傭兵幻想体験記   作:pokotan

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剣術の達人に弟子入り

「うーむ寒い……」

 

季節はもう冬。僕は暖かいコーヒーが飲みたいなと心の中で呟きながら、人里を歩いていた。

というのも、咲夜さんが今日は忙しいようで、今日の晩御飯のお使いを僕が頼まれたのだ。

(頼まれた食材も一通り買ったし帰るか)

紅魔館に帰る前に、いつものあの食堂にでも行こうと思ったのだが、道草食って咲夜さんにお仕置き(ナイフ)されるのが嫌だったのでやめた。

人里の門を抜け、冬に入って人通りがすっかり少なくなってしまった道を歩いていた時、茂みから急に小さい変な妖怪が5匹も現れた。―――もしや某ポケ○ンか!?そんなわけないか。

現れたのは……何だこいつら?

なんか良く分からない言葉を喋っているが、恐らく僕を襲うのは間違いないらしい。

あ〜……そう言えば咲夜さんが

 

『最近は低級妖怪がよく出現するそうなので気をつけてくださいね』

 

とか言ってたな。信じてなかったけどまさか本当だったとは。

 

「仕方ない。倒すか」

 

こいつらを倒す手段を考えていた時、とてつもなく大事な事を思い出した。

 

「あっ……両手塞がってた」

 

両手に買ったばかりの今日の晩御飯の食材がある事を思い出す。―――やばくね?これ。

一匹が僕めがけて飛びかかる。ちょっ!僕に攻撃するのはいいけど、食材を攻撃するだけはやめてー!咲夜さんに怒られるからー!

命の危険(咲夜さんから怒られる)が迫るその瞬間、一人の老人がふらりとどこからか現れ、飛びかかってきた妖怪を目にも止まらぬ速さで一刀両断した。―――えっ?何事?

 

「やれやれ、しつこい奴らじゃのう」

 

老人に向かって、妖怪が二匹飛びかかる。しかし、刀を横一閃してぶった斬った。

だがそれだけにとどまらず、残りの二匹も老人は斬り伏せた。―――強すぎでしょ。あのお爺さん。

 

「大丈夫ですかな?」

 

「あぁはい。ありがとうございます」

 

「最近は妖怪どもが悪さをしておるから、大変じゃよまったく」

 

「あの……あなたの名前は?」

 

「んっ?わしか?わしの名前は魂魄……いや、桃花剣山(とうかけんざん)と呼んでくれ」

 

「僕は片倉です。助けて下さりありがとうございます桃花さん」

 

正直に言おう。僕はこの老人に惚れた。……いやホモ的な意味合いじゃなくてだな、つまり弟子入りしたいのだ。

だってあれだよ?ふらりと現れて、あっという間に妖怪倒しちゃうんだよ?これで惚れないのなら、そいつは男じゃないね。いや知らないけど。

 

「それでは失礼する」

 

「待ってください!」

 

「ん?どうした」

 

「僕を……弟子にしてください!」

 

「ふむ……、わしは弟子をとらんのじゃが……」

 

「そこを何とかお願いします!」

 

高速土下座による圧倒的懇願でお願いする僕。傍からみたらただの情けない奴であるが気にしない。気にしたら負けだ。

 

「分かった。では明日、ここで落ち合うことにしようぞ」

 

「はい!分かりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、僕は桃花師匠と滝壺に来ていた。

 

「まずはお主の実力を見せてもらおうかの」

 

「分かりました!」

 

自信満々で風刃を出す。すると師匠は感嘆の声をあげた。

 

「ほう……これは素晴らしい」

 

えっ?なんかそんなに褒められると嬉しいな。

 

「こんな刀は久しぶりじゃ。……納めてよいぞ」

 

風刃を納めたあと、桃花師匠が自分の刀抜いた。

 

「まずはお主に、剣術の基本を教えてやろう」

 

「本当ですか!」

 

「うむ。わしに向かって、弾幕を撃ってみろ。斬って見せよう」

 

……えっ?そんなことしたら、師匠怪我しますよ?だいたい、普通の刀で弾幕なんか斬れないでしょ……。

 

「本気で撃ってこい」

 

「分かりました」

 

どうやら結構本気で斬る気のようだ。

なら僕も本気で弾幕を撃つしかないな。

 

〈光符 メテオールスパーク〉

 

あっ……ついうっかりスペルカード使っちゃった。しかもよりよってこの技かよ。このままじゃ師匠危ないよな……大丈夫か?

だがそんな心配など不要だった。

師匠は迫り来る光線を、たった一太刀で真っ二つに斬ってしまったのだ。さすがにこれには僕も唖然とするしかなかった。

 

「ふむ、まぁこんなもんじゃろ」

 

「……嘘でしょ。本当に斬った……」

 

「これが我が剣術の基本であり極意だ」

 

「基本であり極意?」

 

「そうじゃ。お主、さっきまで普通の刀では斬れぬと思っておったろ?」

 

うぐっ……バレた。

 

「しかし実際にわしは斬った。何故だと思う?」

 

「さ、さぁ?わかりません」

 

「信じる心があったからじゃよ」

 

「信じる心……」

 

「そう。自分の刀には出来ないことはない、斬れぬものなど無い、と信じるのじゃ。その気持ちが刀へと通ずり、さっきのようにお主の弾幕を斬ることが出来たのじゃ」

 

信じる心こそがこの流派の極意……なるほどよく分からん。

 

「僕にも出来ますかね?」

 

「それはお主次第じゃ。そうじゃ、お主に秘伝の技を教えてやろう」

 

「えっ?本当ですか!」

 

「うぬ。一度しか見せぬゆえ、よく見ておくのじゃぞ」

 

うわ〜どんな技なのかな。凄いワクワクするなぁ。

師匠はそこに生えていた木に向かって刀を中段で構え、目をつむり集中する。そしてカッと目を開き、上から下へと刀を振る。

するとどうだろう。木がバラバラに斬られているではないか。たった一振りだったはずだが……何故だ?

 

「これが我が流派の秘技、幻想永劫斬じゃ」

 

「幻想永劫斬……」

 

なんか格好いい名前だな、幻想永劫斬。ちょっと気に入ったかも。

 

「どうやったらこの技を会得できますか?」

 

「簡単じゃ。とにかく己の刀を信じることじゃ。さすればいずれ出来るようになる」

 

いや……なんかもっとこう……的確なアドバイスが欲しいのだが。

 

「ではそろそろ行くかの。1日だけじゃったが楽しかったぞ」

 

「えっ?1日だけってどういう……」

 

「んー?ハッハッハ、もうお主に教えることは何もないということじゃ」

 

「えー!?僕まだ極意しか教わってないですよー!?」

 

「それでいいのじゃ。剣の道は己で切り開いてこそじゃぞ。それではまた何処かで会おうぞ」

 

そう行って急に何処かへと文字通り透明となって消えた師匠。……えっ、消えた?まさかあの人幽霊?まさかぁ……ハハハ……。

ふと、師匠のいた所に一枚の紙が落ちていた。―――スペルカードだ。名前は……あっ、〈幻想永劫斬〉って書いてある。

結局あの人は何者だったんだろうか。剣術の達人で幽霊のような存在。そしてこの残されたスペルカード。

まぁ今となっては考えても無駄なことか……。

そうだ!試しにこのスペルカード使ってみよう。

先ほど拾った師匠が残したスペルカードを発動させるが……あれ?なんでならないんだ?

何度も試してみたのだが、まったく発動しない。

うーんなんでだ……。まさか、まだ僕は剣術の極意を極めていないというのか。多分そうだよな。

 

「ハックション!うー寒い……」

 

風邪ひいたかな?ここは結構寒いし、とりあえず今日は帰ろうかな……。

もう一度、師匠の残したスペルカードをもう一度発動させようと試みる。―――時間の無駄か、大人しく帰ろう。

ひとり寂しく紅魔館に僕は帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね〜ね〜妖夢〜」

 

「何ですか?ご飯はまだ先ですよ」

 

居間でゆったりとくつろぐ女性は、一本の大きな木を見ながら従者に話しかける。

 

「あの桜の花を咲かせたいんだけど」

 

「は、はぁ……。しかし私にどうしろと」

 

「んーと……そう、幻想郷の春をここに持ってきたらいいはずよ。だからお願い妖夢、集めてきて〜」

 

だらだらと居間でくつろぎながら、忙しい自分をさらに忙しくさせる主人に若干の怒りを露にする従者。

しかし、純粋で素直なその従者は、主人の言うことには逆らえず引き受ける。

 

「はぁ……分かりました。じゃあ、幻想郷から春を集めてきますね……」

 

「うん、行ってらっしゃーい」

 

終わらない冬が、異変と共にこの幻想郷にやって来た。


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