ!」

 

「幻想郷?妖怪?と言うことは、君は妖怪なのか?」

 

「違うわよ、あたいは妖精。氷の妖精よ!」

 

「名前は?」

 

「あたいは、チルノ!あんたは?」

 

「僕は、片倉。宜しくね」

 

どうやらこのチルノと言う少女いわく、この場所は幻想郷と言うらしい。

そういえば、日本にいた時ゲームの舞台にそんな世界があるとか無いとか友人が言っていた気がする。詳しくは知らんが。

とにかく、このチルノと言う少女に近くに何か無いかを聞いてみるか。

 

「チルノちゃん。この近くに何か建物とかない?」

 

「カタクリ!あたいと弾幕ごっこで勝負よ!」

 

えぇぇぇぇ!?この子、人の話聞いてない!?

というか弾幕ごっこって何?聞いたことないから。よし、聞いてみるか。

 

「弾幕ごっこってどういう遊び?」

 

「弾幕ごっこっていうのはね、お互いに弾幕を撃ったり、スペルカードを使って戦うものよ!」

 

「知らないなぁ」

 

「そんなことも知らないなんて、ダメな人間ね、カタクリは」

 

いやいやいやいや、名前間違ってる。カタクリじゃないから、片倉だから。いつ誰がそんなかたくり粉みたいな名前を名乗ったんだよ。

と、とりあえず気を取直して、スペルカードについて聞いてみよう。

 

「片倉だよ……それより、スペルカードとは?」

 

「それは、戦ってみたら分かるわ!いくわよカタクリ!」

 

そう意気揚々と叫ぶと、チルノは空高く飛び上がり、唐突に尖った氷らしきものを僕に飛ばしてきた。

てか名前違う……。

 

「っ!」

 

とっさの判断で木の陰に隠れたはいいけど、どうしたものか。幸いあの氷は、遅いからなんとかな―――バキバキバキッ!

そう思った途端、隣の木が氷の弾幕によって粉々になった。

 

「…………ハハ……ハ……笑えねぇ」

 

このままだと次はこの木が粉々になって、おまけに僕も粉々になってしまう。

そうはなりたくない僕は、すこし気が引けるが銃をチルノに向けた。

 

バキバキッ、バキッ

 

骨が折れるような痛々しい音を響かせながら、周りの木が氷の弾幕によって折れていき、粉々にされていく。そのさなか、セミオートでAKを射撃した。

セミオートにしたのには理由がある。弾の消費を抑えるためだ。

僕のAKは7.62mm弾を使うタイプのAK。つまり反動が強い。フルオートではなかなか当たらず、無駄撃ちする可能性がおおいにある。

バンッバンッバンッ!と、乾いた火薬の音と共に弾丸が銃口から発射された。

しかし、いち早く状況を察したチルノは射線から身を引いて躱した。

だが、弾丸の速さにとても驚いていたご様子。

 

「嘘!あの弾幕早い!」

 

それもそのはず。弾丸は基本的に音速を超えてるからね。―――しかし外したか。とりあえず、移動しないとこの木が持たないな。

刹那、チルノが一枚のカードを天高く掲げ、大きな声で叫んだ。

 

〈氷苻 アイシクルフォール〉

 

その叫びと共に、チルノから何処からともなく大量の氷の弾幕が出現した思えば、その次の瞬間、こちらに向かって飛んできた。

なんだか嫌な予感が全身をかけ巡った僕は、すばやく後ろに下がり倒木の影に隠れた。

その刹那に、さっきまで隠れていた木が氷の弾幕によって一瞬にしてミンチのように粉々になった。

少しでも判断が遅れていたら僕は無事では済まなかっただろう。

もしや、これがあの少女の言っていたスペルカードと言うものなのだろうか。

カードらしきものを手に持ってたな……。それよりもこの状況を何とかしなくてはならない。

こうなったら、あれを使うか。

実は僕には隠された力がある!のではなく、人間による科学の力を使うことにした―――よし!まだ残ってたぞ!

バックパックからあるものを取り出した。

それは、特殊部隊が突入などを行う際に使うグレネード、そのグレネードの名前は、M84フラッシュバングレネード。

このグレネードは普通のグレネードとは違い、殺傷能力は無い。がその代わり眩しい光と爆音を放ち、相手の視力と聴力を奪うことが出来る万能な非殺傷グレネードだ。

 

「フラッシュバン!」

 

いつもの癖で、大声で叫びながらピンを外し、少女に向かってフラッシュグレネードを投げた。

最初、少女は何が飛んできたのか分からず注意深く投げられた謎の形をした不思議な物体を見つめていた。

だがすぐ後に、それは膨大な光と爆音を放出しながら爆発した。

 

「きゃっ!」

 

今だ、倒木から身を乗り出して少女の肩や足に弾丸を撃ち込もうとする。この部位に命中すれば、殺さずに無力化できるはずだ。―――でも幼い少女には意味ないか。……仕方ない、生き延びるためだ。後免!!

だがどこにも少女の姿は無かった。―――あれ?

 

「どこに消えたんだ?」

 

どこかに隠れたか?でもフラッシュグレネードは効いたはずなんだけどなぁ。

辺りを探すと少女を見つけた。どうやら先ほどのフラッシュグレネードで気絶したようだ。くるくると頭にお星様が回っているのが目に見えるようだ。

意外と妖精にも効くんだなぁ、と感心していたら寒さが消えていた。ついでに湖の氷が溶けだした。―――なるほど、あの少女が凍らせていたわけか。

そういう事かと納得しながら、僕は少女を倒木の陰に寝かせてあげるために、抱き抱えて運んだ。

少女を寝かせた後、水筒に湖の水を汲んだ。これだけ綺麗な水なら、ろ過せずとも飲めるだろう。

さてと、水も汲んだし、また先に進みますか。きついけど……。

でもどこに進めばいいんだろう。というかさっきの少女に、建物とか無いか聞きそびれた。

心の中で後悔しながらまた僕はひたすら歩きだした。

 

 

 

 

 

30分くらい歩いた頃だろうか、またしても何かの気配がした。この気配は、人ではない。―――また妖精か?もう勘弁してくれ。

そう思っていると、二つの影が勢いよく飛び出してきた。

 

「ニンゲン、タベテヤル!」

 

「グルルルル」

 

どうやら、今度は妖精ではなく妖怪が出てきたらしい。しかもご丁寧に僕を食べると言っている。日本語喋るのか。

英語で喋る妖怪……はちょっとシュール過ぎるか。

一人は人型の妖怪だが、人とは違い頭がワニのような頭になっている。……キモイ。

もう一人のほうの妖怪は、狼の妖怪のようだ。……犬がよかった。

日本語は喋るようだが、残念ながら会話は通じなさそうだと判断した僕は、ワニ頭の妖怪に向かってAKを撃った。

 

「グワァ!」

 

「すまんな、可愛い女の子なら躊躇するけど、お前らみたいなのは躊躇出来ないんだ」

 

妖怪にも弾丸が効いたようで、撃たれた肩を抑えながら、森の奥にワニ頭の妖怪は逃げていった。もう二度と出てくるなよ、次会ったら眉間に撃ち込むからな。

さて、このままサクッと狼の妖怪も倒すか。そう思った瞬間、狼の妖怪は目にも止まらぬ素早い動きで僕の足に噛み付いた。

グサリと歯が僕の太ももに深々と突き刺さっている。

 

「ぐあっ!こ、こいつ!」

 

激痛に絶えながらも、妖怪の頭にAKを至近距離で叩き込む。

弾丸を叩き込んだと同時に狼の妖怪は息が途絶えた。

傷口を確認すると、どうやら狼の妖怪の歯はかなり深く刺さったらしく、血が止まらない。このままでは命に関わるだろう。

 

「くそっ!誰か……いないのか。」

 

まずい、意識が遠のいてきた。よりによって、こんな訳のわからない森で死ぬことになるなんて。

 

「誰か…………たす……け……」

 

もう駄目だ。諦めかけたその時、誰かが駆け寄って来た。

 

「ちょっと、そこのあなた!しっかりしなさい!」

 

女の人の声だ。しかし、もはやここまで。

うっすらと聞こえる、女性の声を聞きながら、僕は意識を手放した。


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